▼書籍のご案内-序文

[新装版]実践漢薬学

新装版発行の辞


 本書は平成16年刊『実践漢薬学』(医歯薬出版株式会社)の新装版である。再刊にあたっては,旧版の不備を訂正し,難解といわれる東洋医学用語の解説をより充実させた。執筆意図と本書の特色は,旧版の序に記したのでここに再録する。特に漢薬の類似点と相違点の比較は他書にはない特色と自負している。漢薬一味一味の理解は,エキス剤を含めた方剤の深い理解に役立つといえる。東洋医学診療に本書を活用していただければ望外の喜びである。

  平成23年 元旦
清純なる光に 永遠の輝きを祈し日に
三浦於菟 


序(旧版より抜粋)


 薬を用いるは,兵の如くせよ。人口に膾炙されたこの言葉を引用するまでもなく,漢薬の効能を自家薬籠中の物とする事が,臨床に於いて重要であることは言うまでもない。一人一人の性格を知ることが,方剤という集団の理解につながり,的を得た運用を可能にするからである。漢薬の効能の理解は,漢方エキス方剤の理解にも役立つ訳である。
 たが漢薬の学習には,困難さを伴う事も事実であろう。その原因として,常用だけでも約100種という漢薬の多さ,独特の東洋医学用語の難解さ,理解しやすい漢薬学書の少なさなどがあげられよう。本書はこれらの原因を克服すべく書き記した漢薬の入門書であり,臨床の場ですぐに役立つ実践書である。
 入門書として必要なことは,理解が容易なことである。そのために以下に配慮した。翻訳調を廃し自国語を用い,筆者の自らの言葉で簡潔な記述を心がけた。適時東洋医学の病態理論を解説した。学術用語には本文中や巻末に解説を設け,更に分類表や図などを多用することで理解を容易にしたなどである。
 実践書で重要な事は,その病態にどの薬物が適当かを判断できる事である。そのためには,それぞれの漢薬の効能や性質などの特徴を理解把握する必要がある。そこで本書では,各漢薬の類似点と相違点という観点から解説することで,漢薬の特徴の明確化を試みた。具体的には,表形式を採用し類似薬物の類似点・相違点を記述する,各漢薬の特徴を一言で言い表す,漢薬効能をまとめて比較するなどである。本書は,筆者が臨床で使用しても充分に耐える書物を目指したつもりである。
 ここで本書の成り立ちにつき説明したい。本書の土台は,筆者が留学していた南京中医学院(現南京中医薬大学)での中薬学教研室陳育松先生の中薬学の講義とその講義録である。この講義録を基とし,平成10年3月より行った日本医科大学東洋医学科月例研究会の実践漢薬学の講演資料を作成した。この講義資料は『漢方研究』紙上ですでに発表した。この講義録と講演資料を大幅に加筆修正し,さらに南京中医学院編の中薬学の教科書を底本として参照しつつ出来上がったのが本書である。
 本書は,筆者の南京中医学院への留学がなければ完成せず,いわば陳育松先生を初め多くの南京中医学院諸先生方との共著ともいえるものである。親愛に満ちたご指導を賜った諸先生方に,衷心より感謝の念を捧げたい。

平成15年10月24日
江南の地,南京の空を思わせる碧空の日に記す
三浦於菟