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2013年05月 アーカイブ

2013年05月09日

『朱氏頭皮針[改訂版]』

改訂版 まえがき


 宇宙のあらゆる生物には生存と種繁栄の本能がある。そのため自己治癒力と環境に適応する能力を備えており,人間はその能力が特に強い。このことは古代中国の「天人合一」の全体観のなかにすでに把握されていた。
 世界には,西洋医学と中国医学の2つの大きな医学があり,その発祥と発展の違いによって,それぞれ異なる特徴と長所がある。しかし,近年情報の迅速化が急速に進み,すべての物事の交流と融合により単一で純粋な文化は打ち破られ,医学もその例外ではなくなった。中国医学は早くから西洋医学の知識や診断をとりいれ,西洋医学も中国医学の深い経験を受け入れるようになった。今後,現代医学の検査や治療を拒否する中医学,また物理的な検査や治療だけにこだわる西洋医学は完全な医学とは認められず,中西医結合の医学がますます求められていく時代になることは間違いない。
 「朱氏頭皮針」は中医学を核心とし,西洋医学の補佐により開発された優れた治療法である。その特徴は,疼痛全般,慢性疾患や麻痺のみならず,救急,急性の症状,重症,難治性の病気などにも適応し,即効性があり,また針と消毒さえあれば,どのような時,どのような場所でも行える治療法である。
 1987年の世界針灸連合学術大会で,筆者は頭皮針を使い,歩行困難な急性脳卒中患者を車イスから立ち上がらせ,歩かせた。その頭皮針効果の驚きは世界を駆け巡り,アメリカ,日本,香港,台湾,シンガポール,フィリピンなどから講演と治療を求められ,朱氏頭皮針は「針灸医学の第二次革命」「朱明清旋風」と称されるほど話題になった。
 「朱氏頭皮針」の初稿は1984年に書き始め,当時は浙江省の頭皮針学習教書として用いた。その後も臨床実践と研究により補充を続け,1987年に第一稿が完成した。しかし,当時の中国国内事情により出版できず,1989年9月に日本の東洋学術出版社の熱誠により「朱氏頭皮針」がはじめて出版されることになり,世界に朱氏頭皮針を広める先駆けとなった。
 しかし,初版「朱氏頭皮針」からすでに23年が経過し,その間も臨床経験と研究を積み重ねた結果,朱氏頭皮針はさらに大きく進化している。その最大の変化は治療帯を治療区に変えたことである。これにより,刺針場所がより選定しやすくなり,複雑な操作手技も行いやすくなり,また中医弁証による選区も明確になった。この改訂版は筆者の針灸臨床50年の経験を総括したものであり,総論も大幅に書き換えた。治療区の定位,効能を詳細に記し,また治療のメカニズムについて論考し,治療効果を高める導引については今までになく具体的に論述して「朱氏頭皮針」をより完全なものに紹介できたと確信している。
 針灸は今や人類にとって重要な治療の一部である。針灸は臨床効果が魂であり,これは朱氏頭皮針の魂でもある。本書で紹介した内容は,すべて臨床の実践証明を通しており,これに針灸の発展向上をめざす人々が自らの臨床経験を加えてさらに朱氏頭皮針を発展させ,世の中の多くの人々に幸福をもたらしていくことを切に祈っている。

  2013年3月
 朱明清  


初版 まえがき


 朱氏頭皮針はまたの名を頭穴透刺療法ともいい,頭部有髪部位にある特定の経穴透刺治療帯に針を刺すことによって全身の疾病を治療する専門療法のひとつである。いわゆる微刺療法〔特定の局所に刺針して全身の疾患を治療する刺針法〕の範疇に属している。
 この治療法は著者が中国伝統医学の理論をもとに,臓腑・経絡学説を基礎として,長期にわたる臨床実践と万を数える症例の治療経験を経て,それらを総括して作り上げたものである。
 著者は頭部有髪部位の経絡・経穴の分布と全身の肢体・臓腑・五官七竅とのあいだにある密接な関係に基づいて経穴透刺治療帯を確定した。また伝統的な刺針手法と『内経』にみえる手法の基礎の上に,「頭部の経穴には浅利,透刺を行うべし」という原則を結びつけ,頭穴の透刺に独特な操作法を編み出して用いている。これが「抽気法」と「進気法」である。さらに各病症に応じて適切な導引法,吐納法などを組み合わせ患者に行わせることで,ほぼ完璧な治療法となり,疾病の予防と治療という目的にかなうものとなった。こうして独自の風格を備えた「朱氏頭皮針」が形成されたのである。
 本治療法は適応範囲が広く,安全かつ有効で,しかも効果が早くて確実に現れるにもかかわらず副作用がないのを特徴とする。治療帯はかなり覚えやすいし,刺針及び操作は時間や場所,気候,環境,さらに体位による影響を受けない。また重篤症,急性症,マヒ,疼痛症に対して著効が現れるが,臨床所見に悪影響を与えることがないので,患者を危険な状態から救って延命の手助けをすることができる。このため医師と患者から非常に歓迎されている。つまりこの治療法は,中国医薬学の宝庫のなかの貴重な遺産のひとつであるとともに,従来の針灸医術には登場しなかったまったく新しい創造ということができると考えている。
 本書の内容は大きく総論と各論の二つによって構成されている。まず総論では頭皮針療法の起源とその発展について簡単に述べたあと,朱氏頭皮針の治療帯の位置とその主治および臨床治療を説明する。さらに治療帯と伝統的な経穴との関係,また朱氏頭皮針療法の基礎についても述べる。各論では特に急性症と系統別疾患の治療を紹介する。最後に症例を付して参考に供することにした。
 頭皮針療法は今まさに発展段階にあり,始まったばかりであって,その作用原理や臨床治療などの面で,今後一層の探索と研究がなされなければならない。したがって本書の出版が引き金となって西洋医,中医,中西医結合医及び医療・教育・科学研究にたずさわる人々が臨床や教育の現場でこれを参考とし,また応用してくださるようになれば幸いである。さらには今後それぞれが協力しあって頭皮針療法を研究し,これをしっかりとした体系をもった確固とした専門療法として確立させて,人類のための医療事業として役立てることができるようになることを,心から願っている次第である。

朱明清・彭芝芸 
   1989年1月 中国・北京にて  

2013年05月16日

名医が語る生薬活用の秘訣

推薦の序


 1980年代は現代中医学の日本への導入の黄金時代であった。日中国交回復前後から始まった先人たちの努力を引き継ぎ,80年代に入り,ありがたいことに私たちはその恩恵を享受することとなった。当時60代であった全盛期の老中医たちが相継いで来日し,日本で中医を学ぶ者を直接指導していただく幸運に恵まれた。張鏡人(上海),鄧鉄涛(広州),陸幹甫(成都),柯雪帆(上海)らの諸先生で,振り返ってみると,私たちは最高レベルの先生に習うことができたのだとつくづく思わされる。
 なかでも何度も来日され,熱心に指導してくださったのが焦樹徳老師(中日友好病院・北京)であった。北京中医学院時代の教え子の兵頭明氏が私たち中医学徒と焦老師を繋げてくれた。京都の高雄病院や東京での勉強会で,一日中あるいは泊まり込みで講演,質疑応答,私たちの症例報告の講評,患者さんに来ていただいての症例検討と濃密なスケジュールをこなし,私たちに真摯に向き合って教えてくださった。この熱心な生徒たちを北京にも呼びたいということで,1986年に中日友好病院で日中学術交流会を準備してくださった。矢数道明先生を団長に参加したが,ここでも焦老師の友人の多くの老中医の知己を得ることができて感激した。私の北京留学時代にも何度かお目にかかり,留学先の広安門病院の老中医の路志正先生に私の教育を託してくださった。温厚なお人柄も魅力があり,来日の際には拙宅にも来ていただいたことがあり,心の通じた恩師だった。焦老師こそ日本の中医学の偉大な教師であったと思う。
 焦老師の専門領域の一つは痹証(リウマチ性疾患)であった。焦老師の講義には日本では流通していない海風藤・伸筋草などが登場して戸惑ったが,幸い本書の原書『用薬心得十講』が出版されており,これを入手して学ぶことで,見知らぬ生薬の使い方にも得心できた。こうして接した本書は臨床に密接に結び付いた生薬の効能と配合を教授する珠玉の宝物で,中薬学の教科書の知識を臨床に活かす格好の手引きとなった。
 本書は中国でも版を重ね,読み継がれている。それは薬物の臨床応用,すなわち弁証論治において薬物を組み合わせ,随証加減する知識を与えてくれる書として,本書がきわめて有用だからに他ならない。各論の各薬物の解説では,その薬物の効能が簡潔にピシッと示され,次いでそのいくつかの効能を活かすための配合が丁寧に述べられている。例えば第3講・瀉利薬にある「沢瀉」の項を見ると,その効能は「肝・腎2経の瀉火,膀胱の逐水である」として,その効能を得るための7通りの配合の例が示されている。学んで応用してみると臨床の場面に役立つことが一目瞭然である。
 中薬学の教科書で同じ分類項目(例えば利水薬・補益薬など)に属していても各薬物には個性があり,またいくつもの顔をもち,それぞれいろいろな場面に応用できる。それは薬物の配合により発揮される。本書は臨床の場面に応じた配合の例が豊富で適切である。中薬学の教科書を学び,その知識を臨床に活かす次のステップの学習に,本書が役立つ。
 まず,ご自分の使い慣れた身近な薬物から学んでみることをお勧めする。その場合,例えば沢瀉を学ぶとき,同じ分類の茯苓・猪苓・車前子・滑石なども同時に読み進み,使用に当たっての鑑別点を学ぶとよいだろう。また,第1講と第10講の総論部分も味わい深い。初心者には得心がいかない部分もあるかもしれないが,本書を臨床に活用しながら,繰り返し総論部分も読み返していただきたい。弁証論治にもとづく用薬の神髄がおぼろげにも理解されるのではないだろうか。
 本書を愛し,その恩恵を受けたひとりとして,日本語に翻訳され,多くの方に学習されることになるのがたいへん喜ばしく思われる。本書を手に取る皆様が,本書の知識を臨床の場面に活用して,弁証論治の能力を向上されることを期待して推薦の序としたい。

日本中医学会会長
平馬直樹


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