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通巻107号(Vol.27-No.4)◇リポート



■成都の中医学に学ぶ旅
 中医薬の故郷・成都中医薬大学を訪れて

東洋学術出版社_成都中医薬大学研修旅行

 一昨年の広州,昨年の南京に引き続き,今年は「中医薬の故郷」と呼ばれる四川・成都を2006年11月1日(水)~11月5日(日)まで,13名(医師9名,薬剤師3名,その他1名)の参加者とともに訪ねた。成都は中国西南地方一の大都市であり,たいへん豊かで活気に溢れた街であった。

→『高知新聞』 参加者・篠原明徳先生の記事はこちら


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 成都中医薬大学(旧称・成都中医学院)は1956年創立の,北京・上海・南京とともに中国で最初に設立された四大中医学院の1つである。気候が温暖・湿潤で,豊富な薬材に恵まれた環境にある四川では,古代より中医薬が発達し,数多くの名医が歴史に名を刻んできた。四川省政府は,「中医学に強い省」を戦略目標の1つとして掲げており,省をあげて中医薬の発展を支持している。中国の中でも,とくに四川は中医学の聖地とも呼べる場所であろう。成都中医薬大学では現在,温江市に広大な新キャンパスの建設と移転を進めている途中である。また成都中医薬大学附属医院(四川省中医医院)では,最近新たに外来・入院病棟が建設され,施設の拡充がなされている。

成都中医薬大学



 成都中医薬大学および同大学附属病院では,中医学の特色と伝統を非常に大切にしながら,それと同時に中医現代化を強力に推進し,中医学を発展させている。それをなしえているのは,中医学の基本と長所を熟知した,経験豊富な老中医たちが,絶妙なバランス感覚を発揮して発展をリードしているからにほかならなかった。


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成都中医薬大学研修内容

[11月2日]
午前 ①大学博物館見学,または②中薬炮製講義および実習:胡昌江教授(①,②より1つを選択)
午後 病棟研修:陳紹宏教授(危急症・脳卒中)

[11月3日]
午前 郭子光教授の講義(「命門および命門火衰の弁治)および患者診察
午後 荷花池薬材市場見学・薬材買物,解説・譚得才教授

[11月4日]
午前 周訓倫教授(方剤学)の講義(「中医臨床の治療効果に影響する因子」)および患者診察
病棟研修:丌(キ)魯光教授(内分泌科,糖尿病合併症)
午後 病棟研修:外科皮膚科・鐘以澤教授(外科皮膚科,乾癬・湿疹・SLE)。


 小社では1992年にも成都を訪れて取材をしている(関連記事は『中医臨床』通巻51号に掲載)。久しぶりの訪問となる今回の研修旅行では,成都中医薬大学側が私たち訪問団を「老朋友」として温かく迎えてくださり,万端の準備をしてくださった。そのおかげで,短期間の研修日程にもかかわらず,著名な老中医の先生方に講義や臨床指導をしていただく貴重な機会を得ることができた。その内容は,たいへん中身の濃いものであった。



郭子光教授 中国の国家級老中医のお一人,郭子光教授は,日本の漢方医学に対して造詣が深く,日本の漢方家とも古くから親しく交流をされていらっしゃる先生である。郭先生は私たちに,「命門および命門火衰の弁治」と題して,長年の先生の臨床経験にもとづいて,軽視されがちだが臨床上でたいへん重要な鍵となる「元精」と「命門の火」に関する講義をされた。命門の火が衰えると,身体にさまざまな影響を及ぼす。命門の火を治すとき,ただ辛熱の薬を使って温養するだけでは不足であり,必ず陰精を補す必要があるという。そして,郭先生は実際にその場で慢性頭痛および慢性腎不全の2名の患者を診察され,診断治療のポイントを解説された(研修内容の詳細は,『中医臨床』108号に報告予定)。さらに,ご自身が買ってきたという竹下人参の最上品の見本を取り出し,実際に見せながら,鑑別の仕方を細かく紹介してくださった。また,参加者の質問に答えて,難治性の血液疾患に対する弁証論治についても,たいへん示唆に富んだ,「肝の疏泄」に着目した独自の見解と治療方針を惜しみなく示してくださった。郭先生の中医学に関する学識の豊富さと研究内容の深遠さ,そして温厚で崇高なお人柄に触れることができ,参加者一同,たいへん感銘を受けた。




丌(キ)魯光教授 内分泌科専門の丌魯光教授に指導していただいた病棟研修では,糖尿病合併症の4症例をみせていただいた。なかでも,糖尿病足壊疽患者が丌先生の中西医結合治療によって切断を回避し,皮膚が再生しているという著効症例を実際にみて,みなその効果に圧倒された(研修内容の詳細は,『中医臨床』通巻107号に報告)。丌先生はまだ50代とお若いが, しっかりとした中医学基礎と弁証論治にもとづきながら,的確な西医治療を結合し,この領域で目覚しい成果をあげていることから,海外でもたいへん注目されており,来年5月にはドイツで開かれる学術交流会でもご発表されるという。

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周訓倫教授 日本でも有名な方剤学専門家,陳潮祖先生のお弟子さんである周訓倫教授は,臓腑病機治法と方剤配合規律に関する研究をご専門とされ,学生への教育にも長年携わっていらっしゃる。また,週3日は老中医外来で診療を行っており,そのうち90%が難治性疾患であるという。周先生は「中医治療効果を上げるための要素」に関して講義をされ,実際の患者さん5名を診察し,症例の解説をしてくださった(研修内容の詳細は,『中医臨床』通巻108号に報告)。



鐘以澤教授

 鐘以澤教授は,外科皮膚科領域の臨床・研究・教育において長年の豊富な経験をもつ老中医でいらっしゃる。SLE・強皮症・皮膚筋炎・脈管炎・乳腺炎など,多くの疑難病症に対して優れた治療効果を得ており,数々の新たな中薬製剤も開発している。鐘先生は,入院中の乾癬・難治性湿疹・SLEの患者を回診してみせてくださり,あとから症例について丁寧に解説を加えてくださった。さらに,それぞれの疾患の弁証論治や有効な方剤などを紹介してくださった(研修内容の詳細は,『中医臨床』通巻107号に報告)。



陳紹宏教授  中薬製剤の1つ

 中国の全国中医急症医療センター主任でもある,急診科の陳紹宏教授は,私たちにICU病棟に入院中の患者をみせてくださり,病態の説明をしてくださった。そのあと,ご自身が開発された中薬製剤である「中風醒脳口服液」の急性脳出血患者に対する長年の使用経験と,その顕著な臨床効果について解説をされた。陳先生は,中風の発病の根本には元気虚があり,「虚→瘀→痰→火→風」という病機をたどっていると述べられ,「痰熱生風」がその核心にあるとの考えを示された。「中風醒脳口服液」の成分については,残念ながら機密事項として公開してはもらえなかったが,効能は「復元醒脳・逐瘀化痰・泄熱熄風」である。救急医療の現場で,中薬内服液の病院製剤が威力を発揮していることに驚いた。陳先生はこのたび四川省十大名医にも選ばれた,豊富な中医理論知識と臨床経験をおもちの老中医であるが,その実力を発揮して救急医療に応用するための数々の中薬製剤を開発され,多くの論文を発表されている。



胡昌江教授<

 今回はじめての試みとして,研修に中薬炮製を選択肢として取り入れたところ,なかなか日本では習うチャンスがないということもあり,結果的に大多数の参加者が本実習を選択した。中薬炮製学の専門家,胡昌江教授は,まず基礎知識に関する講義の後,実際に炮製実習として土炒白朮・阿膠珠・麸炒枳殻などの実演をしてくださった(研修内容の詳細は,『中医臨床』通巻108号に報告予定)。「これまでの自身のやり方と違って参考になった」「実践的でよかった」といった,参加者の感想が聞かれた。


 もう1つの選択項目であった大学附属の中医薬博物館見学では,中国国内最大という本博物館に所蔵される多くの展示品や生薬標本を見ることができ,四川の中医学の歴史を体感できた。

大学附属の中医薬博物館 大学附属の中医薬博物館2


譚得才教授

 また,成都市内からバスで約30分のところにある,中国で3番目に大きな薬材市場,荷花池薬材市場を見学に訪れた。荷花池薬材市場へは,譚得才教授が同行してくださり,店頭に並ぶ生薬を詳しく解説してくださった。


 今回の研修旅行の参加者は,日頃たいへんご熱心に中医学・漢方に取り組まれている先生方ばかりだった。学習暦数年~数十年の方までいらっしゃったが,みな中医学という共通テーマをもち,初対面とは思えないほど和気藹々と研修してくることができた。成都で学んできた多くのことを,参加者の方々がこれから臨床で活かされ,成果をあげられるよう願うとともに,本研修によって中国と日本との間に築かれた新たな学術交流の芽を,これからも大切に育んでいきたいと思う。 (編集部)





■桑木崇秀先生を囲む会――漢方診療を60年

編集部


 2006年9月4日と10月16日の2回にわたり,東京五反田の東與ホテルで,「桑木崇秀先生を囲む会 ― 漢方診療を60年」が開催された。本講演会は,秋葉哲生先生(千葉・あきば伝統医学クリニック院長)が発起人となり,財団法人東洋医学国際研究財団(桑木崇秀会長)とNPO法人KAMPO-Med JAPAN(秋葉哲生会長)の共催により行われた。
 発起人の秋葉先生は,日本の漢方医学は戦後60年の間に大きな発展を遂げたが,その発展に寄与された先達の業績がいまだ十分に評価されていないとお感じになり,今回,桑木崇秀先生のお話をうかがい,戦後の漢方医学を見つめ直す機会をつくろうと思い立ったという。
桑木先生を囲む会


桑木先生の漢方の歩み

桑木先生 9月4日の講演会では,桑木先生が「私の修行時代」と題して,漢方を志した背景について語られた。先生は,1916年に東京で生まれ,1941年に慶應大学医学部を卒業。太平洋戦争では陸軍軍医として出征し,1943年にビルマでインパール作戦に従軍された。転戦中にマラリアおよびアメーバ赤痢に罹患し,ラングーン陸軍病院に入院。この間にビルマの薬用植物を研究,薬草療法も体験し,生薬に対する関心を持ち始めた。さらに1947年に復員後,西洋医学の無力さを知るが,中山忠直氏の『漢方醫学の新研究』に出合い,本格的に漢方を学ぼうと決意された。その後,沖電気芝浦診療所などに勤務する傍ら,1948年に新宿百人町で行われた奥田謙藏氏の「東京漢方医学会」に参加。さらに矢数道明氏の温知会に加わり,本格的に漢方の活動を開始された。北里研究所東洋医学総合研究所の初代臨床研究部長や東京医薬専門学校校長などを歴任され,現在もなお精力的に漢方の診療に携わっておられる。
 さらにこの日の講演会では,桑木先生の講演に先立ち,安井医院の安井廣迪先生が「わが国の戦後漢方の歩みと国際交流」と題して,日本漢方の各派の流れを歴史的に追いながら,やがて古方派・後世方派・折衷派の三派の学説が『漢方診療の実際』(南山堂,1941)の形として集約され,さらに『漢方診療医典』(南山堂,1969)につながる経緯を解説。さらに,これからの国際交流をどのようにはかっていけばよいかについて,まず日本漢方の特徴をきちんと把握し,次に英語で表現して,欧米の英文雑誌に発表していくことが必要で,日本漢方を世界に発信して国際交流をはかる必要性を提起された。

日本の漢方医学に期待すること
 10月16日の講演会では,平馬医院の平馬直樹先生を交えて,桑木先生,秋葉先生との鼎談が行われた。平馬先生は主に中医学を学ばれたきっかけから始めて,中医学の臨床体験を語られた。平馬先生は,桑木先生が北里研究所の臨床研究部長を退任された後にすれ違う形で北里研究所に入所。一時休職して中国へ留学するまでのおよそ10年の間,北里研究所では中医学に対するなんの違和感もなく,中医学も和漢医学も両方,平気で行っているような状態だったと語られた。
 桑木先生は,かなり早い時期から中医学と日本漢方の違いについて,論文等で明確に述べてこられた草分けである。先生の2回目の講演は,両者の違いについて話をされ,陰陽・寒熱のとらえ方の違いなど,いくつもの相違点を指摘された。なぜこうも大きな違いが生れたのか。桑木先生は,中医学は絶えず補完され進歩するものであるのに対し,日本漢方は『傷寒論』を神聖視し,固守してきたためだと説かれた。
 講演の最後に,先生は「日本の漢方医学に期待すること」と題して,次の7項目を提言され,2回にわたる講演を締めくくられた。


   『傷寒論』や口訣を大切にすることは必要だが,それにとらわれてはいけない。

   吉益東洞の実証精神は尊ぶべきであるが,本草書や陰陽理論をすべて有害無益とする態度は改めなければならない。

   漢方理論については中医学理論に十分学ぶべきである。もちろん大いに議論するべきである。

   究極的に中医学と日本漢方とは1つになるべきであるが,あまり急ぐと混乱を生じる恐れがある。しかし最小限,同じ漢方用語は同じ意味に統一すべきである。

   方剤は生薬から成り立ち,それぞれの生薬には薬性や薬効があること,「寒を療するには熱薬を以てし,熱を療するには寒薬を以てす」という陰陽理論の基本は,漢方の原点であることを認めるべきである。そしてそれらの理論を1つひとつ科学的に,または統計学的に証明していくことがこれからの仕事である。

   さらに望めるならば,日本産あるいは外国産(例えばブラジルやメキシコ)の生薬の薬性・薬効などを明らかにして,新しい方剤を作り,がんやその他の難病を克服する道を探るべきである。

   漢方はできた病気を治すよりも未病を治すこと,養生の道を探ることこそ本来の務めであり,食事をはじめ衣・住・心・運動についても,漢方の立場から思い切って発言すべきである。


 最近,中医学と日本漢方が,流派の違いにとらわれず協調していこうとする動きがみられるようになってきた。お互いによいものを吸収しようとする動きの現れだろう。日本の伝統医学が世界に目を向けた場合,まず国内における流派の違いを超えて相互に理解し合い協力していくことが欠かせない。桑木先生の提言は,日本漢方に向けた言葉であるが,果たして中医学からはどのような歩み寄りをみせることができるであろうか。
 この会を主催された秋葉先生といえば,日本漢方の次代を担うリーダーのお一人である。そんな先生が,今回の講演の発起人となり,さらに中医学と日本漢方の対話をはかる機会を設けられたことも誠に意義深い。今後も中医学,日本漢方の双方が語り合う機会が増えていくことを期待する。



中医臨床107号
『中医臨床』通巻107号(Vol.27-No.4)
p46~48,p94~95より転載

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