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5)食養・養生 アーカイブ

2006年11月16日

中医食療方-病気に効く薬膳

序文

 中医食療は中医学の重要な構成要素であり、長い歴史をもっています。
 二千年以上も前の中国の古籍『周礼』の中には、「食医」に関する記述があり、これによれば「食医」がもっぱら帝王の健康を守る配膳を行っていたことが記されています。唐代の孫思著の『千金要方』食治にも、食療によって病を治す者こそがよい医者であると書かれています。
 また、『黄帝内経』には健康維持のためには人体内の「陰平陽秘」が必要だと書かれていますが、中医食療もまた、陰陽の平衡を調節することを重視しています。
 薬膳とは、中医理論を基礎とする弁証に従って献立を立て調理することですが、薬物的な効能をもつ特殊な加工食品を意味することもあります。薬膳は薬物の効能と食物の味をうまく結びつけて健康維持に役立てることができるだけでなく、病気を治療することもできます。つまり、飲食と医薬はお互いにその力を借り合い、助け合うといった特徴があります。
 現代においても臨床上で、多くの食療方が健康を増進させ、病気に対する免疫力を高め、老化を防止し、回復力を高めるといった働きをもつことが証明され、病気の治療や治療の補助としてすでに役立っています。
 薬物の副作用や、薬原性の疾病が増え続けるなかで、多くの人々が「自然回帰」の生活を理想と考えるようになりました。食療方で用いられる生薬は、作用が穏やかで不快な味が少なく、長期にわたって摂取しても安全な天然物質です。一日三回の食事で、健康の保持・増進、疾病治療を行うことは、現代人の養生保健の方法として最適だといえます。
 本書『中医食療方』は中医学、中薬学、中薬炮製学、調理学、営養学を一体化させた著作です。その内容は広く豊富で、正確な中医理論によって分析され、中医弁証による疾病の分型にも合理性があります。体質、性別、年齢、疾病証候、症状、さらに癌の場合には進行状態の違いなども考慮に入れたうえで弁証を行い、さまざまな食療方を紹介しています。また、実際の調理にも身近な物を多く用い、作り方も簡単で、わかりやすく学びやすく実用的です。それぞれの体に合わせた食療方は、健康に資するのみならず、口福ももたらします。この本は多くの病院や家庭において、頼りになる食医や中医営養師となることでしょう。私は心からこの本の誕生を祝賀し、この本が医療従事者や患者をはじめ、多くの人々の福音となることを確信しております。

北京中医薬大学
廬 長 慶


はじめに

  「すべての食べ物に薬効がある」
 これが薬膳の基本的な考え方です。普段食べているもの、豚肉や白菜、キャベツにもみな薬効があるという考えです。また煎じ薬として使われる生薬のなかにも「食べられる」ものがあります。
 そもそも「薬食同源」と言いますが、「薬」は薬効の高いもの、「食」とは食べておいしいものか、せめてまずくないものであると筆者は考えています。とすると、おいしくて(まずくなくて)しかも薬効の高いものが食養や食療には最適であるということになります。実際、中国の関連文献にあるレシピには、このような食材・薬材が多く使われています。
 薬膳(中医営養学)は中医学の理論を基礎としています。この本の中にも多くの専門用語が出てきます。一見難しそうですが、中医学の理論を理解することで、薬膳を幅広く応用することが可能となります。湯液や鍼灸などの他の療法と同じ考え方で併用することも可能となるのです。
 中医学では証によって治療方法が決まりますが、薬膳の場合も同じです。症状や病気の種類が違っていても証が同じであれば、同じ薬膳を使うことができます。また、証に関係なく、ある症状や病気にとくに効果があるという食材もあります。
 この本には、中国の飲食養生法や飲食療法に関する数々の古典、および近年出版された多くの書籍を参考に、薬効の高い食材、おいしい薬材を多く使った食養・食療レシピを載せました。ただし、原典のレシピを尊重しながらも、現代の日本の食生活に合うように改良を加えています。日本ではなじみのない、手に入りにくいものは採用していませんが、なかには瑰花、山子、仏手柑など日本ではまだ一般的ではないけれども、薬効や使いやすさから是非普及させたいと思うものはあえて使っています。これらは生薬を取り扱ってる薬局や中華食材を扱っている商店で手に入ります。 
 分量についてはおかず類は4人分を目安に、お粥・飲料類は1人分を目安にしていますので適宜加減してください。
 また、他の症状や病名の項の同じ証のレシピも参考にできるよう、それぞれの項に参照頁を示しています。

瀬 尾 港 二

2008年03月26日

『実用中医薬膳学』

まえがき

 北京中医薬大学を卒業して十数年の臨床医としての仕事のなかで最も痛感したことは,難治性疾患やがんといった,治すことができない病気を前にした際の医者としての無力感でした。患者の絶望のまなざしに出会うなかで,病気を治療する医者より病気にさせない医者になりたいとの思いが自然に生まれてきました。そうして辿り着いたのが薬膳でした。
 薬膳は1970年代から人々に注目され始め,一時姿を消しましたが,21世紀に入ってから再びブームが起こりました。食物が豊かになり,生活水準が高まるにつれて,生活習慣病である動脈硬化・高脂血症・高血圧・心臓病・糖尿病・がんなどの発病率は年々増加していることや,薬の副作用などが問題とされるようになってきたことで,人々は伝統医学・予防医学に注目するようになり,薬膳はかつてないほど重視されるようになりました。
 中国の唐時代の孫思邈は,「安身之本,必資于食」,すなわち「安穏で健康的な人生の根本は食にある」と啓蒙していました。2千年前の春秋戦国時代の管仲は「王者以民為天,民以食為天」,すなわち「王は政権を守るために民衆のことを最も重要とし,民衆は食のことを最も重要とする」と語りました。食は生存の根本であり,民衆は何より食を重要とします。王は政権を安定させるために,まず民衆の食の問題を解決しないといけません。食糧が豊富で,おいしい食事が食べられるということは,人が生存していくための基本であり,国の安定・繁栄につながるものです。
 中医学の基本的な特徴として,宇宙の中にいる人間は自然の移り変わりに伴って生きているため,他のすべての生き物と同じように生・老・病・死という生命過程に従うという整体観念をもっています。しかし人間は,教育を受け,知恵を生かし,健康を維持し,病気を治療し,老化防止に務めるなどにより長寿の道を辿っています。ここで中医薬膳学は大きな役目を果たしています。国や地域・文化の違いにより食文化には差異がありますが,使われる食材には同じようなものが多いことも事実です。文化の交流を通し,食材に関する考え方を学習し,食の知識が豊富になれば,食卓に並ぶ料理も多彩になります。
 中医学のもう1つの基本的な特徴は,弁証論治です。薬膳学では,私たちの年齢・体質・かかっている病気および季節・生活環境・地域などにより,個々の違いを明らかにし,それぞれに合った適切な食材・中薬を選んで食事,あるいは治療を施すこととなります。
 中国では多くの中医薬大学にいる薬膳の専門家たちが集まって編集委員会が結成され,2003年に,統一教科書『中医薬膳学』が出版されました。この教科書の出版によりそれまで民間に流布していた薬膳学は1つの独立した学科として発展し,中医学をより充実させていく役割を果たしています。日本でも,薬膳に関する書籍は続々と書店の店頭に現れるようになり,薬膳学を勉強しようと考えている人々も年々増えてきています。
 本書の目的は中医薬膳学を基本とし,年齢・体質・体調・季節・病気に合わせた合理的な食生活を提唱し,人々の健康を実現するための食の教育を行うことにあります。
 この数年間,中医学・薬膳学の普及のために,薬膳学院や調理師学校での講義,各種団体主催による講演会,専門誌をはじめ女性誌・新聞への原稿執筆などのために,数多くの中国の中医薬大学の教科書や古典・専門書を勉強し直し,研究をしてきました。また薬膳学院などでは実際に料理を作り,中医薬膳学の弁証論治に則った多くのレシピもできあがってきました。本書はこれらの成果をまとめたものです。
 本書は,四季の養生・体質改善・健康維持・老化防止・ストレスの解消・体調不良への対処・病気の改善などに関する中医薬膳学の基礎知識から応用までの専門書として,薬膳に関心をもつ一般の方々はもちろん専門家の方々にも活用していただける内容と水準をもっていることと信じています。本書を参考に中医薬膳学を学ぶとともに,読者の方それぞれが身近に手に入る食材を使って日常の食事づくりに生かし,健康維持・病気の改善に役立てていただければ光栄です。
 最後に,東洋学術出版社の皆様と編集にかかわってくださった皆様に感謝の意を表します。また,支えてくれた友人たちにも心からお礼を申し上げます。

2008年2月17日
辰巳 洋 

2016年02月19日

『実用 体質薬膳学』 まえがき


まえがき


 体質という言葉は,昔から日常的に使われてきました。たとえば同じ年頃の子供でも,瘦せている子と太っている子,病弱な子と元気な子がいますが,「この子は体質がよい」「あの子は体質が弱い」などと言って,その差異の原因が体質にあることを暗に示してきました。また同じように大人でも,よくカゼを引く人と引かない人がいます。2005 年,中国をはじめとしたアジアを中心に新型肺炎(SARS)が猛威を振るいましたが,初期段階では,この病気に関する認識がなく予防対策をしていなかったため,多くの医療関係者がSARS に罹患しました。しかし,同じ患者と接触した医療関係者のなかには,感染した人と感染しなかった人がいました。その理由も,その人のもつ体質の差異と考えられます。
 体質とは一体どのようなものでしょうか?
 人の体質には先天のものと後天のものがあります。子供をほしい・産みたいという親なら,まず自分たちの体質を健康的なものにして,子供に素晴らしい遺伝子を伝えることが大事です。これがその子の健康的な体質の土台を作ることにつながり,先天の体質となります。以後は後天の体質です。出産後は子供をしっかりと見守り,大人になるまでの各時期において,生理的・心理的な成長の特徴に合わせて養育し,健康的な体質を育成していきます。成人してからは本人の問題になりますが,仕事・結婚・子育て・昇進・定年といったライフサイクルのなかでは,居住環境・職場の雰囲気・生活スタイル・食習慣・嗜好品などの影響を受けて,健康的な体質を維持しようと思っても,偏った体質を生じやすく,病気に罹りやすくなります。そこで,健康的に生きようという意識を持つとともに,年齢・季節に合わせた体の養生が重要になり,各種の偏った体質に合わせた改善方法を取ることが必要となります。
 近年,予防医学が重視されるなかで,中医体質学の知識を求めて,病気を予防するために偏った体質を改善しようとする人たちが増えてきました。筆者も,10 年前から体質に関する資料を集め始めました。専門書を購入し,論文を探し,古典を調べ,さまざまな体質基準を比較して,本書を執筆しました。途中,色々な事情が重なり原稿の完成が遅れてしまいましたが,逆にゆっくりと考える時間をもつことができ,本書の内容を充実させることができました。本書を読んで自らの体質を理解し,健康的な体質を目指して,中医薬膳学の知識を用いて調節する方が増えれば,本書の目的を達成したものと考えます。
 最後に,本書の趣旨を理解し,出版に尽力していただいた東洋学術出版社の井ノ上匠社長と編集部の皆さまに心から感謝を申し上げます。


本草薬膳学院 辰巳 洋
2015 年12 月25 日 東京


『実用 体質薬膳学』 本書の主な内容

 
[本書の主な内容]


[第1章]では,まず体質の概念および体質の種類について紹介した後,さらに中医体質学とはどのようなものであるかについて述べる。中医体質学は,中医学と同様に,整体観念と弁証論治を特徴とし,陰陽五行・気血津液精・臓腑学説の考えがベースになっている。


[第2章]では,体質に影響する素因や体質形成の原因について述べ,さらに平和体質(良好な体質)・気虚体質・血虚体質・陽虚体質・陰虚体質・陽盛体質・痰湿体質・気鬱体質・血瘀体質の9種類の体質における弁証方法を紹介する。


[第3章]では,体質を判断する方法について紹介する。体質の判断は,中医診断学の四診(望診・聞診・問診・切診)を用いて行い,その手順は①八綱弁証を用いて虚・実・寒・熱の体質に分類し,②気血津液弁証を用いて気虚・陽虚・血虚・陰虚・陽盛・痰湿・気鬱・血瘀の体質に分け,③臓腑弁証を用いて体質と臓腑との関係を明らかにしていく。


[第4章]では,各体質に勧められる食材・中薬について紹介する。中医薬膳学では食材や中薬のもつ性質・味・効能を利用するが,中医体質学では季節によって体内の陰陽の気が移り変わると考えているため,季節の変化に合わせた食材・中薬を選択して使うことが基本となる。


[第5章]では,各体質別に体質を改善する薬膳について紹介する。体質に合わせた薬膳処方を作る際には,中医方剤学の考え方が参考になるため,ここでは各体質に合う方剤を解説した後,薬膳として用いる食材・中薬,さらに薬膳処方のレシピを示す。


[第6章]では,古典に残されている健康維持と病気の予防に役立つ薬膳処方を紹介する。そこでは,「食薬同源」「医食同源」の考え方が息づいている。


[第7章]では,偏った体質を改善する際に選択できる食材と中薬について,効能別に分類して紹介する。食材や中薬には,それぞれ五気・六味・帰経があり,その違いによってさまざまな効能が発揮される。そのため,食材・中薬がもつ属性や要素をきちんと理解し,その人の体質を把握して,その改善のために上手に使うことが重要である。


(編集部)

2020年02月13日

『中国伝統医学による食材効能大事典』序

 

 
 
 健康寿命が取りざたされている昨今,食と健康に対する関心はますます高まっているように思われるが,食によって病気を予防し,健康を維持するためには,食材効能に関する豊富な知識と適切な運用が不可欠であることはいうまでもない。中国における「食治」の実践は周代に遡るといわれ,永い年月を通して食材効能に関する知識と運用の経験が数多くの本草書の中に蓄積されてきた。中華人民共和国建国後も『食物中薬与便方』などの良書が多数出版され,「食治」に関する豊富な知識が提供されている。これらはわれわれにとっても有意義なものであり,そのいくつかは日本語に翻訳されてすでに出版されているが,そこに掲載されている食材はごく限られたものであって,今日の多彩な食事情に対応してはいなかった。「食治」を日本に根付かせるためには,われわれ日本人が日常食している食材を網羅する総合的な事典がどうしても必要である。そのように思い立って参考資料を集め始めたのだが,十数年を経てここにようやく本書を上梓することができ感慨深い。
 われわれ日本人が常食としている食材は,植物類470種,魚介類250種,畜禽類他120種余りであり,そのうち本書は,植物類455種,魚介類156種,畜禽類他102種を収録する。植物は『中薬大辞典』を,動物は『動物本草』を基礎資料とし,これらに記載されないものはさまざまな文献を渉猟して補い,効能や用例を多数補塡した。植物類や畜禽類に関してはほぼ満足できるものとなったが,海産魚介類はかなりの品目を欠く結果となった。これは四方を海に囲まれた日本と大陸を領有する中国との相違であり,海洋生物に関する研究の進展を今後に待つしかあるまい。
 巻末の参考文献一覧にある通り,本書は主に中国文献に基づいたものであるが,中国文献の多くは,食材が有する効能と適応例を個々に一括表記しており,内服と外用の区別も曖昧であった。そこで本書は効能と適応例を対応させて記載し,内服と外用の違いを明らかにすべく努めたが,異なる見解も多々あろうかと思う。忌憚のないご意見がいただければ幸いである。
 最後に,東洋学術出版社の井ノ上匠氏,ならびに度重なる改変作業にお付き合いくださった編集部の皆さまに衷心よりの謝意を申し述べ,菌類に関して助言をいただいた松井英幸,石垣芳久両氏に御礼申し上げて序文としたい。
 

令和二年霜月 山中一男

 

2020年02月21日

『中国伝統医学による食材効能大事典』凡例

 
凡例
 
 
1.章区分は,学問的な分類を避け,『食品成分表』などが用いる一般的な分類に従い,各食材は五十音順に配列した。
2.食材名は,一般的な呼称に従い,別称は( )で,別種は【 】で表示している。
3.学名は,APG分類に従った。
4.中国名は,中国の簡体字を日本の漢字に置き換えている。
5.出典の詳細は,巻末の参考文献一覧に示す。
6.薬性や帰経は,『中薬大辞典』などの現代文献が確定したものに従い,歴代の本草書が示すその他の見解は( )内に記した。
7.種類は,食材の理解を深める目的で,原産地・特徴・伝来時期・使用例など,その詳細を記した。
8.効能は,「解表」「清熱」「瀉下」「祛風湿」「燥湿」「化痰」「散寒」「理気」「消食」「殺虫」「活血」「補虚」「収渋」「解毒」に大分類し,各効能をそれぞれに帰属させて再分類した。
9.効能に下線のあるものは,『中薬大辞典』などが示す代表効能である。
10.副次的な効能は( )内に示した。
11.「病」は,症状や病名を示す。
12.出典に実例のある症状や病名は太字で記した。
13.代表実例は,出典が示す各実例の中から再現しやすいものを選んだ。
14.付録は,難解な中医学用語を一般読者にわかりやすく解説したものである。
 

2022年09月16日

『医在厨房 医薬は台所にあり』はじめに

 
 
はじめに
 
 
 私は医学の道を50年以上も歩んできました。大学を卒業してから、医師、医学雑誌の編集者、漢方相談、講師など、中医学に関係するさまざまな仕事に携わり、20年前に中医学・薬膳学の教育に辿りつきました。
 中国での医師時代は毎日患者さんを診て、「体調はどうですか」「よくなりました」「あまり変わらない」などという会話ばかりしていました。その頃に治った患者さんの喜ぶ姿を見て、自分が他人の役に立ったことをうれしく思い、医者として「救死扶傷」の使命を達成したことに誇りを持ちました。しかし、その一方では、多くの患者さんは慢性病や加齢により各臓腑の機能が低下し、さまざまな病気が現れます。また、生活習慣病などは、症状がひどくなるにしても緩和するにしても、なかなか病院から離れることができません。そういうなかで、医者の仕事は責任が重く感じられ、あまり楽しいとは思えませんでした。
 日本に来て30年以上になり、その間、病院で患者さんの漢方相談に乗っていた時期があります。そのときに、一番多く受けた質問は、「私の病気には何を食べたらいいですか?」というものです。食事のことはみんな気にしているのだと思いました。
 20年前には、本草薬膳学院を創立しましたが、ある学生に入学の理由を尋ねた時、「残りの人生の41000回余りの食事をもっと自分の体に合うものにしたいから中医薬膳学を選びました」という答えが返ってきました。それを聞いたときに、とても感心し、わが身を振り返りました。私自身、毎日三食を食べていますが、自分の一生であと何回食事をするかということはまったく考えたこともなかったのです。すぐに残りの食事の回数を計算してみて、一食一食を大事にしなければいけないと、あらためて思いました。
 「民以食為天」(民衆は食をもって天となす)、「安身之本、必資于食」(安穏で健康的な人生の根本は食にある)というように、昔から「食」は個人の命や国の安定に最も関わっている事柄とされています。
 本草薬膳学院では、創立当初から、中医学にもとづく薬膳学の知識を食生活に取り入れて健康長寿を目指すこと、食から中医学の世界に入ることを教育目標としてきました。学院独自の教科書を作成したり、専門書を上梓したり、私自身もその都度学びを重ねてきました。さまざまな本をよく読み、新しい薬膳メニューや薬膳茶を考案しています。教壇に立って講義をするときには、そういう勉強の楽しさを学生に伝えるようにしています。みんなが自分の夢に向かって、目標を実現するために頑張っている姿を見ると、とても幸せな気持ちになり、薬膳を教える仕事を続けてきて本当によかったと思います。
 このたび、本草薬膳学院創立20周年の記念として本書を出版することになりました。この本の内容は、2004年から2011年まで、雑誌『伝統医学』と『漢方と診療』(株式会社臨床情報センター)に連載した「医在厨房」が元になっています。連載時には誌面の関係で書き切れなかったことを大幅に加筆しました。食と医学に関心のある方には、より役立てていただける内容になったと思います。
 何千年もの時の流れの中で、食が発展し、医学も進歩してきました。この本を読んだ皆様がそういう世界に触れて、ご自分の食生活を見直したり、楽しんだりしてくだされば幸いです。
 最後に、書籍化を快諾してくださった東洋学術出版社の井ノ上匠社長や、編集・制作をしてくださった同社の方々に御礼を申し上げます。


二〇二二年七月吉日
辰巳 洋



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