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2016年06月 アーカイブ

2016年06月01日

『臨床家のための中医腫瘍学』 はじめに


はじめに


 私が中国の大学を卒業した1982年には,がんの入院患者は現在ほど多くありませんでしたが,病院で内科の臨床に従事しているうちに,患者数が徐々に増えてきました。内科病棟には抗がん剤治療を受ける患者や末期がんの入院患者が多くなり,生薬の煎じ薬や中成薬をよく使用するようになりました。また,大学を卒業した翌年,母が乳がんになったことをきっかけとして,がん治療に取り組み始めました。
 1996年に来日してからの9年間は,日本医科大学で肺がんの研究に携わり,動物実験や分子生物学の研究を通じて,がんに対する認識を深めてきました。
 国立がんセンターがん対策情報センターの推計によると,日本人が一生涯のうちに何らかのがんになる割合は,男性で49%,女性で37%とされています。つまり「日本人男性の2人に1人,女性の3人に1人ががんになる」と言うことができます。科学の進歩により,がんの研究も進み,早期発見と治療に関してはさまざまな成果が上げられています。しかし,がんの発症原因については未解明の部分が多く,病因に沿った治療はできません。また,現在の標準的治療法である手術・放射線・抗がん剤による治療では,多くの患者が完治できないのが現状です。手術できる範囲は限られており,放射線や抗がん剤には副作用の問題もあります。ですから,がんに対しては,総合的な治療が必要になってきます。
 中国では,伝統医学における先人たちの経験と智恵をがんに対する補完医療の1つとして,広く用いています。ただ,先人のがんに関する経験は各古典医籍に分散して記録されており,がんのみを扱った古典医籍はありませんでした。しかし,この30年,中国各地の病院に中医腫瘍科が次々と設立され,基礎研究や臨床研究が盛んになり,中医腫瘍学が体系化される時代となってきています。その成果は,中国国内だけでなく海外の専門誌でも発表され,教科書や専門書も多く出版されています。
 私は,日本の各地で中医腫瘍学や中医内科学の講義をしてきましたが,その講義原稿が徐々に増えたので,今回それを入門者向けに本書としてまとめました。私自身の臨床・研究・教育の経験を整理し,さらに古典や関連の最新文献も参考にしながら,初学者が中医腫瘍学の全体を理解しやすいように工夫したつもりです。
 現在,中国と日本では,医療制度の違いにより,がんに使用できる漢方薬の種類も異なりますが,本書では中国における中医腫瘍学の歴史と現状を紹介しました。
 日本語の語学力不足のために,理解しにくい点も多々あるかと思いますが,いくらかでも読者の参考に供することができれば幸甚です。
 本書の出版にあたり,日本語の記述についてご指導いただき,編集にお骨折りいただいた東洋学術出版社の井ノ上匠社長と編集担当の麻生修子氏にこの場をお借りして厚くお礼申し上げます。


2016年 春   鄒 大同

『臨床家のための中医腫瘍学』 凡例


凡 例


1.本書は著者の臨床経験・研究内容・講義資料を整理し,専門誌や関連書籍などを参考にしながら作成した中医腫瘍学の入門書である。

2.総論では,中医腫瘍学の歴史・病因病機・中医学的診断と治療・西洋医学的治療の副作用対策・常用漢方薬・経方の運用・「癌毒」対策・食養生・未病と予防などについて検討した。

3.各論は,各種のがんに対する概念・関連する西洋医学の知識・中医弁証論治・養生・予防などで構成した。治療の項では常用中成薬・単味生薬・経験方・鍼灸療法・薬膳などについて述べた。

4.方剤の出典と組成は,該当頁の関連する内容の後に記述した。日本では原処方を加減しないで使う場合が多いため,方剤の加減はしていない。

5.中成薬については,中国で使用している名称とその使用量を記載した。主に,林洪生主編『腫瘤中成薬臨床応用手冊』(人民衛生出版社)を参考にした。

6.経験方については出典を明記し,中国で使用している薬用量を記載した。

7.各論部分の著名な老中医の医案については,老中医本人あるいはその直弟子が専門誌に発表した論文や著書の中から厳選し,説明を加えた。

8.病名別の証型分類と対応する方剤を「『同病異治』の主な方剤」として巻末にまとめた。

9.がんによく用いる方剤を「『異病同治』の主な方剤」として巻末にまとめた。


『金匱要略も読もう』 まえがき


まえがき


 この本は先に二〇〇八年に出した『傷寒論を読もう』の続篇あるいは姉妹篇のつもりで書いたものです。前書を出した直後から、続きの『金匱要略』の本を書かなくてはと思いながら、なかなか取りかかれずにいましたが、東京四ツ谷の主婦会館で毎月開いている漢方三考塾で毎回『金匱要略』の話をする機会に恵まれたので、そのための講義原稿としてこの本を書きました。
 一般的には、『金匱要略』と『傷寒論』は本来『傷寒雑病論』という一冊の書物であり、『傷寒論』は外感病を、『金匱要略』では内傷雑病を論じたとされています。
 『傷寒論』では、病は進展変化するという観点から捉えて経時的に観察し、五臓六腑・十二経脈の病気の所在を論じるときも、病が現在移動しつつある場所という視点から観ています。一方、『金匱要略』では体のどこからどのような病気が発生するかが主題で、病を俯瞰的に観察しています。『傷寒論』のほうは張仲景の原典の主旨が比較的よく伝承されているようで、太陽病から厥陰病に至る一本の流れに沿って読んで行けば何とか理解できましたが、『金匱要略』のほうは一条一条が独立して存在している感じでした。原典の伝承も不完全なようで、条文の構成も整っておらず、脱落や省略されたと思われる部分も多く、一読しても意味不明な箇所も少なくありません。条文をただ現代の言葉に置き換えてみても、意味不明な点はそのままで、単なる現代語訳は試みてもあまり意味がありません。
 結局、『金匱要略』に盛られた理論の内容は、『内経』(『素問』『霊枢』)および本草の知識を基礎に『傷寒論』で学習した成果を参考にしながら、自分で一条一条理解してゆく他はないようです。また大部分の条文はそれぞれ証候に対応する処方が述べられています。それらのなかには一見複雑な証候にみえても本治を行わせる条があるかと思えば、一方ではまず標治を先行させた後、本治に取り掛からせる場合もあります。また同病異治・異病同治の実例も随所に述べられており、読み進むうちに、単純ではない弁証論治の実際を教えられます。同書こそまさに『金匱要略』という書名がぴったりな臨床医学の貴重な経典であると、今さらながら痛感させられました。
 『傷寒論』も『金匱要略』も書かれてから二千年余も経っているので、多くの人びとがいろいろなことを今までに述べてきましたが、今回はそのことにはほとんど触れず、各条ごとに、自分が理解できて納得したことだけを書き連ねてみました。
 今回、本書が出版されるに当たっては、東洋学術出版社の井ノ上匠社長のお計らいと、編集を担当してくださった森由紀さん、原稿を校正してくださった漢方三考塾の須賀久美子さんに多大なご尽力をいただきましたことを心から感謝いたします。この本が少しでも皆様のお役に立ち、いつまでも可愛がっていただけるように願っています。


二〇一六年 立春の日 東京虎ノ門の寓居にて
髙山 宏世



『金匱要略も読もう』 凡例

凡 例


一.本書の内容
 本書はいまから『金匱要略』を学習しようとしている人はもちろん、『傷寒論』と『金匱要略』はあくまでも一体不可分のもので、両者は同時に学習すべきだと考えている人のご要望にも添えるように、前に出版した『傷寒論を読もう』(髙山宏世、東洋学術出版社、二〇〇八年)の続篇あるいは姉妹篇として、新たに執筆・編集したものである。
 内容は臓腑経絡先後病脈証第一より婦人雑病脈証并治第二十二まで、全二十二篇、四百三十八箇条である。 
 従来の参考書では後世の衍文として省略されがちであった条文や、附方も収録した。


二.原 典
 『金匱要略』の条文および番号は日本漢方協会学術部編『傷寒雑病論』(『傷寒論』『金匱要略』)三訂版(東洋学術出版社、二〇〇〇年)に拠った。
 各条文は『傷寒論を読もう』と同じ基準に従い、仮名混じりの読み下し文とし、読み方・句読点・段落などについては必ずしも従来の参考書のそれには捉われず、一読して意味が取りやすい平易な文章となるように心がけた。常用漢字がある漢字は常用漢字を用いた。
 なお、原典の明らかな誤りと思われる箇所については、『善本翻刻 傷寒論・金匱要略』(日本東洋医学会、二〇〇九年)を参考に適宜修正を加えた。


三.各篇の構成 
 各篇の冒頭に、その篇の内容を条文番号に従って短くまとめ、各条文に書かれている内容があらかじめわかるようにした。


四.使用漢字
 条文の読み下し文、および解説にはなるべく原典の文字を用いたが、読みやすさを考慮して常用漢字やよく馴染んだ漢字に改めた。


五.処方図解 
 『傷寒論を読もう』で図解に示した処方は除き、『金匱要略』のなかから繁用される五十処方を選び、処方の要点を一頁の図解にまとめ、挿入した。
 1、方意 その処方の性質・特徴あるいは主治する病態の病理機序などを
       要約した。
 2、方証 証候と同義で、その処方が用いられるべき症状・腹証・脈・舌の
       所見などを記した。
       適応証を鑑別するうえでのキーワードを「弁証の要点」として
       箇条書きにして示した。 
 3、方解 処方の君臣佐使と、現代に用いられている標準的分量や、
       構成生薬の性味や薬効などを記した。
 4、臨床応用 その処方が臨床の場でどのような状況や疾病で
          用いられるか、その一端をあげた。


六.各篇の総括  
 各篇の最後に、必ずしも条文番号の順には捉われず、その篇の内容を整理・要約して理解の便をはかった。

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