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英国における中医法制化12年の歩み(2)

英国中医薬学会(ATCM)会長 沈恵軍

項目
  (1) 背景
(2) 【2000~05年】初期の草薬・鍼灸の立法経過
  (3) 【2005~06年】立法過程における中医の平等な地位確定
  (4) 【2006~08年】連合立法WGおよびその報告と保健省の第2回一般諮問
  (5) 【2010~12年】この1年の進展と今後の見通し
  (6) 英国の中医界が直面する問題





  【2000~05年】初期の草薬・鍼灸の立法経過


1.上院の代替医療報告(2000年11月)と保健省による2つの立法管理WGの成立
  2000年に英国上院の科学技術委員会が代替医療に関する報告を発表し,代替医療を3つのグループに分類した。鍼・灸・草薬などの5種の治療法(いわゆるBig Five)は,治療効果が高く研究や推進するに値するとして,第1類に分類された。一方,中草薬や中医は科学的根拠に乏しく,宗教・哲学的な傾向が強いと考えられ,第3類に分類された。そして,第1類に分類された条件の整った治療法に関しては,早急に法を制定して管理しなければならないと考えた。その後,政府の保健省はこの報告に対する回答において,管理の利便性という理由から中草薬を第1類の草薬に組み入れ,上院の要求を踏まえたうえで,2002年に前後して2つのワーキンググループ(WG)を成立させた。その2つとは,草薬医立法管理WG(Herbal Medicine Regulatory Working Group:HMRWG)と鍼灸立法管理WG(Acupuncture Regulatory Working Group:ARWG)であり,そこで草薬医と鍼灸師の立法管理の前期作業が開始された。
  上院の報告と政府の当初の考えはともに,草薬師・鍼灸師それぞれに対する法を定めることであり,中医師およびそれを代表する中医学を,完成された伝統医学体系とは認めず,中医学にそれ相応の法的地位を与えるつもりもなかった。
  しかし2002年初め,英国保健省が英国中医薬学会(ATCM)に対し,書面を通じてATCMにHMRWGに参加するよう要請してきた。当時の英国政府は,草薬と鍼灸それぞれの管理法を制定しようとしており,われわれとしては,中医が分割されてしまうという危機的な状況をみすみす見過ごすわけにはいかなかった。またその法は,草薬と鍼灸に従事するすべての人を管理するものであり,英国人だけを管理し中国人は管理しないという法を制定するわけはなく,さらに今後,中国人だけを専門に管理するための法律を制定するはずもなかった。当時,ATCMの理事会の大多数は消極的に構えており,分割されてしまうよりも危険に踏み込んでも筋を通した方がよいと考えていた。これにより,ATCMの大会で票決を取り,HMRWGに参加することを決定した。このようにして,ATCMは中医の法制化において,草薬医の立法管理のなかで中草薬独自の地位を守り,また法管理においても,中医全体を1つの医療体系として登録できるように力を尽くした。


2.HMRWG内の競争と2つのWG設立報告の公布(2002年2月~03年9月)

  保健省のHMRWGは,2002年2月に成立し,22人で構成された。専門家の代表は欧州草薬師連盟(European Herbal Medicine Practitioners Association:EHPA,現European Herbal and Traditional Medicine Practitioners Association:EHTPA)が主になっており,10人の専門団体代表のうち8人がEHPAのメンバーで,それ以外の中医専門団体は,中草薬登録協会(RCHM,メンバーはおもに英国人)と英国中医学会(BSCM,メンバーはおもに中国人)であった。当時のEHPAは,草薬の立法準備に着手してすでに10年が経過していた。このため,WG内ではその中心的地位を利用し,開始当初は草薬の立法のみを追求して,中医全体に対する法の制定は支持していなかった。そして,正式にWGの代表となったATCMは,WGのなかで唯一,中医を1つの医療体系とみなした法の制定を呼びかけた団体であった。
  ATCMは開始以来,HMRWGにおいて,中医を分割するべきではないとし,立法管理においても一貫して,中医を1つの医療体系として保護するべきだと呼びかけてきた。ATCMは2002年5月に,HMRWGにおいて,中医全体に対する法制定の要求という立場を発表した。また,その後のWGのなかに中医を低く評価している人がいると指摘した発言により,ATCMの代表は反発を受けることになり,一時,WG内に険悪な雰囲気が流れた。その間何度かせめぎ合いが起こったが,中医全体に対する法制化の勢いは徐々に強くなっていった。私たちは何度も,進展状況を即時会員に報告し,華文新聞で華人界の支持と注目を呼びかけた。さらに,駐英中国大使館・駐マンチェスター総領事館,ならびに北京の国家中医薬管理局に向けて,総括的な報告を行った。
  われわれの,中医全体に対する法制化という呼びかけは,英国の中医界・中国政府・駐英大使館および領事館から大きな支持を得,さらにWGのなかでも,道理を解する人たちからの理解と支持を得た。特にWGのリーダーであるPittilo教授は,ATCMおよびそのほか中医界の人物や団体と交流後,中医を分割するべきではないことや,独立した医療体系としての中医を理解し,中医全体としての登録管理や,平等な法的地位を得るべきであると考えた。これにより,いわゆる「Complementary and Alternative Medicine Council」(CAM Council)と呼ばれる,業種を超えたCAMの立法管理の成立を強く主張した。CAMの各業種(早期では草薬・鍼灸・中医)は,この大きな庇護のもと,平等かつ独立して立法管理に参与した。Pittilo教授の主張は,WG内で民衆代表とATCMからの有力な支持を得て,ついに2003年5月,中心的存在であるEHPAが態度を一変させた。彼らは,それまで追い求めてきた草薬単独での立法管理という方針を放棄して,CAM Councilの主張を支持する方向に向かった。さらに,CAM Councilを支持すると同時に,中医は1つの医療体系として平等な法的地位を得るべきだと主張し始めた。このEHPAの態度の変化は,私たちの,中医全体としての立法管理獲得という主張にとって大きな意義があり,これにより,WG内の3つの中医専門団体である,英国中医薬学会(ATCM),英国中医学会(BSCM),中草薬登録協会(RCHM)の意見が一致し,協力して中医全体としての登録に向け尽力するようになった。このことは非常に得難く貴重なことであり,これにより,ATCMとBSCMは2004年11月に正式に合併した。こうして,立法登録という枠組みのなかで,中医専門団体は団結の第一歩を踏み出した。
  2003年9月,HMRWG報告(※7)が正式に公布され,草薬単独での登録機関という構想は基本的に却下された。その代わりにCAM Councilを尊重し,この機関のもとで西洋草薬師・中医師・インド医師・鍼灸師などが,平等に立法登録に参与することになった。これにより,1つの医療体系としての中医の独立性が保証され,中医が得るべき法律的な地位を守ったのである。報告では,ATCMの提議を踏まえ,中草薬や鍼灸を含む中医が,1つの医療体系として立法登録され,登録の際の名称は「中医師」(TCM Practitioner)とすべきであることを明確に指摘していた。
  中医を1つの医療体系とみなした登録というわれわれの要求は,ついに草薬界の理解と支持を得たが,鍼灸界からは反発を受けた。2003年9月,HMRWGの報告と同時に公布されたARWGの報告では,鍼灸師単独での登録(Acupuncture Council)を強く要望しており,CAM Councilへの参加を望んでいなかった。ARWGの意図は,Acupuncture Councilに登録した鍼灸師(Acupuncturist)のみに,鍼灸に従事する資格を与えるということであった。このようにすれば中医師たちは鍼灸登録に参加せざるを得なくなり,中医全体での登録は実現不可能となるからだ。
  ARWGは,HMRWGより3カ月遅れて(2002年5月)成立した。鍼灸専門団体の代表は,おもに英国鍼灸学会注1とその他3つの鍼灸団体注2から成っている。かつてATCMは,ARWGに参加できるか否かを問い合わせたが,理由もなく拒絶された。ARWGに歓迎されない原因は,ATCMがHMRWGにおいて,中医を分割すべきではないと筋を通したことであることは明白であった。


3.保健省の「草薬・鍼灸の立法管理議案」の公布(2003年9月~04年3月)と,第1回一般諮問(2004年3~6月)

  草薬と鍼灸2つのWG建議報告(※7,8)の主旨は,草薬と鍼灸の立法管理を政府に建議するものであり,これに対し保健省は,2つの建議報告を踏まえて,立法管理の諮問文書(議案)を起草し,専門団体および社会の各界に向けて意見を求めた。しかし,HMRWGは,政府が提唱した草薬独自での立法という立案を破棄してCAM Councilを提唱しており,一方ARWGは,鍼灸独自の立法を堅持してCAM Councilには反対していた。このため,この異なる2つの立法形式のうち,政府がどちらを採用するかについて,多くの人が大いに注目していた。しかしこの時点では,中医を1つの医療体系として扱うためには,CAM Councilの下で法を制定するしかなく,中医が完全に独立した形での法制定は不可能であった。保健省の諮問文書「草薬および鍼灸の立法管理議案」は,2004年3月2日に正式に公布され,この日から3カ月間にわたる第1回一般諮問が開始された。
  政府の議案は,確実にHMRWGのCAM Councilプランに傾いており,議案全体がCAM Councilプランを踏まえて展開していた。議案は,中医を1つの医療体系として認めており,中医従事者は中医師(TCM Practitioner)として登録し,登録業種の区分は中医師・草薬師・鍼灸師を並列として,法的地位も平等にすべきであるというものであった。このことは,われわれ中医業界にとって非常に喜ばしいことであり,政府の2年前の主旨とは本質的に異なるものであった。もちろん,諮問文書はまだ完璧だったわけではなく,登録機関においても中医は本来あるべき位置についておらず,実体がその名にそぐわないという矛盾が残っていた。

(つづく)


注1:British Acupuncture Council(略称BacC)。1990年代中期に,複数の鍼灸専門組織が合併して成立した,いわゆる伝統的な鍼灸師の代表的組織。
注2:いわゆる西洋医の鍼灸(Western Medical Acupuncture)。神経生理学理論をふまえて鍼を使用し,経絡や経穴を無視した治療法。おもに疼痛を治療し,鍼灸学の阿是穴を応用したもので,適応症や治療効果が制限されるが,簡便で修得しやすいため英国(特に西洋医)では広く受け入れられている。


[参考文献]
7)http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_4070170
8)http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_4070164


出典:英国中医立法12年的歴程和結局.世界中医薬学会連合会首届中医全球化与人類健康高峰論壇 論文匯編
翻訳:平出由子

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