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▼書籍のご案内-序文

『中医臨床のための常用生薬ハンドブック』新装版 はじめに

[ 中医学 ]

 
新装版 はじめに


 1987年に上梓した『中医臨床のための常用漢薬ハンドブック』は多くの読者を得て臨床,あるいは学習の場において広く利用されてきた。
 このたび東洋学術出版社から新装版を出す機会をいただき,全面的に検討を加えた。基本的なレイアウトは初版のものを受け継いでいるが,ハンドブックとしてよりわかりやすいように心がけた。
 1.生薬のイメージがつかみやすいように蜂蜜を除く各生薬にはすべてイラストおよび基原を載せた。
 2.生薬の名称は保険薬価収載名を基準とし,それ以外は一般に通用している名称とした。
 3.初版と同様に生薬は五十音順に配列し,検索しやすくしている。
 4.各生薬の効能上の共通性を把握できるように,「薬効別薬物一覧表」を載せた。同一の生薬でも多くの効能をもつものは多項目に重複して組み入れた。
 5.保険適用の生薬一覧と薬価を収載した。
 6.薬用量については原典に記載のないものもあり,記載のあるものでも固定したものと考える必要はない。症状に合わせて調節すべきである。
 7.中国と日本で名称の混乱がみられるので十分に注意されたい。
 
 文献としては,『中草薬学』(上海中医学院編・商務印書館,1975),『中医治法与方剤』(成都中医学院方剤教研組編・人民衛生出版社,1975),『中薬方剤学(上・下)』(山東中医学院中薬方剤教研室編・山東人民出版社,1976),『扶正固本与臨床』(哈荔田・李少川主編・天津科学技術出版社,1984),『中薬的配伍運用』(丁光迪著・人民衛生出版社,1982),『用薬心得十講』(焦樹徳編・人民衛生出版社,1977)を主体とし,その他を参考にしている。
 
 本書よりさらに詳細に調べていただくには『[新装版]中医臨床のための中薬学』(神戸中医学研究会編著・東洋学術出版社刊)を参考にしていただきたい。
 われわれの知識には今なお限界があり,誤りや未熟な点もあると思われる。本書をよりよくするためにも読者諸氏のご意見・ご訂正をいただければ幸いである。


神戸中医学研究会



『中医皮膚科学』 凡例

[ 中医学 ]

 
凡 例


 ・本書は,『皮膚病中医診療学』(徐宜厚・王保方・張賽英編著,人民衛生出版社,1997)を原本としている。
 ・日本語版では,原本の各論の章立てを内容別に再編した。
 ・各論の雀卵斑・毛孔性苔癬・破傷風・熱傷の節,および附3「生薬一覧」は日本語版用に加筆した。
 ・各論中の「現代医学の概念」の項は日本語版用に加筆した。
 ・各論24章の生薬の説明に,薬効増強のための配合例などを日本語版用に加筆した。配合例の多くは『張志礼皮膚病臨床経験輯要』に拠っている。
 ・各論の「節」にあたる見出しでは,西洋医学的病名(別名)-[中医病名または中国語の病名]-英文またはラテン語の病名-(略語)の順に示した。
 ・本文中の〔 〕内および欄外の脚注は,村上元・田久和義隆によるものである。
 ・本文中の生薬名に*がついているものについては,附3「生薬一覧」に解説を掲載した。
 ・原著の誤植と思われる点については,第2版を参考に訂正したが,判断がつかなかったものについては脚注として残した。
 ・体穴については新表記を採用した。耳穴については原著に新旧名称が混在しているため,本書においてはそのまま表記した。なお,附4「耳穴分布図」は,『針灸学』第2版(人民衛生出版社,2012)を元に作成した。
 ・日本語版制作時の再編集・加筆および本書全体の翻訳のまとめは村上元が行った。
 ・各論は,村上元・田久和義隆・守屋和美・宮本雅子・赤本三不が分担して翻訳した。
 ・総論・各論第23章・各論の鍼灸に関する部分の翻訳は田久和義隆が担当した。
 ・外用療法の用語は,中国語をそのまま訳語としたものもあり,それらの意味を以下に示す。
  【外敷(がいふ)・調敷(ちょうふ)】新鮮な薬草を搗いて泥状にしたものや,乾燥した生薬の粉末を酒・蜂蜜・食酢で練ったものを患部に塗布する。
  【湿敷(しつふ)】生薬の煎液にガーゼを浸したものを患部に当てる。
  【敷貼(ふちょう)】滅菌ガーゼに軟膏を広げて患部に塗布する。生薬の粉末を軟膏の上に撒布することもある。
  【外摻(がいさん)】外用の粉末剤と軟膏を混ぜて瘡面を覆う方法。あらかじめ塗布した軟膏に後から粉末剤を加える方法と,軟膏に混ぜてから塗布する方法がある。黄連膏などが多用される。
  【外搽(がいた)】新鮮な植物の茎などに生薬の粉末をつけて,軽く擦りつけるように塗る。あるいは,生薬の粉末を油で丸状にしたものを薄手のラミー生地で包み,患部を軽く湿らせる。
  【搓(さ)】搓剤(薬粉を油脂で丸状にしたもの)を患部に手掌で擦りつける。
  【撲(ぼく)】軽くはたきつける。
  【浸泡(しんほう)】浸す。
  【外洗(がいせん)】洗浄する。
  【淋洗(りんせん)】薬液を繰り返しかけて洗う。
  【浸洗(しんせん)】患部を生薬の煎じ液に浸した後に洗浄する。
  【熏洗(くんせん)】患部または全身を薬液の蒸気で温め,その後に浸洗法を行う。

『中医皮膚科学』 推薦の序

[ 中医学 ]

 
推薦の序


 日本の漢方医学における皮膚科領域の治療は,全身状態や皮膚の病態に応じて,いくつかの処方を効果的に使用する形をとっている。それらは,江戸時代から昭和期にかけての膨大な経験を基礎として発展し,現在も西洋皮膚科学の精華を取り入れて,新たな分野を切り開きつつある。
 もちろん,そのような状況下でも,私たちは,宋代の『済生方』の当帰飲子,明代の『外科正宗』の消風散,『万病回春』の清上防風湯など,皮膚疾患専門の処方を駆使して治療を行っている。しかしながら,日本においては,江戸時代中期に出現した古方派(特に吉益東洞)の出現以降,全ての疾患を『傷寒論』『金匱要略』の処方で治療するという理念のもとに,これらの処方の応用技術が広範に普及した。その後の折衷派の時代においても,その理念は受け継がれ,皮膚科領域でも,多くの後世方の応用の指針が世に出された。華岡青洲(1760-1835)が十味敗毒湯や紫雲膏などを,福井楓亭(1725-1792)が治頭瘡一方を創案するなど,さまざまな処方も新たに開発された。
 一方,中医皮膚科学は,このような日本の漢方皮膚科学とはかなり異なったものである。周知のごとく,皮膚科学は,古代より外科学の一分野として発展してきた。現代の中医薬大学の標準教科書である『中医外科学』の各論は,第1版から第8版まで一貫して「瘡瘍」「乳房疾病」「癭」「瘤,岩」「皮膚及伝播疾病」「肛門直腸疾病」「泌尿男性疾病」「周囲血管疾病」「その他」の項目を立てて論じているが,この中に含まれる半数以上が皮膚科もしくは皮膚科関連疾患である。
 ここに書かれている疾患名の多くは,明清代に確立されたものであり,現在の日本の皮膚科の疾患名とはほとんど一致しない。WHO・WPROが2007年に制作した『伝統医学国際標準用語辞典』の外科部分を見ても,そこに記載された用語が,どのような病態を意味しているか,ほとんどの日本人は理解することができないであろう。
 一方,日本で現在用いられている皮膚科の疾患名や症候名は,その多くが中国の古医書に記載されている単語を基礎に,各疾患のドイツ語やラテン語の意味を日本語に翻訳して名付けられたものである。湿疹の「疹」,痤瘡の「痤」,酒皶の「皶」,天然痘の「痘」はもちろんのこと,腫瘍の「瘍」は,「癰」や「癤」を含む皮膚の化膿性疾患の総称であった。現代皮膚科学の用語は,実は中国にその端を発するものが多いのである。その点では,日本の皮膚科学も中国と同じ基盤に立っているといえる。
 中医皮膚科学と漢方皮膚科学の間には大きなギャップがある。これらの知識を結合するにはどうしたらよいか。そう考えていたところ,実に良いタイミングで,村上元先生が,中医皮膚科学を専門に記述した『皮膚病中医診療学』(人民衛生出版社,1995)を和訳し上梓されることになった。これまで『中医内科学』など,数多くの中医学の教科書を和訳出版している東洋学術出版社からの出版である。聞けば,長年にわたって中医学の普及に努めてこられた同社の山本勝曠前社長の勧めによるとのことである。
日本における中医皮膚科のテキストとして本書が選ばれた理由は,第一に,教科書レベルで必要とされる西洋医学的な知識の基礎の上に,中医学の論理で病因病機に基づいた治療を載せているという点であろう。日本の臨床家にとって,この点は絶対に欠かせないからである。
 この利点を生かして,村上先生と編集部がタッグを組み,翻訳出版に際して,いくつかの工夫を加えている。読みやすい頁作りはもちろんのこと,中医学独特の病名に対しては,すべて対応する西洋医学的病名の日本語とラテン語の病名を明記してあり,西洋医学的知識のある人に,より理解できるように配慮してある。例えば,「面遊風」が脂漏性皮膚炎,「纏腰火丹」や「蛇瘡串」が帯状疱疹であることなどを知れば,中医皮膚科学の病名理解がどのようなものか推測できるであろう。
 本書は,それだけでも辞書的な価値があるのみならず,それらの病因病機・弁証論治を明確に解説しているため,多少の中医学的知識があれば,治療の基本的な理解ができるように作られている。村上先生は,なおこれに,新たに「現代医学の概念」の項を設け,読者がより理解を深めることができるように解説を加えている(これは原書にはない)。さらに,これら弁病・弁証による漢方薬を用いた治療のほかに,これまでの経験方,外用薬を用いた治療,鍼灸,耳鍼などが幅広く紹介されており,この1冊で中医皮膚科学の幅広さを知ることができる。
 日本の多くの臨床医にとって,ここに記載されている各皮膚疾患の治療が,いかに自分たちの臨床に役に立つかということは,極めて重要である。弁病と弁証は,すでにこれまでに身につけた方法で理解はそう困難なものでないと思われるが,皮膚の症候を分析して弁証につなげる作業は,やはりある程度の訓練がいるであろう。また,多くの読者は,代表処方として紹介されている処方に戸惑うかもしれない。エキス製剤でそれぞれの処方に近いものを作ろうと試みても,無理なものも多いからである。
 また,日本の皮膚科医は,標準治療としての西洋医学的治療を十分視野に入れ,ある場合は漢方薬単独で,ある場合は西洋医学的治療と併用して治療を行う。本書は,当然ながらそういう統合医療としての考え方には触れていない。
 ともあれ,中医学の世界でしか理解されていなかった中医皮膚科学が,西洋医学的基礎を持った日本の臨床家や研究者の手の届くところに提供されたことの意義は大きい。上述したように,各疾患の診断から治療に至る過程は日本の漢方医学における皮膚科臨床とはかなり異なっている。しかし,本書は,日中におけるその違いを際立たせるのが目的で出版されたわけではなかろう。翻訳に当たった村上先生が「日常の診療に弁証・弁病というアプローチを取り入れて,難病との格闘に大いに利用してほしいとと思う」と述べておられるように,限られた処方しか用いることのできない大半の日本の臨床医が,本書を読むことによって,それらの処方の臨床応用の方法論を身につけるようになることこそが,最終的な目標であろう。
 本書は,本邦で初めて翻訳された,体系的な中医皮膚科学の教科書である。日本の漢方皮膚科治療との違いは大きく,埋めなければならないギャップは多い。本書は,そのために大きな役割を果たすであろう。


2017年4月
安井 廣迪



『古典から学ぶ経絡の流れ』 凡例

[ 鍼灸 ]

凡 例


 主篇
  1.『素問』原文は明・顧従徳本(日本経絡学会影印本1992年版)を使用した。
  2.『霊枢』原文は『霊枢』明・無名氏本(底本は日本経絡学会影印本1992年版)を使用した。
  3.『素問』『霊枢』の書き下し文は東洋学術出版社刊『現代語訳・黄帝内経素問』『現代語訳・黄帝内経霊枢』におおむね,準拠した。
  4.引用した『類経』(明代・張介賓)の文中,半切などで示された漢字の発音に関する記載は,本書の目的と直接,関係がないため省略した。たとえば,「臑,儒,軟二音,又奴刀,奴到二切」や「系音係」などである。また,引用文中,「此下十二経為病,見疾病類第十,與此本出同篇,所当互考」や「詳見後十六」などの一文も本書が『類経』の訳書ではないため,割愛してある。さらに『類経』に登場する経穴の位置は,混乱を避けるため,『新版 経絡経穴概論』のそれをそのまま掲載した。
  5.奇経八脈の任脈と督脈は,『素問』『霊枢』に散在していて,まとまった記載がないため,「その他の関連資料」として,『難経』や後世の『銅人腧穴鍼灸図経』(宋代・王惟一編),『奇経八脈考』(明代・李時珍著)からも引用した。
  6.馬王堆帛書の『足臂十一脈灸経』と『陰陽十一脈灸経』の循行に関しては,『経脈病候弁証與針灸論治』(張吉主編,人民衛生出版社2006年6月刊)を用いた。
  7.本書のなかで書かれている十四経脈の循行に関する「まとめ」は,主に『経脈病候弁証與針灸論治』(張吉主編 人民衛生出版社2006年6月刊)をおおむね訳出したものであるが,一部,手直しした部分がある。


 付篇(参考資料)
  1.「資料2 十四経循行図」の各経脈図は,『針灸学』(上海中医学院編,人民衛生出版社1974年刊行,浅川要ほか3名による同名の邦訳は刊々堂刊)をリライトしたものである。また「十四経循行図」に付した各経脈流注の書き下し文は刊々堂刊『針灸学』のそれをそのまま掲載した。
  2.「資料5 経絡の循行に関する基本的字句」は,『針灸学』(上海中医学院編,人民衛生出版社1974年刊行,同名の邦訳は刊々堂刊)にもとづいている。
  3.「資料7 経別の循行経路と六合表」の「六合表」は『針灸学』(上海中医学院編,人民衛生出版社1974年刊行,同名の邦訳は刊々堂刊)を参考にした。
  4.「資料14  鍼灸学校『経絡経穴概論』の経絡流注」では,経絡流注の参考資料として,日本理療科教員連盟と東洋療法学校協会が作成した現行の経絡経穴教科書『新版 経絡経穴概論』の記載をそのまま掲載した。

『古典から学ぶ経絡の流れ』 まえがき

[ 鍼灸 ]

まえがき


 鍼灸配穴原則の基本の1つに「循経取穴法」がある。『霊枢』終始篇に「病の上に在る者は下に之を取り,病の下に在る者は高きに之を取り,病の頭に在る者は之を足に取り,病の腰に在る者は之を膕に取る」とあるように,『黄帝内経』には経脈の循行にもとづくこの取穴法が数多く見受けられる。
 ところで『鍼灸甲乙経』『銅人腧穴鍼灸図経』『鍼灸大成』など歴代の鍼灸書には,各経穴に「主治」と「刺灸手技」が記載されている。そして,その主治の多くは「経脈の通じる所は,主治の及ぶ所」という慣用句で言い表されているように,経穴が所属する経絡の循行部位における病症である。たとえば手陽明大腸経の合谷穴は,『四総穴歌』(明代の『乾坤生意』出)に「面口合谷これを収む」とあるように,顔面の様々な病症を主治できるが,これは大腸経が手指から前腕,上腕を通って顔面部まで循行しているからにほかならない。
 しかし,大腸経各穴の主治を1つひとつ見てみると,たとえば同経の商陽穴では,「耳鳴,耳聾」が主治にあげられている。常識的には,大腸経は「上りて鼻孔を挟む」ところで終わっていて,大腸経の循行には耳とのかかわりが出てこないのだが,商陽穴はなぜ,耳の病症を治すことができるのだろうか。
 これは要するに,「其の別なる者,耳に入りて,宗脈に合す」と『霊枢』経脈篇にあるように,大腸経の絡脈が耳に入っているからである。したがって大腸経には,耳に関係する経穴が存在するのである。同様に,足三里穴の主治に「目不明」があるが,これは,胃経の経別(別行する正経)が目系につながっているからにほかならない。
 こうして見てみると,各経穴の主治を各経脈の循行を視野に入れて考える際には,本経のみではなく,絡脈や経別までを含めて,体系的に経絡をとらえなければならないのであろう。
 翻って,日本の鍼灸学校における現行の教科書『新編 経絡経穴概論』は,経穴の解剖学的位置については詳細に述べられているが,歴代の鍼灸書に登場する「主治」や「手技」がまったく示されていない。これは,道具の説明書において,その道具がなにに使うものなのか,どのように使うのかを記していないに等しいことである。さらに,各経穴が「主治」を欠くことによって,十四経の各経ごとに冒頭に書かれている経脈流注は,その後に続く所属の経穴と結びつかず,流注説明は単なる飾り物でしかなくなってしまっている。さらに流注説明も絡脈や経別を省くことによって,学生が経絡流注の全貌を知るには程遠いものとなっている。
 もし東洋医学にもとづく鍼灸治療を志すならば,経穴の主治に依拠するだけでなく,その経穴が所属する経絡の流注に着目しなければならず,さらには,その経絡循行の理解は絡脈や経別も含めた全体的なものでなければならないであろう。
 そうして見てみると,経穴についての書籍は巷にあふれる簡単な「ツボ療法」本から,鍼灸師向けの「経穴主治」書まで様々なものが世に出されているが,「経穴主治」の根底をなす経絡流注の全体像をとらえようとする書は,日本ではほとんど見受けられない。
 本書では読者が経脈循行の理解を深められるよう,『黄帝内経』まで遡り『素問』『霊枢』から,経絡の循行に関する部分を経別や絡脈,経筋など経脈ごとに取り出してまとめた。さらに『類経』(明代・張介賓著)から『霊枢』経脈篇の各経脈流注に関連する部分をそれに附し,日本語訳を施した。そのうえで,経別や絡脈までも含めて各経脈の循行をまとめた『経脈病候弁証與針灸論治』(張吉主編,人民衛生出版社2006年6月刊,日本語版を東洋学術出版社より刊行予定)を一部,手直しして訳出し,「××経の循行についてのまとめ」として,各経の末尾に記した。
 人体の全体像を経絡の体系でとらえようとするとき,本書がその一助になれば幸甚である。とりわけ,鍼灸学校の学生諸君が,教科書『新編 経絡経穴概論』のサブテキストとして,本書を用いていただければ本望である。


2017年7月
浅川 要



『[新装版]中医臨床のための舌診と脈診』 はじめに

[ 中医学 ]

はじめに


  1989年に上梓した『中医臨床のための舌診と脈診』は,多くの医師や医療に携わる方々の支持を得て,臨床の場で利用されてきた。
 このたび東洋学術出版社から改訂版を出す機会をいただき,全面的に各項に検討を加えたが,その骨格・意図については,初版のものを受け継いでいる。
 舌診については初版の参考写真の弁証を検討し直し,記述内容の再検討を行った。舌診は,現在一般化したデジタルカメラやタブレット等で簡便に管理できるようになってきたため,さらなる症例の蓄積が行われ解釈の発展が期待される。しかしながら舌写真の撮影・保存・再生において未だ一定の撮影方法や再生条件が確立されていないため,条件を揃えて比較することが困難である。今後は機器や撮影方法の発展とともに新たな診断技術とするための研究がなされることを期待している。
 脈診については数千年前からさまざまな記述がなされているが,同じと思われる脈においても年代や医家により説明が異なることも多い。脈診は本来実技によって修得していく手技であるが,理解を助けるため初版では脈波図を用い現代医学的解釈により簡便に説明できないかを試みた。しかしながら,やはり本来の中医学的観点を主眼とするほうが望ましいと考えこの点の変更を行っている。
 中医学の基礎理論に関しては本研究会の『[新装版]中医学入門』を読まれ,臨床の場において中医の四診合参をよりいっそう確かなものにするための参考にしていただければ幸甚である。
 なお,われわれの知識レベルに限界があり,掲載した症例の数も十分とはいえない。誤りや不足については,読者諸兄の忌憚のないご意見をいただければ今後の参考にさせていただきたい。


2016年10月 神戸中医学研究会



『中医オンコロジー ―がん専門医の治療経験集―』 はじめに

[ 中医学 ]

はじめに


 私は,日本の医学部を卒業したあと,漢方医として日本国内で診療をしてきましたが,2014年からは北京の中国中医科学院広安門病院腫瘍科に博士研究員として在籍しています。広安門病院には,進修医制度というものがあり,中国各地から経験を積んだ医師が著名な老中医のもとで勉強するために来ています。そのなかには,西洋医学で専門をもつ医師も多くみられます。
 中国では,がんに対して治癒を目指す中医治療が行われていて,学問として成立している―この事実は日本では一部を除いてあまり知られていません。多くの人は,いかがわしい詐欺まがいの治療だと思っているのが現状でしょう。日本では,がんの治癒や長期の担がん生存を目標として,天然薬物を最大限に応用する腫瘍治療は,積極的には行われていませんから,中国での中医腫瘍治験を紹介することは有意義であると思うようになりました。新たながん治療選択肢の可能性を医学的に示したいという気持ちがわいてきたことが,この本を出版しようとした動機のひとつです。
 本書は,『名中医経方時方治腫瘤』(花宝金ほか編著,中国中医薬出版社,2008年)の症例部分を翻訳・編集したものを中心に,新たに解説などを加筆したものです。この本には,現代の中国各地で,がんの中医治療を行っている名医の治験が集められています。掲載した症例は,経過の良いものばかりですが,「チャンピオンデータだけを示している」「西洋医学的な評価が不十分」(これは医師の責任というよりは社会的背景によります。詳しくは「中国の医療事情」の項に記しました)という非難は覚悟のうえで,治療手段の限られたがんに対する新たな可能性を提示する目的で紹介するものです。
 また「中医学は再現性の低いEBMである(中医学の各々の症例は過去の経験という証拠に基づいたEBMではあるが,その再現性は低い)」と,故・山本巌氏が述べていますが,中医診断名や弁証論治は絶対的なものではなく,診断する中医師の学術的背景や患者の状況により変化するものです。本書においても,そのような曖昧さや多様性を含むものであることをご了承いただきたいと思います。
 編著者の花宝金氏は,広安門病院腫瘍科で長年にわたって中薬による腫瘍治療の臨床と基礎研究に携わってきました。現在は同院の副院長を務め,院内外の中医診療環境の向上に多くの貢献をしています。諸流派の腫瘍治療の考え方を1冊にまとめるという難しい作業を成し遂げたのは,花氏の温厚な人柄と幅の広い交流によるものです。また,花氏は中医腫瘍治療の現状を俯瞰的にみることのできる立場にあることから,本書のために,中医腫瘍治療に関する総論として「中医学によるがん治療の現状と未来」を書き下ろしていただきました。
以下に,いくつか,本書を読むうえで,あらかじめ知っておいていただきたいことを述べます。
・症例提示の後には原書に記載されている考察以外に,日本人医師としての視点からCommentや用語の補足説明を加えました。
・各症例には提示した中医師の名前(敬称は省略)を記載し,巻末にはその中医師の略歴や学説などを記しました。
・各項のはじめには,臓腑別のがんについての総論を入れていますが,それは私が他の中医学書籍も参考にしてまとめたものです。あくまでも各症例を読むときの中医学的な思考方法への導入であり,当然のことながら一般化できるものではありません。
・本書に登場する抗がん生薬のなかで,代表的なものに関しては,古典と臨床および実験データを中心に紹介しました。中医学はエビデンス性に乏しいと思われがちですが,中国国内では科学的な実験手技にもとづいたエビデンスが構築されており,海外でも多数の論文が専門誌に掲載されています。また,これらの抗がん生薬は,創薬のターゲットとなるデータベースとして世界中から注目されています。
・巻末には,中国の医療の周辺に関する情報を記載しました。中国の中医事情に詳しくない読者は,はじめにここを読んで,中医診療のイメージをもったところで症例を読み進めると,より理解が深まることと思います。
 本書の翻訳には,約2年の時間を要しました。中国語と日本語の意味の乖離に閉口しながらも,できるだけ平易にするように努めたつもりです。本書が皆さまの日常診療の参考になれば,この苦労も報われることと思います。


2016年5月  平崎 能郎



『中医オンコロジー ―がん専門医の治療経験集―』 序

[ 中医学 ]




 現在の中国では,世界の他の地域と同様に,がん患者は年々増え続けており,その治療も時代の要求に合わせて,めまぐるしく発展している。がんの集学的治療の必要性が叫ばれて久しいが,中国では中医学がすでに集学的治療の一部となっている。
 また,昨今は患者主体の医療としてテーラーメイド治療が注目されているが,中医学はまさしく先哲の作り上げてきたテーラーメイド医療であり,その歴史は長く,症例経験も豊富である。中医治療は中国古来の和諧の精神にもとづいており,がん治療においても,担がん患者の体内の腫瘍と生体の抵抗力に中薬が作用し,平衡状態に導くといった働きをもたらす。
 西洋薬による治療は,がんを攻撃することに主眼をおくため,しばしば過剰医療を引き起こす。そこで中薬治療を併用すれば,この「過ぎたるは及ばざるが如し」の状態を未然に防ぐことができる。早期のがんに対しては西洋医学の治療で腫瘍を取り除き,中医治療でがん体質を改善する。また進行期以降のがんに対しては,中医治療で症状を緩和し,生存期間を延長し,高いADL(日常生活動作)レベルでの担がん生存を実現する。このように,集学的治療のなかで中医治療が果たす役割は大きい。
がんの中医治療学(以下,中医オンコロジー)は,今日まで発展を遂げてきている。ここ30年の間は,扶正培本を治療の基本に,担がん生存を目標とした治療にもとづく臨床および基礎研究を積み重ねてきている。担がん生存の目標とは,腫瘍は消滅していないが増殖は遅く,患者が長期に生存していて,かつQOL(生活の質)が保たれていることである。
 中医オンコロジーの特徴には,症状の軽減,QOLの改善,放射線療法・化学療法・分子標的薬治療の副作用軽減なども含まれている。また,中医オンコロジーの中核となる理念に「未病を治す」という考え方がある。がん治療においては,発病の予防,進行や転移の抑止,寛解後の再発防止が,この考え方にもとづくものである。
 中薬による腫瘍治療の効果は,日増しに国内外の専門家から注目されるようになってきている。なかでも世界規模の研究所であるアメリカ国立がん研究所(NCI)の補完・代替医療センターからは少なからざる関心を持たれている。最近では中薬とがんに関する学会が,アメリカ国立衛生研究所(NIH)によって何回も開催され,現状と植物薬の臨床効果および基礎研究の方法論に関して議論されている。中薬による腫瘍治療は,次第にEBM・個の医療・標準化を目標とするようになっている。すなわち中薬の薬効の評価体系を苦心して完成し,中医オンコロジーの基礎理論を絶え間なく作り出し,基礎研究では免疫学・遺伝学・分子生物学などを取り入れ,従来の簡素な抗がん生薬実験から細胞・遺伝子・分子のさらに深いレベルでの研究へと発展しつつある。
 2006年には,がんは「コントロール可能な慢性疾患」に位置づけられ,前世紀の「いかにがんを見つけて,いかに消滅させるか」という考えから,21世紀的な「分子標的治療と腫瘍のコントロール」へと発想が変化してきている。中医オンコロジーもこの方向を目指しており,人類の健康に大きく貢献し,なおかつ治療の国際標準を変革する契機となるよう,チャレンジし続けている。
 本書では,中国でがん患者に対して行われている中医オンコロジーの臨床の実際を紹介したいと思う。原書『名中医経方時方治腫瘤』(中国中医薬出版社)の日本語翻訳に際しては,2014年よりわれわれの研究グループに参加している平崎能郎が一人で行った。彼は,真面目で誠実な性格であり,われわれの真意を失わずに,わかりやすく適切な表現を用いて翻訳したことと思う。本書により,日本のがん患者に福音がもたらされることを願っている。


2016年5月  花 宝金



『中医オンコロジー ―がん専門医の治療経験集―』 推薦の序

[ 中医学 ]

推薦の序


 このたび畏友・平崎能郎君が2年間に渡る中国留学の総まとめの1つとして,花宝金著『名中医経方時方治腫瘤』を翻訳出版する運びとなった。この翻訳書は単に原文を日本語に翻訳したものでなく,平崎君の見解も加えられたもので,「訳著」と命名するにふさわしい内容である。ともかくその快挙に心からなる賛辞を贈りたい。
 日本漢方は江戸時代の中期に古方派と称される一群の医家が登場し,中国の医籍『傷寒論』『金匱要略』を再評価することから始まった。この集大成を吉益東洞(1702-73)が成し遂げたが,その方法論の根幹は方証相対論である。私はこの日本漢方と現代西洋医学を融合させた和漢診療学を提唱し,実践している者の一人である。方証相対を確立した吉益東洞は陰陽五行論を完全否定したが,それは当時の医界が金科玉条としていた陰陽五行論との思想闘争であったから,必然的なものであったと理解される。しかし方証相対論の最大の欠点は,なぜそうであるのかという疑問を持つことを拒否し,『傷寒論』『金匱要略』を主体とする方剤を過剰に重視し,ともすればその範疇の中だけに留まってしまうという学問的態度を形成したことである。これでは本書で花宝金先生が展開されているような経方と時方を駆使した「中医オンコロジー」の世界は見えてこない。
 本書の訳著者である平崎能郎君は,私が富山医科薬科大学(現富山大学)医学部和漢診療講座で教授の職にあった時に,和漢診療学の修得を志ざし入局した東京大学卒業の偉才である。今から18年前のことであるが,どこかに土の香りがする元気な若者であった。その後,2005年に私が千葉大学に和漢診療学講座の開設のために移籍した際に,彼はこの新たな講座を立ち上げることに参画してくれた盟友である。私の信条は西洋医学の知にも十分な理解を持ってこそ和漢診療学は形成されるというものであるから,平崎君にも西洋医学での博士号取得を考えた。千葉大学では免疫学の研究が最先端レベルであったことから,免疫学教室の中山俊憲教授にお願いして,大学院博士課程でご指導頂いたのである。この新しい環境に取り組んだ平崎君の努力は凄まじく,瞬く間に免疫学領域の博士論文を完成したのである。
 平崎能郎君は本来リベラルな性分であり,「常に患者に対しベストを尽くしていれば特に形式や思想に拘る必要はない」というもので,これは私の信条にも一致するものである。この信条の下に私の門下生の多くが海外留学を経験しているが,平崎能郎君は留学先として欧米を選ばず中国を選んだ。彼は2006年頃から独学で中国語を習得し,2014年から,中医科学院広安門病院に留学したのである。
 中国医学は歴史も長く,使われる生薬の種類も豊富で,その辨証論治は理論的に完成しているかのように思われる。私は平崎君が渡航する際に彼の推薦状を作成したのであるが,その際に「日本漢方は修得したか」と尋ねたところ,彼は「日本漢方の奥は深いので一生かけて研究するつもりです。今回はその源流を探りに行きます」との弁明であった。もしこのとき彼が傲慢に「修得した」と答えていたら,推薦状は書かなかったかも知れない。彼の目指す所は表面的な中医理論ではなく,長い歴史の中で積み重ねられて来た膨大な経験の奥にある「暗黙知」であると私は考えている。
 本書における症例は皆素晴らしく経過の良いものである。考察における中医学の理論は一部論理の空回りに傾き賛同しがたい点もあるが,概ね中国医学の利点を臨床に最大限に活かしたものであると言える。平崎君のコメントも日本の医師の視点から書かれており,本書を身近なものに感じさせる。また生薬解説では,英文になっていない中国での実験エビデンスも引用されており,これを手がかりに日本での研究が進むことを期待している。巻末の「中国の医療事情」は中国の社会事情を反映しており,本書を一層身近な内容にしている。広く同学の士に本書を推薦し,序に寄せる言葉としたい。


2016年8月  医療法人社団誠馨会
千葉中央メディカルセンター
和漢診療科 部長 寺澤 捷年



『金匱要略も読もう』 凡例

[ 古典 ]

凡 例


一.本書の内容
 本書はいまから『金匱要略』を学習しようとしている人はもちろん、『傷寒論』と『金匱要略』はあくまでも一体不可分のもので、両者は同時に学習すべきだと考えている人のご要望にも添えるように、前に出版した『傷寒論を読もう』(髙山宏世、東洋学術出版社、二〇〇八年)の続篇あるいは姉妹篇として、新たに執筆・編集したものである。
 内容は臓腑経絡先後病脈証第一より婦人雑病脈証并治第二十二まで、全二十二篇、四百三十八箇条である。 
 従来の参考書では後世の衍文として省略されがちであった条文や、附方も収録した。


二.原 典
 『金匱要略』の条文および番号は日本漢方協会学術部編『傷寒雑病論』(『傷寒論』『金匱要略』)三訂版(東洋学術出版社、二〇〇〇年)に拠った。
 各条文は『傷寒論を読もう』と同じ基準に従い、仮名混じりの読み下し文とし、読み方・句読点・段落などについては必ずしも従来の参考書のそれには捉われず、一読して意味が取りやすい平易な文章となるように心がけた。常用漢字がある漢字は常用漢字を用いた。
 なお、原典の明らかな誤りと思われる箇所については、『善本翻刻 傷寒論・金匱要略』(日本東洋医学会、二〇〇九年)を参考に適宜修正を加えた。


三.各篇の構成 
 各篇の冒頭に、その篇の内容を条文番号に従って短くまとめ、各条文に書かれている内容があらかじめわかるようにした。


四.使用漢字
 条文の読み下し文、および解説にはなるべく原典の文字を用いたが、読みやすさを考慮して常用漢字やよく馴染んだ漢字に改めた。


五.処方図解 
 『傷寒論を読もう』で図解に示した処方は除き、『金匱要略』のなかから繁用される五十処方を選び、処方の要点を一頁の図解にまとめ、挿入した。
 1、方意 その処方の性質・特徴あるいは主治する病態の病理機序などを
       要約した。
 2、方証 証候と同義で、その処方が用いられるべき症状・腹証・脈・舌の
       所見などを記した。
       適応証を鑑別するうえでのキーワードを「弁証の要点」として
       箇条書きにして示した。 
 3、方解 処方の君臣佐使と、現代に用いられている標準的分量や、
       構成生薬の性味や薬効などを記した。
 4、臨床応用 その処方が臨床の場でどのような状況や疾病で
          用いられるか、その一端をあげた。


六.各篇の総括  
 各篇の最後に、必ずしも条文番号の順には捉われず、その篇の内容を整理・要約して理解の便をはかった。

 

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