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中医学をマスターする5つのステップ

【書評】『新版・高齢者のための漢方診療』

『新版・高齢者のための漢方診療』


記念すべき名著に,伝統医学の息吹が宿ってリニューアル

熊本赤十字病院 総合内科  加島 雅之


 この本の旧版を手にした時に,感動を覚えたことを今でも忘れはしない。
 “高齢者のための”と書かれているが,基本的な漢方の要点を抑え,高齢者医療において頻度が高く,かつ特に臨床上問題になるトピックスを小気味よい文体で解説してある。しかも,その解説もエビデンスを引用し,自らの経験を踏まえた実践的で分かりやすい内容になっていた。
 漢方テキストの問題点は,引用が極端に少ないことである。それは,学問は,どこまでが先人の発見または周知の事実であり,どこからが新たに発見された,学問を前に進めた内容であるのか,また独創的な内容であるのかを示していくことで成り立っている。これは,漢方の世界でも当然の営みで,江戸時代までの古典では,日中韓のいずれの国でも先人の説の引用という形で行われてきた。しかし,近年の日本の漢方テキストでは,ほとんど引用がなされていない。
 筆者は,名門東北大学で漢方で初めて博士号を得て,漢方内科の設立に尽力し,漢方の学問化を強く主張してきた人物である。学問の体裁は如何にあるべきかといえば,そのための独自の用語の定義と論理の組み立てである内的妥当性と,その論理の検証を行うための外的妥当性が必要である。筆者は,内的妥当性の用語と論理を主に中医学に見出し,外的妥当性としての方法論として臨床疫学を採用し,今では世界に確固たるエビデンスを誇る漢方薬となった抑肝散のランダム化比較試験を最初に行った世界の第一人者である。そうした強い思いの表れが結実したテキストであった。
 一方で,筆者は老年医学を専攻し,実臨床に従事してきた一線の臨床家でもある。その経験から現在の老年医学の実践のなかで,現代医学がなかなか対応できない難しい局面に,漢方薬を応用して対応する豊富な経験と,簡潔なポイントで使用できる方法論を数多く開発してきた,素晴らしい臨床力がある。それを余すことなく開陳している。
 上記のような内容であれば,さぞ難しい固い本と諸兄姉は危惧されるかもしれない。筆者は,古今の文学や芸術を嗜むのみならず,語学も文章を理解するにとどまらず,原始仏教の仏典を読み解き,ロシア文学を原書で読み,タイ語も理解する恐ろしいほどの知識人であり,その文学的才能も極めて秀でている。真に知識のある人物は如何に難しい内容も事も無げに簡潔明解に書いてしまえるのである。さらに,洒脱で小気味よく平易な口語調で,ユーモアと,ところどころアイロニーのスパイスを効かせた文章で一気に読み切ることができるし,そうなるようにエッセンスを絞った紙幅にまとめ上げている。
 と,素晴らしい限りであった旧版に一つだけ,足りなかったことがある。伝統医学的な診断や解釈に関しての部分があまりにも少なかった。今回は,中医学概念による診断もポイントを絞って加えて,漢方を専門としている人や,漢方理論を学びたい人にもその欲求をある程度満足させ,さらに応用と学習の広がりを感じさせる内容となっている。さらに,筆者自身のご両親との関係,母上の終末期の経験を踏まえて,深い老年医学の境地を解説されている。老年医療に携わる医療者,老年期の肉親を持つ人なら感慨を抱くとともに,超えられない生・病・老・死の問題への対応のヒントを得られるのではないだろうか?
 まさに名著が,新たな息吹を宿して再生した。
 早速,中国版の翻訳が決まったそうで,まさに世界的に名著になったわけである。中国も日本以上のスピードで急速な高齢化が進んでいる。彼の国も本書のような本を渇望していたのであろう。そして,この本の在り方が,本場であり,人的にも,資金的にも,組織的にも勝っている大国に,互することができる漢方とは何かを示している。




中医臨床 通巻173号(Vol.44-No.2)特集/コモンディジーズの中医治療 ―冷え症―
『中医臨床』通巻173号(Vol.44-No.2)より転載



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