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▼書籍のご案内-序文

『医在厨房 医薬は台所にあり』はじめに

[ 食養・養生 ]

 
 
はじめに
 
 
 私は医学の道を50年以上も歩んできました。大学を卒業してから、医師、医学雑誌の編集者、漢方相談、講師など、中医学に関係するさまざまな仕事に携わり、20年前に中医学・薬膳学の教育に辿りつきました。
 中国での医師時代は毎日患者さんを診て、「体調はどうですか」「よくなりました」「あまり変わらない」などという会話ばかりしていました。その頃に治った患者さんの喜ぶ姿を見て、自分が他人の役に立ったことをうれしく思い、医者として「救死扶傷」の使命を達成したことに誇りを持ちました。しかし、その一方では、多くの患者さんは慢性病や加齢により各臓腑の機能が低下し、さまざまな病気が現れます。また、生活習慣病などは、症状がひどくなるにしても緩和するにしても、なかなか病院から離れることができません。そういうなかで、医者の仕事は責任が重く感じられ、あまり楽しいとは思えませんでした。
 日本に来て30年以上になり、その間、病院で患者さんの漢方相談に乗っていた時期があります。そのときに、一番多く受けた質問は、「私の病気には何を食べたらいいですか?」というものです。食事のことはみんな気にしているのだと思いました。
 20年前には、本草薬膳学院を創立しましたが、ある学生に入学の理由を尋ねた時、「残りの人生の41000回余りの食事をもっと自分の体に合うものにしたいから中医薬膳学を選びました」という答えが返ってきました。それを聞いたときに、とても感心し、わが身を振り返りました。私自身、毎日三食を食べていますが、自分の一生であと何回食事をするかということはまったく考えたこともなかったのです。すぐに残りの食事の回数を計算してみて、一食一食を大事にしなければいけないと、あらためて思いました。
 「民以食為天」(民衆は食をもって天となす)、「安身之本、必資于食」(安穏で健康的な人生の根本は食にある)というように、昔から「食」は個人の命や国の安定に最も関わっている事柄とされています。
 本草薬膳学院では、創立当初から、中医学にもとづく薬膳学の知識を食生活に取り入れて健康長寿を目指すこと、食から中医学の世界に入ることを教育目標としてきました。学院独自の教科書を作成したり、専門書を上梓したり、私自身もその都度学びを重ねてきました。さまざまな本をよく読み、新しい薬膳メニューや薬膳茶を考案しています。教壇に立って講義をするときには、そういう勉強の楽しさを学生に伝えるようにしています。みんなが自分の夢に向かって、目標を実現するために頑張っている姿を見ると、とても幸せな気持ちになり、薬膳を教える仕事を続けてきて本当によかったと思います。
 このたび、本草薬膳学院創立20周年の記念として本書を出版することになりました。この本の内容は、2004年から2011年まで、雑誌『伝統医学』と『漢方と診療』(株式会社臨床情報センター)に連載した「医在厨房」が元になっています。連載時には誌面の関係で書き切れなかったことを大幅に加筆しました。食と医学に関心のある方には、より役立てていただける内容になったと思います。
 何千年もの時の流れの中で、食が発展し、医学も進歩してきました。この本を読んだ皆様がそういう世界に触れて、ご自分の食生活を見直したり、楽しんだりしてくだされば幸いです。
 最後に、書籍化を快諾してくださった東洋学術出版社の井ノ上匠社長や、編集・制作をしてくださった同社の方々に御礼を申し上げます。


二〇二二年七月吉日
辰巳 洋



『中国医学の身体論――古典から紐解く形体』凡例

[ 中医学 ][ 鍼灸 ]

 
 
凡例
 
 
1.「第Ⅰ部 臓腑」の各論「五臓」の記述順は,五臓の位置の高低に従った。したがって「肺,心,肝,脾,腎」の順になっている。
2.「第Ⅰ部 臓腑」の各論「六腑」の記述は,『素問』五蔵別論篇にもとづき「胃,大腸,小腸,三焦,膀胱」の順とし,五蔵別論篇に記載されていない「胆」を最後とした。
3.「第Ⅰ部 臓腑」の各論「奇恒の腑」の記述順は,『素問』五蔵別論篇の「脳,髄,骨,脈,胆,女子胞」にもとづくが,「胆」は六腑で扱っているので,「奇恒の腑」では省略してある。
4.総論や各論のすべての末尾に「参考資料」として,中国医学古典からの引用文を付けた。
5.「参考資料」の引用文は,原文・書き下し文・現代語訳・一部語句に対する語釈からなる。
6.引用文の文末に,引用文の書名・引用した章篇を( )の中に記した。
7.「参考資料」の『素問』原文は,明・顧従徳本(底本は日本経絡学会影印本1992年版)を使用した。
8.「参考資料」の『霊枢』原文は,『霊枢』明・無名氏本(底本は日本経絡学会影印本1992年版)を使用した。
9.「参考資料」の『難経』原文は,江戸時代の多紀元胤著『黄帝八十一難経疏証』(底本は国立国会図書館所蔵139函65号)からのものを使用した。
10.「参考資料」として引用した『素問』『霊枢』『難経』以外の中国医学書の漢字表記は,常用漢字にない一部の漢字を除き,常用漢字を用いた。
11.『素問』『霊枢』『難経』の書き下し文は,東洋学術出版社刊『現代語訳◉黄帝内経素問』『現代語訳◉黄帝内経霊枢』『難経解説』におおむね準拠したが,個人的判断で一部を変えている。
12.『素問』『霊枢』『難経』以外の引用文献の書き下し文は,筆者の判断に照らして付した個人的なものである。
13.『素問』『霊枢』からの引用文の現代語訳では,『素問白話解』(山東省中医研究所研究班
篇,1963年刊)と『霊枢白話解』(陳璧琉・鄭卓人 合編,人民衛生出版社1962年刊)の中国語現代語訳をかなり踏まえている。
14.総論や各論の「参考資料」で,一部同じ引用文を使った部分があるが,総論や各論を説明するうえで必要と考え,同一の文章を引用している。
15.「参考資料」として引用した古典の語句に対する語釈などを,「語釈一覧」として本書の巻末に掲載した。配列は音読五十音順である。
16.「参考資料」として引用した文献の「引用文献目録」を,本書の巻末に掲載し,書名・書名の読み方・王朝名・西暦の刊行年・著者名・著者名の読み方を付した。配列は発行年代の古い順である。
 

『中国医学の身体論――古典から紐解く形体』まえがき

[ 中医学 ][ 鍼灸 ]

 
 
まえがき
 
 
 鍼灸師が実際の治療において遭遇するのは,それこそ頭のてっぺんから足の先までの各組織・器官の無数の症状である。それらの症状のほとんどは,さまざまな現代医学的治療が効を奏さず,鍼灸治療までたどり着いたものである。筆者自身も長い鍼灸治療の経験のなかで,数多くの症状と向き合ってきた。たとえば,毎日同じ時刻になると起こる頭皮痛,声帯には異常がないのに裏声になって会話ができない,足の爪は大丈夫なのだが手の爪だけがどれも数週間の間に爪床から剝がれてくる,何年も続くしゃっくりなどなど,例を挙げればそれこそ枚挙に暇がないほどである。
 こうした経験は鍼灸治療に携わる鍼灸師ならば多かれ少なかれ誰でももっているものである。
 どのような症状の場合も,当然,四診合参による弁証診断を行い,臓腑・気血・経絡の変動をとらえてその治療を本治とするのだが,「標本同治」の原則に立つならば,同時に各組織器官の側から症状を把握することも必要なのではないだろうか?
 たとえば,「よく物が見えない」「目がかすむ」といった眼の「目内障」の症状を扱う場合,「肝は目に開竅している」から肝の病変ととらえるのは,いささか乱暴すぎる。眼は目系を介して脳と繋がり,目系には肝経・心経・胃経が流注しているので,物がよく見えるためには,腎精から変化した髄が脳に充分に蓄えられ,また肝血・心血・胃気がおのおのの経脈を通して目系に滞りなく注がれていることが必須だからである。したがって「目内障」の場合,腎・肝・心・胃もしくはそれらの臓腑に内属している各経脈の,いずれかの臓腑もしくは何経に変動があるのかを分析しなければ,治療は成り立たない。
 結論として,各組織・器官はどのような経絡が流注し,経絡を通じてどの臓腑と関係が深いのかを各組織・器官の側からとらえる視点が必要である。
 ところが,日本で出版されている既存の中国医学書や東洋医学書のほとんどは,一般的に陰陽五行説から始まり,五臓六腑を中心に身体論を展開し,「五官」「五主」「五華」といった身体の諸組織・器官を「肝は五官では目,五主では筋,五華では爪」といった五臓六腑との関連で説明するだけであり,まして,それ以外の咽喉・前後陰・乳房など全身のさまざまな組織・器官に対してはほとんど触れることもない。これでは筆者を含め鍼灸の現場での必要性を十分に満たすことはできない。
 本書のベースになっているのは,東京医療福祉専門学校 教員養成科での筆者の授業である。これまで毎年,養成科1年生に対し,1年間をかけて「中国医学の身体論」の授業を続けてきた。鍼灸師の国家試験に向け各鍼灸学校の「東洋医学概論」が陰陽五行論でこま切れにした身体の棒暗記に終始する現状では,鍼灸師になっても中国医学にもとづいた総体的身体認識がまったくできていない。そこで教員養成科では,改めて「中国医学の身体論」を学び直してもらっている。
 本書はその授業で毎回配布してきた膨大な資料から,「気血学説」「経絡学説」「精神論」を省き,その代わりに中国医学の古典にもとづいた諸組織・器官を数多く盛り込み,引用した古典に対してはすべて現代語訳を付けた。
 本書が鍼灸の治療現場で中国医学の立場から日々治療に携わる鍼灸師・医師の方々に,いささかでも益するものがあるならば執筆の労は報われるであろう。


2021年11月
浅川 要



『上海清零 ~上海ゼロコロナ大作戦~』はじめに

[ 中医学 ]

 
 
はじめに
 
 
 2020年春の上海。新型コロナウイルス感染症の感染拡大で,活気のあった上海の街もひっそりとものの見事に静まりかえりました。私も勤務先の病院が当局の要請で閉鎖してしまい診療活動が行えず,子どもの学校も長らく休校になりました。われわれの日常生活がほんの一瞬のうちにすべて変わってしまいました。1996年から上海に暮らしている私にとっても,毎日衝撃的な体験ばかりです。その間,どこにも行くことができないので,書斎にこもって,『中医養生のすすめ~病院にかかる前に~』(東洋学術出版社)を完成させました。
 
 あれから約1年経ちました。この間,中国に暮らすわれわれの「すぐに収束できるだろう」という期待に反して,新型コロナウイルス感染症が欧米をはじめとする西側先進諸国にものすごい勢いで蔓延し,しかもより強力な変異株まで次々と登場し,多くの方が命を落としました。日本でも緊急事態宣言が発せられ,一部では医療が逼迫する事態にもなりました。一方,上海での生活は2020年春以降,新規市中感染者が減少するとともに徐々に正常化し,2020年夏頃にはすっかりコロナ禍前とほぼ変わらない日常生活をおくれるようになりました。もちろん,海外からの帰国者に対しては厳しい3週間の隔離が継続され,自由な往来が制限されますが,中国国内では大きなイベントも再開され,飲食店も賑わっています。国内の旅行も再開されました。われわれ中国在住の日本人は,こうした防疫体制の変化を毎日の日常生活を通じて自ら体験してきました。
 日本の隣国である中国のコロナ対策の仕組みは,日本では一部マスメディアによって断片的に紹介されています。中国は厳しく感染者ゼロを目指して「ゼロコロナ対策」をやっていると報道されていますが,実はその全貌はほとんど知られていません。中国でも毎日海外輸入例から感染者が発生し,たまに市中感染者も発生していますが,死者がほとんど出ていないこと,ましてや隔離やワクチン接種だけでなく,中国伝統医学(中医学)を使った対策が行われていることも日本ではほとんど知られていません。
 中国は歴史的に常に感染症と闘ってきました。たとえば,中医学や日本の漢方医学を勉強すると必ず読む『傷寒雑病論』(『傷寒論』)の作者である張仲景(150?-219)一族は,200人以上の大所帯であったそうですが,建安元年(196年)以降の10年間で3分の2が死亡し,そのうち7割は「傷寒」(急性感染性疾患)による病死でした。張仲景はこの疾患で突然に亡くなった人たちを救ってあげられなかったことを悔やみ,『傷寒雑病論』を書くことを決心したと序文に記しています。2千年近く経った現代でも使われている,日本人には馴染み深い「葛根湯」や「小青竜湯」も,実はこの『傷寒雑病論』が出典で,新型コロナウイルス感染症対策で開発された清肺排毒湯をはじめとする数々の処方も,この『傷寒雑病論』の処方の影響を強く受けています。
 
 本書のタイトルの「上海清零」とは,上海市内で市中感染者がゼロになり,市全域で低リスクエリアとなって,入院患者もすべて退院し,いわゆるゼロコロナの状態が達成されたことを意味します。中国では感染者が発生したとき,常に新規感染者をゼロにするまで徹底的にPCR検査を行って隔離していくことを実行していき,ゼロが達成できたとき,「清零」と呼びます。メディアなどでこの「清零」が発表されると,これでまた日常生活に戻れる,と思えて嬉しくなります。最近では,中国各地で感染者が稀に発生しても1カ月ぐらいで「清零」が達成できることをわれわれ一般市民も実感できるようになってきました。
 世界各国が,それぞれのやり方で新型コロナ対策を行ってきています。本書では,そんななかで中国がどういった対策を行い,上海在住のわれわれ日本人がその中でどう暮らしてきたか,そして中医学がいかに活用されてきたかについて,中国で暮らしている日本人の視点から紹介しようと考えました。
 もちろん人口が14億人,日本の約25倍の国土をもつ中国のやり方を真似る必要はまったくありません。政治体制も,文化も,民族もすべてが違います。しかし,中国のやり方を知ることで,われわれの防疫対策に何らかのヒントが得られることもまた事実です。そして,本書を通じて日々変わりゆく中国の新しい一面を理解していただければ本望です。


2021年11月 上海浦東の自宅にて



『長沢道寿 漢方処方の奥義 ~現代語訳『医方口訣集』~』凡例

[ 古典 ]

 
 
凡 例
 
 
一.本書は,長沢道寿編集,中山三柳新増の『新増愚案口訣集』三巻(1672年刊)の千福流現代語訳である。
二.底本は,京都大学貴重資料デジタルアーカイブ(https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/)収載の『新増愚案口訣集』(京都大学附属図書館所蔵)を使用した。
三.『医方口訣集』の原著は,長沢道寿(?~1637)『古方愚案口訣集』一巻(刊年不明)で,これを弟子の中山三柳(1614-1684)が増補し『新増愚案口訣集』三巻(1672年刊)となり,さらに北山友松子(?-1701)が補注し『増広医方口訣集』三巻(1681年刊)となった。
四.本書では,『新増愚案口訣集』に収載された全164処方のうち,保険収載エキス製剤かそれに近似する処方,あるいは併用で再現できる現在の日本で応用可能な処方を中心に60処方を収載している。
五.巻頭に『医方口訣集』を読解するために便利と思われる基礎知識をまとめた。
六.各処方の解説中,罫線で囲んだ「効能と証」(出典,効能又は効果,証に関わる情報)および組成は,株式会社ツムラ発行の手帳『ツムラ医療用漢方製剤』を参考にした。〔 〕の数字は製品番号を示す。
七.巻末の附録に,原著(『新増愚案口訣集』)収載の処方の一覧および医療用漢方製剤の一覧を附した。
 
 

『長沢道寿 漢方処方の奥義 ~現代語訳『医方口訣集』~』はじめに

[ 古典 ]

 
 
はじめに
 
 
 本書は『医方口訣集』(1672年刊)の千福流の現代語訳です。この口訣集には全部で164の処方解説があります。しかし,下巻の丸剤処方の部になると,工夫を凝らして併用などしてもエキス剤で作成できないものばかりで,この本では,これらの処方は思い切って割愛しました。つまり,保険収載エキス製剤か,それに近似する方剤か,あるいは,併用で簡単に作成可能な処方のみを抜粋しています。ただし,長沢道寿(?-1637)は本書の流れによって漢方概念を解説しようとしている部分もあるので,そこの処方は使用不能であっても掲載しました。
 道寿は日本漢方の歴史で考えると,後世(方)派に属します。すなわち,宋・金元・明代の処方を重視しているグループになります。書物では『和剤局方』(宋政府官製),『脾胃論』『内外傷弁惑論』(李東垣〈1180-1251〉),『格致余論』(朱丹渓〈1281-1358〉),『万病回春』(龔廷賢〈16-17世紀〉),『保嬰撮要』(薛鎧・薛己〈1486?-1558〉),『医方考』(呉崑〈1551-1620?〉)などが重視されます。
 ところで,現在の書店にある医学書コーナーには『傷寒論』『金匱要略』,すなわち,日本漢方の歴史上の分類によれば「古方」に関する書籍は多く見られますが,上記した「後世方」の原書・解説書はほとんど目にしません。一方,第3回NDBオープンデータ H28年度レセプト情報による「漢方製剤の医薬品処方量ランキング(エキス顆粒)」を参考にすると,そのベスト10は,1位から大建中湯(古),芍薬甘草湯(古),抑肝散(後),葛根湯(古),牛車腎気丸(後),六君子湯(後),防風通聖散(後),当帰芍薬散(古),加味逍遙散(後),補中益気湯(後),(古:古方,後:後世方)となっており,10位内に後世方の6処方がランクインしています(https://p-rank.462d.com/520/)。つまり,多忙な医師は頻用6処方を含め,後世方のオフィシャル版の取扱説明書を読まずに,添付文書の効能・効果を唯一の頼りとする「病名漢方」で処方する状態なのです。西洋医学では基礎医学を踏まえて治療薬を選定するのが常道ですが,後世方においては,基礎医学に相当する古典が蔑ろにされているといえるでしょう。この状況下において,後世方の漢方薬に関して「基礎医学から臨床のtipsまで」を簡単に解説してくれている書物が渇望されます。それが『医方口訣集』なのです。
 ところで,道寿は後世方派なので古方を蔑ろにしているでしょうか? これは「否」です。本書を読めばすぐに理解されることですが,古方の著者である張仲景を尊敬し,彼の原典を引用して古方の解説も十分に加えています。この立脚点は,江戸時代後半に古方と後世方の長所を取り上げて治療する「折衷派」に近似しています。もし「古方・後世方の両者を活かして,流派を越えて人命を救う」というのが「折衷派の定義」であるならば,道寿は「折衷派の先駆け」ではないかと思っています。
 このような柔軟な頭脳を持つ道寿ですが,彼の能力はそれだけではありません。所々にユーモアたっぷりに漢方初学者を笑わせながら指導してくれる姿も見られます。読者が道寿のファンになること間違いなし,と思っています。
 なお,「割愛された処方についても読みたい」という意欲的な方は,『医方口訣集』の原書で読むことをお薦めします。原書は,「京都大学貴重資料アーカイブ」のWEBサイト(https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/)に入り,検索で書名を入力すると無料で閲覧可能です。このサイトは無料ダウンロードも可能で,しかも,講演スライドなどへの2次利用が可能となっています。
 漢方古典を直接読むことは手間ですが,読解できたときはクイズが解けたみたいで楽しいです。ぜひ,この原書で古典の読解練習をしてみてください。返り点や再読文字など,「漢文」の基本を復習したいときはYouTubeの漢文講座を利用すると便利です。予備校などの有名講師の授業は抜群です。しかも,受験生に戻ったような感じがして懐かしいです。最後に,高校漢文の学習項目にない重要なこととして,送りがなで,①「合字(ごうじ)」が頻用されること,②「寸」が「時(とき)」の略字であること,③「子」は「ネ」であることを頭に入れておいてください。
 
本書の使い方
 
 『医方口訣集』における漢方処方の収載順序は,(1)長沢道寿の好み,(2)読者の漢方医学学習を向上しやすくするための2要因で決められたものと想像します。したがって,時間的に余裕のある方は,最初の二陳湯から読み進めていくことをお薦めします。なお,一瞥すればわかりますが,2要因の影響で初めのほうに収載される薬方は説明が詳しく,しかも長文になっています。解説内容は引用した古典名著を道寿が十分に咀嚼してくれたものになっています。しかし,簡明に記載されているとはいえ,『黄帝内経』の『素問』(前漢時代)・金元四大家の学説などの引用が多く,漢方初学者にとっては読書スピードが落ちるものと考えます。
 千福は,最初は難解なところを飛ばして読めばよいと考えます。漢方医学は学習が進むと,文献学習に加えて臨床経験からも自然と意味がわかるようになるからです。しかし,解説文中の含蓄を早く知りたいと感じる初学者もいることでしょう。そのため,本書を読むときに便利と考える「読解のための基礎知識」を千福がまとめてみました。時々,このページを参考にして読んでみてください。なお,この「基礎知識」なるものを漢方中級者以上の方が読まれると,一笑に付されるかもしれません。千福の「方便」と思ってお許しください。


編訳者



『中国傷寒論講義』まえがき

[ 古典 ]

 
 
まえがき
 
 
 中国教育部と中国中医薬管理局は中医教育推進のため,基礎諸科目の講義(各科目は約50分の講義で計80回前後から成る)の映像教材を作成した。各教科には中国全土からその道の第一人者が選ばれ,『傷寒論』は北京中医薬大学の郝万山教授が担当された。
 映像教材が完成して数年後,映像教材をもとに,講義者自身の加筆訂正などを経て,『講稿』シリーズと命名されて人民衛生出版社から発刊された。
 この度出版される本書は,上記の『郝万山傷寒論講稿』(人民衛生出版社,2008年)をもとに,日本の読者向けに大幅に加筆したものだ。収録の条文には,すべて訓読と現代語訳を付けた(多くは『現代語訳・宋本傷寒論』(東洋学術出版社,2000年)から引用したが,解釈が異なる場合は,これを反映させた)。また,郝先生講義の上記映像資料からも,参考資料として多くを引用した(本文中では「ビデオ教材より」と明記)。その他にも,興味ある資料を多く追加した。
 
本書の特徴:
1.そもそも『傷寒論』は,『傷寒雑病論』として張仲景によって著されたが,その伝承の過程で『傷寒論』へと,その名前と内容とを変化させた。『傷寒論』中になぜ「雑病」の内容も含まれているのか,その理由を詳述している。
2.全56条から成る「厥陰病篇」には,もともと条文はわずか4条しかなかった。残りの52条文は,その後に続く「厥利嘔噦篇」の条文である。現行の『傷寒
論』では,この「厥利嘔噦篇」の篇名が脱落し,元来ここにあった条文は前の
「厥陰病篇」に移行・編入された。このことが,厥陰病を理解困難にしている一因だと指摘している。
3.王叔和が張仲景の「直弟子」である説が紹介されている。
4.成無己が注釈した「項背強(こわば)ること𠘧𠘧(しゅ しゅ)」の誤りを指摘・修正している。
5.「蒸蒸と発熱」,「翕翕と発熱」,「淅淅と悪寒」など,『傷寒論』中に頻用される「連綿詞」は「音」だけを使用しており,字義とは関係ないことを説明している。
6.「満」の字について,「腹満」はそのままでよいが,「胸満」は「胸悶」と読み換える必要があることを指摘している。
7.仲景は『傷寒論』の中で,「中風」と「傷寒」をそれほど厳密に区別して使用しているわけではない。同様に本書において郝先生も,「風邪」「寒邪」
「風寒の邪」の区別もそれほど厳密ではない。
8.当時,白虎加人参湯に配合された人参は,現在の人参とは別物であった。50年前に絶滅した山西省上党地区に産した「上党人参」が,当時の人参に近いと考えられる,とのこと。
9.「煩躁」と「躁煩」とは,病機・症状が異なることを説明している。
10.少陽病の「往来寒熱」の病機について「分争」の点から説明している。これに関しては,郝先生の師である劉渡舟教授の見解を継承しているが,別の解釈に至っている。また,少陽病に現れる発熱は,「経証」で出現する往来寒熱だけでなく,「腑証」の場合は持続的な発熱が現れることを説明している。さらに「少陽腑実証」の概念を提起している。
11.『傷寒論』の傷寒は6日,中風は7日で治癒するという記載にもとづき,これを発展させ,動物の体内時計の問題に言及している。
12.従来は「太陽と少陽の合病」とみなされている柴胡桂枝湯証に対し,郝先生は「太陽・少陽・太陰の同病」との自説を紹介している。
13.太陽病に消化器症状が伴う場合の病機,「太陽と陽明の合病で下利する」場合の病機について,明解な説明がある。
 
 以上,本書に述べられた,従来の『傷寒論』解説書には見られない話題のいくつかを列挙した。『傷寒論』学習者にとって,興味津々の見解を満載した本書は,きっと読者の知的好奇心を満たすものと確信する。


生島 忍



『針灸学[経穴篇](改訂版)』改訂版について

[ 鍼灸 ]

 
改訂版について
 
 今回の改訂ではおもに以下の2点の変更を加えた。
 
1.各論の各経穴にある[定位][取穴法]のうち,わが国の鍼灸師養成施設で用いられているテキスト(『新版 経絡経穴概論』[第2版]・医道の日本社刊)と大きく異なり,教育上問題になりそうな経穴を選び,*を付して日本の記載を追記した。
さらに,巻末に本書と日本の記載の違いを対照できるよう一覧表(付録2「日本の教科書と部位が異なる経穴一覧」,付録3「日本の教科書と取穴法が大きく異なる経穴一覧」)を付した。そのため,改訂版では旧版の付録2「日中経穴部位対照表」を割愛した。
 なお経穴の選別にあたっては,東京衛生学園専門学校の髙橋大希先生にご協力いただいた。
 
2.各論の各経穴の解説に[効能]の項目を新たに追加した。
 効能の出典は,天津中医学院編『腧穴学』(1983年刊)。経穴の効能の表記は中国でも定まっていないが,『腧穴学』は天津中医学院(現・天津中医薬大学)が編集したものであり,天津中医薬大学と学校法人衛生学園が共同で編纂した本書に付け加えても一貫性を保てるとして採用した。これによって,[定位][取穴法][効能][主治][作用機序][刺灸法][配穴例]が齟齬なく一貫したものになったと考える。
 
 その他,経穴名の漢字表記をWHO標準に合わせたほか,改訂作業中に見つかった誤字等を修正した。
 
 本書は,経穴の[主治]を,本経の循行部の病症や臓腑の病症等で分類して表記し,さらに経穴と主治との関係を理解するうえで役立つ[作用機序]を詳しく解説している点に大きな特徴がある。この点に関して旧版から変更はない。本書では,治療穴の選穴や配穴を自ら考える際に必要となる根拠を十分に提供しているので,大いに活用して欲しい。

(編集部)


 
 

『針灸学[経穴篇](改訂版)』本書を学ぶにあたって

[ 鍼灸 ]

 
本書を学ぶにあたって
  
1.本教材の位置づけ
 1987年3月に学校法人後藤学園と天津中医学院とが共同編集による針灸教材の開発や具体的な学術交流に関する協議書を交わしてから10年の歳月が過ぎた。その間,両校の執筆陣はこの教材開発計画にもとづき,1991年5月には日本における針灸のための東洋医学テキスト・シリーズ第1部として『針灸学』[基礎篇]を出版し,1993年10月には第2部として『針灸学』[臨床篇]を出版してきた。そして今日,第3部として『針灸学』[経穴篇]を世に出す運びとなった。この三部の教材は密接に関連させるよう配慮されたものである。
 この10年間で世界の医療情勢,教育環境も大きく変化してきている。近年,オーストラリア,イギリスでは大学における正規の中医学教育が正式に導入されている。アメリカの一部の州でも針灸学教育に中医学を正式導入している。また他の多くの国においても,いろいろな形で中医学の採用そして実践が,医療のなかで教育のなかで行われるようになっているのである。
 本教材シリーズは1994年に[基礎篇]英語版として『FUNDAMENTALS OF ACUPUNCTURE & MOXIBUSTION』が出版されており,1996年に[臨床篇]英語版として『CLINICAL ACUPUNCTURE & MOXIBUSTION』がそれぞれ天津科技翻訳出版公司から出版され世界に向けて発行されている。[経穴篇]英語版も今秋には出版される予定となっている。この教材シリーズが日本のみならず世界における中医学教育そして医療のために少しでも貢献できることを期待してやまない。
 また本教材シリーズは新しいスタイルの教材として中国でも高く評価されており,今秋には中国でも[基礎篇][臨床篇][経穴篇]を合冊にした中国語版が出版される予定となっている。1989年に両校で交わした学術交流協議書には,「しかるべき時期」に本教材シリーズの英語版と中国語版を両校で出版することが約束されているが,まさに今日,この「しかるべき時期」,すなわち中医学の国際化時代が到来したと言えるであろう。
 
2.本書の組み立て,内容,学習方法
 本書は[基礎篇]とともに日々の針灸臨床のために理論的根拠を提供するものである。[基礎篇]が東洋医学独自の哲学観,生理観,疾病観,診断論,治療論を提供しているのに対して,本書は針灸臨床で経穴を用いる場合,どのような考えにもとづいて治療穴を選穴するのか,その根拠を提供するものである。
 治療穴を決定するためには,経絡と臓腑との絡属関係,経絡と経絡の関係,経絡の循行と身体各部位との関係,経絡の主治法則,経絡と経穴との関係,経穴の主治法則・主治範囲,要穴の治療範囲などの一般法則をまず学習する必要がある。
 本書ではまず総論で経脈・絡脈・経別・経筋の循行,皮部の分布について述べた。これにより経絡と臓腑との関係,経絡と経絡の関係,経絡の循行と身体各部位との関係がわかるであろう。また経脈・絡脈・経筋の病候を提示したが,これにより『内径』時代の疾病観を理解することができる。
 経穴緒論においては経穴名称の分類について述べたが,これは経穴各論の経穴命名の[由来]を学習するときに参考にすることができる。経絡定位の方法は,取穴を行うときの基準となるものである。
 経絡の主治法則,経穴の主治法則を把握しておくと,経穴各論の[主治]を学習するときに大いに参考にすることができる。[主治]を学習するときは,各経穴の主治症を1つ1つ覚えるよりは,これら経絡・経穴の主治法則にもとづき,分類しながら把握したほうが実用的である。たとえば主治症のうち本経の循行部位の病症は,経絡の主治法則や分部主治法則を知っていれば,容易に把握することができるし,主治症のうちの臓腑の病症は経穴の主治法則,および臓腑と臓腑の諸関係などを知っていれば,これも比較的容易に把握することができる。
 また経穴の特殊作用については,各経絡の要穴を例とすると,これにも一定の法則があることがわかる。各経絡の井滎兪経合,原穴,絡穴,郄穴,募穴,背兪穴は,その所属する経絡と関連させてその作用を見ると, それぞれが所属する経絡上では要穴として特殊な作用をもち,それによる主治症があることがわかる。また原穴グループや郄穴グループとして見ると,原穴に共通する作用,郄穴に共通する作用といったものもあるわけである。これらの法則を意識しながら各経穴の主治症を見ていくと,各経穴の主治症がより理解しやすくなると思われる。さらに本書の特徴として,本書では経穴の[作用機序]を加えた。特に重要と思われる項目に対しては,経穴と主治症との関係が一定程度わかるように作用機序として提示している。
 [定位]と[取穴法]は,1990年6月7日に中国国家技術監督局が発布し,1991年1月1日から中国で実施されている中華人民共和国国家基準[経穴部位]に準拠している。なお日本と中国では,ある部位の骨度法の違いや,出典の違いなどにより取穴した部位が明らかに異なる経穴がある。それらについては対照表として巻末に付した。
 [刺灸法]では一般的な刺法と灸法を紹介した。臨床的にはいろいろな工夫が可能なので,あくまでも参考にしていただきたい。また[配穴例]については,古今の医書から代表的なものを引用して参考に付した。配穴例は処方として使えるものもあり,古今の経験を病症サイドから検索できるように巻末に別に索引を設けた。
 本書は『針灸学』[臨床篇]で紹介した各病証に対する処方例の方解と関連させながら学習すると,より効果的な学習ができる。選穴理由や配穴理由を自分で考えることにより臨床的な処方トレーニングも可能になると思われる。針灸治療に経穴を役立てるためには,各種針灸医書の取穴法の比較整理とともに,東洋医学的な角度からの経穴の認識,応用の仕方を学ぶことが今後いっそう重要になるであろう。本書を大いに活用していただきたい。
 

平成9年7月吉日
学校法人後藤学園中医学研究室長
兵頭 明


 
 

『針灸学[経穴篇](改訂版)』序にかえて

[ 鍼灸 ]

 
序にかえて
 
 臨床における,五感のフル活用による細心の患者観察の重要性については,これまでのシリーズ(『針灸学』[基礎篇](初版2版)と[臨床篇]の序文で度々指摘してきました。
 「経穴」とは,まさしくこのような先人による細心の患者観察の集積が基礎となり体系化されてきたものであろう。体の中の変化,それも器質的なものはもちろん,機能的変化をも投影していると思われる体表面の微妙な変化を的確に捉えた,その観察とひらめきの鋭さ,及びそれらを体系化した理論性には,ただ脱帽するものです。
 鍼灸治療の基本ともいうべき経穴に関する類書は沢山ありますが,この度の出版はこうした先人の経験に加えて,さらに現代中国における臨床成果の枠をも盛り込んだものです。また,前述の先行出版と同じく,日本の臨床現場で役に立つように,中国と日本が共同編集したものであり,いわゆる翻訳本とは違う読みやすさを持っています。
 ただ,生きている人間を対象とする「臨床」は,ダイナミックなものです。
 人間の生命・生存・健康を考える時,大切なことは,現象との遊離をした理論のための理論は必要ないということです。本書を教条的に使うことなく,常に,現象からのフィードバックと基礎理論との関連から,何故この経穴を使うのか? 何故この経穴に意味があるのか? という疑問を持ちつづけ,自ら考えるという医療人としての姿勢が大事かと思います。
 世界的規模で期待が広がっている鍼灸臨床の可能性を,さらに確実にするために,本書がお役に立てればこの上ない喜びです。大いに活用していただきたいと思うものです。
 

学校法人 後藤学園(東京・神奈川衛生学園専門学校)
学校長  後藤 修司



 

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