▼書籍のご案内-後書き

【図解】経筋学-基礎と臨床-

経筋学を志す
 数年前から,現代の針灸学には「経筋学」の考え方が欠けているのに気づき,経筋について調べ始め,臨床でも経筋療法を試みてきた。
 まず,『黄帝内経』を調べてみて,十二経筋は,先人が人体解剖を行い,筋肉は機能しているものと考えて記述されたものであることを知った。
 その後,経筋について調べているうちに,わが国よりも中国で「経筋学」がはるかに進歩しているのに気づいた。原書で読むためには中国語の語学力が必要である。そこで当地に留学中の中国医師・崔泰林氏に1年間,医学中国語を学んだ。しかし,やはり言葉は喋ることが大事である。当地に住む李今丹女史(翻訳家,日本人と結婚)に中国語会話を習い始めてもう4年半になる。経筋について,より深く知るために中国語を学び始めたが,これは正に「盗人を捕らえて縄を編む」きらいがある。
 この間,臨床的にも経筋療法を応用して,いろいろな症例を経験してきた。
 「経筋学」の必要性について確信が得られたので,東洋学術出版社の山本勝曠社長に「『経筋学』を本にまとめてみたいのですが……」と,電話で相談してみた。
 すると驚いたことに,即座に「わかりました。引き受けましょう」と答えてくださった。私はこのことを非常に感謝している。
 もっと早くまとまると思っていたが,『[図解]経筋学』として原稿をまとめ始めてからすでに5年が経過した。
 書名を「図解」としたのは,イラストや写真をできるだけ多く掲載して理解を容易にし,日常の臨床にただちに役立つようにしたかったためである。

現代社会は「経筋学」を要求している
 「経筋理論」は立派な学問であり,「針灸学」とともに重要な存在であるので,書名を「経筋学」とした。これは,本書にも多くの経筋理論を引用し参考にさせていただいた『経筋療法』の著者・黄敬偉氏にも相談して,「学」と呼ぶに相応しい領域であるとのご意見であった。
 治療学は,ただ理論のみに走って臨床に役立たなければ存在価値はない。そのため,本書では読者の理解を容易にするために,東洋医学の用語はできるだけ平易な言葉で表現することにした。
 本書をまとめるにあたり,本当に経筋療法で効果があるのかを確認するために専門書の治療方法を追試したり,自分でもいろいろと治療方法を考案してみた。気がつくと,今では「経筋学」を学ぶことによって,現代医学では治すことができないさまざまな病気を治療できるようになっていた。また,私の住む周囲の人々も,経筋療法を含めた針灸治療を,「現代医学で治らない病気を治せる治療法」として認めてくれるようになっていた。
 大部分の患者は,整形外科・外科・精神科などに転々と治療を求めたが,「治らない」と訴えて来院する。例えば,線維筋痛症は精神的な緊張が原因となって全身,特に頸背部の筋肉に緊張を来す。筋肉痛はさらに進行し,ついには全身の筋肉に異常をもたらすようになる。一方,不安やうつ状態など精神的異常も進行していく疾患である。経筋病巣を治療すれば,精神的異常も改善される。線維筋痛症は,現代医学では原因不明で決定的な治療方法はないが,経筋療法で短期間に治療できる。

経筋病は筋肉だけの病気ではなく,精神的な異常など全身的に及ぶ
 一般に,経筋病は筋肉や関節に関係した領域だけだと思われがちであるが,実際には精神神経的な異常などを伴うことも多い。経筋病巣を治療すると精神的な異常が改善されていく。脳やあらゆる臓腑は,経絡(十二経脈や十二経筋など)を通じて,全身とつながっており,けっして個別に存在するものではない。これらの臨床例を本書のなかにも具体的に挿入した。「心身一如」といわれるが,精神状態(心)と筋肉組織(身)とも相互に強く影響し合っている。
 「経筋学」を学問として学ぶことによって,ほかの臨床家が治せない病気を治すことができるという臨床家として強力な武器を手に入れることができたと思っている。これらの治療法をできるだけ多くの臨床家に利用していただきたいと願っている。

多くの方々の協力に感謝する
 本書の編集にあたり,東洋学術出版社の山本勝曠社長に,また直接編集の労をとっていただいた井ノ上匠氏の特別のご配慮に感謝したい。
 医学中国語を教えていただいた崔泰林先生と李今丹女史,また古典に詳しい小松一先生にもさまざまな助言をいただいた。これら多くの方々の援助のもとに本書ができあがったことに感謝している。
 本書には,足らないところや誤りがあるかも知れないが,ご叱責をいただき,より正しいものにしたいと思っている。本書が少しでも実際の治療に役立つことを願っている。

西田皓一
2007年12月