▼書籍のご案内-序文

『臨床に役立つ 奇経八脈の使い方』推薦のことば

 
推薦のことば
 
 
 このたび,本書『臨床に役立つ 奇経八脈の使い方』が刊行されますことは,たいへん意義深いものであると同時に,著者である高野耕造先生の永年のご努力の大いなる成果であると思料します。
 一般に,中医学や経絡治療は,現代医学的方法論では説明しにくい分野であります。しかしながら,長い歴史のなかで伝承され,時には新たな発見とともに仮説が論じられるなかで,多くの臨床家が自身の治療に応用されてきたものと考えられます。それだけにこれらの治療体系や理論は,論述しづらいものであり先達の優れた論証が,正確に伝わるとは限らないものであったと感じております。
 著者の高野先生は,この難解かつ情報の少ない分野にずっと挑み続けた方であります。おそらくは弛まなく推論を続け,そして何より重要である臨床のなかで経験を積み重ねることによって一つの理論体系を作り上げたものと思われます。少なくとも30年以上に及ぶご努力は,いくつもの成果を生み出し,それは彼自身の臨床の幅を大きく広げてきたことに繋がったものと思われます。今回,その高野先生が日々の臨床で用いられている中医学,そしてライフワークともされている奇経治療(学)について臨床家の視点で解説されている本書は,初学者からベテランの治療家に至るまで大いに参考になるものであり,また,次代の学術研究者にとっても必ずや役立つものと思われます。本書は,特に基礎的内容の解説から臨床に結び付けられている構成になっており,一つの学問書であると同時に臨床マニュアルの体裁となっております。また,奇経脈を用いた治療の基本から応用に至るまで論述されているあたりは,過去に類を見ない内容であると思料します。
 飽くなき探求心は強い好奇心から生まれます。そしてさまざまな経験や実践のなかで更なる好奇心が増幅し,それがまた探求心に繋がるものであり,いわば思考と実践はサイクルしながら学問体系に繋がっていくのではないでしょうか。このことは,われわれ人類が悠久の歴史のなかで常に続けてきた理論構築の手段であると考えます。アルベルト・アインシュタインは,常に好奇心をもって推論を重ね,さまざまな理論構築をしたといわれており,それが理論物理学者といわれる所以でもあります。そして,この偉大な物理学者が提唱した理論は,現在でも実践的研究のなかで証明され続けています。これらのことは,科学分野に限らずさまざまな分野においても当てはまるものと思われます。一方で医療における科学的根拠を見出すためには,臨床研究に代表されるある種の研究方法論を必要とします。いわゆる東洋医学,特に鍼灸のような物理療法をこの研究方法によって証明することは残念ながら困難なことが多いと思われますが,西洋医学的研究の第一歩も,たった一つの症例の検証から始まります。この積み重ねがなければ臨床研究には至らないわけでありますし,事例を通じた好奇心,探求心が必要となると考えます。それだけに著者が行ってきた,「思考と実践」については,大いに共感するものであります。
 最後に,本書が多くの鍼灸臨床を続ける方々に活用され,大いに成果を上げられるとともに更なる発見を通じて,次代に残す業績を積まれることを祈念申し上げます。
 
 

学校法人 呉竹学園
理事長 坂本 歩