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中医学をマスターする5つのステップ

【書評】『図解・表解 方剤学』

『図解・表解 方剤学』


大野クリニック  大野 修嗣


 滝沢健司先生の『図解・表解 方剤学』が出版された。
 滝沢先生は東京大学大学院医学系研究科博士課程,東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター,その後に日本漢方実践の中心的存在である同大学附属東洋医学研究所に在籍された。西洋医学においては免疫系疾患に精通し,日本漢方にも精通されていることになる。さらに遼寧中医大学附属日本中医薬学院で中医学におけるA級国際中医師の資格を取得されている。なお向学心の徒であることに心より敬意を表す。
 医学的治療を確かなものにするためには,治療手段を選択する方法論に再現性があるか否かが重要な鍵になる。病名にもとづく西洋医学的治療手段の選択はある程度,納得のいく方法論をもち再現性が保証されている。漢方医学的治療はこの部分が曖昧であるとの指摘がある。西洋医学理論にのみもとづき漢方治療を選択する場合,ある1つの漢方薬がある病態に効果があったからといって,次の同様な病態をもった症例にも有効であるという再現性を確保することが難しい。この問題の解決にはどうしても中医学の基礎理論・方剤学を必要としている。
 中医学の治療体系を「弁証論治」という。「基礎理論」を基盤とした「弁証」によって「証」(中医学的病態)を把握し,それに従って治療方法を選択することを「論治」という。その結果を基にして適応する方剤すなわち漢方薬が選択される。この部分に「方剤学」が必要となるのである。「基礎理論」自体,および「方剤学」自体,さらに双方に総括的な整合性がとれていることが必要で,これによって治療現場でその役目を果たすことができる。その構築は歴史的時間のなかで磨き抜かれた臨床の現場での慧眼の為せる業であったと考えられる。中医学は徹底的に現場主義なのである。「基礎理論」と「方剤学」は有機的につながり切り離せない関係にあるが,まずは本書を手にし,さらに深い理解を求めて「中医基礎理論」を紐解くことが勧められる。双方を手にすることで西洋医にとって難解な中医学の体系を容易に総括的に,またより深く理解可能となる。滝沢先生の手になる図解がまことに独創性に富み,引き締まって胸のすく思いである。
 2018年の夏は日本列島が記録的な猛暑に襲われ,日本国中で漢方薬の清暑益気湯が品薄になったと聞く。清暑益気湯の中核を成している生薬が人参・麦門冬・五味子で,この3種類の生薬の配合から成り立っている漢方薬が生脈散である。この生脈散の働きを知ることが清暑益気湯の薬能を明らかにするためには欠くことができない。本書には生脈散の【出典】が『医学啓源』『内外傷弁惑論』であること,【効能】が益気生津・斂飲止汗であり【主治】として気陰両傷証であると丁寧に記載され,さらに【病機と治法】【方解】が図解され,理解を容易にしてくれている。治療対象の患者がどのような病態・体質・精神状態をもった暑気あたり(熱中症)なのかを弁証し,その結果から論治として清暑益気湯が選択されるという道筋が得られる。暑気あたりのどのような症例に適応し,なぜ,どのように治しているかが一目瞭然である。清暑益気湯の処方としての理解には必要かつ十分な内容となっている。
 漢方・中医学を日々実践する小生にとってもすでに座右の第一書となった。常に手元に置き,繰り返し活用することになるに違いない。



 
 

中医臨床 通巻154号(Vol.39-No.3)特集/聴覚障害の中医治療
『中医臨床』通巻154号(Vol.39-No.3)より転載


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