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▼書籍のご案内-序文

『[詳解]針灸要穴辞典』 推薦の序

[ 鍼灸 ]

推薦の序


 臨床の幅を広げたい臨床家,臨床力を向上させたい臨床家にとって待望の書,必見の書がここに出版されることとなった。治療目的に応じて要穴をいかに臨機応変に使いこなすかが,臨床効果をあげるうえでは大きな鍵の1つとなる。つまり要穴について深く理解し応用する力を身につけることが,臨床力の向上に直接つながるのである。
 本書の大きな特徴は,五兪穴・五要穴・八会穴・下合穴・八脈交会穴・交会穴について,それぞれの理論的基礎と臨床応用が紹介され,さらに要穴の各論として一つひとつの要穴について効能・主治症・配穴応用・手技の操作法・注意事項・古典抜粋・現代研究の内容が詳細に紹介されていることにある。文字通り,要穴についてここまで詳しく解説している専門書は,日本では皆無であろう。
 弁証選穴による効能,循経選穴による効能,局所選穴による効能をそれぞれ提示することにより,各要穴の主治症との関連性をみて取ることができるのも本書の大きな特徴であり,これらは日々の臨床に大いに役立つことであろう。また日本ではあまり臨床で用いられていない八脈交会穴を使った臨床応用,とりわけ交会穴を使った臨床応用を身につけることができれば,誰でもいっそう臨床の幅を広げられることは非常に魅力的である。ここまで詳細に交会穴の臨床応用について紹介している類似書はおそらく中国でもないであろう。
 本書は針灸を学ぶ学生たちにとっても待望の書ということができる。学校ではカリキュラム上,どうしても時間的な制約があるため,要穴についてはガイダンス的な紹介となっているケースが多くみられる。自分たちの学んでいる「要穴表」がたんなる暗記のためのものではなく,臨床上どのように役立つのかを知りたがっている学生を私は全国で多く見てきたが,これは中国の学生たちにとっても同様である。
 本書の著者である趙吉平先生は,北京中医薬大学附属病院という臨床現場の第一線で責任者の一人として活躍されているだけでなく,これまで臨床教育の分野でも長年にわたって非常に情熱を捧げてこられた先生である。学生たちのこういった臨床的な問題意識に応えるためにも本書の必要性を最も痛感されていたのは,他でもない趙吉平先生自身であろう。
 本書は中国の臨床家・学生のニーズに応えるために著されたものであるが,日本の臨床家・学生のニーズにも十分に応えてくれることであろう。それは24年前に後藤学園に教員交流という形で1年間留学をされ,その後も日本と中国の針灸学術交流に携わることによって,日本の針灸教育事情や臨床事情にも精通されている趙吉平先生だからこそ成し得たことだと思われる。共通の恩師である故・楊甲三教授の教えを継承し,また多くの老中医を師とあおぎ,さらにご自身の臨床経験と臨床教育経験を体系的にまとめあげた趙吉平先生を心より敬服いたします。
 中国の先人たちが中国伝統医学の継承をベースとして発展させてきた針灸弁証論治システムの充実化をはかるうえでは,今日にいたるまで臨床サイドでの結果が非常に重視されてきた。その臨床結果をふまえて著された本書が,中国針灸学の体系的な飛躍の礎とならんことを心より期待する。また臨床の幅を広げ臨床力を向上させたい諸先生方,要穴学習のレベルアップをはかりたい多くの学生たちが,本書を座右の書として活用されんことを心より期待する。最後に,本書を推薦できる機会を与えていただいた東洋学術出版社の井ノ上匠社長に,心より感謝を申し上げる。

学校法人後藤学園中医学研究所所長

兵頭 明

[新装版]中医臨床のための方剤学

[ 中医学 ]


はじめに

 1992年にわれわれが出した『中医臨床のための方剤学』は漢方製剤を用いる臨床の医師や薬剤師など多くの関係者の方々の支持を得て,広く臨床の場で必須の書物として利用していただいてきた。このたび東洋学術出版社から改めて出版していただく機会を得たので全面的に各項に検討を加えている。
 その骨格,意図については初版からのものを受け継いでおり,新版を上梓するにあたってもこれまでと同様に原典の記載を重視している。方剤はいったん臨床に用いられると当初の適応症以外にも用いられ,おもわぬ効果を得ている。しかし,可能な限り直接原典にあたり方剤の創製された意図を明確にすることによって,さらに応用が拡がるものと思われる。したがって,現在あまり用いることの少ない方剤でも広く応用の期待がもてるものは,よく使われる処方で抜けていたものと同様に積極的にとりいれた。研究会で学んできた張錫純や鄭欽安の処方や,基本方でありながら不足していた傷寒論処方についても今回新たに加えている。原典の記載については原則として読み下し文としたが,現代的な読み下し方もとりいれてわかりやすさを心掛けた。一部は翻訳をして読みやすくした部分もある。
 薬用量については原典に記載のないものもあり,原典に記載された量でも固定したものと考える必要はない。症状に応じて臨機応変に変えるべきものである。個々の薬量についてはすでに改訂版を上梓した『中医臨床のための中薬学』などを参考にしていただければ幸いである。
 まだわれわれの知識レベルに依然として限界があるために,なお多くの誤りと不足があると思われる。忌憚のないご指摘をいただき今後さらによいものをめざしたい。
 なお参考文献として,以下の書籍等を用いた。
『中医大辞典』方剤分冊(人民衛生出版社,1983年)
『中国医学百科全書』中医学(上)(中)(下)(上海科学技術出版社,1997年)
『中医名詞述語精華辞典』(天津科学技術出版社,1996年)
『中華古文献大辞典』(医薬巻)(吉林文史出版社,1990年)
『傷寒論辞典』(劉渡舟主編,解放軍出版社,1988年)
『中医臨床のための温病条弁解説』(医歯薬出版株式会社,1998年)
『医学衷中参西録を読む』(医歯薬出版株式会社,2001年)
『黄帝内経詞典』(天津科学技術出版社,1991年)
『黄帝内経素問霊枢訳釈』(竹原直秀著,未出版)
『傷寒六経病変』(楊育周,人民衛生出版社,1992年)
『金匱要略浅述』(譚日強,医歯薬出版株式会社,1989年)
『方剤心得十講』(焦樹徳,人民衛生出版社,1995年)
『古今名医方論釈義』(高暁峰ほか,山西科学技術出版社,2011年)

 2012年10月

神戸中医学研究会


第1版 はじめに


 方剤は,現代医学のように純粋で単一の薬理作用をもつ薬物を生体の特定のターゲットに作用させるのではなく,多彩かつ複雑な薬能をもつ個性的な薬物を組み合せることにより,特定の病態を根本的に解消させる意図をもっており,この意図がそれぞれの方剤の「方意」である。
 中医学は数千年にわたる臨床経験を通じて治療医学の体系を形成しており,弁証論治が大原則になっている。弁証においては,四診によって病変の本質である「病機」を分析する。すなわち,病因・経過および当面の病態の病性・病位・病勢ならびに予後などの全面的な分析である。論治においては,弁証にもとづいて最適な治療の手順と方法,すなわち「治則・治法」を決定し,さまざまな薬物を適切に組み合せて治法に則した方剤を組成し,これによって治療するのである。根拠と理論(理)・治療の法則と方法(法)・投与する方剤(方)・使用すべき薬物(薬),すなわち「理・法・方・薬」として総括されている弁証論治の過程において,具体的な治療手段になるのが方剤であるから,方剤の適否が治療効果に影響を与えるのは当然である。たとえ弁証論治が正確であっても,方剤の組成が適切でなければ,十分な効果を期待することはできない。
 方剤を組成するうえでは,個々の薬物の性能を熟知することは当然として,経験に培われ歴史的に検証されてきた薬物の配合の原則・理論・知識を知る必要があり,これが「方剤学」の内容である。弁証論治の先駆であり「方書の祖」と称される漢代の《傷寒論》が,約二千年の長きにわたって聖典として学習されて応用され,そこに提示されている方剤が今日なお有効であるように,古今を通じて名方といわれ有用とされている著名な方剤をとりあげ,具体的な配合の模範・典型として分析し研究することが,方剤学においては非常に有益である。
 本書は,方剤学の基本理論・原則および基礎知識などを総論で述べ,各論では具体例として典型・模範となる方剤の分析を行っている。方剤は清代・汪昂の分類方法に倣って効能別に21章節に分類し,各章節の冒頭で効能の概要・適用・使用薬物・注意と禁忌などを概説したうえ,個々の方剤について詳述している。なお,日本で保険適用になっている方剤はすべてとりあげている。
 各方剤については,「効能」すなわち中医学的薬効と「主治」すなわち適用を示したうえで,「主治」で示された病態についての「病機」を分析し,それを「方意」と結びつけ,その方剤がなぜその病態に適用しどのような治療効果をあらわすのかを説明している。すなわち,本書の重点は病機と方意の有機的結合にあるといえる。なお,効能・主治・病機・方意は,近年に西洋医学的概念に則って創成された方剤を除き,すべて中医学の理論と概念にもとづいているために,現代医学的に解釈しきれるものではなく,強いて解釈すると大切な面が欠け落ちる可能性を大いにはらんでいる。我々が『中医処方解説』で試みた現代医学的解説は,初学者が中医学に馴じむという目的においては,十分に評価し得ると自負してはいるが,中医学本来の価値を活かし切れてはいないという反省にもつながった。本書を上梓する意図はここにある。
 本書では,方剤の元来の構成意図や適用を尊重し,解明するために,できるだけ原文の引用を行っている。さらに,現代中医学的な解釈と古人の考え方のずれから,汲みとれる有益な面も多いと考え,古人の解説文も挿入している。いずれも意味が分りやすいように読み下し,[参考]の部分に掲載している。
 なお,本書に示した薬物の分量は,時代によって多くの変遷が認められるように,一定不変と考えるべきではなく,一応の目安とみなして,病態に応じ増減させるのが当然である。方剤を構成する薬物についても,主要な薬物以外は臨機応変に加減変化させるのが通常である。
 参考文献としては,「方剤学」(許済群ほか,上海科学技術出版社,1987年),「方剤学」(広州中医学院主編,上海科学技術出版社,1981年),「中医治法与方剤」(陳潮祖,人民衛生出版社,1975年),「中医臨床のための病機と治法」(陳潮祖(神戸中医学研究会訳),医歯薬出版,1991年),「傷寒六経病変」(楊育周,人民衛生出版社,1991年),「傷寒論評釈」(南京中医学院編,上海科学技術出版社,1980年),「金匱要略浅述」(譚日強(神戸中医学研究会訳),医歯薬出版,1989年),「温病学釈義」(南京中医学院主編,上海科学技術出版社,1978年),「温病縦横」(趙紹琴ほか,人民衛生出版社,1987年),その他を使用させていただいた。
 我々の知識レベルに限度があるために,なお多くの誤りが存在すると考えられ,読者諸兄の御批判をいただければ幸甚である。

 1992年4月

神戸中医学研究会

『運動器疾患の針灸治療』

[ 鍼灸 ]

はじめに


  下記の事項を伝えるために本書を記した。


1.運動器とは,東洋医学でいう「経筋」のことである
  現代医学でいう運動器とは,骨・関節・筋・靱帯・神経といった人間の身体を支え,動かす役割をする組織・器官のことである。運動器とは東洋医学における経筋のことであり,経筋のラインと病変・治療法については,すでに紀元前に『霊枢』経筋篇のなかに書かれている。
  経筋とは,人体に十二ある縦の筋のことである。「経」とは,たて糸のことであり,縦につながっているという意味がある。東洋医学では,十二経筋は機能的につながっていると考えられており,この経筋ラインを利用して治療に応用してみると実際に機能していることがわかる。


2.運動器疾患には針灸治療が最も効果がある
  運動器疾患は被患頻度が高く,日常診療で遭遇することが最も多い。現代医学の鎮痛薬や局所注射より針灸治療のほうが効果がある。その証拠に,多くの患者は「整形外科や外科で,いろいろな検査や治療を受けたが治らないから……」と,内科の筆者のところに針灸治療を求めて来院する。


3.針灸治療で運動器症候群による「寝たきり」を予防できる
  運動器が障害されると,腰痛や膝関節痛などを引き起こし日常の動作が障害されることが多い。その結果,運動器疾患を起こし,運動器症候群(locomotive syndrome)と呼ばれる状態になる。つまり,足腰の痛みのために運動障害を来し,ついには寝たきり(図1)になるのである。
  現在,わが国は高齢社会を迎えた。多くの人々がなんらかの運動器疾患を抱えそれぞれの生涯を終えてゆく。加齢に伴う運動器疾患は針灸治療によって治療することができる。だからこそ,すべての人々のために針灸治療は役立つのである。


4.早期の針灸治療によって治療費を削減できるので,医療経済効果は高い
  厚生労働省の調査(図2)によれば,日本国民のなかで最も多い症状は,腰痛・肩こり・関節痛である。これらはすべて運動器疾患である。つまり,わが国の多くの人々は,運動器の病気(=経筋病)で最も悩んでいるということである。
  針灸治療によって,患者の抱える苦痛を早く取り去ることができれば,患者のドクターショッピングを防ぎ,治療費の削減につながる。運動器疾患に針灸治療を取り入れると,医療経済効果は高い。


5.針灸治療は,あらゆる部位の捻挫・打撲・筋肉痛などのスポーツ傷害にも効果がある
  本書は,現代医の観点からみた東洋医学の説明である。医師にとっては目新しい言葉が出てくるかもしれないが,治療に際しては,現代医学の病名にこだわることなく,東洋医学から得られた情報に従って治療していただきたい。
  医師にとっては,東洋医学の診断方法や経絡,特に十二経脈についての知識を学ぶことが必要である。
  最初は,経絡の構造や穴位の位置などに当惑するかもしれないが,東洋医学の解説書(参考文献1,2など)を参考にすると理解しやすいと思われる。


  東洋医学の教育を受けている鍼灸師にとっては,すでにご承知の知識かもしれないが,本書に示すのが現代医からみた東洋医学の特徴である。
  本書では刺絡についても記載している。鍼灸師は,下記の根拠により法的にも刺絡を行える。


●鍼灸師の行う刺絡療法は合法的である
  「日本刺絡学会」発足のきっかけになった出来事がある(参考文献3)。それは,昭和62年8月,栃木県鍼灸師会会長・福島慎氏が,「三稜針による瀉血治療は医師法違反である」として宇都宮中央警察署に家宅捜査を受けたことに始まる。しかし福島氏は,「刺絡は鍼灸師の業務範囲であり,医師法違反ではない」と反論主張した。
  その結果,昭和63年11月,検察側が「公訴を提起しない」,すなわち「裁判を止める」と決定したことから,「刺絡療法の正当性」が示された。つまり,鍼灸師が刺絡を行うことは合法的であるとみなされたのである。
  最初は「全国刺絡問題懇活会」として平成4年3月に発足し,平成6年に「日本刺絡学会」と改名した(参考文献3)。現在,日本刺絡学会は,東京と大阪で交互に定期的に学術大会を開催しており,その間,刺絡の講習会も定期的に実施している。こうした活動は,鍼灸師が刺絡の技術力を向上させるために役立っている。
  なお現在では,針灸の一部の教育機関においても刺絡は講義されている(参考文献4)。

『中医内科学ポイントブック』

[ 中医学 ]

はじめに


  私が中国で高校を卒業した1973年は,ちょうど文化大革命が実施されている最中でした。当時,大学の学生募集はほとんど中止されており,そのため私はすぐに大学へ進学せず,1976年にしばらく地元の中医病院に勤めることとなり,老中医の弟子になりました。私と中医学とのかかわりはそのときから始まりました。
  1978年3月,南京中医学院(現在の南京中医薬大学)に入学し,1982年12月に卒業してからは,揚州市立中医医院内科で臨床に従事してきました。その間,学校で学んだ中医内科学の知識は臨床実践のなかで展開されていき,重要なポイントが頭の中で絵を描くように徐々にイメージ化されていきました。その内容を整理してまとめ上げようとしましたが,当時は臨床の仕事が忙しく,なかなか完成に至りませんでした。
  1996年に日本に来てからは,日本医科大学で呼吸器内科疾患と肺がんの研究をしながら,いくつかの学校で中医学講師として中医内科学や中医学全般の講義をしてきました。その講義原稿を作るときに気がついたことがあります。それは,中国の中医内科学の教科書は中国教育部と衛生部の指導によって現在までに7版が出版され,各版で使用される病名は時代の変化に合わせながら部分的に修正されたり,付け加えられたりするなかで,その内容は次第に膨大なものになっているということでした。しかも,中国語の表記には難解な専門用語や古文などが使われており,微妙な語感を自分で悟るしかない部分もあり,外国の学習者が内容を正確に理解するうえで障害となっていました。そこで,日本の読者にとって理解し記憶しやすいように,一目瞭然でわかるハンドブックのようなものを作りたいと思うようになりました。
  たまたま手にした内山恵子氏の『中医診断学ノート』(東洋学術出版社)を読み,中医内科学の内容もそのようにわかりやすくまとめることができれば学習者の参考になると考え,大学時代の中医内科学ノート,長年の臨床で得た心得や講義のレジメを整理し,関連参考書などを参照しながら,その内容を一見して理解しやすいように図や表を中心にして解説してみました。
  著者の中医学と日本語のレベルから,必ずしも理解と表記に至らない点が多々あると思いますが,中医学学習者の参考に供することができれば幸甚です。
  本書の出版にあたり,来日して以来ご指導を賜り,一方ならぬ御世話をいただいた留学先の日本医科大学内科学呼吸器・感染・腫瘍部門講座名誉教授の工藤翔二先生,教授の弦間昭彦先生,元助教授(現がん・感染症センター都立駒込病院呼吸器内科部長)の渋谷昌彦先生をはじめ,教室の先生の方々に心より感謝を申し上げます。
  また長い間,中医学の講義などにおいてアドバイスをいただき,たいへんお世話をいただいた長野県看護大学人間基礎科学講座(基礎医学・疾病学)教授の喬炎先生,本書の執筆に際して,いろいろと貴重なご意見をいただいた高橋楊子先生,日本語の表記にご指導いただき,編集にお骨折りいただきました東洋学術出版社の井ノ上匠社長にこの場をお借りして厚くお礼申し上げます。

2012年 春
鄒 大同

『[新装版]中医学入門』

[ 中医学 ]

新装版 はじめに


 本書は中医学の入門書としてすでに多く読者を得て,これまで中医学への道案内としての役割を果たしてきた。今回,第3版を上梓するにあたり,なるべく重点を押さえながらも分厚くならないことを心がけ,スリム化をはかった。さらに図は簡明でわかりやすいことをむねとし,入門者でも中医学的な考え方に入っていきやすいように要所で挿入した。過去に偉大な医学者たちが時代時代で様々な研究を重ねて臨床に基づいた理論を構築補強し,現代の中医学界でもこの流れは絶えることなく進行中であるが,いまなお中医学を学んできた医師にとってさえ疑問に思われるところが依然として多い。本書は,現時点で矛盾が少なく臨床で有用な理論を心がけ,理論倒れにならないように検討を加えた。第1版,第2版では現代医学的解釈に力をさいたが,やはり本来の中医学的な観点に基づいてよりわかりやすく説明することの方が入門する諸兄のために有益であると考え,これまでよりも中医学入門書としての原点にもどって記載したつもりである。内容的には弁証論治にいたる基礎,とくに最も中医らしい考え方である陰陽論,人体を構成する基礎物質に対するとらえかたなどは旧版とは一新している。弁証論治の応用については多くのページを割いていないので,本書で興味をもたれた方は是非とも次のステップに進まれてより上級の書物で学んでいただきたい。
 本書によって一人でも多くの読者が中医学に対する興味をもち,もう一つの治療手段として継続して学ぶきっかけになることを心から願っている。なお,本書に対する批判や疑問は当然あるとおもわれるが,さらによりよい入門書に育てていただくために是非建設的なご批判をいただければ幸甚である。

 2012年

神戸中医学研究会


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第2版 はじめに


 漢方薬が日常の診療に定着した現在,中医学も市民権を得つつある。中医学はとりつきは面倒であっても,根気よく学習すれば必ずそれだけの成果が得られるために,次第に受け入れられ滲透したと思われる。
 現在の中国では,教科書的なレベルのものはもちろん,各種の専門分野の深いレベルに至るまで,さまざまな中医学関係の書籍が次々と刊行されて,新たな発展の趨勢を示すとともに,古典の復刻も漸増しており,中国の厖大な歴史と底力をみせつけられる感がある。
 中医学は,自然界と調和しながら生命活動を営む存在として人体をとらえ,生理的・病理的な現象を注意深く観察したうえで,自然界の現象になぞらえて意味づけし抽象するとともに,自然界の事物を用いて治療を行い,抽象した内容ならびに治療の適否などを判断・評価・修正しながら次第に認識を深めてきた。そのために,「生きもの」としての人体を総合的・全体的にうまくとらえ,自然界の事物である金石・草根木皮を用いた,自然で無理のない「治療医学」の体系を形成している。医学上のさまざまな認識は,書籍として後世に残され,少なくとも2000年の歴史的経過を経て,歴代のさまざまな医家が批判・訂正・賛同・強調を行いながら評価し,現在に至っている。それゆえ,現代の場においても十分評価できる内容であることは疑いない。ただし,漏れなくすべてを継承できているわけではなく,価値ある認識が埋もれている可能性が大いにあり,新たな実践による新たな認識を得るとともに,「温故知新」による発展を心がけるべきであり,より高度の「中医学」の完成をめざす努力がはらわれることを期待している。
 西洋医学は分析的で細分化した物質面での実証を重んじ,個々の臓器・器官・組織のふるまいをもとに人間の全体を機械論的にとらえ,個別よりも普遍性に重点をおいている。それゆえ,外科や救急医学のように人間を機械として扱う面では高度の成果をあげてはいるものの,現実に悩める「生きもの」としての個人にとっては,大きな救いになるとは言いがたい。診断医学としては優れているが,「治療医学」の体系としては非常に幼稚であり,純粋な結晶といった自然界には存在しない薬物を使用して副作用を不可避的にかかえたり,いつまでたっても当面手に入れた「手段」に依存するだけの行きあたりばったりの医術しか行えていない。今後は巨大な砂上の楼閣にならないような方向性をみつけるべきであり,その大きな助けとして「中医学」が存在すると考えている。
 本書は第1版と同様に,中医学という医学大系を,できるだけ本来の面目を保ちながら整理し,西洋医学的な解釈を加えて,医師・薬剤師のための入門書とすることを意図している。中医学と西洋医学では切り口が全く異なるので,西洋医学的な病理の解釈や病名には不備が多いと考えられ,第2版編集にあたって十分配慮を加えたが,その面ではご容赦願いたい。中医学の観点に主体をおいて,医学の認識を変更し修正していく方が,今後の実りが大きくなると考えられる。できれば,本書をきっかけに中医学に本格的に参入されることを望みたい。
 神戸中医学研究会は既に20年を越える歴史をもち,この間真面目に研鑽を積んできたつもりであり,本書が医学の発展に寄与できるように念じている。ただし,なお認識の誤りが存在する可能性は否定できないので,多方面からご批判をいただければ幸いである。

 1999年

神戸中医学研究会


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第1版 はじめに


 中国の伝統医学は,現在は「中医学」と呼ばれ,我国の「漢方医学」と源を一にするものである。中医学では,統一体としてとらえた人体を基本にすえ,さまざまな病態に数多くの治療を行うことにより,歴史的な経緯を通じて評価を加えながら発展して来た治療主体の医学体系である。人体の生理・病理・病因・病態そして薬理なども,ある程度の観念論をもとにして治療実践から逆に創りあげて来た様相がみられ,また実体的な験証もあまり行われておらず,このことが現代医学を修めた我々にとって難解さを感じさせる原因となっている。しかしながら,治療を通じたアプローチであるがゆえに,分析的・細分化的に進行して来た現代医学が求め得なかった全体観を持つことができ,診断と治療の直結という有利な面も生じている。少なくともこの面に関しては,医学の将来に対し大きな展望を与えるものと確信している。
 最近の中国におけるさまざまな研究から,中医学の提示しているものが単なる観念論や対症療法ではなく,人体のもつ本質的な機能や状態をうまくとらえ,これを改変しうる体系的医学であるという証拠が示されつつある。今後の研究の進歩とともに,ますますこの面での評価が高められるものと考えている。
 日本においても「漢方医学」としての古い伝統があり,数多くの先人が中国の伝統医学を輸入し継承発展させ,現在も続いて存在している。ただし,体系的医学としての認識は十分でなく,社会的・歴史的な条件の制約もあって,日本流の解釈となってしまっており,中医学とはやや様相を異にしている。とくに,生理・病理・薬理に関する基礎理論があいまいで,中医学の基本とする「弁証施治」はほとんど行われてはいない。こうした面から,一部の人達から「対症療法」にすぎないという評価を受けることにもなっているものと推察される。
 本書は,中医学という医学体系を,できるだけわかりやすく整理し,かつ現代医学的解釈を加えて,医師・薬剤師のための漢方医学入門書とすることを意図したものである。基本にしたものは,「中医学基礎」(上海中医学院編・神戸中医学研究会訳・燎原書店),「中医学基礎」(北京中医学院主編・人民衛生出版社),「中医臨床基礎」(翟明義編・河南人民出版社),「中医基礎学」(浙江省〈西医学習中医試用教材〉編写組・浙江人民出版社),「新編中医学概要」(広東省衛生局他編・人民衛生出版社),「中医学」(江蘇新医学院編・商務印書館),「実用中医学」(北京中医医院他編・北京人民出版社)で,このほか種々の論文を参考とした。
 我々の中医学および現代医学に対する認識は不十分なものであり,当然多くの誤りがあるものと考えられる。また,現代医学的な解釈についても推論にすぎない面が多い。本書は中医学を現代医学に応用するための初歩の試みであると考えている。多方面からのご批判をいただければ幸いである。

 1981年7月

神戸中医学研究会

『[新装版]中医臨床のための中薬学』

[ 中医学 ]

はじめに


 中医学の弁証論治は日常の臨床において不可欠であり,学習を深め経験を重ねるにつれて重要性がよくわかり,認識が深まるとともに治療効果も高まっていくことは,紛れもない事実である。病因・病機を把握したうえで当面の病態を明確に弁明し,弁証にもとづき予後もふまえたうえで的確な論治を行うことが理想であり,確実かつ十分な治療効果をあげるには,適切な薬物を選択して治法に則した適確な処方を組むことがとくに大切である。そのためには,薬性理論を把握したうえで,個々の薬物の効能と適用を十分に知っておく必要がある。
 中医学は西洋医学とはまったく系統の異なる医学であり,臨床という具体的な場から抽出され,数千年の歴史的な検証を通じて取捨選択を受け,抽象することにより体系化された「治療医学」とみなすことができる。進歩した現在の西洋医学であっても包括しきれない巨大な内容をもち,実際から出発して抽象を重ねた体系であるために,医学的認識としては西洋医学よりもはるかにすぐれた「将来の医学」といえる姿を備えており,「偉大なる宝庫」と呼ばれるゆえんである。このような中医薬学を,単に西洋医学的に解釈し評価して使用しても,新たな治療手段が加わるだけで,中医学のもつ本来の内容や価値は利用されないままであり,大きな意味は持ち得ない。中医学を真摯に研究し学習して正しく把握し,臨床を通じて十分な成果をあげることが,新たな観点に立脚した医学としての新展開をもたらし,新しい医学の創造につながると考えられる。
 1979年に神戸中医学研究会が翻訳上梓した中国・中山医学院編『漢薬の臨床応用』は,その当時の日本においては非常にすぐれた画期的な漢薬(中薬)の解説書であり,熱狂的に迎えられて版を重ねてきた。中医薬学の初学者にとっては現在でも十分に価値があり,当書によって目を開き中医学の研鑽を積んでこられた諸氏も多いと聞く。ただし,中医学の学習がある水準にまで達すると,当書が西洋医学的にかなり咀嚼されているために,かえって日常の中医臨床と結びつけ難く,困惑することに気づく。中医学の理論にのっとった中薬の解説書が望まれるゆえんである。


 本書は,『中薬学』(周鳳梧主編,山東科学技術出版社,1981年),『臨床実用中薬学』(顔正華主編,人民衛生出版社,1984年),『中草薬学』(上海中医学院編,商務印書館,1975年),『中医方薬学』(広州中医学院編,広東人民出版社,1976年)の記載を主体に,他の中薬関係の書籍を参考にして編集している。内容は以下のようである。
 総論では,中薬の簡潔な歴史から始まり,薬物の治療効果と密接に関わる薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)を述べ,薬材の加工と薬効の改変に関連する炮製・剤型の具体的内容と意義を示し,さらに用量と用法を解説している。
 各論では,薬物を主な効能にもとづいて章節に分類し,各章節に概説を付すとともに,それぞれの薬物について,さし絵を付し,[処方用名][基原][性味][帰経][効能と応用][用量][使用上の注意]を述べ,適宜に関連する方剤例を示している。なお,中薬の効能と適用については,経験にもとづいた独特の薬効理論と特殊な中医病名が総括されており,的確な解説や解釈ができなかったり,誤った解説をしたり,応用の記載が欠落している可能性があるので,とくに[臨床使用の要点]の項目を設け,中医学特有の理論を示している。これが本書の特色であり,最も重要な部分であるところから,とくに点線で囲み強調している。
 なお,薬物の[基原]については金沢大学薬学部・御影雅幸教授の参加をいただき,現在の日中両国の現況をふまえたうえで,従来には見られない斬新な解説を行っている。さし絵は和漢薬研究所・橋本竹二郎氏の労作である。


 本書の主な内容は,1992年の出版以来,幸いにして多くの読者を得て版を重ねており,われわれのめざした方向は正しかったと考えている。しかしながら今なおわれわれの経験や水準に限りがあるために,誤りや未熟な点が混入していると思われる。読者諸氏の御批判・御訂正をいただければ幸甚である。


神戸中医学研究会 

[新装版]実践漢薬学

[ 中医学 ]

新装版発行の辞


 本書は平成16年刊『実践漢薬学』(医歯薬出版株式会社)の新装版である。再刊にあたっては,旧版の不備を訂正し,難解といわれる東洋医学用語の解説をより充実させた。執筆意図と本書の特色は,旧版の序に記したのでここに再録する。特に漢薬の類似点と相違点の比較は他書にはない特色と自負している。漢薬一味一味の理解は,エキス剤を含めた方剤の深い理解に役立つといえる。東洋医学診療に本書を活用していただければ望外の喜びである。

  平成23年 元旦
清純なる光に 永遠の輝きを祈し日に
三浦於菟 


序(旧版より抜粋)


 薬を用いるは,兵の如くせよ。人口に膾炙されたこの言葉を引用するまでもなく,漢薬の効能を自家薬籠中の物とする事が,臨床に於いて重要であることは言うまでもない。一人一人の性格を知ることが,方剤という集団の理解につながり,的を得た運用を可能にするからである。漢薬の効能の理解は,漢方エキス方剤の理解にも役立つ訳である。
 たが漢薬の学習には,困難さを伴う事も事実であろう。その原因として,常用だけでも約100種という漢薬の多さ,独特の東洋医学用語の難解さ,理解しやすい漢薬学書の少なさなどがあげられよう。本書はこれらの原因を克服すべく書き記した漢薬の入門書であり,臨床の場ですぐに役立つ実践書である。
 入門書として必要なことは,理解が容易なことである。そのために以下に配慮した。翻訳調を廃し自国語を用い,筆者の自らの言葉で簡潔な記述を心がけた。適時東洋医学の病態理論を解説した。学術用語には本文中や巻末に解説を設け,更に分類表や図などを多用することで理解を容易にしたなどである。
 実践書で重要な事は,その病態にどの薬物が適当かを判断できる事である。そのためには,それぞれの漢薬の効能や性質などの特徴を理解把握する必要がある。そこで本書では,各漢薬の類似点と相違点という観点から解説することで,漢薬の特徴の明確化を試みた。具体的には,表形式を採用し類似薬物の類似点・相違点を記述する,各漢薬の特徴を一言で言い表す,漢薬効能をまとめて比較するなどである。本書は,筆者が臨床で使用しても充分に耐える書物を目指したつもりである。
 ここで本書の成り立ちにつき説明したい。本書の土台は,筆者が留学していた南京中医学院(現南京中医薬大学)での中薬学教研室陳育松先生の中薬学の講義とその講義録である。この講義録を基とし,平成10年3月より行った日本医科大学東洋医学科月例研究会の実践漢薬学の講演資料を作成した。この講義資料は『漢方研究』紙上ですでに発表した。この講義録と講演資料を大幅に加筆修正し,さらに南京中医学院編の中薬学の教科書を底本として参照しつつ出来上がったのが本書である。
 本書は,筆者の南京中医学院への留学がなければ完成せず,いわば陳育松先生を初め多くの南京中医学院諸先生方との共著ともいえるものである。親愛に満ちたご指導を賜った諸先生方に,衷心より感謝の念を捧げたい。

平成15年10月24日
江南の地,南京の空を思わせる碧空の日に記す
三浦於菟 


中医鍼灸、そこが知りたい

[ 鍼灸 ]

 はじめに
 
 十三年前、東洋学術出版社社長・山本勝曠氏に新宿の喫茶店に呼び出され、季刊誌『中医臨床』への連載依頼を受ける。
 表裏ふたつのお題を頂戴する。表の顔は「初級者のレベルアップ」であり、裏の課題として「教科書中医学の打破」が与えられる。
 汗をかきながら真剣に語る山本社長の顔が非常に遠くに見えたことを鮮明に記憶する。
 他誌に連載をもっていたとはいえ、三十代の半ばの奴がやる仕事としてはいささか荷が重く、他に適任者がごまんといるだろうにという思いが強くある。まだまだ顔じゃない私で大丈夫なのだろうか? という心境であった。
 当時、編集部にいた戴昭宇氏(現・東京有明医療大学助教授)の強い推薦もあり、引ける状況にはなく渋々承諾はする。ただ「教科書中医学の打破」という難問は、器を超えた課題と自覚するため、不安が先行する形でのスタートとなった。
 当時は中医鍼灸の定着期である。導入期ではないにせよ、まだまだ中医鍼灸と他流派の比較論が花盛りで、色々な場所に出向いては言語規定の明確さや中医の論理性の高さなどを伝えなければならない。端から喧嘩を仕掛けてくる者もいる。二、三度攻撃されれば、鈍い筆者であっても相手の意図が読めてくる。
 そんななかで生まれたのが「教科書中医学」という造語である。誰が言い出したかは定かではないが、理屈ばかりで腹の上で臨床をしていないという批判を端的に言い表した言葉がこの「教科書中医学」であった。
 自身、教科書中医学といわれても、患者のからだに聞かない臨床などあるわけがないと思っており、どうしてそう言われるのかな? と不思議で、せいぜい論理性が高いぶん、技術ウェートが低くても成り立ちやすいというくらいの認識でしかない。これでは打破するための戦略・戦術など立てようがない。
 連載途中で、定着期の常である初級レベルの者が圧倒的多数を占め、中級以上あるいは教育者が極めて少ないことに由来する一時現象であると気づく。過渡期という言葉が最も適当といえようか。人口比率に喩えれば、若者が多く、中年以降は少ないのと同じであり、時間とともに死語になるだろうと予測し、気持ちがずいぶん楽になる。
 新しい学問は導入、定着、発展、継承という順で進む。近代で伝統医学の断絶がある以上、現代中医学は新しい学問として導入されることになる。個人としては入門、初級、中級、上級の道を歩む。
 当時、初級を三歩出て、中級に片手が届くかどうかという時期にあるという明確な自覚を持つ。
 ならば自身がやってきたことを整理し伝え、皆で中級に行きましょうという姿勢に立てば、表裏両課題が一挙に解決すると考えた。
 もちろん個の力はたかが知れている。そういう意識をもった仲間を増やせば加速度が増すとも考え、七人の志を同じくする者と三旗塾を立ち上げる。
 折しも立ち上げて十年の節目を迎えた今年、現編集長・井ノ上匠氏から修正を加え出版するという話しをいただく。忘れずに読み返してくださったことに感謝の意の表す次第である。
 
   二〇一〇年十一月 

[チャート付]実践針灸の入門ガイド

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日本語版序


 私は1980年代中頃より,北京中医薬大学において針灸の教鞭を執り,教育者として学生に対し針灸の理論および技術手順の講義を行ってきた。さらに,学生が教室における講義から現場での臨床へと,すみやかに移行できるようサポートし,患者の診察・治療という実際の業務において,彼らが中医学の針灸理論を的確かつ柔軟に運用できるよう指導してきた。
 そのなかで,針灸臨床における私自身の実践のなかから比較的有効な病例を取り上げて,教室での討論に用いることを試みてきた。各病例の弁証的思考の分析を通じ,学生が中医学における思考方法を理解・修得するためである。彼らの中医学の弁証論治および針灸治療プラン設定のレベルアップをはかることができればと願ってきた。
 この試みの結果,学生らの成長はめざましく,この指導方法は彼らからも好評であった。野口創氏(奈良・登美ヶ丘治療院 院長)は,この指導を受けた学生の1人である。さらに多くの学生がこの指導方法の恩恵を受けることができるよう,私と朱文宏氏らが共同で本書を執筆した。
 2004年から2005年の期間,私と私の同学の仲間によって,北京市など14都市99名の針灸科主治医師以上のスタッフに対し,「針灸臨床人材市場の需要に関するアンケート」を実施した。このアンケートのなかで,「針灸医師はどのような職業的資質を備えているべきか」という質問を加えたが,調査の結果,7つの職業的資質のうち「針灸の技術的能力を備えているべきである」が最も多く,「中医学的思考を備えているべきである」が2番目であることがわかった。ここからも,針灸医師にとって「針灸の技術的能力」と「中医学的思考」がたいへん重要なものであることがわかる。
 このたび,野口創氏が翻訳を担当して,『実用針灸医案表解』の日本語版が出版されることになった。私は,本書が日本の鍼灸師をめざす方々の学習をサポートするものとなることを心より願っている。と同時に,日本の多くの患者さんが彼らの針灸治療による恩恵を受けることができるよう願っている。
 最後に,読者の方々が本書を利用するにあたり,一般的な読み物としてご覧いただくほか,自己研修のための学習書として利用されることをお薦めしたい。例えば,病例に対して,中医学針灸理論の知識を応用し,まず自身で病例分析を行ったうえで,われわれが提供した病例分析の内容を参考にするという方法や,いくつかの個別の病例を先に読んだ後,再度,自身で病例分析を実施するという方法である。すでに中医学の弁証法と針灸の診察・治療について基本的な知識を備えた学生であれば,10から20の病例の分析トレーニングを行うことで,比較的正確な分析を行うことができるようになるだろう。

朱 江
  2010年1月26日 北京にて

 

『漢方診療日記―カゼから難病まで漢方で治す―』

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『漢方診療日記』風間医院



 みなさん、当医院にようこそ。毎日漢方医学にひたりきって、嬉しそうな顔をしている私は、小さな町のホームドクターです。いろいろな訴えをもって来院される患者さんの前で、毎回どう処方したらよいのやらと、本当に悩みます。悶え苦しむ私の姿が、一日の診療のなかで何度も見られます。当院スタッフである妻や薬剤師のYさんには、ときどき私の大きな溜息が聞こえるようです。

 これから皆さんに、当院の診療風景や治療内容を見ていただき、ぜひ皆さんからも教えていただいて、一緒に学んでいければ最高です。そろそろ開院の時間ですね。診療を始めましょう。

 

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