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2019年01月25日

『腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]』 序にかえて

 

序にかえて
漢方を学ぶ基本的な心構え


 

漢方三考塾主宰 寺師 睦宗


 
(1)志を立てること
 漢方医学を学ぶ心構えは,まず志を立てることから始まる。志の立て方が篤くて真剣であれば,おのずから道が開け,そのテンポも速い。が,ちょっとした好奇心で漢方を覗いてみようという態度であれば,十年やっても二十年やっても,深くて広い漢方を自分のものにすることは難しい。
 
(2)白紙になって漢方と取り組め
 漢方を学ぶ場合に,初めから近代西洋医学の立場で批判しながら研究したのでは,漢方を正しく理解することは難しい。漢方が一応自分のものになるまで,白紙になって漢方医学に取り組むことが必要である。近代医学の立場で批判するのは,漢方が自分のものになってから後のことである。
 空海の「瀉瓶」※である。
※瀉瓶:空海は805年長安に留学し,師の恵果から密教の秘法を授けられた。それはあたかも瓶から別瓶に内容を移し注ぐが如く,空海は師の秘法を悉く,伝授され,それを体得していった。
 
(3)散木になるな
 散木というのは,中心となる幹がなくて,薪にしかならない小木の集まりのことである。漢方の世界は広いから,学ぶ方法を誤ると薪にしかならない散木になってしまう恐れがある。まず一方の幹になるものを撰んで,これをものにするまでは,あれこれと心を動かさないことが必要である。
 幹が亭々と空にそびえるようになれば,枝,葉は自然に出てくる。中心になる幹がなくて,「あれもよし,これもよし」という乞食袋のようなものになってしまう人がある。そこで,まず中心になるものを選ばなければならない。それにはどうすればよいのか。
 
(4)師匠につくこと
 伝統ある漢方の学術を学ぶには,師匠について伝統を身につけることが必要である。それは,まず師匠の模倣から始まる。はじめから伝統を無視した自己流では,天才は別として,普通の場合は問題とするに足りない。しっかりとした伝統を身につけたうえでは,その殻を破って,自分で自分の道を切り開いて進むがよい。師匠を乗り超えて進むだけの気概がなければならない。
 「見,師と等しきとき師の半徳を減ず。
  見,師より過ぎてまさに伝授するに堪えたり」渓山禅師
 しかし,現在の日本では師匠につきたくても,師匠を得ることは難しい。また師匠はあっても,いろいろな事情で制約を受けて,師匠につくには容易ではない。このような人たちは,漢方の研究会や講習会に出るとよい。
 
(5)古典を読め
 漢方医学の根幹となる第一級の書(『傷寒論』『金匱要略』『素問』『霊枢』『本草綱目』『本草備要』)を読むこと。これらの古典は難解で,これをマスターすることは容易ではない。そこでまず現代人の書いたものから読み始め,だんだん古いものにさかのぼって読むようにするとよい。それに名賢哲匠の治験例と口訣を読むとよい。

(大塚敬節先生著『漢方医学』参照)


 
 

『腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]』 凡例

 

凡 例


 
1)収録した処方は,現在最も繁用されている,エキス製剤になっていて,かつ健康保険適用になっているものから126処方を選んだ。
2)処方は効能をもとに章を大きく分け,各章のはじめに簡単な解説を付し,その章に収載してある処方名を列記した。
3)各処方名の左上にエキス製剤番号(おもに先発メーカー・ツムラに準じる)を付した。処方の解説は見開き2頁に収め,以下のように行った。
 ●処方名:処方名の後に出典を示した。別名があるもの,あるいは合方・加減方であるものは,処方名の下に附記した。
 ●挿図:腹証および体表に現れる典型的な症状を示した。
 ●方意:その処方の具体的な症状を簡略に記し,脈証や舌証を附記した。文中,病位とあるのはその処方が傷寒六経のどの時期に,あるいは部位的に身体のどの臓腑の部位(五臓六腑・十二経脈)にあるときに有効かを示したものである。
 ●診断のポイント:証を決定するにあたって目標となる症候を,箇条書きにした。腹証や自覚症状などから特徴的なものを選んでいるため,必ずしも挿図にはない事項もある。
 初学者は,以上の挿図・方意・診断のポイントだけを見れば,その処方の証をおおよそ理解できるように配慮した。
 ●原典(あるいは主治):出典の条文を,片仮名交じりの読み下し文に書き改め,文末の( )の内に出典の書名と篇名等を記した。
 原典と断定できる文献が確定できない処方については,その処方の運用に後世決定的な影響を与えたと考えられる文言を「主治」として示し,「原典」の代わりとした。
 ●処方:処方を構成する生薬の薬物名と,1日分の分量のグラム数を示した。分量については,大塚敬節・矢数道明両氏の『経験・漢方処方分量集』第4版(医道の日本社刊)あるいは,株式会社ツムラの医療用漢方エキス製剤1日分の含有量などを参考とした。
構成生薬の記載について:
 たとえば,桂枝は日本薬局方では「桂皮」に統一され,桂枝と桂皮は混用されている。日本では桂枝というと桂皮(ベトナム桂皮)を用いることが多いが,効能は少し異なる。このため,本書では補陽温中を主目的とするときは桂皮と記し,その他の発汗解肌・平衡降逆・温通経脈などに働かせるときは原典が「桂枝」としてあれば桂皮とせず桂枝と記載している。また,芍薬についても,日本では「芍薬」であると白芍(補血斂陰・柔肝止痛)と赤芍(散瘀止痛・清熱涼血)の区別がはっきりしない例が多いが,その点も原典の記載に従った。
 ●構成:処方の君臣佐使を記した。君臣佐使の決定は,成無己『傷寒明理薬方論』,許宏『金鏡内台方議』,汪昂『医方集解』およびその他の解説書,あるいは筆者の考勘に従った。
 君薬は一方中の主薬で,疾病の主証に対しておもな治療効果を発揮する薬物である。
 臣薬は君薬を補助し,その薬効を増強する薬物である。
 佐薬は臣薬とともに君薬を助けたり副作用を防止する薬物である。
 使薬は佐薬の補助薬として働くとともに方剤中の諸薬を調和する働きをもつ。また引経薬として,諸薬を直接病巣局所に導く作用を果たしていることもある。
 漢方薬の処方構成はすべて,君臣佐使の法則に従ってなされている。これが一般の西洋薬や民間薬と異なる特徴である。君臣佐使の区別のない処方は,「薬あって方なし」という無秩序な薬の寄せ集めに過ぎず,規律がなく効果の程度も方向も不明確となりやすい。この点を加減方や合方に際しても十分配慮すべきである。
 ●方義:処方を構成する各生薬の,中医学的性味と本草学的薬効とを記した。必要に応じ,文末にそれらの生薬が組み合わされた場合の特徴的作用についても付記した。
 ●八綱分類:八綱は弁証の基本である。正気の盈虚,病邪の性質とその盛衰,疾病の所在する部位の深浅などから,表裏・寒熱・虚実の基本的な症候に分かち,さらにそれらを総括するものとして陰陽がある。本書の八綱分類は,その処方が全体として表裏・寒熱・虚実のいずれの傾向を有するかを大まかに記したものである。必ずしも断定できない場合は( )を付した。
 ●臨床応用:各社の医療用漢方エキス製剤の適応症も考慮に入れ,漢方診療のなかで有効あるいは適応すると思われる症状や疾患を列記した。
 ●類方鑑別:証が類似していてまぎらわしい処方との鑑別のポイントを記した。
4)どの処方も,さまざまな効能をもっているので,単一の範疇に収められるものではない。したがって書物によっては別な分類法に従ったり,別な範疇に入っていたりするものもある筈である。本書の分類は,あくまでも本書独自の試みである。分類にこだわらず自在に使いこなすところに漢方の特長があるともいえる。
5)読者の便のために,巻末に本書収載の処方に用いられている構成生薬の薬効一覧表と,処方名の五十音順索引とエキス製剤の番号順索引および症状・病名の索引を付した。
6)引用したテキスト・参考にした解説書は「引用文献」として巻末に列記した。

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