サイト内キーワード検索


お問い合せ

東洋学術出版社

〒272-0021
 千葉県市川市八幡
 2-16-15-405

販売部

  TEL:047-321-4428
  FAX:047-321-4429

編集部

  TEL:047-335-6780
  FAX:047-300-0565

  • HOME
  •  > 
  • 書籍のご案内 - 序文

▼書籍のご案内-序文

『漢方診療のための中医臨床講義』凡例

[ 中医学 ]

 
 
凡例
 
 
●各症例提示部において弁証の鍵となる四診情報にはアンダーラインを引いた。それ以外の文中でのアンダーラインでは重要箇所を示した。
 
●全文中,重要な中医学用語は太字で示した。
 
●本書はA 症例,B 重点小括,C 小講義の3つから構成される。
 
●A 症例は以下の順で示した。(症例により西医診断として現代医学の診断,および既往歴を併記した)
 1.POINT:症例を通じて学習するポイントを示した。
 2.患者:症例患者の基本属性を示した。個人が特定され得るような情報は除外した。
 3.主訴
 4.初診:初診の年をX年とし初診の日付を記した。
 5.現病歴
 6.理学所見:身長,体重,体温など四診所見以外の身体所見を記載した。
 7.検査所見:初診時に当院で行った検体検査,あるいは患者が持参した他院における直近の検査データを記した。
 8.四診:望聞問切の各所見をこの順序で記載した。持脈軽重法を用いた脈診は表の形で記した。
   注)持脈軽重法は『難経』の五難に記載のある切脈法で,各臓ごとの
   脈位(深度)を重視している。五難では“菽”という豆の重さで表現され
   ているが,“按之至骨,擧指來疾者,腎部也”との記載から,至骨を
   15菽としてこれを五等分した深度がそれぞれの臓の基準となる深度
   としこれを0で表記している。+は基準より浮側に,-は沈側に位置し,
   それぞれの臓の陰陽の偏位を反映すると解釈している。ただし,この
   +や-といった表記の仕方は筆者が普段カルテ記載に用いている
   ものであり一般に用いられているものではない。なお,症例を読む
   前に〈小講義4 切脈法と持脈軽重法〉を一読することを推奨する。
 9.弁証
 10.論拠:弁証の根拠を解説した。
 11.治法:症例の弁証に対応した治療方法の指針を示した。
 12.処方:医療用エキス製剤はメーカー間で異なる薬物や用量があることを鑑み,メーカー名を明示した。湯液を用いた症例で,基本骨格とした方剤がある場合はその名称を付記した。
 13.経過:治療経過を記載した。
   S:subjective(主観的情報),O:objective(客観的情報),
   A:assessment(評価),P:plan(計画・治療)
 14.解説:症例の病態や治療に関して解説した。
 
●B 重点小括
 各症例の病態,用薬などに関する重要なテーマを取り上げて解説した。
 
●C 小講義
 〈重点小括〉で取り上げなかったより一般的なテーマ,特に脈診に関連する項目を中心に解説した。



『漢方診療のための中医臨床講義』まえがき

[ 中医学 ]

 
 
まえがき
 
 
 中医学の知識と臨床の間には大きな谷間があります。基礎理論,診断学,中薬学,方剤学などの教科書で知識を習得しても,この谷間を越えない限り実臨床でなかなか患者を治せません。中国では中医薬大学を卒業後に中医師としての臨床研修を受ける場があり,上級医が谷の向こう側まで導いてくれます。残念ながら日本にはそのような場は数えるほどしかありません。苦労して一人で谷を越えなければならないのが中医学を志す日本の医師の実情です。谷を半分渡って引き返す人も少なくないことでしょう。
 知識と臨床の谷間は中医学に限ったことではありません。6年間医学部で学び身につけたたくさんの医学知識を持っていざ臨床の現場に出たとき,誰しもこの谷間の大きさを痛感するのです。筆者の学生時代,自治医科大学の第5,6学年時に各科の病棟実習と並行して臨床講義という授業がありました。臨床講義とはそれまでに学習した医学知識と臨床現場の橋渡しを目的としています。担当学生が入院患者を診察し病歴と所見をプリントにまとめてプレゼンテーションします。それをもとに聴講学生が診断と治療を考え,最後に担当教官が症例解説と小講義を行うというものでした。このような臨床講義を受けてきても,研修医として医療現場に出たときに感じた知識と臨床の谷間は非常に大きく感じられたものです。しかしそれでも,あの学生時代の臨床講義はこの谷を渡る一助にはなったと思い返します。谷に架ける橋とは思考のプロセスではないかと思います。これは教科書に書かれていません。中医学の教科書を一通り学んだ後は,医案という古今の症例集を学ぶことを勧められますが,大多数の医案には十分な思考のプロセスが書かれていません。著者の思考過程を読者が追体験できないため臨床現場でなかなか活用できないのです。
 本書は中医学版臨床講義です。本書の目的は思考のプロセスを示して谷を越える一助となることです。症例とその解説では弁証の根拠,処方の解説とくに中薬学の観点からの生薬の選択といった理法方薬のプロセスに配慮し,読者が頭の中で筆者の弁証論治の思考過程を追体験できるようにしました。症例提示部では弁証にとってとくに重要な四診情報にアンダーラインを引きました。また解説文中の重要用語は太字で示しました。日本では取り上げられることの比較的少ない温病や虚火の症例は意識的に収載しました。一方で生薬や煎薬を用いた処方に馴染みの無い読者を念頭に,一部に医療用エキス製剤で治療した症例も加えました。過去に雑誌『中医臨床』(東洋学術出版社)や例年京都の高雄病院で開催されてきた京都漢方学術シンポジウムで発表した症例も含まれています。
 各症例に関連した重要事項は〈重点小括〉にまとめました。基礎理論,診断学,中薬学など内容はさまざまですが,一般的な成書では解説されていないけれども臨床的に重要な,あるいは読者が中医診療を俯瞰して広く応用できるようなテーマを主体にしました。〈小講義〉では四診のうち最も修得が困難な脈診を中心にいくつか要点をまとめました。本書では中医学の専門用語を使用していますが古臭い言い回しはできるだけ避けて,現代人とくに現代の若手医師にも理解しやすい平易な表現を心がけました。たとえば〈小講義3 脈象の今風解説〉のように筆者独自のレトリックも多用しました。学術的表現とはずいぶんかけ離れていますが,読者の理解のし易さを第一にしました。繰り返し読むことで理解が定着し易いように,同じ内容を繰り返し記述した部分もあります。陰陽五行など抽象論として軽視されがちな基礎理論はあえて詳しく書きました。医学の東西を問わず,臨床医学と基礎医学を往来しながら学習することは,臨床を深く理解することにつながると信じるからです。
 本書は系統的な知識を身につけることが目的ではありません。知識については既に日本語で出版されている良書で学んで頂ければと思います。本書は中医学の初学者にはハードルが高いかもしれませんが,パラパラと症例と解説の部分だけでも読んで頂ければ,医師の頭の中で弁証論治がどのように進行していくのかがイメージできるかと思います。その上で基礎理論,診断学,中薬学,方剤学などの教科書をご覧になれば,そこに書かれた内容を臨床の生きた知識として学習できるのではないかと思います。最後に中医学の用語,中薬学,経絡経穴の辞典類を各一冊は持っておくことをお勧めします。


令和三年一月 京都にて
篠原 明徳



『改訂版・医学生のための漢方医学【基礎篇】』緒言

[ 中医学 ]

 
 
緒 言
 
 
 漢方医学は,紀元5世紀に大陸から導入されて以降,1500年余りにわたって日本人の健康を支え続けてきた。明治維新後,新政府の政策を受けて正統医学の地位を失ったとはいえ,明治末期から昭和初期にかけての復興運動によって伝統の復活の試みがなされ,今日の隆盛を見るにいたっている。
 この動きはたんに日本に留まらない。中国伝統医学は,アメリカ合衆国を始めとする諸外国でもCAM(補完代替医療)の一つとして急に注目を浴びるようになったし,いまでは世界中で盛んに実践され,研究されている。ただそれらは中国の中医学であり,日本の漢方医学ではない。
 漢方医学は,古代中国にその端を発する中国伝統医学の日本における一発展型であるが,国際的に見た場合,その理論は孤立して存在し,また18世紀以前のこの医学の形とも異なっていて,現在標準とされている漢方医学の知識を身に付けただけでは,中国伝統医学本来の形や国際的な立場におけるこの医学の位置付けを理解できない。
 わが国では,1976年以来,医療用漢方製剤の普及により漢方薬が一般の西洋薬と同じように取り扱われるようになり,この医学が世界の中でどのような位置を占めているかということとは無関係に,多くの医療機関で使用されている。これからは,ここで培われた経験と実績をもとに,国際標準である中医学の弁証論治システムと,日本固有の漢方医学の方証相対システムの双方を理解できる新たなシステム作りが必要となるであろう。
 筆者は,そのような時代の到来を予測し,日本の漢方医学を世界に飛躍させるために必要な知識を,今後の日本の漢方医学を担っていくであろう若い医学生諸君に身に付けてもらいたいという強い願望をもって,本書を作成した。作成に当たっては,全体的な構成を国際標準である中医学に置き,日本の漢方医学のもっている優れた部分を適宜その中に組み込み,最終的には臨床において必要な中医学と漢方医学の最低限の知識が得られるように工夫した。もとより,中国では5年もしくは7年の歳月をかけて大学で習得する内容を,この小冊子1冊で伝えうるものではないが,現在出版されている諸種の漢方関係の書物を読むだけの基礎知識は十分身に付くはずである。
 実際,このテキストを用いて行っている「医学生のための漢方医学セミナー」では,約1週間の日程の最後にワークショップの時間を設け,参加した学生さんたちに症例を提示し,診断から治療まで弁証論治システムを用いてシミュレーションしてもらっているが,全員ほぼ正解に近いところまで答えられるようになる。本書の知識があれば,卒業してからどのような形で漢方医学を実践することになっても,この知識を利用して自分で自分の道を切り開いていくことができるであろう。
 かつて日本では,医家の家庭においては,幼少期より医学の学習を始め,20歳代半ばを過ぎてようやく一人前とされた。現在は18歳で医学部に入学し,しかもその知識は主として西洋医学に関するものである。いささかスタートが遅いとはいえ,本書を出発点として,国際的な場で通用する漢方医学を身に付けてくれる人が一人でも多く現れてくれることを希望する。
 本書は,1995年に「医学生のための漢方医学セミナー」の試用教材として出版したものを,現在の状況に合わせて訂正・加筆したものである。当時の筆者のなぐり書きともいえる手書きの原稿を丁寧に本に仕上げてくださったのは医聖社の土屋伊磋雄氏であった。氏は,試行錯誤を繰り返す筆者の原稿を一つ一つチェックして形を整え,最終的に使いやすいテキストを作成してくださった。改めて御礼申し上げたい。このテキストは,その後,このセミナーで使い続けられ,参加学生たちに好評であった。筆者としては,しかしまだまだ不十分で直すところがたくさんあると考えていたが,これを見た畏友・江部洋一郎先生から,間違いは後で正せばよいから早く正式に出版して世の中に出すべきだとの助言を頂き,東洋学術出版社の山本勝司社長のご協力を得て出版の運びとなった。
 このたびの出版は,第1章の「漢方医学の現況」を全面的に書き直したのを始め,いくつかの文章を変更し,あるいは図版も含めて新たに書き下ろし,サイズをA4変形判として外見も一新した。これらの作業に全面的に取り組み,筆者のわがままを丁寧に拾い,素晴らしい誌面を作り上げてくださったのは坂井由美さんである。はじめての共同作業であったが,ごく短期間の間に,特に大きな困難もなく進められたのは坂井さんのおかげである。そのご努力に対し,心より感謝申し上げる。


2008年8月1日  
安井 廣迪  



『改訂版・医学生のための漢方医学【基礎篇】』改訂にあたって

[ 中医学 ]

 
 
改訂にあたって
 
 
 この十数年の間に,漢方医学を取り巻く環境は大きく変化した。最も大きく変わったのは,社会的・政治的環境であろう。1993年のハーバード大学のアイゼンバーグの報告以来,世界的な広がりをみせたCAM(補完代替医療)の研究は,やがて有効なものとそうでないものを次第に明らかにし,その結果,代替医療の地位は後退して,研究の中心は補完医療と統合医療に移った。
 その中でも,漢方医学を含む東アジア伝統医学の必要性がさらに強く認識されるようになった。WHOは2019年にICD-11の中に「伝統医学」の項目を新たに導入して今後のこの医学のグローバルな発展の道を開き,またISO(国際標準化機構)は,2009年に中国伝統医学に関する技術委員会をTC249として立ち上げ,全世界のこの医学を実践する国での国際標準を作成中である。このような世界的な動きは,今後ますます盛んになると思われ,これらを知らなければ世界の趨勢に取り残されるであろう。そのようなことも含めて,冒頭の「漢方医学の現況」は大幅な増訂を行った。
 人びとの生活環境は変わっても,伝統医学そのものの形にそれほど大きな変化はない。本書はもともと初学者のために作成したものであり,当初から簡潔な記載で最低限の知識を供給することを目的としているので,内容を複雑にするような改定は行わなかった。しかしながら,時代とともに疾病構造は変化しており,伝統医学もそれらに対応していく必要がある。本書では,西洋医学の進歩や社会構造の変化に応じてさまざまに変化する疾病構造に対応する漢方医学の立ち位置を明確に示すために,「統合医療からみた漢方医学の形」という項目を設け,医学的な4つの分類と,それ以外に社会的な適応の形が存在することを示しておいた。
 また,改訂が,たまたま2020年のCOVID-19のパンデミックの時期と重なったために,わずかながら本書もそのためのページを割くことになった。まずこの疾患が武漢という中国の江南地域から発していることから,11~13世紀にこの地域で流行した疫病との類似性が高いと考え,当時の国定処方集(薬局方)である『和剤局方』をコラムで紹介し,本文中では,この疾患の初期治療に必要な芳香化湿薬や祛湿解表剤,および進行した場合の凝固系の異常や血管内皮障害に対応する活血化瘀の薬物や処方を加えた。
 上記のように,本改訂版では,社会的状況や変化する疾病構造に対し,必要な部分をごくわずかに変更した。また,基礎研究においても年々新たな研究が発表されており,副作用報告も蓄積されてきた。初版を刊行してから12年しかたっていないし,漢方医学そのものの形に変化はないものの,いくつかの改訂を加えたのはそのためである。
 今回も,東洋学術出版社の担当の方,特に井ノ上匠社長には,この改定に関して多くの労を取っていただいた。記して感謝申し上げる。


2021年2月1日
安井 廣迪



『[簡明]皮膚疾患の中医治療』 徐序

[ 中医学 ]

 
 
自序
 
 
 14歳頃から内科・婦人科を専門とする有名な老中医であった伯父の傍で中医学を学び始めました。大学卒業後,同大学の『黄帝内経』研究室に4年間在籍し(一定の時間を割いて内科外来もやってきました),そこでは主に古典研究と学生教育を行い,文献学的な仕事をすることが多かったです。しかし,仕事を続けるなかで,実用科学である医学は実践と理論の確認を繰り返すことによって深めていくべきだと考えるようになり,どうしても臨床をやりたくなったので,中医外科に属する皮膚科専門医に転向しました。
 当時は稀な存在であった中医皮膚科の名老中医で,皮膚科初代主任教授の劉復興先生に師事しました。しかし,皮膚科に転向して,厳しい現実を突き付けられました。患者が目の前に来ても,皮膚症状がわからず,診断・弁証ができなかったのです。
その時,劉復興教授から「皮膚科の医師は職人であり,臨床経験が重要です。いくら皮膚科学理論を覚えても,いくら内科の臨床経験があったとしても,皮膚の発疹を実際に見ないとわからないし,弁証もできません。何人もの患者の症状をよく見て,目を慣らしていくことでしか上達できないのです」と教えていただきました。
 さらに,「中医皮膚科は割に新しい分野ですが,診断・治療の方法は,現代医学の皮膚科の方法とは異なるので,両方の知識を用いてアプローチしたほうがよい」と指導されました。
 「理論をしっかり覚えたうえで,臨床を一所懸命に続けて目を慣れさせ,診断ができるようになってからさらに症例を積み重ねて自分のものにしていく」という教えは,心の底にまで刻まれました。
 その後,日本に留学に来たとき,博士課程の指導教官の池田重雄教授からも「医師の最大の任務は目の前の患者の病気を治すこと,他は二の次です」と,臨床の重要性をさらに叩き込まれました。
 27年前,留学のために来日したばかりの頃に気づいたことがありました。それは,日本ではアトピー性皮膚炎をはじめ,アレルギー性皮膚疾患の発病率が非常に高いこと。そして中医学の「温病学説」(中医皮膚科学の診療において重要な指導性を持つ理論)があまり普及していない,ということです。
 そのため,日本漢方には皮膚病専門の教科書が少なく,治療する処方も少ない現状になっているのではないかと感じました。時には中医学の処方があればよいのにと思うこともありました。そうした思いがつながり,会社ではさまざまな商品や中医美容コスメの開発を実現しました。
 そしてこの度,中国の中医皮膚病の診療方法を日本に紹介したいという思いは,東洋医学出版社の井ノ上匠社長のご理解を得て,本書の出版という形で実現することができました。
 できるだけ詳細な中医皮膚病治療の経験を書き留めていきたいという思いはありますが,中医学は何千年もの歴史を持つ伝統医学であり,数え切れないほどの臨床経験にもとづいた治療理論と処方が伝承されています。そのため,中医治療経験という大海原から取れるのは,たとえ有名な先生であってもわずかひとすくいにすぎません。
 さらに,中医学と現代医学の方法論は異なります。使用される用語,概念の内包と外延は現代医学とは異なります。たとえ同じ言葉を使っていても意味が違います。そのため,中医皮膚科の治療理論をしっかりと伝えていなければならないと思っています。
 本書の編集にあたって,どうすれば中医皮膚病治療学をわかりやすく伝えることができるのか,その方法を次のように考えました。
 
 1.中医学における皮膚病への取り組みの考えを中心に紹介し,中医皮膚病の臨床経験と中医の弁証方法を示す本にしたい。
 2.すべての皮膚病疾患を網羅するのではなく,臨床においてよくみられる疾患を集約したい。
 3.ポイントを箇条書きにして,中医皮膚病の診断・弁証の方式を,図・表の形で示し,読みやすいようにしたい。
 4.同じ分類の皮膚病を中医学の総説にまとめ,主な中医学治療の理・法・方・薬の方向性を示したい。
 5.①内服,②外用とスキンケア,③養生の中医皮膚病治療の三本柱の総合的アプローチの方法を示したい。
 6.中医学の典型的な弁証論治と治療方薬を示す以外に,日本において使用可能な製剤も併記したほうがよい(ただし,方向性は類似していますが,まったく同じ効果を保証するものではありません,ご容赦願いたいです)。
 
 本書を通して,中医皮膚病の弁証・治療などの考え方をご理解いただき,少しでもみなさまの皮膚病の臨床に役立てば幸いです。
 最後に,出版にあたって中国の著名な中医皮膚科専門医である徐宜厚(じょ ぎこう)教授の励ましと,関係者のみなさまのご協力に深謝致します。


編著者 楊達 記
2020年8月吉日



『[簡明]皮膚疾患の中医治療』 徐序

[ 中医学 ]

 
 
徐序
 
 
 2018年紅葉の秋,日本からわざわざ武漢まで楊達博士が訪ねてこられた。拙著『皮膚病中医診療学』(人民衛生出版社)が東洋学術出版社によって日本語に翻訳され,出版されたことを知らせるためであった。それをきっかけに互いに交流し合い,さらに彼が雲南省の古い友人の劉復興教授の弟子であることを知り,以来,私たちは意気投合して,忘年の友になった。
 
 今年11月,北京で中華中医皮膚科年会が開催された折,楊達博士より,彼が中医皮膚病学に関する本を出版する予定があり,序文を書いて欲しいと頼まれ,欣然として承諾した。
 
 武漢に戻り,原稿を拝読して3つの優れたポイントが感じ取れた。
 
ポイント1 直観的
 本書の基礎篇においては,中医皮膚科学の生理・病理・五臓との関連などに対してチャートや写真などを用いて読者に説明している。難解な文字だけの説明よりわかりやすく,直観的になっている。例えば,皮膚病の弁証では,風・寒・湿・燥・熱(火・毒)を核に,風寒・風熱・寒邪・寒湿・疾湿・温燥・湿熱・熱毒・火毒・血熱などに分類して,さらに典型的な病変写真も提示し,綿密な考え方を示している。これには,作者がさまざまな角度から皮膚病の異なる段階における代表的な特徴を観察していたことが現れている。こうした図・表・説明文を並べて説明するやり方は,初学者に対して「按図索驥」(直観的な手掛かり)の効果がある。
 
ポイント2 実用的
 本書ではよく見られる皮膚病を集め,概説・主証・検査・鑑別診断・病因病理・弁証論治・外用治療の項目に分けている。図表を駆使して,筋道は明瞭で,要点を押さえて弁証論治の精髄を書き出している。
 
ポイント3 読みやすさ
 本書は専門家に対しても中医皮膚科学の師になり得る。また皮膚病の患者とその家族にとっても読みやすく,正しい知識を普及させ,無益な弊害を避けることができるよい本になっている。本書は友でもあり,師でもある傑作であり,それゆえ,喜んで序文を書かせていただき,上文を書き上げた。


庚子孟春 八十一叟 徐宜厚 謹識



『臨床に役立つ 奇経八脈の使い方』本書について

[ 鍼灸 ]

 
本書について
 
 
 本書は,「第1章 奇経八脈についての基本的な解説と考察」「第2章 生理作用における奇経八脈の役割」「第3章 奇経八脈を用いた治療システム」「第4章 奇経八脈治療のバリエーションを考える」「第5章 奇経八脈による婦人科疾患の治療」「第6章 中医学の治法から考える奇経治療」「第7章 奇経八脈と姿勢バランスについて」の,7つの章から構成されています。
 第1章における奇経脈の流注は『奇経八脈考』にもとづいて解説していますが,経脈の流注というと読者的にはあまり面白みのない項目であると思いますので,臨床的な見地から解説しています。
 第2章の奇経脈の生理作用は,本書の根幹をなす部分です。これまでの奇経学に最も足りなかったのは,生理作用に対する考察だと考えています。奇経脈の生理作用を明らかにすることで,奇経脈の存在理由を明確に示すことができたと自負しています。
 第3章では,奇経脈を用いた治療システムに言及しています。特に八脈交会穴が選穴された理由は,未だ誰にも解明されていません。私も25年考え続けて,その答えが子午流注理論によって解決しました。また按時配穴法についても,解明されていなかった事柄を子午流注理論によって解明することができました。
 第4章では,八脈交会穴治療以外の奇経治療を提示しています。奇経脈に対するアプローチの仕方が増えれば,臨床におけるさまざまなケースに対応することができるようになります。このことは,患者にとっても治療家にとっても有益であることはいうまでもありません。
 第5章では,婦人科における奇経治療について論述しています。既存の中医婦人科学に拠る弁証分類・病因病機や治法について,新しい見解を多数述べさせていただきました。中医基礎理論にのっとり,論理的に見解を構築したつもりです。ここでは,弁証にもとづいた正経治療と奇経治療をともに記述しています。
 第6章では,婦人科疾患以外に奇経治療を行う場合に基本となる治法について述べています。また,治法にもとづいた奇経治療の例として,睡眠異常・哮喘・アトピー性皮膚炎をあげて解説しています。
 第7章では,奇経脈経筋という新しい認識を提唱させていただき,身体の姿勢バランスを調整する方法に言及しています。
 近年,鍼灸学の書籍における奇経脈に関する記述の現状は,まったく同じ内容のものが多く見受けられます。または,出来合いのものに多少手を加えただけのものが多いようです。私も恩師の山下詢先生の研究をさらに発展するべく努力してきましたが,私なりのオリジナルな理論に到達できたと考えています。第2章と第3章は,他では読むことができない,斬新で濃密な内容であることを読者の皆さんにお約束します。
 
 

『臨床に役立つ 奇経八脈の使い方』はじめに

[ 鍼灸 ]

 
はじめに
 
 
私と奇経治療との出合いと現在
 私が初めて奇経治療と出合ったのは,昭和61年の東京医療専門学校の教員養成科時代のことで,恩師である山下詢先生の授業において奇経学を学びました。当時,正経十二経脈については卒前の教育において学んでいたのですが,奇経八脈については何も知らないといってよい程度の知識で,知っていることといえば奇経脈の名称と八脈交会穴が治療に用いられるということぐらいでした。これは私に限ったことではなく,教員養成科の優秀なクラスメイトにしても同じようなものでした。
 このような素人同然のわれわれに,奇経脈の流注から講義をしていただいた山下先生には,今でも感謝し続けています。山下先生の奇経治療は,正経十二経脈と奇経八脈を統合して臨床に役立てるというものでした。先生から初めて同名経治療などの治療システムを学んだ時の,背筋に鳥肌が立つような感激は昨日のことのように覚えています。
 以来30数年間,私は臨床を行い続けていますが,奇経治療はしっかり私の臨床システムのなかに織り込まれています。臨床を始めた当初は八脈交会穴を中心とした治療でしたが,次第に独自の発想によるオリジナルの治療を行うようになりました。また,上海中医薬大学で学んだ知識を活用し,「奇経脈とは何か」という疑問に対する答えを探究してきました。
 現在は,嬉しいことに奇経治療と出合った東京医療専門学校教員養成科において,私の奇経脈に対する考え方や,婦人科疾患に対する奇経脈を用いた施術についての講義をさせていただいています。教員というのはありがたい仕事です。自分の頭の中でまとめ上げた奇経の理論を学生の皆さんの前で話すことで,新たな問題点に気付かされたりします。それを何年も繰り返すことで,本書を執筆することができるようになりました。私の授業を受けた学生の方のなかから,奇経治療を受け継ぎ発展させる逸材が出ることを期待しています。
 
本書において皆さんに伝えたい内容
 私にとって,奇経学の研究はライフワークの一環になっています。しかし,奇経学を研究することはとても困難なものです。その原因の一つとして,奇経学についての情報が圧倒的に少ないことがあげられます。明代の李時珍はその著書である『奇経八脈考』において,「八脈散在群書者,略而不悉」(奇経八脈についての記述は,多数の本に散在しているが,いずれも簡略であって仔細に述べているものはない)と述べています。この記述からもわかるように,当時から奇経八脈に関する文献には簡略な記載しかなかったようです。もともと古典と呼ばれるものには奇経に対する記載が少なく,そのことを反映してか,現代においても奇経に対する論文や著作はあまり見かけません。また,奇経治療を知らなくとも,臨床上は正経十二経脈による施術で十分に事足りるという考えもあります。これらの理由から,奇経学の理論的な進展がなされていないと考えられます。
 少ない情報からどのように理論を発展させるか,方法は一つしかないと思います。それは「一心に思考を重ね,臨床において試行を繰り返す」ことです。
 東洋医学の長い歴史のなかで,優れた臨床家は長年の経験知から導き出した推論によって治療法を確立してきました。今後も,東洋医学においては「論理的推測」によって新しい基礎理論や治効理論を確立してゆかなければならない時代が続くと考えられます。現在,東洋医学に従事する臨床家で,臨床試験や実験などを通じて学術研究を行うことができる環境にいる人はごく少数です。しかし,ものは考えようで,科学的実証に囚われない分,大胆な発想による仮説を立てることができるのです。
 本書において皆さんにお伝えしたいことは,
 ①奇経八脈の存在意義と生理作用における奇経八脈の関与について
 ②奇経八脈の流注の特性や奇経八脈の新しい形の認識(奇経脈を経線として捉えるのではなく領域として認識する)
 ③奇経脈同士の相関関係
 ④八脈交会穴について(その選穴の理由)
 ⑤奇経八脈上の経穴を用いた新しい治療システム
 ⑥奇経八脈を用いた婦人科治療
 ⑦「奇経脈経筋」について
などです。すべて私が約30年の間に考え続け,臨床で応用してきたものです。かなり大胆な発想のものもあり,知的欲求を満足させることができる内容になっていると思います。
 
私が中医学で目指す学術と臨床について
 本書を理解していただくため,私の中医学的な立ち位置について述べさせていただきます。私は,昭和58年に鍼灸師の免許を取得しました。当時は,「中医学」という言葉さえ知らずに,経絡治療の習得に邁進していました。出席していた経絡治療の勉強会で,講師の方が「中医学の八綱弁証」と言われた時には,正直なところ,何を言っているのか解らずに,途方に暮れたことを今でも覚えています。
 その後,教員養成科課程で奇経治療や現代鍼灸(この呼び名が正しいかわかりませんが)を学びました。しかし当時は,中医学の授業はありませんでした。平成に入り,東京医療専門学校で専任教員をしている時に,授業のカリキュラムに中医学が新たに導入されることになり,新人教員であった私が授業を担当することになりました。これが私と中医学との出合いです。そのため,中医学を学んだことがない私(当時の学校教員のほとんどが同じ状況でした)が,上海中医薬大学の通信教育で学習しながら学校で授業をするという,自転車操業のような状態を2年ほど続けました。中医学を学び始めた当初は,それまで学んできた東洋医学の知識との擦り合わせがうまくゆかず,歯がゆい思いを繰り返していました。この行き詰まり感を払拭してくれたのが,北京中医薬大学の劉渡舟教授の『中国傷寒論解説』(東洋学術出版刊)でした。私が学んできた古典のなかで『傷寒論』は身近なものだったのですが,その『傷寒論』が弁証によって解説されるなどとは思ってもみないことでした。この書籍を読んで,それまでの頭の混乱が整理されました。そして,中医学はとても面白い学問であると認識したのです。これをきっかけに,通信課程の3年時に1年間行われる上海での臨床実習を,どうしても受講したくなってしまいました。私は,優遇されていた職を辞して留学することを決意しました。
 30歳を過ぎてから職を辞し,上海中医薬大学へ留学しました。そのため,何としてでも中医学を習得して帰国する,と意気込んでいました。病院研修の後は自室に籠もり,闇雲に知識を詰め込むための勉強と,教員として復帰した時のための資料作りを続けました。そのような私に,同室の友人が「ノイローゼになるから,ほどほどに勉強しろ」と忠告もしてくれましたが,当時の私は友人の声を聞く耳を持っていませんでした。このような生活を続けていた時に,日本から来られた故・張瓏英先生が日本人留学生達を食事に招待してくださいました。そしてわれわれに,中医学を学ぶためのアドバイスをしてくださったのです。それは「これからの中医学は暗記する学問ではなく,考える学問でなくてはならない」というものでした。劉教授の『中国傷寒論解説』を読んで中医学に目覚めた私には,このアドバイスは啓示のようにも受け取れました。学生時代には基礎を学ぶため,暗記は必要です。しかしその暗記は,道理を理解するためのものではなくてはなりません。単なる事物の暗記は,暗記そのものが苦痛となり,学習意欲を削ぐものとなってしまいます。そのことは,教員となった時に理解していたはずなのに,1年間の留学という規制から我欲に走って,本来の学問の姿を見失ってしまっていたのです。
 張先生のアドバイスが転機となり,それ以後「考える中医学」を目指すようになりました。これが現在の私の中医学に対する姿勢です。この抽象的な言い方では理解されにくいと思いますので,私の専門分野を明確にしたいと思います。
 中国からの帰国後,中医基礎理論を自分の専門分野として後進の育成に努めてきました。「考える中医学」が,なぜ中医基礎理論なのか。中医学を学んでいる皆さんならば理解していただけると思いますが,臨床で何気なく使用している語句の定義や弁証分類の内容が明確でない,と感じたことはないでしょうか。たとえば,陰気という語句です。陽気を説明しなさいと言われれば,「気の温煦作用を意味する語句」と即答できると思いますが,陰気についてはどうでしょうか。「陰気とは津液の冷却作用を意味する語句」と答えられるでしょうか。この定義は,私が「考える中医学」を行って導き出したものです。私が所有する中医学の書籍には,このような定義は見当たりません。次の例として,腎不納気証を取り上げてみます。腎不納気証は腎陽虚に分類されますが,腎の病証であるのに,なぜ呼吸器の症状を呈するのでしょうか。私の知る限り,明確な答えを提示した書籍には出合っていません。この病証について簡単に解説してみます。腎不納気証は腎陽虚であり,上焦の水源である肺から下降してきた津液を受け取ることができなくなった状態です。不納気とは,腎まで津液を運んで来た衛気が腎内への侵入を拒まれてしまった状態を表しています。そのため,肺には下降するべき津液が停滞し,痰を伴う肺気逆(喘息様症状)を呈するようになるのです。このような解説は,現代中医学の生理学を用いれば明確となります。中医学の歴史は長く,また現在中国で出版されている中医書は数が多いため,自分が唱えた「新説」と思っていても,誰かが同じことを述べていることも多いです。しかし,中医基礎理論の分野は,思考を重ねて(これが「考える中医学」です)導き出さなければならない問題が多く,私にはこれ以上の魅力的な分野はなかったのです。
 そのようなわけで,15年間は中医基礎理論を自分の専門分野としてきました。そして,この分野においてある程度満足のゆく資料を作り上げ,教員養成科の後進に渡すことができました。現在は,臨床における治法と治効理論を研究の課題としています。中医基礎理論を実践臨床でどのように用いるかを研究するために,治法を研究対象とすることにしたのです。本書は,これらの研鑚のうえに執筆したものです。
 また,私の鍼灸臨床では,診断と病態把握そして治法については当然ながら中医学を用いています。しかし,治療に用いている鍼は大半が日本の細い鍼です。その意味でいえば,良いところはなんでも採り入れる,折衷派といえるかもしれません。
 以上が,私の中医学における学術研究と臨床の立ち位置です。中国伝統医学は,その長い歴史のなかで,新しいものであっても良いものは貪欲に吸収し同化させてきた医学であると認識しています。したがって,私は「考える中医学」を通じて,日本から新しい知見を数多く発信してゆき,中医学の発展に寄与してゆきたいと望んでいます。
 
奇経治療の現状と今後
 上海の婦人科疾患を専門とする中医師たちのなかには奇経を重視する学派があり,私もその影響を強く受けています。奇経脈の生理的機能を考慮すると,特に婦人科系疾患においてその効果は著しいといえます。そのため,中国において婦人科系に特化した奇経治療が行われているのも理解できます。
 奇経治療といえば婦人科疾患と考えられがちですが,奇経脈は男性にも存在するものであり,男性の泌尿生殖器系疾患にも活用してしかるべきものです。このように,奇経治療は婦人科疾患に非常に有効であるものの,それだけに限定されるものではありません。日本で行われている奇経治療では,奇経脈は正経との関連が深く,独立した治療システムとして認識されています。また,奇経八脈は正経十二経脈と同様に身体の広範囲を網羅する経絡であり,たとえば陽維脈や陰維脈などは正経脈を維絡する長大な絡脈の様相を呈しています。そのため,これらの経脈は感染症や不定愁訴症候群などにみられる全身性の症状にも有効性を発揮するとされています。
 現在の日本では,湯液や鍼灸治療に対し認知症・緩和ケアや不妊治療などの面で,社会的な期待が高まっています。不妊治療には,奇経治療が最も適応します。また,広範囲の症状を少数穴で治療することのできる奇経治療は,緩和ケアにおいても非常に重宝なものとなります。そして,緩和ケアと関係の深い認知症には,任脈・督脈・陰陽蹻脈の応用が期待されます。
 しかし,重篤な主訴や広範囲の愁訴を抱えた患者さんに,従来どおりの奇経治療を行うことで,十分な対応ができるでしょうか。奇経治療も時代の要請に沿うものとして進化してゆかなければなりません。また,不安を抱えた患者に治療の根拠を説明できない施術を行うことは,患者だけでなく治療者にとってもつらいことです。
 西洋医学と違い,東洋医学の理論は科学的には証明されていないものばかりです。しかし,少なくとも中医学のなかにおいては,治療の理論は明確であるべきです。その一助となるように,本書では奇経八脈の基礎理論とその応用について,中医学の立場から論述しています。したがって,本書に書かれている奇経治療は「中医奇経治療」と呼べるものです。
 
読者の皆さんへ
 本書には,私が「考える中医学」を続けてきた歳月と,山下詢先生に学んだ奇経治療との結晶が綴られています。したがって,本書の内容はベテランの臨床家にも有益といえるものばかりです。日本では奇経治療に関する書籍や講習会は,あまり見受けられません。そのため多くの治療家は,奇経治療に興味はあるが臨床には採り入れていない,というのが現状だと思います。また学校教育においても,奇経脈に関しては旧態以前のカリキュラムのようです。これらのことを踏まえ,本書は鍼灸学生あるいは新米臨床家などの初学の方からベテラン臨床家の方までを読者対象として想定し,できるだけわかりやすいものになるように心掛けて書いています。
 
 

『臨床に役立つ 奇経八脈の使い方』推薦のことば

[ 鍼灸 ]

 
推薦のことば
 
 
 このたび,本書『臨床に役立つ 奇経八脈の使い方』が刊行されますことは,たいへん意義深いものであると同時に,著者である高野耕造先生の永年のご努力の大いなる成果であると思料します。
 一般に,中医学や経絡治療は,現代医学的方法論では説明しにくい分野であります。しかしながら,長い歴史のなかで伝承され,時には新たな発見とともに仮説が論じられるなかで,多くの臨床家が自身の治療に応用されてきたものと考えられます。それだけにこれらの治療体系や理論は,論述しづらいものであり先達の優れた論証が,正確に伝わるとは限らないものであったと感じております。
 著者の高野先生は,この難解かつ情報の少ない分野にずっと挑み続けた方であります。おそらくは弛まなく推論を続け,そして何より重要である臨床のなかで経験を積み重ねることによって一つの理論体系を作り上げたものと思われます。少なくとも30年以上に及ぶご努力は,いくつもの成果を生み出し,それは彼自身の臨床の幅を大きく広げてきたことに繋がったものと思われます。今回,その高野先生が日々の臨床で用いられている中医学,そしてライフワークともされている奇経治療(学)について臨床家の視点で解説されている本書は,初学者からベテランの治療家に至るまで大いに参考になるものであり,また,次代の学術研究者にとっても必ずや役立つものと思われます。本書は,特に基礎的内容の解説から臨床に結び付けられている構成になっており,一つの学問書であると同時に臨床マニュアルの体裁となっております。また,奇経脈を用いた治療の基本から応用に至るまで論述されているあたりは,過去に類を見ない内容であると思料します。
 飽くなき探求心は強い好奇心から生まれます。そしてさまざまな経験や実践のなかで更なる好奇心が増幅し,それがまた探求心に繋がるものであり,いわば思考と実践はサイクルしながら学問体系に繋がっていくのではないでしょうか。このことは,われわれ人類が悠久の歴史のなかで常に続けてきた理論構築の手段であると考えます。アルベルト・アインシュタインは,常に好奇心をもって推論を重ね,さまざまな理論構築をしたといわれており,それが理論物理学者といわれる所以でもあります。そして,この偉大な物理学者が提唱した理論は,現在でも実践的研究のなかで証明され続けています。これらのことは,科学分野に限らずさまざまな分野においても当てはまるものと思われます。一方で医療における科学的根拠を見出すためには,臨床研究に代表されるある種の研究方法論を必要とします。いわゆる東洋医学,特に鍼灸のような物理療法をこの研究方法によって証明することは残念ながら困難なことが多いと思われますが,西洋医学的研究の第一歩も,たった一つの症例の検証から始まります。この積み重ねがなければ臨床研究には至らないわけでありますし,事例を通じた好奇心,探求心が必要となると考えます。それだけに著者が行ってきた,「思考と実践」については,大いに共感するものであります。
 最後に,本書が多くの鍼灸臨床を続ける方々に活用され,大いに成果を上げられるとともに更なる発見を通じて,次代に残す業績を積まれることを祈念申し上げます。
 
 

学校法人 呉竹学園
理事長 坂本 歩

『[改訂版]中医基本用語辞典』改訂版発行にあたって

[ 辞典 ]

 
改訂版発行にあたって
 
 
 改訂版発行にあたり,初版より以下の点を改めた。
 
1.新たに668語の用語を追加し,天津中医薬大学の孟静岩教授を中心とした天津中医薬大学の執筆陣が原稿を書き下ろし,それを新たに翻訳委員会に加わった田久和義隆氏が翻訳した。
 
2.新たに追加した用語は,初版では欠けていた2字の中医学の専門用語を中心に収録した。今回の改訂版には,初版の用語約3,500語と合わせ,合計約4,200語が収録されている。なお,改訂で追加された用語の一覧を付録として巻末に付した。
 
3.見出し語における親見出し語,子見出し語の扱いを大幅に改めた。
 例えば初版では,「陰」を親見出し語,「陰虚」を子見出し語,「陰虚火旺」を孫見出し語としていたが,今回の改訂では,「陰」も「陰虚」も親見出し語として扱い,「陰虚火旺」は「陰虚」の子見出し語とした。
 
4.初版の付録のうち,「分類索引」を割愛した。
 
 

(編集部)

 

前へ |  1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14   15   16   17  | 次へ

ページトップへ戻る