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2005年10月 アーカイブ

2005年10月01日

中国中医界の先導者 周仲瑛先生について

今回の旅行でお会いする予定になっている老中医・周仲瑛先生は、かつて南京中医薬大学の学長を務められていたころに、中国の中医薬大学で使われて評判が高い、いわゆる「五版教科書」(『中医内科学』上海科学技術出版社、1985年発行)の副主編を、董建華先生とお二人で担当されています。
今回の旅行に参加される先生方の中にも、この教科書で中医内科学を学んだ方が少なくないでしょう。

内科学5版








説明書きを読むと、この本の中で周先生は感冒・咳嗽・肺痿・肺癰・哮証・喘証・肺労・肺脹・痰飲のパートを担当されているそうです。




周先生は1928年生まれということですから、今年で77歳になられますね。
代々続く医者の家系に生まれ、幼少時代からお父様に中医を教わられたといいます。

中国では1947年に中医排斥運動が起こり、中医学が冷遇を受けた時代がありました。中医学の発展が大きく阻まれたときでしたが、そのときに周先生は精神的重圧を受けながらも、中医学に対する信念をより確固たるものにされたといいます。

1956年に上海中医学院を卒業されて以来、常に臨床の第一線に立って活躍されていらっしゃいます。
1980年代に流行性出血熱が中国で流行した際、死亡率が80%にも及び、医者がなすすべを失っていたときにも、周先生は疫区に赴き、温病・傷寒などの各家学説を総合して系統的治療方法を提示され、死亡率を全国水準並みにまで低下させることができたそうです。
以来周先生は、急性伝染病に対する中医治療の有用性を特に意識され、心血を注いで中医内科急診学という新分野を拓かれました。
そして、2003年に中国でSARSが流行した際にも、周先生が治療方針について指示を与えたことで、SARS制圧に大きな成果を生みました。

近年、周先生は中医学の西洋化の風潮を憂い、中医学の発展に関しても提言をされています。
「西洋の立場に立って中医をみれば、誤りを生んでしまう。
 中西医学は2つの異なる医学であり、両輪として補完しあうべきものである。
 そして、中医学はまだまだ未開拓の宝の山なのだ。」と…。

一家の説にとらわれることなく、幅広く各家のよいところを総合すべきだと強調される周先生。
豊富な臨床経験の中で、重篤な患者や疑難病患者の治療に数多く携わられ、高い治療成果をあげられている先生から、短い研修の中でもきっと何か大切なものを学び取れるのではないでしょうか。
 



2005年10月04日

広州・訒鉄涛教授らが進める中医基礎研究が中国の国家重点プロジェクトに

 昨年の中国研修旅行の研修先であった,広州中医薬大学の訒鉄涛教授が中心となって推進する中医基礎理論の研究が、中国の国家重点研究プロジェクトとして5200万元(約7億2000万円)という高額の研究費用を当てて行われることが決まったそうです。
中医学の基礎分野の研究予算としては空前の規模だということで,中医ドットコム上にニュースを詳しく掲載しています。
 詳しい記事はここ「中医ドットコム」をクリックしてご覧ください。

とう教授

 昨年研修に行かれた先生方は,中国国内でも特に中医学が盛んな風土をもつ広州を目の当たりにされていらっしゃるので、このニュースにも納得がいかれるでしょうか。

 ご高齢の訒鉄涛教授の中国国家に対する提言の影響力には,深く感銘を受けずにはいられません。

2005年10月07日

黄煌先生の経方論について

編集長からのメッセージ

さて,南京では,黄煌先生にお会いし,講演をしていただく予定です。
黄煌先生は,『中医臨床』にたびたび登場しておられるので,ご存じの方も多いかと思いますが,はじめて黄煌先生の講演を聴かれる方は,少々面食らわれるかもしれませんので,すこし説明をさせていただきます。

黄煌先生は中国の経方派に属する先生で,経方医学の実践性・臨床性を非常に重視しており,日本の古方派の医学にも強い関心を寄せています。
そして特に「方証相対」「薬証相対」の重要性を強調します。
その背景には,教育者として,現在の中国中医界の問題点を鋭く意識していることがあるのだと思います。
本来素晴らしい医学であるはずの中医学の良さを,十分に発揮できていないというジレンマを感じているようです。
病因病機学説による弁証論治を,先生は「思弁的,衒学的,空論の医学」と論断します。大変極端ですが,中国中医界の一側面を鋭く見ているのだろうと思います。
日本のある経方派の先生も現代中医学に対して,よく似た表現をしています。

黄煌先生の話を通じて,われわれが学んでいる中医学のもう一つの側面を見てとることもできると考えます。
それによって,中医学の価値をより総合的に認識し,活用していくことができるのではないかと考えます。

黄煌先生の経方論について―研修参加者のコメントより

黄煌先生の経方論について,ある研修旅行参加者の先生からコメントをいただきましたのでご紹介させていただきます。

 中医学は実践の医学です。
ですから,「方証相対」「薬証相対」を中心に治療するということは,陰陽五行・運気論・脾胃論・痰瘀論などいろいろ学び終えて自分のものにした人が「所詮理屈は理屈だよ」と言うのと同じだという気がしないでもありません。
腕の良い職人が簡単に,素晴らしい細工物を作ったとき,「どうやったらこんな素晴らしい物を作れるのか?」と他人が訪ねても,結局は「知識」ではなくて,すでに「智恵」の世界だと思います。
 でも,その智恵のレベルにたどり着くためには,いろいろな知識の段階が必要な気もします。
古方家・経方家といっても千差万別で,古方派・経方派の中にも理屈にこだわる人は結構いらっしゃるようです。
文章を読んでみると、それこそ現代中医学理論そのものがわけもなく入れられていたりして,一体これは何かと驚かされます。

 黄先生のように徹底的に方証、薬証だけで高い治療効果を示す医師は、きわめて少ないような気がします。
「〜もどき」ではない、本物の経方家なのでしょうね。
わたしもファンの一人で、いつも注目しています。

黄先生は,現代の徐霊胎になるつもりなのでしょうか。
歴史は何度も何度も,行ったり戻ったりするのでしょうか。

2005年10月20日

中医用語に慣れるために その2 舌診つづき

中医の臨床に出て症例を勉強する際には,基本的な診断根拠がとても大事です。
そこで診断学のなかから舌診に出てくる単語のマスターを目指して,前回に引き続き第2回目をお届けします。

二,舌形:指舌的形状,包括老嫩,胖痩,点刺,裂紋,歯痕,舌下絡脈等内容。she2 xing2:zhi3 she2 de xing2 zhuang4,bao1 kuo4 lao3 nen4,pang4 shou4,dian3 ci4,lie4 wen2,chi3 hen2,she2 xia4 luo4 mai4 deng3 nei4 rong2。
二,舌形:舌の形状には,舌の太り具合,斑点や芒刺,ひび割れ,歯痕,舌下静脈などが含まれる。

(一)老嫩舌。lao3 nen4 she2。
(一) 老嫩舌。

舌質老是指紋理粗糙,堅斂蒼老,属実証。she2 zhi4 lao3 shi4 zhi3 wen2 li3 cu1 cao1,jian1 lian3 cang1 lao3,shu3 shi2 zheng4。
舌質が老とは,きめが粗いことを指しており,堅く引き締まって老いたような舌であり,実証に属する。

舌質嫩是指紋理細膩,浮胖嬌嫩,属虚証。she2 zhi4 nen4 shi4 zhi3 wen2 li3 xi4 ni4,fu2 pang4 jiao1 nen4,shu3 xu1 zheng4。
舌質が嫩とは,きめ細かく滑らかなものを指しており,ふっくらと肥大して弱々しい嫩舌は,虚証に属する。

(二)胖嫩舌,多因痰湿阻滯所致。pang4 nen4 she2,duo1 yin1 tan2 shi1 zu3 zhi4 suo3 zhi4。
(二)胖嫩舌は,多くの場合湿痰が阻滞することで生じる。

舌淡白胖嫩,属脾腎陽虚,痰湿内停; she2 dan4 bai2 pang4 nen4,shu3 pi2 shen4 yang2 xu1,tan2 shi1 nei4 ting2;
舌が淡白色で胖嫩であるものは,脾腎陽虚,痰湿内停に属する;

舌淡紅或舌紅而胖嫩,伴黄膩苔者,多為脾胃湿熱,痰濁停聚。she2 dan4 hong2 huo4 she2 hong2 er2 pang4 nen4,ban4 huang2 ni4 tai1 zhe3,duo1 wei2 pi2 wei4 shi1 re4,tan2 zhuo2 ting2 ju4。
舌が淡紅色あるいは紅色で胖嫩で,黄膩苔を伴うものは,多くの場合脾胃湿熱で,痰濁停聚が生じている。

(三)腫脹舌,舌鮮紅而腫脹,為心脾積熱;舌紫而腫脹,為邪熱挾酒毒上攻;舌青紫晦·暗而腫脹,為中毒而致血液凝滯。zhong3 zhang4 she2,she2 xian1 hong2 er2 zhong3 zhang4,wei2xin1 pi2 ji1 re4;she2 zi3 er2 zhong3 zhang4,wei2 xie2 re4 jia1 jiu3 du2 shang4 gong1;she2 qing1 zi3 hui4·an4 er2 zhong3 zhang4,wei2zhong4 du2 er2 zhi4 xue4 ye4 ning2 zhi4。
(三)腫脹舌のうち,舌が鮮紅色で腫脹したものは,心脾積熱に属し;舌が紫色で腫脹したものは,邪熱が酒毒を挟んで上亢したものであり;舌の青紫暗色で腫脹したものは,中毒のために血瘀となったものにみられる。

(四)痩薄舌,舌体痩小而薄。shou4 bao2 she2,she2 ti3 shou4 xiao3 er2 bao2。
(四)痩薄舌とは,舌体が痩せて小さく薄いものを指す。

舌淡白而痩薄,為気血両虚;舌紅絳而痩薄,為陰虚火旺,津液耗傷。she2 dan4 bai2 er2 shou4 bao2,wei2 qi4 xue4 liang3 xu1;she2 hong2 jiang4 er2 shou4 bao2,wei2 yin1 xu1 huo3 wang4,jin1 ye4 hao4 shang1。
舌が淡白色で痩薄であれば,気血両虚であり;舌が深紅色で痩薄であれば,陰虚火旺により,津液耗傷である。

(五)点刺舌。dian3 ci4 she2。
(五)点刺舌。

点是指鼓起舌面的紅色,白色或黒色,星点,皆為熱毒熾盛之象。dian3 shi4 zhi3 gu3 qi3 she2 mian4 de hong2 se4,bai2 se4 huo4 hei1 se4,xing1 dian3,jie1 wei2 re4 du2 chi4 sheng4 zhi1 xiang4。
点とは舌表面の赤色,白色あるいは黒色,星状点などの隆起を指しており,すべて熱毒熾盛の象である。

紅点為温熱入血,或熱毒乗心;白点為脾胃熱毒;黒点為血中熱甚,気血壅滯。hong2 dian3 wei2 wen1 re4 ru4 xue4,huo4 re4 du2 cheng2 xin1;bai2 dian3 wei2 pi2 wei4 re4 du2;hei1 dian3 wei2 xue4 zhong1 re4 shen4,qi4 xue4 yong1 zhi4。

紅点は温熱入血,あるいは熱毒乗心であり;白点は脾胃熱毒であり;黒点は血中熱甚であり,気血壅滞によって生じる。

刺是指舌乳頭高起突起舌面,形成小芒刺,為邪熱亢盛所致。ci4 shi4 zhi3 she2 ru3 tou2 gao1 qi3 tu1 qi3 she2 mian4,xing2 cheng2 xiao3 mang2 ci4,wei2 xie2 re4 kang4 sheng4 suo3 zhi4。
刺とは,舌面から舌乳頭の突起が出て,小芒刺がみられるものを指しており,邪熱亢盛によって生じる。

(六)裂紋舌,舌面上出現深浅不一,深入肌層的裂溝。lie4 wen2 she2,she2 mian4 shang4 chu1 xian4 shen1 qian3 bu4 yi1,shen1 ru4 ji1 ceng2 de lie4 gou1。
(六)裂紋舌とは,舌の表面上に深さの違いが現れ,肌層に裂溝ができて深く入り込んだものを指す。

裂紋舌均因陰血虧損,不能栄潤舌体所致。lie4 wen2 she2 jun1 yin1 yin1 xue4 kui1 sun3,bu4 neng2 rong2 run4 she2 ti3 suo3 zhi4。
裂紋舌は,すべて陰血が虧損失し,舌体を栄潤することができないために生じる。

紅絳舌有裂紋,多為熱盛傷津;淡白舌有裂紋,多為血虚不潤;舌淡白胖嫩,辺有歯痕又有裂紋,多為脾虚湿困。
hong2 jiang4 she2 you3 lie4 wen2,duo1 wei2re4 sheng4 shang1 jin1;dan4 bai2 she2 you3 lie4 wen2,duo1 wei2 xue4 xu1 bu4 run4;she2 dan4 bai2 pang4 nen4,bian1 you3 chi3 hen2 you4 you3 lie4 wen2,duo1 wei2 pi2 xu1 shi1 kun4。
深紅色の裂紋舌は,多くが熱盛傷津によるものであり;淡白色の裂紋舌は,多くが血虚不潤によるものであり;舌が淡白色で胖嫩であり,辺縁に歯痕があれば,多くは脾虚湿困によるものである。

(七)歯痕舌,由於舌体胖大,与牙歯相擠圧,在舌体両辺形成的荷葉辺樣牙印。chi3 hen2 she2,you2 yu2 she2 ti3 pang4 da4,yu3 ya2 chi3 xiang1 ji3 ya1,zai4 she2 ti3 liang3 bian1 xing2 cheng2 de he2 ye4 bian1 yang4 ya2 yin4。
(七)歯痕舌とは,舌体が胖大であるため,歯に押されて,舌体の両辺に荷葉のような形の歯形が形成されるものを指す。

歯痕舌主脾虚或湿盛。chi3 hen2 she2 zhu3 pi2 xu1 huo4 shi1 sheng4。
歯痕舌は,脾虚あるいは湿盛を主る。

2005年10月21日

夏桂成先生の『中医婦人科理論与実践』

2376de4e.jpg写真は,先日亜東書店で購入してきた夏桂成主編『中医婦科理論与実践』(人民衛生出版社)という本の表紙です。
先生の婦人科理論がまとめられた,600ページほどある大きな本です。
まだ中身を読めていないのですが,序文のところにこの本がどんな本なのかということが書かれていました。
ご参考までに,本書の序文を引用します。



夏桂成主編『中医婦科理論与実践』 序文 

 中医婦人科学の発展においては,伝統的な基礎をしっかりと継承しながらも,新しいものを創造すること,つまり深い理論をもちながらも,あわせてそれを突き破りつつ,専門科としての系統的理論の特徴が形作られてきた。そして,現代婦人科学の新しい知見や手法を取り入れて,中医婦人科学を発展させることも必要とされるようになっている。臨床においては,絶えず経験を総合し,「経・帯・胎・産」の各病証の診断治療法則,特に病証の進展の縦向法則を導き出すことが重要である。
 私は中医産婦人科医として,医療・教育・研究に従事して約50年になるが,理論と実践についてともに深く論述した産婦人科の書を完成させたいと常に思ってきた。この本には私の理論探求と臨床実践がすべて反映されている。
 本書は上篇・下篇・附篇に分かれている。上篇の10章は理論篇であり,私が長年にわたり主張してきた「月経周期と調周期方」を論じている。この理論は,私が中医婦人科理論を研究するなかで総括してきたものであり,いまだ完成されたものではない。私たちの考え方は,次の通りである。腎(天癸を含む)−心(脳を含む)−子宮(衝任を含む)の生殖系統のコントロールによって,陰陽が消長転化し,それによって月経周期が調節される。したがって生殖のリズムと,天・地・人の間における陰陽の消長転化の法則とは関わり合いをもっており,共通性が存在する。また,女性一人一人の遺伝・生活・居住地・気候・人種などの違いを細かく観察すれば,その変化法則の違いについても理解することができる。共通性と特殊性,マクロとミクロ,整体と局所,外部と内部などといった,月経の周期の複雑性を生成する要因について,私たちは長期にわたって深く観察した。その際に,月経周期を行経期・経後期・経間排卵期・経前期の四期に分けた。さらに,古人のいう経前期にあたる経前後半期を設ければ,五期に分けられる。そして生理・病理・診断治療の三方面から,これらの周期について全面的な論述を行った。同時に,「7,3,5」の奇数律の臨床応用の一章を設け,女性の生理・病理の特殊な法則について簡単に述べた。その後ろには,五行学説と運気学説の章を設け,疾病の予測と未病の予防に役立つようにした。
 下篇9章は,伝統的な「経・帯・胎・産・雑病」の順に論述している。婦人科という専門科の発展のなかでも,婦人雑病の概念は模糊としているため,そのうちの不妊症・生殖器官炎・女性生殖器腫瘤・外陰および陰道の疾患・乳房疾患などの各病証について,病因病理・診断と鑑別診断・弁証論治・臨床経験を簡単にまとめた。病因病理・弁証論治は臨床の実際と符合していなければ意味がないため,主たる証型の論述と弁証治療だけに限定し,その進展と弁証治療法則を明らかにした。臨床経験については,私たちの考え方に重点を置き,理論的特長・弁証論治の経験・臨床常用経験方・薬理分析・実験研究・現代医学的な関連知識について述べ,中西医薬結合治療の方法と薬物についても,これまでの経験と当代の学者の優れた理論と弁証論治の新手法を紹介した。病証は臨床でよくみられるものを前提とし,伝統的な病証ももちろん含めた。また,帯下過少や母子血液型不適合・妊娠身痒・卵巣過度刺激総合症などの新しい病症も含めた。総じて,理論を実際の臨床に関連付けて,実践によって理論を発展させ,私たちの理論が特徴づけられ効果をあげてきた。
 附篇の2章のうちの1章は,私たちが探求して近年に作り出した,臨床常用経験方27首であり,3つに分類される。1つは,古方の新しい運用法,2つ目は新しい病症に用いるために作り出した処方,3つ目はすでにある経験法の加減方である。もう一方の章は,臨床病案分析である。どの症例も精選したもので,すべてに病歴・診断治療の経過・病案分析・考察を紹介している。

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