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通巻139号◇【リポート】石学敏教授 来日講演 醒脳開竅法の応用と可能性

2014年9月23日,中国工程院院士(中国における技術分野の最高研究機関のメンバー)で,天津中医薬大学第一附属医院の石学敏教授の来日招待講演会が,品川区立総合区民会館(きゅりあん)で開催された(主催:中国伝統医学研究院・リー針灸治療院)。当日は定員の85名の参加者がつめかけ会場は熱気に包まれた。
石学敏教授は脳卒中に対する画期的な鍼灸療法として知られる「醒脳開竅法」の創始者である。今回の講演会では,本療法の具体的な応用法をはじめ,基礎・臨床の研究成果などについて,石教授自ら解説される貴重な機会となった。

編集部


石学敏教授(左)と厲暢先生(右)
石学敏教授(左)と本講演会を主催した厲暢先生(右)


再現性にすぐれた醒脳開竅法


 醒脳開竅法は,1972年に石学敏教授が創案した中風病(脳梗塞・脳出血)に対する鍼灸療法である。中国において中風病は健康を害する4大疾患の1つとされ,発症率1位・高い死亡率・後遺症が多いといった特徴があり,家庭や社会に大きな負担をかける疾患として認識されている。
 醒脳開竅法は,瘀血・肝風・痰濁などが脳竅を塞ぎ,「竅閉神匿,神不導気」となることが中風病の基本病機であることに着目して考案された。おもに陰経と督脈を選穴するのが特徴である。
 さらに石教授は「刺鍼手技量学」の概念を打ち出し,醒脳開竅法を再現性のある体系立ったシステムとして提起した点でも画期的であった。刺鍼方向・刺鍼深度・手技・刺激量の目安をすべて規範化し,誰が施術しても同じ効果を出せるという高い再現性を具えていることが本療法最大の特色である(詳細は石学敏著・兵頭明監訳『写真でみる脳血管障害の針灸治療―「醒脳開竅法」の理論と実際―』(東洋学術出版社)を参照されたい)。
 近年では本療法の治療機序などについて,分子・遺伝子レベルで実験研究が深められており,また臨床研究においても高レベルのエビデンスが集積されつつあるという。


刺鍼手技の重要性


 講演会では,まず9,005例の臨床データが示された。外来患者では得られない重篤な入院患者の臨床データであり,鍼灸のみで1,000床を超すベッド数を誇る天津中医薬大学附属第一医院の規模の大きさを改めて思い知らされた。(データの内訳:19~87歳,男性6,029人・女性2,976人,脳出血3,077例・脳梗塞5,928例・虚血性球麻痺の合併521例,発症2時間~2年,初発6,765例,再発2,240例)
 さらに講演会では醒脳開竅法で用いる経穴と刺鍼技術,さらに中風の合併症としてよくみられる15種類の症状に対する治療法が紹介された。
 またモデル患者への実技デモンストレーションも行われ,洗練された刺鍼操作と体全体から溢れ出る独特の雰囲気を間近で見て感じ取ることができた。


石学敏教授
刺鍼のデモンストレーションを披露する石学敏教授


 醒脳開竅法は,主穴である内関・人中・三陰交によって醒脳開竅・滋補肝腎に作用させ,片麻痺であれば極泉・尺沢・委中といった副穴を取って疏通経絡することで効果をあげる。用いる補瀉手技は捻転と提挿が基本となり,正中に向かう求心性の捻転が補法,反対に正中から遠ざかる遠心性の捻転が瀉法と規定されている。
 ただ,規定に沿っていれば効果を出せるのかといえばそうではなく,石教授は講演のなかで,鍼灸の基本功を行って指力を鍛えることの重要性を強調した。刺鍼手技は「柔和にして剛」であることが大切で,そのために両手同時で「フェニックスの羽ばたき(鳳凰展翅)」(拇指と示指を合わせて三~五指を翼を拡げるように上下させる)を肘を伸ばして20分間続けられるようになるまでトレーニングするよう助言した。トレーニングを続けて腕の痛みを感じずにできるまでになれば,刺鍼に際して効果を得られるようになるという。
 本療法では,中風に合併するさまざまな症状に対してもそれぞれ具体的に手技や刺激量が規範化されており,講演会のなかでもそれらが紹介されたが,ここでは脳卒中で最も多発する合併症の1つである高血圧について紹介しよう。
 著しい高血圧が続くと,脳卒中の予後に影響を及ぼすだけでなく,脳卒中再発の重要なリスクファクターにもなる。血圧のコントロールは脳卒中の予防にとって重要である。取る経穴は人迎・曲池・合谷・太衝・足三里である。すべて仰臥位で取り,人迎(両側)は喉頭隆起傍ら1.5寸で胸鎖乳突筋前縁にあり,1.5寸(動脈の拍動リズムに合わせて鍼体が動くまで)直刺し,捻転補法を1分間行い15分置鍼。曲池(両側)は1~1.5寸直刺し,捻転補法を1分間行い15分置鍼。合谷と太衝の組み合わせは四関穴であり,それぞれ0.8~1寸直刺し,捻転瀉法を1分間行い15分置鍼。足三里(両側)は1~1.5寸直刺し,捻転補法を1分間行う。
 講演ではさらに最新の研究状況についても紹介された。醒脳開竅法は規範化されているためRCT研究を行うには有利であるが,講演では急性期・回復期・維持期,いずれの虚血性中風病患者に対しても神経機能損傷レベルを著明に改善でき,障害残存レベルを低下させ,さらに日常生活能力も著明に改善させる(特に急性期の改善に優れる)というデータが示された。



 わが国は高齢社会の到来を迎え,脳卒中の罹病者の増大は不可避の状況だ。急性期・回復期・維持期のそれぞれで活用できる醒脳開竅法が,現代医学・リハビリテーション医学などと連携することで,日本の医療で重要な役割を担えるはずである。多くの鍼灸師や医師がこの療法を身につけ活用されることを期待したい。


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