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通巻108号(Vol.28 No.1)◇リポート




【Report】 日中伝統医学の「交流・合作・共栄」を――
世界中医薬学会連合会との協力関係を強化

編集部


世界中医薬学会連合会で


  例年になく暖かい冬を迎えている北京で,1月下旬,世界中医薬連合会(略称:世界中連)の本部を訪問した。今回の訪問は,中医薬の国際標準化を推進する世界中連の活動を取材するためであり,また将来に向けて当社との協力関係を築くためである。
  世界中連は,2003年,国務院の承認を経て設立された非政府の国際的な民間組織である。本部は北京にあり,現主席は前・衛生部副部長で,前・国家中医薬管理局局長の佘靖女史が務める。現在,世界の50の国と地域から157団体が加盟している。日本を含め,アメリカ,ヨーロッパ,オーストラリア,アフリカ,アジアで中医薬の学術活動を行っている主要な団体のほとんどが加わっている。
  われわれの訪問に対し,世界中医薬学会連合会副主席兼秘書長の李振吉教授を中心に,各セクションの主任らが温かく迎えてくれた。李振吉教授はもともと国家中医薬管理局の副局長で,現在,世界中連の副主席を務めている。李振吉教授をはじめ世界中連で主要なポストを占める方々の多くは,これまで中医薬の行政や学術部門で要職を務めてこられた方ばかりである。そのため世界中連は民間の機関でありながら,中国の国家機関とも太いパイプでつながっている。
  李振吉教授はまさに大人の風格があり,包容力と安心感を漂わせていた。
李振吉教授
李振吉教授

世界中連設立までの軌跡
  世界中連の設立計画がスタートしたのは,1997年5月にさかのぼる。この年の11月初に,世界針灸学会連合会の設立10周年大会が開催されたが,その機会をとらえて,大会に参加していたアメリカ,カナダ,オーストラリア,オランダなど各国代表に世界中連を設立することについて意見を求めたところ,彼らから熱烈な同意を得たという。
  1998年10月,アメリカで中医薬大会が開催された際,各国代表による真摯な討論が行われ,20近くの国から,60数名の代表が発起団体となることが求められた。最終的にアメリカ・イギリス・日本・オーストラリア・フランス・スペイン・カナダ・タイなど18カ国の30以上の学会が,正式な発起団体となることが決まり,中国政府に登録を申請したのである。そして2002年初,衛生部と外交部が共同で国務院に報告,2002年6月,国務院は世界中連を正式に承認した。
  2003年9月25日,北京で世界中連の設立大会が開催された際には,国務院の呉儀副総理から祝電が届き,全国人民代表大会の蒋正華副委員長,全国政治協商会議の羅豪才副主席とWHO代表が開幕式に出席した。設立大会には37の国と地域から118学会の127人の代表が参加した。


世界中連の目的
  世界中連の最大の目的は,中医薬を世界各国の医学体系のなかに入れることを推進することである。そのためには,世界各国の中医薬団体と相互に理解を深め,協力体制を強化し,学術交流を緊密に行っていくことが欠かせない。また中医薬の学術レベルを高めて,中医薬を保護,発展させることも必要だ。
  さらに世界中連のもう1つの大きな目的として,中医薬の国際標準化を推進することがある。中医薬の関係業界に国際標準を公布し,これを基礎として中医薬の国際承認を展開することがねらいだ。
  また,世界中連は国際組織であるが,本部を中国に置いていることから,「中国中医薬国際交流センター」とも呼ばれる。各国政府間レベルの交流は国家中医薬管理局が行うが,もちろん管理局がすべてのことを行えるわけではない。政府のできないことを世界中連が世界に向けて行うので「国際交流センター」の名前があるという。


世界中医薬学会連合会
世界中連はこの建物の3~5階に入っている


世界中連の活動範囲
  世界中連が現在取りくんでいる活動内容をまとめると,次の5つがあげられる。
①中医薬の国際標準化作業
  中医薬関係の国際標準を発布し,中医薬を標準化することで,世界各国において中医薬の秩序ある発展を遂げることができる。
②各国の中医薬団体と交流し学術大会・シンポジウム・展示会を開催
  各国の中医薬関連団体と交流して,学術大会・シンポジウム・展示会を開催して,情報提供の機会を設ける。さらに学術刊行物を発行して,学術レベルを高めて,中医薬の科学研究と医療協力を促進する。
③中医薬の特色と優位性を宣伝
  中医薬の特色と優位性を宣伝して,中医薬の国際的な広がりを促進する。さらに各国の中医薬発展の現状を研究し,中医薬を各国の主流の医学体系のなかに入れるための方策を探る。
④国際的な中医薬教育・訓練を展開
  国際的な中医薬教育・訓練を展開して,養成訓練班を設立し,インターネットを使った遠隔教育や遠隔診療を行ったり,中医薬の各種レベルの試験を実施するなどして,人材の育成に努め医療従事者の中医薬レベルを高める。
⑤各種医学と交流を深める
  世界の各種医学と交流を展開して,相互に学び合い,長所を取り入れ短所を補って,相互補完をめざす。

 このように,世界中連は中医薬の国際化戦略の拠点として,中医薬の国際的業界の標準化を推進する基地となり,さらに中医薬の学術・情報・人材・生産の交流の拠点となることを目指しているのである。


中医薬の国際標準化作業
  中医薬の国際標準化を推進することは,世界中連の主要な任務の1つである。
  現在,国際標準には3つのレベルがある。最もハイレベルなのは,国際標準化組織(ISO)や国際電気標準化会議(IEC)の標準である。2番目のレベルは国際業種組織の標準であり,そのなかには国際図書館協会連合会(IFCA)や国際種子検査協会(LSIA)などがある。3番目のレベルは地域標準であり,欧州標準化委員会(CEN)やパンアメリカ標準化委員会(COPANT)などがある。
  世界中連が作った基準はこのうち2番目のレベル,つまり国際業種組織のレベルであり,中医薬の国際標準を制定し遂行する合法的な身分を備えている。世界中連での標準化作業の過程は次のとおりである。まず世界中連の各国会員からそれぞれの国での需要にもとづく,標準化案を出してもらい,一定の手続きを経てから項目を確定し,草案を作成するチームを編成し,調査研究を行い,草稿を提出する。その後,世界中連の標準化専門委員会の審査を行い,各方面の意見を聴取し,十分に協議した後,できるだけ広範に支持が得られるような内容にする。審査後は,報告書を提出し,さらに本部で討論した後に,正式に標準として発表される。
  今後,標準化を進めていくものには,中医薬用語の標準化・中医薬教育機構の標準化・中医医療機関の標準化・中医医療技術の標準化・中医薬に携わる人材の標準化・中薬および製造設備の標準化などがある。各標準化の内容は以下のとおり。

①中医薬用語の標準化:常用する診療用語,翻訳,針灸の経穴部位とその計測法。
②中医薬教育機構の標準化:学校運営の条件,教師,教育目標,カリキュラム,教育内容,教育指導要綱,教材など。
③中医医療機関の標準化:医療機関の等級化,医療設備,中医薬に携わる人の構成。
④中医医療技術の標準化:診断・治療と治療効果の評価など。
⑤中医薬に携わる人材の標準化:知識,経歴,学歴,職名,道徳規範など。
⑥中薬と設備の標準化:中薬・方剤・中成薬の名称と品質,診療機器など。


今後,いっそうの相互交流をはかり協力していくことが約束された
今後,いっそうの相互交流をはかり協力していくことが約束された


国際中医師試験
   世界中連では,中医学を学ぶ人のレベルの標準化も進めている。これまで中国で中医学を学んだ人たちに対して定まった評価基準がなかったため,人によって中医学のレベルに差が生じ,誤治や副作用の問題が起こる要因となっていた。そこで中国政府は,個々の中医学の能力を認定するため,国家中医薬管理局のもと1991年から標準化認定制度をスタートさせた。日本でも1996年より国際中医師試験が開催されるようになったが,その後2004年より,試験の管理を世界中連が担うようになった。
  さらに世界中連では中医薬の仕事をする人を5つに分類している。①医師,②看護士,③薬剤師,④講師,⑤技師(針灸・推拿含む)である。この分類ごとにさらに5段階のレベル分けを行う。例えば医師の場合は,助理医師・執業医師・主治医師・副主任医師・主任医師の5段階である。これは,「中医の仕事はだれにでもできる仕事ではなく,きちんとした基準があること」を知らしめるために行うのだという。また各人に「世界」に通用する地位と名誉を与えることで信用度を高めることもできる。これまできちんと教育されていない「エセ中医師」がいたが,そうした者たちを排除することをねらっている。
  現在,国際中医師試験は世界13~14カ国で行われている。日本でも行われているが,試験の水準は執業医師のレベルでまだ低いものである。今後は,さらに高いレベルの主治医師・副主任医師・主任医師レベルの試験を行っていきたいという。


おわりに
  李振吉教授は,日本に対する政策を次の3つの言葉で表現された。つまり「交流・合作・共栄」の3語である。
  「日本は中医薬に対してとてもすばらしい基礎をもっている。残念ながら医療政策の問題で発展が遅れてしまった面があるが,中医を熱愛しており,一生懸命努力して,お互いに交流すれば,日本での中医の新しい局面を迎えることができると信じている」という言葉を述べられた。
  さらに今後の当社との交流についても,よりいっそう深めていくべく,どういった分野で交流・協力をしていくことができるのか協議していくことになった。      

(文責:編集部)




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