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『マンガ 睡眠と漢方で治す婦人科疾患』 あとがき

 
あとがき


 婦人科疾患を治療する時、中医学の本で証による分類を見ながら、処方を真似して出してみて、うまくいけば喜び、うまくいかなければどうして効かないのか、考えながら診療を続けてきました。『中医 女科証治』(銭伯煊編、森永哲夫訳・編、鐘薬会叢書部)、『症例から学ぶ中医婦人科 名医・朱小南の経験』(朱小南著、柴﨑瑛子訳、東洋学術出版社)、「中医婦科臨床手冊」(人民衛生出版社)などが座右の書です。
 漢方を始めた頃は処方の内容にばかり気をとられて、患者さんの生活スタイルに注目する余裕がなかったのですが、診療を続けるうちに、同じ証、同じ年齢の患者さんに、同じ処方を出しても効きが違うのは、患者さんの先天的な体質だけでなく、今の生活が反映した後天的な体質が関係していると気づくようになりました。
 月経があるのが婦人の特徴で、出血してはそれを再生産する行為を月の満ち欠けのように繰り返します。出血するので男性より血が不足しがちで、出血とともに気も漏れて減るので、気血の再生産のため男性以上に条件を整えなければなりません。気血は昼間に体を動かして消耗し、夜に食べものを原料に脾(現代医学の胃腸)が再生産して、次の日に使えるよう準備しています。睡眠が少ないと、「作る時間」が少ないため、当然気血ともに減っていくのですが、ここを直さずに薬で気血の生産スピードを上げても、治療効果に限界があります。逆に「作る時間」である睡眠を増やし、薬で作るスピードを上げれば、必ず気血は増え、その後薬は要らなくなります。
 理屈は簡単なのですが、実際は処方の工夫をするだけで、睡眠を具体的にどれだけ増やすか指導している医師や薬剤師はあまりいないようです。処方は素晴らしいのに、基本の睡眠時間の修正をしないために、治療効果を落としたり、薬を止めると元に戻ってしまったりするケースを見るのは、非常にもったいなく残念です。
 マンガの中で描いているように、睡眠は副作用がなく、費用もタダです。睡眠時間の指導をすれば、処方に自信がある方はより早く治癒させることができますし、処方にまだあまり自信がない方でも治療効果は必ず上がります。特に、婦人科三大処方といわれる当帰芍薬散[23番]、加味逍遙散[24番]、桂枝茯苓丸[25番]のエキス剤のみご存知の産婦人科の先生方は、他のエキス剤も難しくありませんので、睡眠指導をしながら、ぜひ使ってみて効果を実感していただきたいと思います。
 私自身は現代医学と漢方を特に区別して考えていません。よく効き、副作用が少なく、費用も安い薬を先に使い、それがダメなら次の選択肢に移るようにしています。高血圧の治療で漢方を希望する患者さんには、現代医学の薬の方が絶対によいと勧め、「えーっ?」と言われることもしょっちゅうです。漢方にあまりなじみのない先生方も、漢方は難しいとか、わからなくて怖いとか思わずに、本書を参考に使ってみていただきたいと思います。
 「怖くない、ほら、怖くない」と誘っていると、某アニメのヒロインみたいですが、漢方は決して怪しいものではありません。もっとも、私のクリニックには〇蟲や巨〇兵のフィギュアが飾ってあり、それなりに怪しく感じておられる患者さんがおられるかもしれませんが……。
 最後に、私に漢方を指導してくださった甄立学先生、マンガを描いて下さった馬場民雄先生、出版に尽力して下さった東洋学術出版社の井ノ上匠社長、麻生修子さん、そして昨年秋に次女を産んでくれた妻と、乳児を持つ女性がどれだけ大変かあらためて教えてくれた生後4か月の次女に心から感謝いたします。ありがとうございました。因みに、この「あとがき」も、次女のオムツを換えた後に書いています……。


二〇二〇年二月吉日 三宅 和久