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▼書籍のご案内-序文

名医の経方応用-傷寒金匱方の解説と症例

[ 中医学 ]

この本を推薦します


東京臨床中医学研究会
平馬直樹


 張仲景の著したとされる『傷寒論』と『金匱要略』は,弁証論治の聖典として,中国でも日本でも重視されてきた。この両書に収載される処方,すなわち経方は,歴代の医家に使い継がれて,現代の医療にも大いに活用されている。経方は打てば響くようなはっきりとした治療効果があり,経方の運用に習熟することは,治療技術の向上に必須のことといえる。  本書の特徴は,経方諸方剤(約160方)を桂枝湯類・麻黄湯類・瀉心湯類など類方ごとのグループに分類し,順次解説を施していることで,このような整理法は,吉益東洞の『類聚方』,徐霊胎の『傷寒類方』と同様のもので,こういう書を座右に置くことは,『傷寒論』の六経の伝変に対応する用薬法と,『金匱要略』の各篇の治療方針のあらましを身につけている者にとって,臨床の応用にすこぶる便がよいといえる。東洞の『類聚方』やその解説書である尾台榕堂の『類聚方広義』が江戸時代以来広く読まれているのも,臨床応用に便利だからである。本書は同類の経方解説書にくらべて,解説がていねいで,ことに処方の構成生薬一味一味に詳細な説明が施されている。例えば,「四逆湯」の項に附子の解説が付されているが,経方の附子の運用が古典医書の記載,著者の経験も含めて全面的に述べられており,教えられるところが多い。  各方ごとに,適応証・方解・応用が述べられ,すぐに臨床に役立てられる。また,適宜症例が付されているが,収録される症例は222例に及び,症例ごとに簡にして要を得た考察が加えられているのがありがたく,これらをじっくり味読すれば,経方の運用能力に大いに裨益するであろう。  この書は,高名な上海の老中医である姜春華教授の講義録を整理・加筆して編まれた。著者の姜春華教授は,臨床にも著述にも,また腎の本質の研究など,研究指導の面でもすぐれた業績のあるオールラウンドの名中医で,『傷寒論』研究にも造詣が深い。本書では,方解などに清代の柯韻伯・尤在涇・喩嘉言・王旭高ら,近代の陸淵雷・祝味菊ら多くの『傷寒論』研究者の学説が紹介され,歴代の研究成果が密度濃く凝集されている。臨床応用は主に姜教授自身の臨床体得にもとづいて記載されており,簡潔ながら的を突いた味のある解説となっている。通読しても経方の応用能力を向上することができるであろうし,診察室に備え,必要に応じて引いても便利である。  このような良書が翻訳され和文で読めることは,たいへんありがたい。名古屋の漢方界の重鎮,故・藤原了信先生,藤原道明先生と天津から来日されている中医師・劉桂平先生のご努力で翻訳された。3先生の労に感謝したい。藤原了信先生は,日中の医学交流や中医学の日本への導入に熱心に取り組まれた先駆者であられたが,本書の上梓を前に急逝された。まだまだ漢方界のために活躍していただきたかったが,返すがえす残念でならない。先生の遺作となった本書は,これから日本の漢方家に学習され,活用されていくことであろう。経方運用の座右の書として,すべての漢方臨床家に本書を推薦したい。

訳者からみる著者・姜春華
――西洋医も納得させた名老中医――

名古屋市立大学薬学部客員研究員
劉桂平


 姜春華先生は1960~80年代に活躍した著名な老中医の1人である。中医学を継承し,なおかつ発展させるというバランスがうまく取れた先生で,革新派に属される。伝統中医学の長所を生かしながら,新しいものを創造していくことを重視され,特に肝疾患の治療と活血化?の研究で有名である。  姜先生は,早くも60年代から,弁病と弁証の結合を提唱されていた。疾病を正しく認識するには患者の症状や舌,脈の分析だけでは不十分だという。たとえ弁証論治に従って治療し,症候が改善しても,検査値の異常が改善していない場合もある。例えば,慢性腎不全の治療で,むくみや尿不利などが完全に解消されたとしても,検査をすると尿蛋白が続いているといったことがよくある。そのため,先生はより確かな臨床効果を得るために積極的に西洋医学の検査技術を導入された。  姜先生が勤務されていた上海第一医学院附属病院は西洋医学のレベルも高く,院内の西洋医を納得させるだけの治療効果を上げる必要があったという。そのためには客観的な証拠である西洋医学の診断が不可欠だった。そして,先生は西洋医学で治らない患者ばかりを治療して,なみいる西洋医らを驚かせる実績を上げ,全国からの注目を集め,非常に高い評価を得たのである。  例えばこんなことがあった。あるとき,肝硬変による腹水のために入院してきた40代の患者があり,西洋医学のさまざまな治療を試みたが,まったく効果がみられなかった。その患者は姜先生が診察されるまでは病状が悪化する一方であったが,先生が診察されて,十棗湯(『傷寒論』)と下?血湯(『金匱要略』)の合方方剤を用いたところ,腹水を便とともに排泄し,尿量も増え,病状を劇的に改善させることができた。その後,肝脾を整える処方を応用したところ,最終的に自覚症状もなくなって,この患者は無事に退院していった。このような治療経験が数多くあったのである。姜先生は西洋医とともに共同して研究した期間が長く,中医学の真髄を西洋医にも理解しやすいように中医学教育や臨床・研究に務められた。  本書は,『神農本草経』や『名医別録』などの文献を引用しながら生薬の効能と処方を詳しく分析して,さらに現代薬理学の研究成果も加えて処方の総合的な効果を明らかにしている。また,経方の理論を解説するだけでなく豊富な症例をあげることで,実践を通じた処方の理解と応用方法にヒントを与えてくれる。本書を読めば,『傷寒論』と『金匱要略』の処方を組み立てる発想を十分に理解できるばかりでなく,姜先生の経方の活用方法に学ぶことで,煎じ薬はもちろん,日本のエキス剤処方も柔軟に応用できるようになるはずである。

医古文の基礎 【略歴】

[ 中医学 ]

編著者略歴

劉振民(りゅう・しんみん)
 1935年江蘇省生まれ。1959年華東師範大学中文系卒。同年北京中医学院医古文教研室に入る。「文選」と「版本と校勘」を担当し、当時は講師。現在、北京中医薬大学教授。著書に『実践与探索』『中医師資格考試必読医古文』などがある。


周篤文(しゅう・とくぶん)
 1934年湖南省生まれ。1960年北京師範大学中文系卒。同年北京中医学院医古文教研室に入る。「目録学」と「工具書」を担当し、当時は教研室主任。現在、中国新聞学院教授。著書に『宋詞』『宋百家詞』『中外文化字典』などがある。

銭超塵(せん・ちょうじん)
 1936年湖北省生まれ。1961年、北京師範大学中文系卒。陸宗達教授に師事し、文字学・音韻学・訓詁学・考証学を学ぶ。1972年北京中医学院で「医古文」を講義する。「語法」と「古韻」を担当し、当時は講師。現在、北京中医薬大学教授。博士課程指導教授などを兼務する。著書に『黄帝内経太素研究』『内経語言研究』『傷寒論文献通考』などがある。

周一謀〔周貽謀〕(しゅう・いつぼう)
 1934年湖南省生まれ。1960年、北京師範大学中文系卒。「訓詁常識」と「古籍の語訳」を担当。現在、湖南中医学院教授。著書に『中国医学発展簡史』『偉大的医学家李時珍』『歴代名医論医徳』『馬王堆医書考注』などがある。

盛亦如(せい・えきじょ)
 1935年浙江省生まれ。1959年、華東師範大学中文系卒。中国中医研究院で中医文献研究に携わり、「常見虚詞」を担当。現在は北京中医薬大学教授。全国高等中医薬教育研究中心特約研究員を兼務する。共著に『中国医学史』『中医与中国文化』などがある。

段逸山(だん・いつざん)
 1940年上海市生まれ。1965年、復旦大学漢語言文学専業卒。高等中医薬院校教材『医古文』(人民衛生出版社)の主編。現在、上海中医薬大学教授。同大学図書館館長。医古文教研室主任。

趙輝賢(ちょう・きけん)
 高等中医薬院校教材『医古文』の副主編。漢字学を担当。

編訳者略歴

荒川緑(あらかわ・みどり)
 1958年生まれ。1986年、東洋鍼灸専門学校卒。日本内経医学会医古文講座講師。代表的論文に「『素問識』引用文の検討」があり、編著に『翻字本素問攷注』がある。

宮川浩也(みやかわ・こうや)
 1956年生まれ。1981年、東洋鍼灸専門学校卒。日本内経医学会会長。北里研究所東洋医学総合研究所医史学研究部客員研究員、大東文化大学人文科学研究所学外研究員。代表的論文に「『史記』扁鵲倉公列伝研究史」があり、編著に『素問・霊枢総索引』『翻字本素問攷注』などがある。

針灸学[手技篇]【序文】

[ 鍼灸 ]

自序

 針灸学は中国医薬学の貴重な遺産の1つであり,その源は上古の時代にさかのぼることができ,悠久の歴史を有している。針灸はその適応症が広く,効果は顕著であり,また操作が簡便で容易に習得でき,経済的かつ安全性が高いという特徴があり,非常に多くの人から歓迎されている。
 この中医伝統針灸医学の継承と発揚を行い,またより多くの医療従事者が針灸医術を習得して健康事業に寄与するならば,人類に大きな幸福をもたらすことができる。
 私は先父毓琳公の気功,針灸真伝および先父の中国中医研究院針灸研究所第3研究室主任時の遺作,私自身の40年にわたる針灸臨床,研究,教育の経験にもとづき,さらに前人の針灸各家手法や先進的な経験を吸収し,1978年と1983年にそれぞれ『針灸集錦』と『子午流注と霊亀八法』を著し,中国甘粛人民出版社から出版した。これらは1984年8月に北京で開催された中国針灸学会第2回針灸針麻酔学術討論会において,国内外の専門家から重視された。
 このたび,学校法人・後藤学園学園長である後藤修司先生および東洋学術出版社社長山本勝曠先生の温かい友好協力および御提案にもとづき,手技に関する本著を日本において出版するはこびとなった。ここでは主として伝統的な針灸手法,とりわけ焼山火,透天涼をはじめとする伝統的手法の具体的操作を写真と図説により紹介し,さらにその適応症について紹介した。臨床において多くの針灸従事者の参考にしていただきたい。
 なお執筆,編集にあたっては兵頭明先生および厲暢女史の熱心な協力があった。ここに心より感謝の意を表す。

鄭 魁 山
1989年9月 甘粛中医学院にて



序文

 中国は針灸の発祥地である。2000年以上も前に中国の古代医学家は,『黄帝内経』,『黄帝三部針灸甲乙経』を世に著し,中国医薬学,針灸学の理論的基礎とその基本的方法を確立した。これは針灸の伝播,研究の典籍とされている。針灸は今日世界人民に受け入れられており,世界医学の構成部分となることにより,いっそうの発展をとげている。
 数千年来にわたる歴代の医学家の長期にわたる医療実践により,豊富な臨床経験と理論知識が蓄積されている。針灸学術の発展につれて,その理論と経験は,系統的に整理,発掘,向上がはかられなければならない。甘粛中医学院の鄭魁山教授は,曾祖父から4代にわたり伝承・伝授されてきた針灸医療の貴重な経験と自身の多年にわたる経験にもとづいて,手技に関する本著を著している。その内容は非常に豊富であり,資料は詳細で確実であり,さらに図説を加えている。また家伝手法の密なるものをも紹介している。本著の出版は針灸学術の発展および針灸による臨床効果の向上,さらには医学における国際交流の促進のすべての面において,必ずや大きな影響をもたらすことであろう。とりわけ本著の内容は臨床教育ならびに科学研究にとっても参考となり,中国伝統針灸の大いなる発揚に貢献するものである。
 中医針灸は,今日まで中華民族の健康ならびにその繁栄に対して重要な作用を果たしてきたが,今こそ針灸が世界人民の健康ならびに幸福のために貢献することを心より希望する。

胡 煕 明
1989年12月12日

針灸学[経穴篇]【序文】

[ 鍼灸 ]

序にかえて

 臨床における,五感のフル活用による細心の患者観察の重要性については,これまでのシリーズ(『針灸学』[基礎編](初版2版)と[臨床編]の序文で度々指摘してきました。
 「経穴」とは,まさしくこのような先人による細心の患者観察の集積が基礎となり体系化されてきたものであろう。体の中の変化,それも器質的なものはもちろん,機能的変化をも投影していると思われる体表面の微妙な変化を的確に捉えた,その観察とひらめきの鋭さ,及びそれらを体系化した理論性には,ただ脱帽するものです。
 鍼灸治療の基本ともいうべき経穴に関する類書は沢山ありますが,この度の出版はこうした先人の経験に加えて,さらに現代中国における臨床成果の枠をも盛り込んだものです。また,前述の先行出版と同じく,日本の臨床現場で役に立つように,中国と日本が共同編集したものであり,いわゆる翻訳本とは違う読みやすさを持っています。
 ただ,生きている人間を対象とする「臨床」は,ダイナミックなものです。
 人間の生命・生存・健康を考える時,大切なことは,現象との遊離をした理論のための理論は必要ないということです。本書を教条的に使うことなく,常に,現象からのフィードバックと基礎理論との関連から,何故この経穴を使うのか? 何故この経穴に意味があるのか?という疑問を持ちつづけ,自ら考えるという医療人としての姿勢が大事かと思います。
 世界的規模で期待が広がっている鍼灸臨床の可能性を,さらに確実にするために,本書がお役にたてればこの上ない喜びです。大いに活用していただきたいと思うものです。

学校法人 後藤学園 (東京・神奈川衛生学園専門学校) 学校長
後 藤 修 司

針灸学[臨床篇]【序文】【本書を学ぶにあたって】

[ 鍼灸 ]

まえがき

 臨床にたずさわる者には,常に心しなければならないことがある。それは,臨床評価学の導入と臨床判断学の導入である。
 臨床評価学とは,確実に効果をあげ,何故効果があったのかを常に考えること,あるいは,何故効果が無かったのかを考えることである。
 臨床判断学とは,常に,もっと安全で効果のある,また患者への負担の少ない治療方法はないものかと模索し続け,現時点で最良の方法を選ぶことである。
 確実な「技術」と「考える」習慣とをいつも持ち続けていることが重要となる。実際の患者の様子や病態は千差万別であり,この「考える」力がないと,臨床能力はある一定の所で停滞してしまう。そして,さらに重要なことは,独善ではなく理論的な「科学的」思考で考える習慣を身につけなければならないということである。ともすると,伝統医学的取り組みによって,臨床にあたろうとする時,独善的思考に陥ってしまうことが多々ある。それは,現代医学的臨床アプローチと異なり,共通的評価基準を設定しにくいことがその要因と思われる。
 もう1つの落とし穴は,論理にふりまわされ,実際の現象よりも論理性に力をそそぎすぎてしまうことによる教条的な姿勢である。細心の患者観察が大切な所以である。
 本書は,これらのことに対して1つの解決策を提案している。
 伝統医学の原点に帰り,実際の臨床を通して整理体系化しようとしている現代中国の弁証論治を取り入れ,翻訳ではない新たな書きおこしをを,天津中医学院と後藤学園とで,日本のはりきゅう治療に役立つよう編集したものである。
 本書は,臨床の際の「考える」基礎の助けとなるものである。臨床の実際をどう解釈し,どう対応したらよいかを考えるための羅針盤の役割を十分に果たすことができるものと確信している。細心の患者観察とあいまって,本書を有効に活用し,伝統医学として培われてきた「大いなる遺産」に,臨床家を志す多くの皆様の努力によって,新たなる光を与えて戴くことを願うものである。

天津中医学院院長
戴 錫 孟
学校法人後藤学園・学園長
後藤 修司
1993年8月


本書を学ぶにあたって

1.本教材の位置づけ
 ここに日中共同執筆という形で,『針灸学』[基礎篇]に続いて針灸のための中医学臨床テキストが完成した。本書は,日本での新しい東洋医学教育の課題と目標を踏まえながら,中国の協力を得て,日中共同で編集したものである。これは針灸のための東洋医学テキスト・シリーズの第2部であり,『針灸学』[基礎篇]で学んだ東洋医学の生理観,疾病観,診断論,治療論にもとづいて,これら東洋医学独自の考え方をどのように具体的に臨床に応用していくかを呈示したものである。  この東洋医学テキスト・シリーズは,東洋医学的なより適切な病態把握,より有効な臨床応用,そして自分の頭で東洋医学的に考えられる針灸臨床家を育成する目的で企画されたものである。第3部として現在,『針灸学』[経穴篇]の製作を行っているが,その具体的な応用は,本書[臨床篇]の総論にある針灸処方学,さらに処方例,方解,古今処方例から,その片鱗をかいま見ることができる。[基礎篇],[経穴篇]は,[臨床篇]のためにあり,したがってこれらを統合したものが[臨床篇]である。本書は『内経』から今日にいたる歴代の多数の医学書,医家の説を参考にし,今日の針灸教育と針灸臨床にスムーズに適応できるよう,要領よく,かつ理論的に整理してあり,いわば伝統医学の精髄を継承したものといえる。

2.本書の組み立て,内容,学習の方法
 本書の組み立ては,日常よく見られる92の主要症候について,まず「概略」を述べ,ついでその「病因病機」,「証分類」,「治療」,「古今処方例」,「その他の療法」,「参考事項」について述べている。本書の内容は,『針灸学』[基礎篇]で学び,そして培ってきた東洋医学独自の生理観,病因論,病理観,病証論,診断論,治療論をトレーニングできるように組み立てられている。  「病因病機」の部分は,『針灸学』[基礎篇]で学んだ生理観,病因論,病理論を応用したものであり,これを通じて[基礎篇]の内容をトレーニングすることができる。また「証分類」の部分では,[基礎篇]の病証論,診断論を応用したものであり,ここではそれぞれの主症の特徴,それぞれの随伴症の特徴,それぞれの舌脈象の特徴を相互に比較しながら学びやすいように配列してある。弁証は病因病機をふまえた鑑別学であり,ここでは主として病理論,診断論のトレーニングができるように,それぞれに証候分析を付した。  「治療」における処方例については,その治法にもとづき例示したものであり,けっして固定した処方ではない。ここではこの処方を暗記するのではなく,この処方がどのような考えにもとづいて構成されており,これによりどのような治療目的を果たそうとしているのかを学習トレーニングすることにポイントがある。また病態の変化に応じて,どのように処方構成も変化させていかなければならないかを学習する必要がある。方解を参考にしていただきたい。  また「古今処方例」は,現在にいたるまでの東洋医学継承の連続性をはかる目的で,『内経』の時代から今日にいたるまでの歴代医家の多くの臨床経験を例示したが,読者の臨床にも役立てていただきたい。  「その他の療法」では,主として耳針と中薬による治療を例示した。最後に「参考事項」においては,主として注意事項,養生などについて述べ,参考に付した。  本書の学習にあたって重要なのは,本書を読んでいくのではなく,本書を自分の基礎,臨床トレーニングにどのように活用していくかにあると思われる。この習慣と態度が培われていけば,そして自己トレーニングができれば,教条的に本書に書かれてあるとおりに臨床を行うのではなく,「自分の頭で東洋医学的に考えられる針灸臨床家の育成」,そして「有効な臨床応用」という本企画の主目的を達成することができると思われる。東洋医学的に自分で観察し,自分で考え,自分で臨床に取り組み,自分で解決することができる針灸臨床家になるために,本書が役立つことを願うものである。

天津中医学院副教授
劉 公望
学校法人後藤学園中医学研究室室長
兵頭 明

針灸学[基礎篇]【序文】

[ 鍼灸 ]

改訂版のための序文

 1991年5月に出版された『針灸学』[基礎編]が増刷を重ねて,今回,さらに読みやすく配慮されて改版されることとなった。多くの方々に読んでいただけたことは関係者一同望外の喜びであるとともに,責任の重さを感じている。
 初版の序で,現代中医学弁証論治の意義について,「直観的思考形態である伝統医学の神髄を学ぶためにも,論理的思考,つまり科学的思考形態が必要であり,その試みの1つである」と述べた。
 病そのものだけを診るのではなく,「病」と「病になっている人間」との関わり,病がその人にどんな変化を与えているのかに注目をして病態把握を行い,自然の原理にそった方法論を用いて,人間が本来持っている治癒力を発揮させて病を治すと考える中国伝統医学は,本質的に全人的な視点が必要となる。また,感情ある生体を対象とするゆえに,ダイナミックな視点も不可欠である。教条的な論理的思考に陥ることなく,常に動いている人間を的確に把握するためには,本書で述べている基礎的理論の常に臨床現場からのフィードバックを心がけるべきであると思う。その際,大切なことは「自ら考える」ということ,そして「自ら観察する」こと,つまり五感をフルに活用して対象である人間を徹底的に観察し,現象をしっかりとらえることではないかと思う。
 社会が求める医療へのニーズが変化してきている今日,多くの可能性を秘めた中国伝統医学の神髄を,日常臨床の中で大いに発揮されることを心から願うものです。

学校法人後藤学園学園長
後 藤 修 司



初版の序文 

 今,保健医療は大きな転換点にさしかかっている。はりきゅうに関しても,昭和63年の法律改正に合わせ,平成2年度から新カリキュラムが施行され,国民の保健医療福祉の向上のためにより一層貢献できる,より資質の高いはりきゅう師の誕生が期待されている。それは,専門家として,一定レベルの知識・技能とふさわしい態度をもち,それらを常に自主的に高める意欲をもった者といえるであろう。具体的には,学んだ現代医学並びに伝統医学の知識を,診断・治療という技能を発揮する中で統合し,人間学の実践として臨床にあたりうる専門家が望まれているということである。そして,これからはさらに,はりきゅう師がぜひとも備えるべき態度として,「科学的」にものを考えることが重要になると思われる。
 東洋的といわれる直感的思考形態によって組み立てられた伝統医学の真髄を学ぶためには,自分の直感を養うことが大変に重要であるが,そのことにのみとらわれてしまうと,いつまでたっても臨床ができないという落とし穴に落ち込んでしまう恐れもある。その直感をしっかり養うためにも,科学的思考つまり論理的思考をもつ必要がある。
 ともすると,伝統医学を学ぶとき,科学技術へのアンチテーゼから,科学的思考形態をも捨て去ってしまうことがある。悪しき科学アレルギーといわざるをえない。
 一方,伝統医学が使う言葉(記号),あるいは表現しているもの(例えば気血等)が,現代科学的言葉(記号)ではないか,または,現代医学的に実証されていないということだけで,その認識論をも非科学的と片づけてしまう考え方もある。現象論レベルの科学をわきまえない悪しき科学教条主義といわざるをえない。
 この2つの科学への悪しき態度が,臨床現場に時として混乱を与え,迷いをもたらすことがある。はりきゅうの専門家として「科学的」態度を養わなければならない所以である。
 例えば,簡単なことで言えば,ある症状,ある脈状の変化が現れているときに,それが身体の中のどういう変化によって起こっているのかについて,常に考えられること,また,自分の行なう治療行為がそのことに対してどのように働くのかについて,推論できることが重要なことではないだろうか。そして,それが,我田引水でなく一定の「科学的」理論性をもつ必要があるということである。
 現代中医学における弁証論治はまさしく,そうした試みの1つであると思われる。本書は,そのことをさらに深めるために,中国天津中医学院と後藤学園との共同作業によって新たに制作したものであり,いわゆる翻訳本とは趣を異にしている。いかにして適切に病態を把握し,いかに有効な臨床を行うかという立場から書かれた本書が,自分で観察し,自分で考え,自分で臨床に取り組む多くのはりきゅう臨床家のために役立つことを願うものである。

天津中医学院副院長
高 金 亮
学校法人後藤学園学園長
後藤 修司

中薬の配合【まえがき】

[ 中医学 ]

初版まえがき

 中薬が臨床で使われる場合,その多くは「薬の組み合わせ」として使われます。それは何の意図もない羅列ではありません。そうした組み合わせはどれも,明確な意図のもとに緻密に構成されているものなのです。そして薬を合わせて使う方法には,長い歴史があります。
 古代の書物である『神農本草経』名例は「薬には七情というものがある……薬は単味で使用することもできるが,多くは合わせて用いる。そして合わせて使う場合,薬同士には相須・相使・相畏・相悪・相反・相殺などの関係が生まれる。薬を使おうとする者は,こうした七情について総合的に理解していなければならない。相須・相使の関係で薬を使うのはよいが,相悪・相反の使い方をしてはならない。しかし有毒薬を使う場合は,相畏・相殺の関係で使うこともできる。そうでない場合は使ってはならない」と述べています。また「薬は君臣佐使を明確にして,適切に使うべきである」「薬には陰陽に従った子母兄弟による合わせ方もある」という論述もあります(『本草綱目』序例)。これらの論述は,薬の合わせ方に関する最初の規範といえるものです。
 『黄帝内経』には,酸・苦・辛・鹹・甘・淡による五味を重視した薬の組み合わせ方が述べられています。それは辛甘による発散,酸苦による涌泄,鹹味による涌泄,淡味による滲泄などを,五臓の病証に応じて使い分ける方法です。金代の劉完素はこの方法を発展させ「物にはそれぞれ性が備わっている。方剤を組成するとは,必要に応じてこの性を制御したり,変化させたりすることで無限の作用を引き出すことである」と述べています。
 全体の流れとしては,まず『黄帝内経』『傷寒論』などの経典が,薬の組み合わせに関する比較的完成された理論や法則を提示しました。そこには四気五味・昇降浮沈・虚実補瀉などの内容が含まれています。その後,『黄帝内経』や『傷寒論』の提示した方法を基礎として,臓腑標本・帰臓帰経・引経報使などの学説が起こりました。歴代の本草書や方書が述べている理論や,現代の中薬学・方剤学などの内容は,どれもこうした理論や学説をもとにして,さらに発展を加えたものです。前者と後者の違いは,前者が単味薬の特性を中心とする理論・方法であるのに対し,後者は方剤の組成法に重点を置いた理論・方法であることです。そして本書の内容は,両者の中間に位置するものといえます。具体的には,薬の合わせ方を中心として,薬を運用する際や方剤を組成する際の内在的な決まりごとについて述べています。それは中薬学の内容と方剤学の内容を柔軟に結びつけ,実用性を重視してわかりやすくまとめたものです。そしてそれらの内容は,すべて私の臨床経験の結晶といえるものです。ただし執筆にあたっては,多くの大家が残した理論や方法を借りて説明をしています。そうした内容も,次の世代へきちんと伝えたいと思うからです。特に『本草綱目』『本草綱目拾遺』『名医方論』などの内容について多くを述べています。清代の厳西享・施澹寧・洪緝菴らがまとめた『得配本草』も,薬の組み合わせに関する専門書ですが,組み合わせ方を紹介しているだけで,その背景となる理論や機序などについてあまり解説をしていません。これでは深い理解を得ることはできません。
 本書は,筆者の長年にわたる臨床や教学の経験と,歴代の用薬法に関する研究をまとめたものです。その内容は,中薬の運用法について理論から実践までをわかりやすく結びつけたものとなっています。そしてそこには歴代の大家の成果や民間に伝わる方法などが十分に反映されています。薬の組み合わせ方に関する,完成度の高い実用的な参考書といえます。具体的には「四気五味」「昇降浮沈」「虚実補瀉」「臓腑標本」「帰経引経」「方剤組成」などの角度から解説をしています。いずれの場合も,中薬理論と臨床実践を有機的に結びつけたうえで解説を行うことに努めました。
 個人の能力の限界や時間的制約などもあり,本書の内容にはまだ足りない部分も多くあります。また数々の疑問点も存在することと思います。本書を読まれた方には,ぜひ忌憚のないご意見をお寄せいただきたいと思います。それらの貴重な意見を参考にして本書の内容を修正し,さらにレベルの高いものに作り変えていくことができれば幸いです。
 この本を読まれる方にお断りしておきたいことが2つあります。1つは本の中で引用している方剤についてです。『傷寒論』『金匱要略』『本草綱目』『証治準繩』『景岳全書』や現在の教科書などから引用した方剤については,紙幅の都合もあり,多くの場合出典を明記してありません。もう1つは薬の用量についてです。本の中で紹介している用量は,原則として原書に記されている用量です。それはその時代の単位ですので,実際に使われる場合には,現在の用量に換算してから使用してください。
 本書の出版にあたっては,病身にもかかわらず原稿の監修作業をしてくださり,さらに本書の出版を薦めてくださった顧問の由崑氏に,心よりお礼を申しあげます。また人民衛生出版社の招きに応じてお集まりいただき,内容の修正のために多くのご意見をいただいた専門家の諸氏にも感謝の意を表したいと思います。さらに出版にあたっては,題字を中医司長(中央官庁における中医管理局の局長)である呂炳奎先生に書いていただくことができ,身に余る光栄であると感じております。

丁 光 迪
1981年11月

わかる・使える漢方方剤学[経方篇1]【まえがき】

[ 中医学 ]

まえがき

 この本は,私が理想とする「方剤学の教科書」を形にしてみたものです。私は中国にいる間,学部の学生だった頃も,大学院の学生だった頃も,ずっと「系統的理解が得られる教科書」をさがし続けました。しかし,見つけることはできませんでした。それでも「きちんとした理解を得たい」という願望は消えず,自分で研究を始めたのです。

 方剤学の教科書とは「履歴書の束のようなもの」にすぎないと,私は考えています。どんなに有能な管理職でも,履歴書をみただけでは,その人材を適材適所で使いこなすことなどできないと思います。それは方剤も同じです。「その方剤は,どんな理論に基づいて作りだされたのか」「その理論は,どのように生まれたのか」「その手法や理論は,その後どのように受け継がれたのか」「現在はどういう位置にあるのか」などなど,1つの方剤を理解するには,その周辺の事情をたくさん知る必要があります。
 しかし主要な文献だけでも数百冊はくだらない中医学の世界では,それは「1人の人間の人生では足りない」ほどの作業となります。それでも可能な限り,以上のような内容を盛り込み,読んだ後で「よくわかった」と実感できるような本を作りたいと努力しました。

 中医学を学ぶには,まず歴史・理論・古典そして薬・方剤,それから臨床各科…というのが正統な順となります。しかし本書はいきなり「方剤」という窓口から入れるようにしてあります。それは読者として「臨床の現場にいる医師や薬剤師」を念頭においているからです。西洋医学を学んできた人たちにとって,それが一番入りやすい切り口であろうと考えました。
 しかし,そのうえで,あくまでも中医学の立場にたって,なるべくわかりやすく解説するという作業は想像以上に難しいものでした。本書の内容も,不勉強や経験不足から生じる限界や偏りは隠すべくもありません。とても「理想の教科書」と自讃できるものではありません。しかし少なくとも「履歴書の束からは脱皮したもの」として,本書を世に送り出したいと思います。

 本書は,『わかる・使える漢方方剤学』シリーズ中の[経方篇1]です。先に出版された[時方篇]を合わせたシリーズとして日本で使用されている主要な方剤を紹介していきます(「時方」「経方」の意味は,凡例を参照してください)。
 本シリーズが,漢方製剤や中薬を積極的に使いたいと思っている医師や薬剤師の方の一助となれれば幸いです。

 また[経方篇]では承淡安『傷寒論新註』の内容を中心に,個々の湯証にたいする針処方を提示し,簡単な解説を加えています。つたない解説であるとは思いますが,中医学を学び,臨床に活かしたいと思っている針灸師の方の参考となれれば幸いです。

小金井 信宏
2004年4月

症例から学ぶ中医婦人科-名医・朱小南の経験【はじめに】

[ 中医学 ]

はじめに

 父である朱小南は,本名を鶴鳴といい,1901年に生まれ1974年に永眠しました。幼少時の10年間,南通の私塾で勉強した父は,その後祖父である南山公について医学を学びました。そして研鑽を重ねた結果,20歳で上海に開院し,内科・外科・婦人科・小児科に携わり,中年以降は婦人科を専門とするようになりました。また1952年10月には,上海中医門診所(第五門診部の前身)に,婦人科の特別医師として迎えられました。
 診療にあたって父が心懸けたのは,疾病の根源を究明して臓腑の気を調整することであり,とくに肝の調整を第一としました。また婦人科疾患には微妙な点も多いので,詳細に観察して適切に診断を下すよう心懸け,必ず処方を的中させたといいます。
 1936年,父は祖父を助けて新中国医学院を創設し,人材を養成して全国各地に送り出しました。1961年ごろ,多くの同学者たちの提案を受け,私たちは父の治験例の収集と整理・浄書を開始しました。その大部分については,当時父が自ら目を通し,選別校正を行いました。1974年に父は病没しましたが,1977年に私たちは治験の整理を再開し,父の普段の会話や論述を加え,上海中医学院の『老中医臨床経験彙編』に収めました。
 このたび北京人民衛生出版社のご厚意により,この単行本を出版する運びとなりました。しかし私たちの未熟さゆえ,少なからず錯誤や欠落もあろうかと思われますので,貴重なご意見・ご教示をお待ちしております。

朱 南 孫
1980年6月


本書を読むにあたって

 本書は,『朱小南婦科経験選』(朱南孫・朱榮達整理,人民衛生出版社1981年刊)を底本として翻訳したものである。

 19世紀後半から民国時代(1911-1949)にかけて,上海で活躍した婦人科専門の中医家系として,陳氏婦人科・蔡氏婦人科・朱氏婦人科の3つの家系が知られている。本書の原作者である朱小南先生(1901-1974)は,朱氏婦人科2代目の名医である。
 朱氏婦人科の特徴は,まず細かい問診を重視する姿勢があげられる。朱小南先生は父である朱南山先生とともに,明代の張景岳の「十問歌」に倣い,「婦人科における十問訣」を作り出した。また,朱小南先生は切診や脈診も重視し,按腹により妊娠やチョゥカなどの有無を判断した。
 さらに,朱小南先生は女性の生理病理の特徴を踏えた弁証論治,具体的には中医学の気血理論・臓腑理論・経絡理論を有機的に結びつけ,婦人科診療における奇経八脈の重要性を強調し,それを臨床に活用したことが注目される。衝脈・任脈・督脈・帯脈・陽キョウ脈・陰キョウ脈・陽維脈・陰維脈という「奇経八脈」の生理病理と婦人科疾患の診療との関連については,朱小南先生によって初めて体系化されたともいえる。特に,衝脈・任脈・帯脈などの奇経と女性の経・帯・胎・産との関連や,脾胃・肝腎などの内臓との関連,また,そのほか多種類の生薬の帰経および経穴との関連,各奇経と関連した病機や疾患に関わる弁証治療について,独自の理論を作り上げ,臨床研究を行った。その内容と特徴は,本書にも大いに反映されている。
 本書は「医論」と「医案」の2部から構成されている。「医論」には,朱小南先生の中医婦人科に対する考え方が示され,今日の婦人科診療に役立つポイントと心得が凝縮されている。さらに,本書に記された多くの具体的な「医案」を通して,朱小南先生の診療に対する姿勢や先生が説いた医説に対する臨床的な検証を読み取ることができ,先生の弁証論治を臨機応変に活用する発想とプロセスを知ることができる。平易な解説には興味深い理論や見識が秘められており,医論の内容に対する格好の参考例ともなっている。中医婦人科の学習は,医案より多くのヒントが得られるだろう。
*本文中(  )で表記しているものは原文注であり,〔  〕で表記しているものは訳者注である。

編 集 部

定性・定位から学ぶ中医症例集

[ 中医学 ]

序章 気血水火弁証と定性・定位

シンプルでわかりやすい弁証方法

 中医学の診療においては「弁証論治」の方法論が重視されている。なかでも病態の識別を行う「弁証」の作業が中医的診断のポイントである。患者の病態の総合的な特徴を把握するためには,ある時期,ある段階における「証」を構成する病因・病性・病位・病機などを弁別することが必要となる。
 従来から使われてきた病因弁証・八綱弁証・気血津液弁証・臓腑弁証・経絡弁証,さらに『傷寒論』体系の六経弁証,温病学体系の衛気営血弁証・三焦弁証などは,病因・病性・病位・病機などのどこに力を入れるかがそれぞれに異なり,1つの方法だけで弁証の全プロセスを完成させるのは困難である。そのため,煩雑さに悩まされながらも,いくつかの弁証を併用する方法をとってきたのである。
 しかし,中医学の初心者が,それぞれの弁証方法を熟知したうえで自在に応用できるようになるのには並大抵ではない努力と時間が必要である。弁証の煩雑さにとまどい,途中で挫折してしまう人も多いだろう。
 「あらゆる弁証の方法を1つにまとめることはできないか?」
 これは,中医学の研究や教育,臨床に携わる多くの人々がずっと関心をもってきたテーマである。私自身も,多くの患者さんや医師,学生たちと接しながら,このテーマについて真剣に取り組んで来た。その結果,「気血水火弁証」という新しい弁証体系を編み出したのである。
 この気血水火弁証は,「定性」「定位」を判断することによって病性・病位を明確にすると同時に,病因・病機も合わせて分析することができる。つまり,従来の弁証のプロセスと違って,他のさまざまな弁証方法を使わずに気血水火を主とした弁証システムだけで多くの外感病や内傷病の証を決定できるものである。あまり時間をかけずに身につけられるのがこの気血水火弁証の大きな特徴で,簡便で実用的な弁証システムといえる。


火の概念と気血水火弁証

 気血水火弁証では,まず気・血・水(津液)・火のそれぞれの特性を明白にさせなければならない。
 気・血・水が生体の生命活動の基本的物質だということはよく知られているが,火も生命活動に欠かせない生理的物質であるということは,意外に知られていない。古くは『黄帝内経』に「少火生気」という論述がみられるように,火は太陽のように命のエネルギーとしての役割を果たしている。また,陰陽理論によれば,火と気は陽に属し,血と水は陰に属するとされている。火と気(陽気)は,人体の各器官や組織の機能を温煦・推動・激発する働きをもつ。火と気は,生理的に相互化生・相互促進の関係にある。火は気に化生し,気は火を養う。気の中に火があるからこそ温煦・推動・激発の働きが生まれるのである。
 また,中医臓腑理論に命門説がある。命門説では「命門の水」と「命門の火」が生命力である元陰・元陽(先天的陰精と先天的陽気)に化生する重要性が強調されている。
 気は温の性質,火は熱の性質とはっきりと区別され,陽気がとくに強いところは火に属し,陽気が概して弱いところは気に属するとされている。つまり気の概念をそのまま火の概念に重ねることはできない。
 病理学的には,火と気にも大きな隔たりがあり,陽虚証と気虚証に分けられている。
 火の病理的変化は複雑であり,虚火・実火・陰火・鬱火・肝火・心火などがあげられるが,それは生理的な火とは区別すべきである。火の病理的な状態を弁別するのは,これから論じる気血水火弁証の一部の内容となっている。

気血水火弁証と定性・定位

 気血水火弁証は,まず病機(疾病の発生・発展と変化に関わる病因病理)分析を通じて,証(病態の特質)の構成因子である病性(主に寒熱と虚実)・病位(主に表裏・臓腑・経絡)を弁別するものである。
 すべての疾患の発生・発展・変化の過程においては,正気と邪気との争い,体内の気・血・水(津液)・火の質量と機能の失調がもっとも基本的な病機といわれている。正気とは,われわれの生体を構成し,生命活動を維持するのに不可欠なものであり,生理的な物質である気・血・水(津液)・火が正気の中核をなす。一方,邪気とは,われわれの身体に病苦をもたらす諸種の有害因子(六淫・七情・食積・痰飲など)を指している。それらによって生体の陰陽失調や臓腑・経絡などの機能の失調が導かれ,寒熱や虚実などのさまざまな病態が現れるのである。この寒・熱・虚・実のどれに属するかという病態の特性を同定する作業を「定性」または「定性弁証」という。
 また,病態は必ず体のどこかに現れてくるので,その部位を同定する必要がある。表・裏・臓腑・経絡などの部位の識別の弁証プロセスを「定位」または「定位弁証」という。
 気血水火弁証では,病性・病位の弁別を中心としながら,病因・病機の分析についても同時に行うため,病因・病機・病性・病位という証を構成する要素に対する考察はすべて含まれることになる。つまり気血水火弁証を行うだけで多くの疾患の弁証ができるわけである。
 しかし,気血水火弁証の「定位」または「定位弁証」では,もともと八綱弁証(表裏・寒熱・虚実・陰陽)や臓腑・経絡弁証の内容も取り入れているため,当然それらに対する理解も要求される。たとえば,八綱弁証中の表裏の項は「定位弁証」に属し,寒熱・虚実・陰陽の弁別は「定性弁証」に属する。また,臓腑弁証は「定性+定位」の弁証方法である。気血水火弁証が主に八綱弁証と臓腑・経絡弁証を中心としているのは,弁証の簡便化をはかるためである。

「定性」「定位」から弁証へ

 気血水火弁証の臨床的応用においては,病因・病機に対する分析と同時に,(1)「定性」を行う,(2)「定位」を行う,(3)弁証を行う,という3段階の手順を踏む。
(1)「定性」を行う
 まずは病態が気の病気か,血の病気か,水の病気か,あるいは火の病気か,それらを弁別してから,虚実寒熱の弁別を行う。虚性か実性か,寒性か熱性か,これは病態に関する最も基本的な特性であり,基本となるものである。虚実寒熱の判定は,補法・瀉法・温法・清法などの治療法則の選択に直接つながるため,けっして間違ってはいけない。定性弁証は最も重要なものである。
(2)「定位」を行う
 臨床においては,患者の主訴や症状,望聞問切から得た所見をもとにそれらの関連性を弁証をするが,病位を探るには主に臓腑に着目しなければならない。臓腑は生体の中心的な存在であり,とくに五臓を中心とした臓腑によって,全身の組織器官や機能はすべて統括されている。また,気・血・水・火の生理的または病理的な変動も臓腑を中心として現れてくる。このため,気血水火弁証における「定位」の作業は,臓腑とつなげて考えなければならない。しかし,ひとりの患者が同時にいくつかの疾患や症状をもっていることも少なくない。そういう場合は,症状や所見の相互関係を明確にさせて,最も重要な病態の特質を把握し,中心となる臓腑を特定すべきである。定位の目標が定まらなければ,弁証があいまいになり,治療にも影響する。
(3)弁証を行う
 弁証は,定性・定位を主軸にすえて,病因・病機に対する分析,主症状・随伴症状の把握,それぞれの症状や所見の関連性なども考慮しながら進めていく。一例を見てみよう。
 たとえば,「病気の性質は陰虚・血・気滞。ただし,主に陰虚が強く,血は副次的であり,気滞はまだ軽い。部位は心・肝・腎と関わるが,現在は腎を主とし,肝と心はそれに準じる」というような場合の弁証結論は,「腎肝心陰虚,血気滞」となる。

外感病における気血水火弁証の応用

 さまざまな疾患は中医学的には外感病と内傷病に大別できる。内傷病が七情の過用やよくない生活習慣に起因する慢性疾患が主であるのに対して,外感病は外から邪気が生体を犯すために起こるもので,経過が短く,発熱が多くみられる。急性・感染性疾患を主とするため,外感熱病ともいう。その病因は六淫(風邪・寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・火邪)が主である。このような外感熱病の弁証に関しては,気血水火弁証をすると同時に,表裏の弁証や初期・中期・末期の3期に対する弁別も加えた「三期表裏の気血水火弁証」の体系を用いる。

 

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