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2021年04月 アーカイブ

2021年04月05日

『針灸学[経穴篇](改訂版)』序にかえて

 
序にかえて
 
 臨床における,五感のフル活用による細心の患者観察の重要性については,これまでのシリーズ(『針灸学』[基礎篇](初版2版)と[臨床篇]の序文で度々指摘してきました。
 「経穴」とは,まさしくこのような先人による細心の患者観察の集積が基礎となり体系化されてきたものであろう。体の中の変化,それも器質的なものはもちろん,機能的変化をも投影していると思われる体表面の微妙な変化を的確に捉えた,その観察とひらめきの鋭さ,及びそれらを体系化した理論性には,ただ脱帽するものです。
 鍼灸治療の基本ともいうべき経穴に関する類書は沢山ありますが,この度の出版はこうした先人の経験に加えて,さらに現代中国における臨床成果の枠をも盛り込んだものです。また,前述の先行出版と同じく,日本の臨床現場で役に立つように,中国と日本が共同編集したものであり,いわゆる翻訳本とは違う読みやすさを持っています。
 ただ,生きている人間を対象とする「臨床」は,ダイナミックなものです。
 人間の生命・生存・健康を考える時,大切なことは,現象との遊離をした理論のための理論は必要ないということです。本書を教条的に使うことなく,常に,現象からのフィードバックと基礎理論との関連から,何故この経穴を使うのか? 何故この経穴に意味があるのか? という疑問を持ちつづけ,自ら考えるという医療人としての姿勢が大事かと思います。
 世界的規模で期待が広がっている鍼灸臨床の可能性を,さらに確実にするために,本書がお役に立てればこの上ない喜びです。大いに活用していただきたいと思うものです。
 

学校法人 後藤学園(東京・神奈川衛生学園専門学校)
学校長  後藤 修司



『針灸学[経穴篇](改訂版)』本書を学ぶにあたって

 
本書を学ぶにあたって
  
1.本教材の位置づけ
 1987年3月に学校法人後藤学園と天津中医学院とが共同編集による針灸教材の開発や具体的な学術交流に関する協議書を交わしてから10年の歳月が過ぎた。その間,両校の執筆陣はこの教材開発計画にもとづき,1991年5月には日本における針灸のための東洋医学テキスト・シリーズ第1部として『針灸学』[基礎篇]を出版し,1993年10月には第2部として『針灸学』[臨床篇]を出版してきた。そして今日,第3部として『針灸学』[経穴篇]を世に出す運びとなった。この三部の教材は密接に関連させるよう配慮されたものである。
 この10年間で世界の医療情勢,教育環境も大きく変化してきている。近年,オーストラリア,イギリスでは大学における正規の中医学教育が正式に導入されている。アメリカの一部の州でも針灸学教育に中医学を正式導入している。また他の多くの国においても,いろいろな形で中医学の採用そして実践が,医療のなかで教育のなかで行われるようになっているのである。
 本教材シリーズは1994年に[基礎篇]英語版として『FUNDAMENTALS OF ACUPUNCTURE & MOXIBUSTION』が出版されており,1996年に[臨床篇]英語版として『CLINICAL ACUPUNCTURE & MOXIBUSTION』がそれぞれ天津科技翻訳出版公司から出版され世界に向けて発行されている。[経穴篇]英語版も今秋には出版される予定となっている。この教材シリーズが日本のみならず世界における中医学教育そして医療のために少しでも貢献できることを期待してやまない。
 また本教材シリーズは新しいスタイルの教材として中国でも高く評価されており,今秋には中国でも[基礎篇][臨床篇][経穴篇]を合冊にした中国語版が出版される予定となっている。1989年に両校で交わした学術交流協議書には,「しかるべき時期」に本教材シリーズの英語版と中国語版を両校で出版することが約束されているが,まさに今日,この「しかるべき時期」,すなわち中医学の国際化時代が到来したと言えるであろう。
 
2.本書の組み立て,内容,学習方法
 本書は[基礎篇]とともに日々の針灸臨床のために理論的根拠を提供するものである。[基礎篇]が東洋医学独自の哲学観,生理観,疾病観,診断論,治療論を提供しているのに対して,本書は針灸臨床で経穴を用いる場合,どのような考えにもとづいて治療穴を選穴するのか,その根拠を提供するものである。
 治療穴を決定するためには,経絡と臓腑との絡属関係,経絡と経絡の関係,経絡の循行と身体各部位との関係,経絡の主治法則,経絡と経穴との関係,経穴の主治法則・主治範囲,要穴の治療範囲などの一般法則をまず学習する必要がある。
 本書ではまず総論で経脈・絡脈・経別・経筋の循行,皮部の分布について述べた。これにより経絡と臓腑との関係,経絡と経絡の関係,経絡の循行と身体各部位との関係がわかるであろう。また経脈・絡脈・経筋の病候を提示したが,これにより『内径』時代の疾病観を理解することができる。
 経穴緒論においては経穴名称の分類について述べたが,これは経穴各論の経穴命名の[由来]を学習するときに参考にすることができる。経絡定位の方法は,取穴を行うときの基準となるものである。
 経絡の主治法則,経穴の主治法則を把握しておくと,経穴各論の[主治]を学習するときに大いに参考にすることができる。[主治]を学習するときは,各経穴の主治症を1つ1つ覚えるよりは,これら経絡・経穴の主治法則にもとづき,分類しながら把握したほうが実用的である。たとえば主治症のうち本経の循行部位の病症は,経絡の主治法則や分部主治法則を知っていれば,容易に把握することができるし,主治症のうちの臓腑の病症は経穴の主治法則,および臓腑と臓腑の諸関係などを知っていれば,これも比較的容易に把握することができる。
 また経穴の特殊作用については,各経絡の要穴を例とすると,これにも一定の法則があることがわかる。各経絡の井滎兪経合,原穴,絡穴,郄穴,募穴,背兪穴は,その所属する経絡と関連させてその作用を見ると, それぞれが所属する経絡上では要穴として特殊な作用をもち,それによる主治症があることがわかる。また原穴グループや郄穴グループとして見ると,原穴に共通する作用,郄穴に共通する作用といったものもあるわけである。これらの法則を意識しながら各経穴の主治症を見ていくと,各経穴の主治症がより理解しやすくなると思われる。さらに本書の特徴として,本書では経穴の[作用機序]を加えた。特に重要と思われる項目に対しては,経穴と主治症との関係が一定程度わかるように作用機序として提示している。
 [定位]と[取穴法]は,1990年6月7日に中国国家技術監督局が発布し,1991年1月1日から中国で実施されている中華人民共和国国家基準[経穴部位]に準拠している。なお日本と中国では,ある部位の骨度法の違いや,出典の違いなどにより取穴した部位が明らかに異なる経穴がある。それらについては対照表として巻末に付した。
 [刺灸法]では一般的な刺法と灸法を紹介した。臨床的にはいろいろな工夫が可能なので,あくまでも参考にしていただきたい。また[配穴例]については,古今の医書から代表的なものを引用して参考に付した。配穴例は処方として使えるものもあり,古今の経験を病症サイドから検索できるように巻末に別に索引を設けた。
 本書は『針灸学』[臨床篇]で紹介した各病証に対する処方例の方解と関連させながら学習すると,より効果的な学習ができる。選穴理由や配穴理由を自分で考えることにより臨床的な処方トレーニングも可能になると思われる。針灸治療に経穴を役立てるためには,各種針灸医書の取穴法の比較整理とともに,東洋医学的な角度からの経穴の認識,応用の仕方を学ぶことが今後いっそう重要になるであろう。本書を大いに活用していただきたい。
 

平成9年7月吉日
学校法人後藤学園中医学研究室長
兵頭 明


 
 

『針灸学[経穴篇](改訂版)』改訂版について

 
改訂版について
 
 今回の改訂ではおもに以下の2点の変更を加えた。
 
1.各論の各経穴にある[定位][取穴法]のうち,わが国の鍼灸師養成施設で用いられているテキスト(『新版 経絡経穴概論』[第2版]・医道の日本社刊)と大きく異なり,教育上問題になりそうな経穴を選び,*を付して日本の記載を追記した。
さらに,巻末に本書と日本の記載の違いを対照できるよう一覧表(付録2「日本の教科書と部位が異なる経穴一覧」,付録3「日本の教科書と取穴法が大きく異なる経穴一覧」)を付した。そのため,改訂版では旧版の付録2「日中経穴部位対照表」を割愛した。
 なお経穴の選別にあたっては,東京衛生学園専門学校の髙橋大希先生にご協力いただいた。
 
2.各論の各経穴の解説に[効能]の項目を新たに追加した。
 効能の出典は,天津中医学院編『腧穴学』(1983年刊)。経穴の効能の表記は中国でも定まっていないが,『腧穴学』は天津中医学院(現・天津中医薬大学)が編集したものであり,天津中医薬大学と学校法人衛生学園が共同で編纂した本書に付け加えても一貫性を保てるとして採用した。これによって,[定位][取穴法][効能][主治][作用機序][刺灸法][配穴例]が齟齬なく一貫したものになったと考える。
 
 その他,経穴名の漢字表記をWHO標準に合わせたほか,改訂作業中に見つかった誤字等を修正した。
 
 本書は,経穴の[主治]を,本経の循行部の病症や臓腑の病症等で分類して表記し,さらに経穴と主治との関係を理解するうえで役立つ[作用機序]を詳しく解説している点に大きな特徴がある。この点に関して旧版から変更はない。本書では,治療穴の選穴や配穴を自ら考える際に必要となる根拠を十分に提供しているので,大いに活用して欲しい。

(編集部)


 
 

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