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中薬の配合

訳者あとがき

 中医学という世界は,とてつもなく広い世界です。しかし,その広さをよく知っている人は,専門家の中にも,そう多くはいません。とにかく広すぎるので,ちょっとやそっとでは,知ることができないからです。そしてこの本は,中医学の広さを垣間見せてくれる,すばらしいガイドといえます。
 ためしに,巻末の「方剤索引」を見てみてください。おそらく聞いたこともない方剤が,ごろごろしているはずです。それは,訳者である私も同じでした。この本には,中医薬大学を卒業したとか,長年臨床に携わっているとか,そういうことだけでは知りえないことが,たくさん書いてあります。自分で興味をもって研究を続けない限り,こういう事柄を知ることはできません。
 そしてこの本の著者である丁光迪先生は,そうした努力をずっとつづけてこられた方です。また丁先生には,その膨大な知識を裏づける,長年の臨床経験もあります。さらにベテランの教授でもある丁先生は,何をどう伝えるべきかということも,知り尽くしていました。つまりこの本は「丁光老をおいて,ほかに誰がこれだけのことを語れるだろうか」という,20世紀中医界における大偉業なのです。つたない翻訳ではありますが,日本で中医学を学ばれる方にも,ぜひこの貴重な内容に触れていただきたいと思います。
 また学問や文化が発展するには,傑出した学者や芸術家がいるだけでは足りません。例えば明代以降の江南文化の知識は,かの大出版業者・毛晋(汲古閣楼の主)の功績によって普及したともいえます。江南文化における汲古閣のような役割を,日本の中医学の分野で果たしてきているのが,東洋学術出版社であると私は思っています。丁先生の本を日本で出版するということも,まさにその慧眼ぶりを証明するものです。
 このすばらしい仕事に,私も訳者として関わらせていただいたことを,たいへん幸せに,また光栄に感じています。自分が適任であるなどとは思いませんが,能力の限り努力させていただきました。そして最後に,同じ道を歩む「ひよっこ」として,丁光迪老師に心の底から尊敬の念を示させていただきます。
    

小金井 信宏
2005年8月