▼書籍のご案内-序文

『実用 体質薬膳学』 まえがき


まえがき


 体質という言葉は,昔から日常的に使われてきました。たとえば同じ年頃の子供でも,瘦せている子と太っている子,病弱な子と元気な子がいますが,「この子は体質がよい」「あの子は体質が弱い」などと言って,その差異の原因が体質にあることを暗に示してきました。また同じように大人でも,よくカゼを引く人と引かない人がいます。2005 年,中国をはじめとしたアジアを中心に新型肺炎(SARS)が猛威を振るいましたが,初期段階では,この病気に関する認識がなく予防対策をしていなかったため,多くの医療関係者がSARS に罹患しました。しかし,同じ患者と接触した医療関係者のなかには,感染した人と感染しなかった人がいました。その理由も,その人のもつ体質の差異と考えられます。
 体質とは一体どのようなものでしょうか?
 人の体質には先天のものと後天のものがあります。子供をほしい・産みたいという親なら,まず自分たちの体質を健康的なものにして,子供に素晴らしい遺伝子を伝えることが大事です。これがその子の健康的な体質の土台を作ることにつながり,先天の体質となります。以後は後天の体質です。出産後は子供をしっかりと見守り,大人になるまでの各時期において,生理的・心理的な成長の特徴に合わせて養育し,健康的な体質を育成していきます。成人してからは本人の問題になりますが,仕事・結婚・子育て・昇進・定年といったライフサイクルのなかでは,居住環境・職場の雰囲気・生活スタイル・食習慣・嗜好品などの影響を受けて,健康的な体質を維持しようと思っても,偏った体質を生じやすく,病気に罹りやすくなります。そこで,健康的に生きようという意識を持つとともに,年齢・季節に合わせた体の養生が重要になり,各種の偏った体質に合わせた改善方法を取ることが必要となります。
 近年,予防医学が重視されるなかで,中医体質学の知識を求めて,病気を予防するために偏った体質を改善しようとする人たちが増えてきました。筆者も,10 年前から体質に関する資料を集め始めました。専門書を購入し,論文を探し,古典を調べ,さまざまな体質基準を比較して,本書を執筆しました。途中,色々な事情が重なり原稿の完成が遅れてしまいましたが,逆にゆっくりと考える時間をもつことができ,本書の内容を充実させることができました。本書を読んで自らの体質を理解し,健康的な体質を目指して,中医薬膳学の知識を用いて調節する方が増えれば,本書の目的を達成したものと考えます。
 最後に,本書の趣旨を理解し,出版に尽力していただいた東洋学術出版社の井ノ上匠社長と編集部の皆さまに心から感謝を申し上げます。


本草薬膳学院 辰巳 洋
2015 年12 月25 日 東京