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中医学をマスターする5つのステップ

【書評】 『針灸治療大全』

『針灸治療大全』

浅川 要先生(東京中医鍼灸センター)


■開業鍼灸師にとって必携の一書

 張文進ほか編著『針灸治療大全』(原書は『五百病症針灸弁証論治験方』,日本語版は東洋学術出版社刊)がようやく邦訳されて,私の手元にも送られてきた。原書自体が分厚いものであったので,邦訳書もB5判750頁余りの大分の書となった。この翻訳に携わった6人の方がたがどれほどのご苦労をされたのか,容易に想像できることである。
 原書を2000年代初頭に購入したとき,まず,その針灸治療対象の多さに目を見張った。原文では五百病症といっているが,実際には548病症である。そして,その一つひとつにそれぞれ「病因病機」「弁証」「処方・手技」「処方解説」「治療効果」「症例」が書かれ,一部の病症に対しては,さらに「注釈」が付記されているのである。
 これだけ数多くの病症の記載がありながら,そのすべてに「症例」が提示されているのである。これは,原著者らが自らこれら数多くの病症を実際に手がけ,針灸の治療成果が認められたことを意味している。
 私が鍼灸学校に在籍していた1970年代初頭,日本では針灸治療で効果の上がる疾患は腰痛・肩こりなど数疾患とされていた。その後,世界保健機構(WHO)で100近くの病症への針灸効果が認められ,また,近年,中国から出される種々の「鍼灸治療学書」でも100~200あたりの病症が針灸治療対象としてあげられている。それが本書では,それらに倍するような飛躍的数の病症を扱っているのである。
 原書を手にしたとき,私や治療スタッフの実際の治療に役立たせようと,同書をすぐに東京中医鍼灸センターの書架に置いた。
 私自身は多少なりとも中国語が読みこなせるので,治療でこまったことがあると,すぐ,この本に当たって確かめるなり,同書を参考にすることができたが,他のスタッフにとっては,中国語はいくら漢字表記といっても外国語であり,それを読み込むにはかなり難儀であり,勢い,あまり有効的に使われていたとは言い難かった。
 こうした状況は日本の鍼灸師全体に当てはまることであった。この宝の山を日本の鍼灸師が現場で活用するためには,やはり,日本語訳書が必須なのである。しかし,その実現のためには,有徳の出版社が,意欲的な人びとを集めてチームを作り,どんなに分厚くて翻訳困難なもので,たとえ何年かかろうとも,翻訳出版作業をやり抜く決意が必要なのである。
 私は原書を手にしたとき,すぐ東洋学術出版社にこの良書を推薦して,同書の日本語版を出す意義を語った。それが10年以上の歳月を経て,ようやく今日,出版まで漕ぎ着けたのだから,うれしい限りである。
 集団で中医鍼灸治療を実践し,その成果を共有することで,中医鍼灸の優位性を検証していくことを目的に創られた私たちの「東京中医鍼灸センター」は,すでに今年,11年目に入った。ある程度,長く続いてきて,次第に信用もできてきたせいかも知れないが,それこそ全科目のありとあらゆる症状の方がたが来られるようになってきた。しかもその多くの方は,散々,病院での検査や治療を受けられて,なおその症状に改善をみないのである。
 現代医学とはまったく違う中国医学の切り口で人体を診たとき,ときとしては,その発症原因が特定でき,また,その鍼灸治療の方法も浮かび上がってくることがある。そうしたときに私がおおいに参考にさせてもらっているのが,本書の原書であったが,今後は日本の鍼灸師は誰でも本書をベッドサイドに置いて,治療に携わることができるのである。
 本書の内容があまりに膨大しすぎて,それを紹介するのはいささか無理なので,「第3章 婦人科病症」から1例をあげて,本書に対する推薦の辞としよう。
 最近,私たちの東京中医鍼灸センターでもときどき,不妊症の方が訪れてくるようになった。その大多数の方は,不妊クリニックでホルモン治療・人工授精・体外受精などといったさまざまな不妊治療を受けている方がたである。何年,不妊クリニックに通っても,人によっては1度も着床すらしないということで,さすがに漫然と不妊治療を受けるだけでなく,自分なりにネットで調べるなどして,鍼灸を併用しようと思い立つ人が多くなってきたのであろう。
 このような人の場合,四診による確かな弁証が必要であることはいうまでもないことである。
 不妊症に関しては,多くの中医針灸書がそうした観点から,病因病機や弁証,配穴処方などを掲げているので,本書だけでなく,諸書を参考に治療に当たることができる。
 しかし,もっと奇異な症状,例えば,実際に2例扱ったむちうちによる「陰部の異常感覚」などになってくると,参考とすべき本が見当たらない。四診による弁証は出せるものの,その症状を具体的に抑える標治法が浮かばないのだ。
 このようなとき,本書を引いてみると,「陰縦」の項などに参考とすべき内容をみつけることができる。
 本書では,「第3章 婦人科病症」だけでも,細かく「第1節 月経期の病症」「第2節 帯下および類帯下の病症」「第3節 妊娠中の病症」「第4節 分娩時および分娩後の病症」「第5節 乳房および乳房関連の病症」「第6節 外陰部の病症」「第7節 婦人科のその他の病症」と章を分け,それぞれに数種類から50数種類の病症をあげ,「病因病機」から始まる一連の弁証論治過程を記載しているのである。
 一般に日本の鍼灸師は,臨床各科の種々雑多な症状を日々,扱ってきている。
 本書は私たちのような開業鍼灸師にとって,やはり,必携の一書ではないだろうか。

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