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▼書籍のご案内-序文

『腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]』 凡例

[ 中医学 ]

 

凡 例


 
1)収録した処方は,現在最も繁用されている,エキス製剤になっていて,かつ健康保険適用になっているものから126処方を選んだ。
2)処方は効能をもとに章を大きく分け,各章のはじめに簡単な解説を付し,その章に収載してある処方名を列記した。
3)各処方名の左上にエキス製剤番号(おもに先発メーカー・ツムラに準じる)を付した。処方の解説は見開き2頁に収め,以下のように行った。
 ●処方名:処方名の後に出典を示した。別名があるもの,あるいは合方・加減方であるものは,処方名の下に附記した。
 ●挿図:腹証および体表に現れる典型的な症状を示した。
 ●方意:その処方の具体的な症状を簡略に記し,脈証や舌証を附記した。文中,病位とあるのはその処方が傷寒六経のどの時期に,あるいは部位的に身体のどの臓腑の部位(五臓六腑・十二経脈)にあるときに有効かを示したものである。
 ●診断のポイント:証を決定するにあたって目標となる症候を,箇条書きにした。腹証や自覚症状などから特徴的なものを選んでいるため,必ずしも挿図にはない事項もある。
 初学者は,以上の挿図・方意・診断のポイントだけを見れば,その処方の証をおおよそ理解できるように配慮した。
 ●原典(あるいは主治):出典の条文を,片仮名交じりの読み下し文に書き改め,文末の( )の内に出典の書名と篇名等を記した。
 原典と断定できる文献が確定できない処方については,その処方の運用に後世決定的な影響を与えたと考えられる文言を「主治」として示し,「原典」の代わりとした。
 ●処方:処方を構成する生薬の薬物名と,1日分の分量のグラム数を示した。分量については,大塚敬節・矢数道明両氏の『経験・漢方処方分量集』第4版(医道の日本社刊)あるいは,株式会社ツムラの医療用漢方エキス製剤1日分の含有量などを参考とした。
構成生薬の記載について:
 たとえば,桂枝は日本薬局方では「桂皮」に統一され,桂枝と桂皮は混用されている。日本では桂枝というと桂皮(ベトナム桂皮)を用いることが多いが,効能は少し異なる。このため,本書では補陽温中を主目的とするときは桂皮と記し,その他の発汗解肌・平衡降逆・温通経脈などに働かせるときは原典が「桂枝」としてあれば桂皮とせず桂枝と記載している。また,芍薬についても,日本では「芍薬」であると白芍(補血斂陰・柔肝止痛)と赤芍(散瘀止痛・清熱涼血)の区別がはっきりしない例が多いが,その点も原典の記載に従った。
 ●構成:処方の君臣佐使を記した。君臣佐使の決定は,成無己『傷寒明理薬方論』,許宏『金鏡内台方議』,汪昂『医方集解』およびその他の解説書,あるいは筆者の考勘に従った。
 君薬は一方中の主薬で,疾病の主証に対しておもな治療効果を発揮する薬物である。
 臣薬は君薬を補助し,その薬効を増強する薬物である。
 佐薬は臣薬とともに君薬を助けたり副作用を防止する薬物である。
 使薬は佐薬の補助薬として働くとともに方剤中の諸薬を調和する働きをもつ。また引経薬として,諸薬を直接病巣局所に導く作用を果たしていることもある。
 漢方薬の処方構成はすべて,君臣佐使の法則に従ってなされている。これが一般の西洋薬や民間薬と異なる特徴である。君臣佐使の区別のない処方は,「薬あって方なし」という無秩序な薬の寄せ集めに過ぎず,規律がなく効果の程度も方向も不明確となりやすい。この点を加減方や合方に際しても十分配慮すべきである。
 ●方義:処方を構成する各生薬の,中医学的性味と本草学的薬効とを記した。必要に応じ,文末にそれらの生薬が組み合わされた場合の特徴的作用についても付記した。
 ●八綱分類:八綱は弁証の基本である。正気の盈虚,病邪の性質とその盛衰,疾病の所在する部位の深浅などから,表裏・寒熱・虚実の基本的な症候に分かち,さらにそれらを総括するものとして陰陽がある。本書の八綱分類は,その処方が全体として表裏・寒熱・虚実のいずれの傾向を有するかを大まかに記したものである。必ずしも断定できない場合は( )を付した。
 ●臨床応用:各社の医療用漢方エキス製剤の適応症も考慮に入れ,漢方診療のなかで有効あるいは適応すると思われる症状や疾患を列記した。
 ●類方鑑別:証が類似していてまぎらわしい処方との鑑別のポイントを記した。
4)どの処方も,さまざまな効能をもっているので,単一の範疇に収められるものではない。したがって書物によっては別な分類法に従ったり,別な範疇に入っていたりするものもある筈である。本書の分類は,あくまでも本書独自の試みである。分類にこだわらず自在に使いこなすところに漢方の特長があるともいえる。
5)読者の便のために,巻末に本書収載の処方に用いられている構成生薬の薬効一覧表と,処方名の五十音順索引とエキス製剤の番号順索引および症状・病名の索引を付した。
6)引用したテキスト・参考にした解説書は「引用文献」として巻末に列記した。

『腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]』 序にかえて

[ 中医学 ]

 

序にかえて
漢方を学ぶ基本的な心構え


 

漢方三考塾主宰 寺師 睦宗


 
(1)志を立てること
 漢方医学を学ぶ心構えは,まず志を立てることから始まる。志の立て方が篤くて真剣であれば,おのずから道が開け,そのテンポも速い。が,ちょっとした好奇心で漢方を覗いてみようという態度であれば,十年やっても二十年やっても,深くて広い漢方を自分のものにすることは難しい。
 
(2)白紙になって漢方と取り組め
 漢方を学ぶ場合に,初めから近代西洋医学の立場で批判しながら研究したのでは,漢方を正しく理解することは難しい。漢方が一応自分のものになるまで,白紙になって漢方医学に取り組むことが必要である。近代医学の立場で批判するのは,漢方が自分のものになってから後のことである。
 空海の「瀉瓶」※である。
※瀉瓶:空海は805年長安に留学し,師の恵果から密教の秘法を授けられた。それはあたかも瓶から別瓶に内容を移し注ぐが如く,空海は師の秘法を悉く,伝授され,それを体得していった。
 
(3)散木になるな
 散木というのは,中心となる幹がなくて,薪にしかならない小木の集まりのことである。漢方の世界は広いから,学ぶ方法を誤ると薪にしかならない散木になってしまう恐れがある。まず一方の幹になるものを撰んで,これをものにするまでは,あれこれと心を動かさないことが必要である。
 幹が亭々と空にそびえるようになれば,枝,葉は自然に出てくる。中心になる幹がなくて,「あれもよし,これもよし」という乞食袋のようなものになってしまう人がある。そこで,まず中心になるものを選ばなければならない。それにはどうすればよいのか。
 
(4)師匠につくこと
 伝統ある漢方の学術を学ぶには,師匠について伝統を身につけることが必要である。それは,まず師匠の模倣から始まる。はじめから伝統を無視した自己流では,天才は別として,普通の場合は問題とするに足りない。しっかりとした伝統を身につけたうえでは,その殻を破って,自分で自分の道を切り開いて進むがよい。師匠を乗り超えて進むだけの気概がなければならない。
 「見,師と等しきとき師の半徳を減ず。
  見,師より過ぎてまさに伝授するに堪えたり」渓山禅師
 しかし,現在の日本では師匠につきたくても,師匠を得ることは難しい。また師匠はあっても,いろいろな事情で制約を受けて,師匠につくには容易ではない。このような人たちは,漢方の研究会や講習会に出るとよい。
 
(5)古典を読め
 漢方医学の根幹となる第一級の書(『傷寒論』『金匱要略』『素問』『霊枢』『本草綱目』『本草備要』)を読むこと。これらの古典は難解で,これをマスターすることは容易ではない。そこでまず現代人の書いたものから読み始め,だんだん古いものにさかのぼって読むようにするとよい。それに名賢哲匠の治験例と口訣を読むとよい。

(大塚敬節先生著『漢方医学』参照)


 
 

『Essential 生薬ファインダー』 監修のことば

[ 中医学 ]

 
監修のことば
 
 薬用植物の自生地や栽培地を調査していると,しばしば感動する景色に出会ってカメラを構えるが,多くの場合その感動が写真には写っていない。このたび,本書の監修をお引き受けすることになったが,そのきっかけは見せていただいた写真の中に心休まる素晴らしい写真がいくつも見られたことにある。まさに,感動が写った写真である。
 その写真とは,インチンコウ・コウカ・ショウマ・チョウトウコウ・ハマボウフウなど数々あるが,すべてやや遠目に群落や広大な栽培地などが撮影されたもので,各項目で最初に大きく掲載されているものである。つい頁をめくるのをためらうほどに見入ってしまう。心に覚えるのは感動というよりも,一種の安らぎというものであろうか。癒し効果抜群である。一方で,周りに載せられた小さめの写真は,植物の各器官を接写したものが多く,それだけを見せられると何の植物かさえ判断できないが,時に芸術的で別の感動を与えてくれる。癒しどころか,逆に心にざわめきさえも感じ,新しい発見があり,また自然の妙に気づかされる写真でもある。
 ところで,ヨーロッパにハーブ療法が興った頃,象形薬能論というのが提唱されて,あらゆるハーブはその薬効を象徴する形をどこかに有しているとされた。私の祖母が腎臓病には黒豆が良いと教えてくれたのはその影響であったのかも知れない。また日本でも実際,高山植物のコマクサの花が肺臓に似ているとして肺結核の特効薬と考えられ,乱獲された時期があったという。迷信とは云え,クローズアップされた器官のなかに薬効を暗示する何かの標識を探してみることは,西洋医学発展の歴史を振り返ることにも通じ,本書の別の楽しみ方であると思う。
 掲載写真の多くは,主としてカレンダー用に一時期に撮影されたものであるので,季節的な変化に欠けていることは否めない。被写体が薬用植物でありながら,薬用部位やその採集時期の写真が少ない所以でもある。また,日本に自生しない植物や畑地栽培されていない植物については,植物園での展示品が被写体とされた。監修にあたって,それらを補うために手持ちの写真をいくつか提供させていただいたが,本書発行の趣旨から外れていないことを願う。
 本書に掲載された植物に由来する漢方生薬の基本的な記載は,『第17改正日本薬局方』(第一追補を含む)もしくは『日本薬局方外生薬規格2015』の内容に従い,利用の便をはかるために最新のAPG分類による科名や原植物の異名などを付記した。また,薬用植物という観点から,各項目にはその植物の生薬としての現代中医学的な薬効や含有化学成分などが掲載され,また漢方研究者の必読書とされる『薬徴』(吉益東洞,1771年)や『古方薬議』(浅田宗伯,1863年)からの引用文が付記されたものもあるが,これらの情報は専門用語が多く,一般には馴染みにくいかもしれない。それよりも,本書は見て癒しを得る写真集として,少しでも生薬の本質に迫るヒントを得るための座右の書にしていただければと願う次第である。


監修者 御影 雅幸




 

『経方医学6』 はじめに

[ 中医学 ]

 
はじめに
 
 『傷寒論』『金匱要略』にある処方のうち,これまで取り上げてこなかったものについて,経方医学的に解説する。
 江部が書き溜めていたノートを,整理・構成し直した。
 黄疸・寒疝・百合病については,総論・解説も記し,その後に関連する処方を列挙した。これで,ほぼ全処方を網羅したことになると思われる。


2017年5月 著者




 

実践東洋医学[第2巻 生理・病態・治療理論篇] 本書を読むにあたって

[ 中医学 ]

 
本書を読むにあたって
 
 本書は,『実践東洋医学』全3巻シリーズの第2巻にあたる。本シリーズは,東洋医学の考え方にもとづく病気の見方・考え方を平易に解説したもので,チャート図や表を豊富に収載して視覚的に理解を助ける工夫をしたほか,適宜,症例を織り交ぜながら東洋医学の病態理論・方剤の解説を心がけた点に特長がある。
 第2巻では,まず東洋医学の生理理論の基礎として気・血について解説した後,病態理論の基礎として発病の仕組み・病因・病位・病態・病期,さらに気の病態・瘀血の病態・津液の病態について紹介する。さらに治療理論として生薬・方剤・副作用等について紹介する。
 
【記号・符号の意味】
 † 巻末の「用語解説」に解説がある用語を示す。
 注 注釈を示し,符号を記した節の最後に解説がある。
 ※ 注釈を示し,記号のすぐ近くに解説がある。
 POINT 著者が特にポイントになると考えた箇所。
 原文 古典の引用。
 * 医療用漢方製剤にない方剤を示す。巻末に組成を示している。
 
【第1巻の章立て】
 第1章 総論
 第2章 東洋医学の診断方法
 第3章 主要症状の診断
      Ⅰ 全身症状
      Ⅱ 疼痛症状
      Ⅲ 月経異常
 
【第3巻の章立て】
 第1章 臓腑理論
      Ⅰ 臓腑総論
      Ⅱ 各臓腑の生理と病態
      Ⅲ 臓腑合併病態
 第2章 傷寒と温病理論概説

図解・表解 方剤学 はじめに

[ 中医学 ]

 
はじめに
 
漢方薬というと,葛根湯や小青竜湯,芍薬甘草湯などの方剤名が馴染み深い。また,わが国では,1967年に漢方エキス剤が保険収載されてから,医療機関における漢方薬の使用は主に方剤単位で行われている。こうした背景から,漢方薬について学ぶとなると,まず手はじめに方剤学の参考書を手にする人が多いのではないだろうか。
方剤は,適応となる病態を東洋医学的に治療するために,適切な薬味を選択し組み合わせて組成されたものである。方剤学はその理論的根拠と応用をまとめた学問であるから,東洋医学的概念を方剤単位でまとめたものということができる。実臨床では,多くの場合,方剤の処方が治療の中心であるから,方剤学は東洋医学的知識を総合的に活用し実践するうえで欠かすことのできない学問である。
わが国では,現在,多くの漢方エキス剤が保険適用となっており,その利便性から医療の現場において漢方薬が応用される機会が増えている。しかし,西洋医学的病名に当てはめる形で用いられることが多いのが現状ではないだろうか。本書を手にとられた諸氏の中には,そのような運用に疑問を感じている方も多いであろう。かくいう筆者も,はじめは病名や症状に対して方剤を選択し,用いていた。それでも西洋医学的治療で難渋する病態に面白いほど効果があり,東洋医学の魅力にとりつかれたものである。しかし,経験を重ね症例が増えていくにつれて,徐々に治療に行き詰まることが多くなった。症状が改善するまで次々と処方を変更せざるを得なくなり,暗闇の中,手探りで治療をしているようで実に心許なかったものである。このような状況を反省して中医学を学ぶようになったのであるが,その後,診療に向かう姿勢が一変した。方剤の構成と病態を東洋医学的に捉えるようになったのである。それからは,どのような方剤を選択すべきか理論的に判断できるようになり,また治療が無効であった場合も,次の治療への指針が立てやすくなった。
方剤は,もともと東洋医学的理論に基づいて作られたものであるから,東洋医学的考察をせず病証を無視して使い続ければ,体質が思わぬ方向へ変化し,さらなる病態が引き起こされることはいうまでもない。方剤の運用方法を東洋医学的にまとめ解説した書物が切望される所以である。本書では,方剤の適応証とその病態,薬味の組成について東洋医学的理論に基づいて簡潔にまとめてあるので,そのような期待に応えることができると考えている。
本書を作成するにあたって,中国で一般に教科書として用いられている方剤学のテキストを参考にした。主要な方剤をできる限り載せたつもりである。処々に挿入した図表が,理解の助けになることを期待したい。なお,病機や方解の図表は,紙面の都合上,重要な方剤に限らせていただいている。それ以外の方剤については,各自本文に基づいて図表を作成してみることをお勧めする。理解の助けになるであろう。また,症状や症候などの中医学用語で重要なものは,慣れ親しんでいただくために,日本語の後ろに括弧に入れて挿入した。参考にしてもらいたい。もし,本書に書かれた文章を難解と感じるようであれば,あわせて中医基礎理論や中薬学を学習することをお勧めする。
方剤学を学習するにあたっては,疾病の病証を的確に弁証し,必要な薬味を選択して処方を組み立てられるようになることが理想である。頻用される重要方剤の薬味の組成を学ぶことは,実臨床で出合うさまざまな病態に対して,独自の処方を組み立てる能力を養うことにもつながるであろう。本書が中医学を学び実践する多くの方々のお役に立てれば幸いである。


2018年5月
滝沢 健司



実践東洋医学[第1巻 診断篇] 本書を読むにあたって

[ 中医学 ]

 
本書を読むにあたって
 
 本書は,『実践東洋医学』全3巻シリーズの第1巻にあたる。本シリーズは,東洋医学の考え方にもとづく病気の見方・考え方を平易に解説したもので,チャート図や表を豊富に収載して視覚的に理解を助ける工夫をしたほか,適宜,症例を織り交ぜながら東洋医学の病態理論・方剤の解説を心がけた点に特長がある。
 第1巻では,まず東洋医学の特徴・診断方法について解説した後,主要症状(寒熱症状・発汗・疼痛・月経異常等)の診断について紹介する。
 
【記号・符号の意味】
 † 巻末の「用語解説」に解説がある用語を示す。
 注 注釈を示し,符号を記した節の最後に解説がある。
 ※ 注釈を示し,記号のすぐ近くに解説がある。
 POINT 著者が特にポイントになると考えた箇所。
 原文 古典の引用。
 * 医療用漢方製剤にない方剤を示す。巻末に組成を示している。
 
【第2巻の章立て】
 第1章 生理理論の基礎
 第2章 病態理論の基礎1
 第3章 病態理論の基礎2
 第4章 治療理論
 
【第3巻の章立て】
 第1章 臓腑理論
      Ⅰ 臓腑総論
      Ⅱ 各臓腑の生理と病態
      Ⅲ 臓腑合併病態
 第2章 傷寒と温病理論概説

実践東洋医学[第1巻 診断篇] 序

[ 中医学 ]

 

 
 本書は,あくまで東洋医学の考え方に立脚して,病気の見方・考え方をやさしく解説したものである。
とかく医学は1つだと思い込みやすい。これは,明治より西洋医学的思考に慣らされたためであろう。たとえば学問的には動物であるが,社会的には魚と思われているクジラや,西洋画と日本画のように,世の中にはさまざまな見方・考え方がある。これは常識的とさえいえる。じつは,西洋医学と東洋医学も同様である。つまり,この両者は,まったく異なった医学体系である。東洋医学の存在理由はそのためといえる。
 幕末に,西洋医学が入ってきたとき,当時の漢方医たちは,まず漢方の考え方で西洋医学を理解しようとした。当時の漢方医にとって西洋医学の理論が難解であったことは想像に難くない。しかしそれでは非効率と気付き,すぐに西洋医学の考え方そのものを学習しようとした。日本で西洋医学が著しい発展を遂げたのは,よく知られるところである。西洋医学の考え方ではなく,東洋医学の考え方そのもので解説しようとしたのは,このためである。
 さて,たとえば「虚」という漢字をわれわれ日本人は,「うつろな」「むなしい」「よわよわしい」というふうに感じてしまう。故に虚証と聞くと,弱々しい人と思ってしまうのではないだろうか。本来はそういう意味ではなく,「あるべきものがなくなった」という意味である。漢字が出来てから数千年が経つうちに,漢字の意味が少しずつ変化しているからであろう。つまり,東洋医学理論が難しいと思う一つの理由は漢字にある。私たちはなまじ漢字を知っているが故に,漢字の意味を限定して考えていることに気づかない。
 そこで優しい言葉であったとしても,用語はその漢字の解説を施した。また,症例をなるべく多く入れ,東洋医学的な病態理論・方剤の解説を心がけた。
 本書の出版にあたっては,新井悦子様をはじめ吉祥寺東方医院の職員の方々にたいへんお世話になった。心よりお礼を申し上げる。本書を父母,妻政子,清香,純香に捧げる。


平成30年2月 そのなるをことほぐ日に 三浦於菟



『中医臨床のための医学衷中参西録』 第3巻[生薬学・医論・書簡篇]  はじめに

[ 中医学 ]

 
はじめに
  
 これまでの《医学衷中参西録》の第1巻「傷寒・温病篇」,第2巻「雑病篇」につづき,第3巻では生薬学および医説医話・書簡・随筆を収載している。本書ではこれまでの第1巻,第2巻にもまして張錫純(1860~1933年)の医学に関する考え方が随所にみられる。いずれも自身の経験,入念な思考をもとに書かれたもので他の医学者の言葉の受け売りは張氏が最も嫌うところである。残念ながら中医学理論の理解のたすけとして導入した西洋医学の知識にもとづく記述では誤りや思い違いが多く参考にはならないが,これは当時の西洋医学の水準が低かったこととも関係するので致し方ない。これをもって本書の価値を評価してはならない。本巻では当時の多くの市井の医師たちの手紙文を通して張氏がいかに彼らに信頼され,またそうした医師たちの質問に真摯に対応しているかを目の当たりにできる。
 薬物解では,当時の薬局で処方される薬に対する注意が細々と記されている。宏大な中国では,地域によって必ずしも同名の薬が同じ物とは限らないことや,地域によって修治のやり方に違いがあるので,処方箋には炮製についても指示を記載すべきこと,さらには実際につくるところを見なければ思わぬ間違いで治療に失敗することがあるなどとその指摘は細かく実際的である。生薬として薬局にある杏仁と桃仁は似るが,桃仁の皮尖は無毒,杏仁の皮尖は有毒なので注意するようにといった親切な教授がある。服用が苦手な人にいかに服用してもらうか,どの薬が臭いがなくて飲みやすいのか,当時ですら毎年値段が上昇する高貴薬の代わりには何を使用すべきか。病の後の養生にはどういうものを使うか? 彼が終生挑み続けた臨床は徹頭徹尾患者が主体である。
 医学を学ぶうえで,先ず第一段階の技量の最たるものは薬性を知ることという。しかし,薬性は本草書に詳しいが,諸家本草は信用できず,《神農本草経》ですらすべては信用しがたいと考えて慎重にため験す。毒性があるとされる薬に至るまで,収載される薬物はすべて自身で験してその効果を確かめた。今の医師が忘れている自然のなかの薬をいかに使うかをわれわれは活字の上ではあるが学べる。多くの食物が薬として使えることは現在でも活かせる。薬の費用対効果のことを最近は言い始めたが,最も重要なことは最小限の薬で効果を求め,治療によって身体的にも経済的にも患者を益することである。「小茴香辨」の項目に「耕し方は百姓に聞け,織り方は織り子に聞け」とある。常にアンテナを張って謙虚に臨床に使えるものを彼は探し続けた。自然の食物であるからすべて安全とは勿論いえない。植物は自身の生命維持と子孫繁栄のために各種の物質を出すが人間にとって有用なものばかりではない。薬もあれば毒もある。人類は薬を利用し,毒は避け,時には工夫によって毒に変えた。植物は地域により,さらには同じ植物でも野生種と栽培種では毒性が違うと張氏は述べる。同じ薬であっても裕福な人と過酷な肉体労働に従事している人では効果や至適量が異なる。季節や,土地によっても病気の種類は異なり,それに対する薬の効果は異なる。謙虚に患者の声を聞き,四診を十分に行って診断につなげ,治療するうえでも固定観念に縛られないといった現代でも最重要と考えるべき臨床の実践が記される。
 
 《医学衷中参西録》は1918~34年の16年間に次々と刊行され,全七期30巻からなる〔1957年に遺稿が第八期として加えられた〕。発行の状況は以下のようである。
 
第一期 各種病証と自製新方 1918年出版。
第二期 各種病証と自製新方 1919年出版。
第三期 各種病証と自製新方 1924年出版。
 以上は,前三期合編上下冊・8巻としてまとめられ,1929年出版。
第四期5巻 薬物解説 1924年出版。
第五期上下冊・8巻 各種医論 1928年出版。
第六期5巻 各種症例 1931年出版。
第七期4巻 傷寒論病証 1934年出版。
 
 この後,全七期30巻に第八期を加え,≪医学衷中参西録≫上・中・下の3冊本が,1934年に河北人民出版社から刊行され,これが現在に至っている。
 以上のように,原著は約16年にわたり次々と増補改訂しながら書かれ,後になって病証を総括したり新たに医論を補充したり,同じ病証の症例を追加するといった配慮がなされているので,相互に参照することが理解を深めるうえで最も望ましい。
 本書は第四期1~4巻,第五期1~2巻および第八期を含む。
 第1章の生薬学は,通常の生薬学の書物と違って,自身の体験による解釈,症例の記載がありきわめて有用である。西洋薬については自身も単に収録したのみであると述べており,したがって本書ではこれを省いた。第2章は中医生理学とその他の生薬に関する注意,弟子との往復書簡などを含む。第3章では医界の同人との書簡による自説の表明,あるいは張錫純が創製した方剤を使用した同人たちの書簡や医学雑誌での報告である。第4章は遺稿として加えられた第八期からなり,中医が読むべき書物,中医用語や脈に関する質問などに対して懇切に回答する古今の名医・張錫純の姿に感銘を受ける読者は多いはずである。
 

『中医臨床のための常用生薬ハンドブック』 凡例

[ 中医学 ]

 
凡例


 1.薬物は五十音順に配列している。
 2.修治や部位の違いによって効能が異なる同一あるいは同種の薬物は,ひとつの項目にまとめたうえで対比している。
 3.薬物名は保険薬価収載名を基準とし,それ以外は一般に通用している名称とした。
 4.個々の薬物は以下の要領で解説している。
   [別名]表記以外の名称。
   [基原]生薬のもととなる動植鉱物とその薬用部位。
   [修治][薬用]修治あるいは部位の違いによる薬効の差を述べている。
   [性味]薬物の味と,寒熱の性質を示す。
   [帰経]薬物の作用する臓腑・経絡などの部位を示す。
   [効能]中医学的な薬効を示す。
   臨床応用:効能・性味・帰経にもとづく臨床上の応用を,カテゴリー分けしたうえで解説し,適用する病態,配合すべき他の薬物・方剤例を提示している。
   [常用量]1日あたりの使用量を示す。
   [使用上の注意]具体的な注意事項・禁忌,ならびに効能のよく似た他の薬物との違いを述べている。
 5.各生薬の効能上の共通性を把握できるよう,「薬効別薬物一覧表」を附した。同一の生薬でも多くの効能をもつものは多項目に重複して組み入れた。
 6.保険適用の生薬一覧と薬価を収載した。
 7.巻末に薬物名の索引と方剤名の一覧を加えた。

 

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