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『腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]』 序にかえて

 

序にかえて
漢方を学ぶ基本的な心構え


 

漢方三考塾主宰 寺師 睦宗


 
(1)志を立てること
 漢方医学を学ぶ心構えは,まず志を立てることから始まる。志の立て方が篤くて真剣であれば,おのずから道が開け,そのテンポも速い。が,ちょっとした好奇心で漢方を覗いてみようという態度であれば,十年やっても二十年やっても,深くて広い漢方を自分のものにすることは難しい。
 
(2)白紙になって漢方と取り組め
 漢方を学ぶ場合に,初めから近代西洋医学の立場で批判しながら研究したのでは,漢方を正しく理解することは難しい。漢方が一応自分のものになるまで,白紙になって漢方医学に取り組むことが必要である。近代医学の立場で批判するのは,漢方が自分のものになってから後のことである。
 空海の「瀉瓶」※である。
※瀉瓶:空海は805年長安に留学し,師の恵果から密教の秘法を授けられた。それはあたかも瓶から別瓶に内容を移し注ぐが如く,空海は師の秘法を悉く,伝授され,それを体得していった。
 
(3)散木になるな
 散木というのは,中心となる幹がなくて,薪にしかならない小木の集まりのことである。漢方の世界は広いから,学ぶ方法を誤ると薪にしかならない散木になってしまう恐れがある。まず一方の幹になるものを撰んで,これをものにするまでは,あれこれと心を動かさないことが必要である。
 幹が亭々と空にそびえるようになれば,枝,葉は自然に出てくる。中心になる幹がなくて,「あれもよし,これもよし」という乞食袋のようなものになってしまう人がある。そこで,まず中心になるものを選ばなければならない。それにはどうすればよいのか。
 
(4)師匠につくこと
 伝統ある漢方の学術を学ぶには,師匠について伝統を身につけることが必要である。それは,まず師匠の模倣から始まる。はじめから伝統を無視した自己流では,天才は別として,普通の場合は問題とするに足りない。しっかりとした伝統を身につけたうえでは,その殻を破って,自分で自分の道を切り開いて進むがよい。師匠を乗り超えて進むだけの気概がなければならない。
 「見,師と等しきとき師の半徳を減ず。
  見,師より過ぎてまさに伝授するに堪えたり」渓山禅師
 しかし,現在の日本では師匠につきたくても,師匠を得ることは難しい。また師匠はあっても,いろいろな事情で制約を受けて,師匠につくには容易ではない。このような人たちは,漢方の研究会や講習会に出るとよい。
 
(5)古典を読め
 漢方医学の根幹となる第一級の書(『傷寒論』『金匱要略』『素問』『霊枢』『本草綱目』『本草備要』)を読むこと。これらの古典は難解で,これをマスターすることは容易ではない。そこでまず現代人の書いたものから読み始め,だんだん古いものにさかのぼって読むようにするとよい。それに名賢哲匠の治験例と口訣を読むとよい。

(大塚敬節先生著『漢方医学』参照)