▼書籍のご案内-序文

『経穴の臨床実践』

まえがき  ~なぜ経穴を取り上げるのか~


経穴を臨床に活かす
 私は北里大学東洋医学総合研究所の招きにより,1988年1月に来日した。来日後,医師,薬剤師,鍼灸師の関連団体が主催するある講演会に呼ばれ,シンポジウムに参加したことがある。
 そこに参加していたある鍼灸師は,「鍼灸師の多くは経穴名を知っているが,経穴の使い方をわかっていない」「経穴の効きめを把握していない」「複数のツボを一緒に使うと,どのような効果が出るのかまったくわからないので,局所の取穴しかできず,運動器系の局所の痛みや凝りの治療しかできない」と,困ったように言った。
 また,ある婦人科医は,「鍼灸治療に興味をもっているが,三陰交くらいしかわからないので,もっとたくさんのツボの作用や効きめを知りたい」と,切望するように言った。
 彼らはいったい,鍼灸の何を知りたがっているのだろうか。
 彼らは,単に経穴の名称だけでなく,経穴のもつ性質・作用・効きめといったことを知りたいと思っているのである。つまり,それは経穴の本質を知りたいということなのであろう。この経穴をいつ使うと効果が出やすいのか。この経穴にどのような施術をすれば(あるいは手技を加えれば)効果を高めることができるのか,といったことである。さらにいえば,あるツボとあるツボを組み合わせることによって,一穴一穴にはないどのような新たな効果が生み出されるのか,ということも含んだ経穴の全体像だろう。
 本書では,このような興味深いさまざまな疑問に答えていきたい。


鍼灸師の願い
 毎年,全国で大勢の鍼灸学校の卒業生が国家試験をパスし,鍼灸師の資格を取得する。資格を取得できたことは確かにうれしいのだけれども,じつは,彼らは多くの不安も抱えている。
 「鍼灸の免許は取ったが,鍼灸師としての技が足りない」「鍼灸治療の基礎は取穴と刺鍼の技だが,学校で習った知識と技が果たして通用するのだろうか」といった不安を抱くことが多いのである。
 それはそうだろう。一人前の優れた鍼灸師になるためには,身につけなくてはならない鍼灸師としての基本的な知識と技があるが,学校で習う内容だけでは不十分だからである。特に,経穴の基本的な知識(名称や位置だけでなく,経穴の全体像)をしっかり熟知したうえで,臨床現場でそれをどのように活かすのか,ということが大事なのである。だからこそ,臨床実践を前にして不安に思っている鍼灸師が少なくないのである。
 一人前の優れた鍼灸師になるために,鍼灸治療の基礎から始め,経穴の知識をもう一度しっかりと勉強し直したい。そんな鍼灸師の要望に応えるために,本書を記すことにした。


著 者