« 2019年06月 | メイン | 2020年03月 »

2020年02月 アーカイブ

2020年02月13日

『経脈病候の針灸治療』推薦の辞

 
推薦の辞
 
 
 張吉主編,人民衛生出版社刊『経脈病候弁証与針灸論治』の邦訳書『経脈病候の針灸治療』(鈴木達也訳)がこのたび,東洋学術出版社からようやく出版された。
 日本の鍼灸界は経穴を帰属させている経絡理論に対し,経脈流注も経絡の病候もこれまでほとんど無視してきた。もし,日本の鍼灸師が中国医学に則った鍼灸治療を志すならば,経絡流注の全貌を明らかにし,十二経脈と奇経八脈に投影され同時に経脈によって概括される人体の全臓腑・器官・組織の病候を学ばなければならないのだが,日本で唯一中国医学を教えているとされる鍼灸学校には「経絡学」の講座がなく,またその講座の教科書とすべき経絡流注書も経絡病候書も存在しないのが実情である。したがって当然,鍼灸師になっても経穴主治を特化させた特効穴にしがみつくほかになく,巷で目にする東洋医学にもとづく鍼灸書と称するものも,ほとんどはツボ療法の類である。
 日本で「経絡学」を確立するためには,なによりもまずテキストとなる経絡流注と経絡病候の書を必要とする。十四経の経絡流注に関しては,『古典から学ぶ経絡の流れ』(拙著)が2017年8月,東洋学術出版社から出版され,十四経流注の全貌を学べるようになったが,中国歴代の鍼灸治療経験を集約した経絡の病候書に関しては,その内容が膨大なこともあり,適当な書がなかなか見つからなかった。
 2006年6月に出版された『経脈病候弁証与針灸論治』を一読すると,経絡の病候に対する記述の系統性と全体性に目を見張った。同書は十二正経と奇経八脈に対し①経脈の経気の変動が臓腑に及ぼす臓腑の病証,②経脈の体表循行部位の病候,③その経脈と関連する臓腑・組織・器官の病候,④その経脈の経筋と絡脈の病候,に項目分類し,それぞれの分類項目にカテゴライズされた病症に対し,寒熱虚実の四綱などで弁証を行っている(奇経八脈は①を欠く)。例えば心経の変動が臓腑に及んだ①の場合,心痛・神志病・血症の3病症を挙げ,心痛と血症では,虚実寒熱で証を分け,神志病では癲狂と痴呆の2つの病症に分け,癲狂はさらに陰証と陽証の2証で,それぞれに【証候分析】【治法】【選穴】【選穴解説】を行っている。
 同書の筆者は,『内経』『鍼灸甲乙経』や『千金要方』『鍼灸大成』などは言うに及ばず,『百症賦』といった数多くの鍼灸歌賦にまで目を通し,歴代の医学文献に散在する種々の臓腑経絡病候や経穴主治を渉猟し,おびただしい資料にもとづき同書を書き上げている。
 同書は日本で「経絡学」を確立するうえで必要な書と考え,その邦訳を東洋学術出版社に強く求めた。しかし,多岐にわたる医学古典を引用して書かれた膨大な内容を正確に翻訳するには,中医鍼灸学に精通し,優れた中国語の翻訳能力を有する人物が,相当の時間と労力を傾けなければ完成しないことは必定である。
 幸い鍼灸師で中医師の資格を有する鈴木達也先生がお引き受けくださり,長い年月をかけて本書の翻訳に取り組み,今日,ようやく出版の運びとなったのはうれしい限りである。鈴木先生の翻訳の精度と完成度は,原書が引用した歴代の医学文献の扱い方に如実に示されている。例えば原書では引用文の後にその文献名を示しているだけのことが多いのだが,訳書では引用文献の引用箇所の章篇を付記している。さらに各経脈の文末の訳注では,原書が引用した古典の一文に対し,単にその語句説明に留まらず,必ず原典に当たって原書の引用に誤記が有ればその誤記を正して翻訳したことを説明している。
 われわれは日本において,「経絡の流注」「経絡の病候」「経絡の作用」「経絡の科学的分析」などから成る「経絡学」を確立し,湯液の弁証論治とは異なる鍼灸独自の経絡に根ざした弁証施治の体系を新たに構築していかなければならない。本書もそのための必須の一書となるであろう。
 

東京中医鍼灸センター
浅川 要

 

『中国伝統医学による食材効能大事典』序

 

 
 
 健康寿命が取りざたされている昨今,食と健康に対する関心はますます高まっているように思われるが,食によって病気を予防し,健康を維持するためには,食材効能に関する豊富な知識と適切な運用が不可欠であることはいうまでもない。中国における「食治」の実践は周代に遡るといわれ,永い年月を通して食材効能に関する知識と運用の経験が数多くの本草書の中に蓄積されてきた。中華人民共和国建国後も『食物中薬与便方』などの良書が多数出版され,「食治」に関する豊富な知識が提供されている。これらはわれわれにとっても有意義なものであり,そのいくつかは日本語に翻訳されてすでに出版されているが,そこに掲載されている食材はごく限られたものであって,今日の多彩な食事情に対応してはいなかった。「食治」を日本に根付かせるためには,われわれ日本人が日常食している食材を網羅する総合的な事典がどうしても必要である。そのように思い立って参考資料を集め始めたのだが,十数年を経てここにようやく本書を上梓することができ感慨深い。
 われわれ日本人が常食としている食材は,植物類470種,魚介類250種,畜禽類他120種余りであり,そのうち本書は,植物類455種,魚介類156種,畜禽類他102種を収録する。植物は『中薬大辞典』を,動物は『動物本草』を基礎資料とし,これらに記載されないものはさまざまな文献を渉猟して補い,効能や用例を多数補塡した。植物類や畜禽類に関してはほぼ満足できるものとなったが,海産魚介類はかなりの品目を欠く結果となった。これは四方を海に囲まれた日本と大陸を領有する中国との相違であり,海洋生物に関する研究の進展を今後に待つしかあるまい。
 巻末の参考文献一覧にある通り,本書は主に中国文献に基づいたものであるが,中国文献の多くは,食材が有する効能と適応例を個々に一括表記しており,内服と外用の区別も曖昧であった。そこで本書は効能と適応例を対応させて記載し,内服と外用の違いを明らかにすべく努めたが,異なる見解も多々あろうかと思う。忌憚のないご意見がいただければ幸いである。
 最後に,東洋学術出版社の井ノ上匠氏,ならびに度重なる改変作業にお付き合いくださった編集部の皆さまに衷心よりの謝意を申し述べ,菌類に関して助言をいただいた松井英幸,石垣芳久両氏に御礼申し上げて序文としたい。
 

令和二年霜月 山中一男

 

2020年02月21日

『中国伝統医学による食材効能大事典』凡例

 
凡例
 
 
1.章区分は,学問的な分類を避け,『食品成分表』などが用いる一般的な分類に従い,各食材は五十音順に配列した。
2.食材名は,一般的な呼称に従い,別称は( )で,別種は【 】で表示している。
3.学名は,APG分類に従った。
4.中国名は,中国の簡体字を日本の漢字に置き換えている。
5.出典の詳細は,巻末の参考文献一覧に示す。
6.薬性や帰経は,『中薬大辞典』などの現代文献が確定したものに従い,歴代の本草書が示すその他の見解は( )内に記した。
7.種類は,食材の理解を深める目的で,原産地・特徴・伝来時期・使用例など,その詳細を記した。
8.効能は,「解表」「清熱」「瀉下」「祛風湿」「燥湿」「化痰」「散寒」「理気」「消食」「殺虫」「活血」「補虚」「収渋」「解毒」に大分類し,各効能をそれぞれに帰属させて再分類した。
9.効能に下線のあるものは,『中薬大辞典』などが示す代表効能である。
10.副次的な効能は( )内に示した。
11.「病」は,症状や病名を示す。
12.出典に実例のある症状や病名は太字で記した。
13.代表実例は,出典が示す各実例の中から再現しやすいものを選んだ。
14.付録は,難解な中医学用語を一般読者にわかりやすく解説したものである。
 

About 2020年02月

2020年02月にブログ「書籍のご案内 - 序文」に投稿されたすべてのエントリーです。新しい順に並んでいます。

前のアーカイブは2019年06月です。

次のアーカイブは2020年03月です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。

Powered by
Movable Type