▼書籍のご案内-序文

『傷寒論を読もう』

序       

 『傷寒論』一書は中国漢代以前の張仲景の著で、医学的に集大成された重要な経典医書である。原書は『傷寒雑病論』であるが、宋の時代にいたり『傷寒論』と『金匱要略』の二部に分けられ、中国医学発展史上、画期的な意義と承前啓後の役割を具えている。
 『傷寒論』は、多種の外感病の弁証論治についての論述を主としているが、論中に創造された六経弁証論治の体系は、理・法・方・薬がともに備わり、理論体系は実践的であり、その臨床的価値は歴代医家によって称賛され、「衆法の宗」「衆方の祖」として今日にいたるまで伝承されてきたのである。
 しかれども、昔日『傷寒論』を初学し、その古文の深奥、涵義のはなはだ深きことに悩まされ、条文を理解することができず、かつ論中の証と省文・衍文と合せて諸家の注釈にはそれぞれの見解があり、往々にして条文の本質的精神を理解することが困難であった。さらに学習難度のために、常に茫然として適従するところがなかった。しかし、『傷寒論』を反復熟読し、その理解を深めるにつれて、証ごとの主方と方ごとの証を掌握して、臨床と結び付けて応用することで、『傷寒論』の学習は「始め難きと雖も、既にして易きなり」と痛感するのである。
 このたび、髙山宏世先生の『傷寒論を読もう』が世に問われることになった。誠にめでたいことである。先生は一九八五年(昭和六〇年)より、福岡において「漢方を知る会」を主催し、『傷寒論』を約八年(計三十五回)にわたり講義され、その講義録を集積して『傷寒論を読もう』なる一書を著された。
 この書は、『内経』の学術思想と理論的原則を継承しているのみならず、後世の八綱弁証の内容をも包括し、かつ『傷寒論』における複雑な証候について、属性(陰・陽)、病位(表・裏)、病性(寒・熱、虚・実)、臓腑経絡、気血の生理機能と病理変化を分析し、人体抗病力の強弱・病因の属性・病勢の進退緩急などの素因を根拠に、疾病の伝変過程の中で出現する各種証候について分析・総合・帰納を行ったものである。しかも方証の証候・病機・治法・方薬などの方面についても、詳細かつ透徹な解説を行い、その弁証論治の精神と理論は全書を貫く一本の主線をなしている。これらの内容は、『傷寒論』を学習する者にとって、必ずや理解するうえでの助けとなり、多大な効果と啓蒙をもたらすものと確信する。
 髙山宏世先生は私の師友であり、親交することかれこれ三十数年になるが、常に互いに学たる道を論じ、意気投合し、絶えず会晤して、医学全般について互いに切磋琢磨し、その心得と見解を交流してきたのである。先生の学問に臨む態度は真摯、かつ中医学理論の造詣は深く、約四十年の臨床経験にもとづく潜心研鑽のなかで、系統的にその学術を整理し、自ら体系をなし、『内経』『本草経』および『傷寒論』に精通し、古今を集めて一身とし、医学・教育・研究・著作などに精力を注ぎ、その数々の著作の条理は明晰、文筆は流暢、理論は実践的である。代表作である『腹証図解・漢方常用処方解説』は、日本東洋医学会奨励賞(二〇〇五年)を受賞し、その業績は燦然としている。先生には大家の風格が備わり、令名は全国に響き、誠に道深く医の方術は精にして究めにいたる。
 本書はこれから『傷寒論』を初学する者、あるいはより深く『傷寒論』の世界に足を踏み入れ、その弁証論治の精神を理解し習得しようとする者にとって、一条の捷径を開き、その奥義に直達せしむるものである。
 以上が私の『傷寒論を読もう』を全面的に推薦するところであり、かつ本書がただちに臨床実践を指導する手助けになることを切望するものである。ゆえに謹んで筆を取り、小志を以て記し、序となす。

二〇〇七年十二月吉日
原 田 康 治