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通巻146号◇【リポート】日本中医学会 成都視察

【リポート】日本中医学会 成都視察
「中医薬の故郷(ふるさと)」で再び始まる学術交流



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2016年6月19日~23日にかけて,日本中医学会が企画(東洋学術出版社と共催)した成都視察旅行に同行したので報告する。視察のおもな目的は,成都を中心に深く掘り下げた視察を行い,中国における中医学の発展状況を把握して,今後の学術交流を深める端緒とすることであった。平馬直樹会長をはじめ9名が参加。中国側の受け入れでは,成都中医薬大学教授で,中国を代表する養生学のリーダーである馬烈光先生(写真1)に視察先の選定から手配に到るまで全面的なバックアップをいただいた。


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写真1 馬烈光先生(左)と平馬会長


◆四川の病機学派は今
 近年,硬直化した弁証論治体系を打破するため,再び「病機」に光が当てられているが,すでに80年代には陳潮祖先生や宋鷺冰先生が「弁証の鍵は病機にある」と喝破し,中医臨床における病機の重要性を強調していた。いずれも四川の老中医であり,四川には病機を重んじる気風があった。そして今回の視察では,名著『中医病機治法学』(邦訳:神戸中医学研究会訳編『中医臨床のための病機と治法』医歯薬出版)の著者であり,病機派の代表的老中医である陳潮祖先生の学統のその後の発展状況を確認することが大きな柱であった。
 第1日目午前,成都市内にある陳潮祖先生のお宅を訪問した(写真2)。87歳になる陳先生は自宅で静養中であり親族以外,面会が叶わないとされていたが特別のはからいでお目にかかることができた。陳先生の著書に感銘を受け,これを深く学んできた日本人は少なくないが,参加者らも例外ではなかった。興奮と感激に包まれた訪問となった。
 成都中医薬大学正門前の道路を挟んだ向かいに,「成都中医薬大学附属老中医門診部」と大書された扁額を掲げた古い建物がある。ここは成都の名老中医が診察を行う専門外来であり(写真3),陳先生のお宅を辞した一行はここで臨床視察を行った。建物の中には6つの診察室があり,部屋の前の廊下は多くの患者で溢れていた。空調のない診察室ではじっとしているだけでも汗がにじむ。この日は陳先生の学統を継ぐ周訓倫先生らが外来を行っており,参加者らは3つのグループに分かれ,この老中医診察室で周訓倫先生・羅学琴先生・王徳蕆先生の診察に陪席し,患者の舌脈を診て,老師の話に耳を傾けた。陳先生の学統を継ぐ名老中医の臨床を肌で感じることができる貴重な機会となった(写真4)。
 午後,成都市中心部から東に10キロほど離れた郊外にある四川国際標榜職業学院(閻紅院長)に場所を変えて,午前中に診察を見せてもらった3人の名中医と共に座談会が開かれた(写真5)。座談会には,故・郭子光先生の学術継承者である劉淵先生と馬烈光先生も加わった。座談会の内容については次号で詳報する。


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写真2 陳潮祖先生

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写真3 老中医専門外来

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写真4 周訓倫先生(左)の外来

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写真5 陳先生の弟子らと座談会


◆中西医結合を基礎にした中医基幹病院の臨床
 2日目は終日,成都中医薬大学の付属病院の1つである四川省第二中医医院を訪れた。ここは,四川省中医薬科学院の「中医研究所」と「針灸経絡研究所」が前身で,2007年に合併してできた病院である。この中医研究所には,かつて四川と日本の学術交流の端緒を開き,日本ともゆかりの深い陸干甫先生が在籍していた。
 午前中,日中双方が自己紹介を行った後,座談会が行われた。同病院には特色ある専門科がいくつもあるが,特に老年病科と腎臓病科が有名で,座談会には老年病科の陳学忠先生と蘇凱先生,腎臓病の呉巍先生のほか,陸干甫先生のご子息の陸希先生や,同病院の若手医師らが参加した(写真6)。
 老年病科,腎臓病科ともに中西医結合がベースになっていた。呉巍先生からは,同病院で行われている糖尿病性腎症治療について説明があった。腎臓病科の中心人物は四川省十大名中医の呉康衡教授で,ここでは呉教授の創案した方法で治療が行われているそうで,西洋薬で血糖をコントロールした後,活血化瘀(清熱活湿の薬を使うことが多い)を行い,さらに湿熱・痰鬱を除き腎精を保護し脾腎を守っていくことが原則になっている。治療では呉教授の開発した院内製剤が用いられている。
 陳学忠先生からは老年病治療の取り組みについて説明があった。中国では従来,老化を腎虚・脾虚・気血不足から考えることが多かったが,その後,70,80年代に活血化瘀の研究が盛んになり,老化と瘀血の問題が取り上げられるようになったという。老化には虚だけでなく実邪や瘀血も関係しており,単に補虚するだけでなく祛邪しなければならない。つまり老化に対しては補腎+活血化瘀を行うことが重要になる。これは心疾患や脳血管疾患などでも同様で,現在は血管の損傷をいかに中医薬で防ぐことができるかが研究テーマであるという。
 午後は同病院の各科外来を見学。前身の1つが針灸経絡研究所であることから鍼灸推拿科も同病院の特色の1つで,また四川省は伝統的に骨傷科が盛んな地域で骨傷科も特色ある専門科である。今回は鍼灸推拿の手法や手技も見学することができた。


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写真6 第二中医医院で座談会


◆道教のメッカ・都江堰の中医
 3日目は,成都市から西へ約60キロの都江堰市へ向かった。都江堰市は近年では2008年の四川地震で甚大な被害を出したことでも知られるが,世界遺産の「青城山と都江堰灌漑施設」を抱える道教のメッカである。中医学はその成立過程において道教の影響を強く受けているが,現代においてどのような融合を果たしているのか興味をそそられた。
 午前中,都江堰糖尿病専科医院で臨床見学を行った後,座談会を行った。ここでは道教に由来する「辟穀療法」と呼ばれる断食に似た治療法が糖尿病治療に活用されている。同病院の胡孝榮院長(写真7)によると,短期で3~7日,中期で8~14日,長期で15日間の断食を行うが,辟穀は気を満たしたうえで食欲のない状態に置く点が,身体に負担をかける絶食や断食とは異なるという。
 午後は都江堰市中医医院を訪れ,各科外来を見学した(写真8)。時間の都合で駆け足での参観となったが,参加者の目には実力の垣間みえた医師もいたようである。


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写真7 胡孝榮院長

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写真8 都江堰市中医医院



 日本中医学会が設立して6年になるが,日中関係の悪化等の影響もあり,中医学会として訪中団を組んだ視察は今回が初めてであった。最終日の晩餐会の折,四川省第二中医医院から,次回はわれわれが訪日して学術交流をしたいと申し入れがあった。「新しい人脈の発掘と構築」は視察の目的の1つでもあった。この芽を育てていき,日中学術交流が新たなステージに進展していくことを強く期待したい。




視察の概要
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 1日目(6月20日)
  [午前]陳潮祖先生宅 訪問
       成都中医薬大学附属老中医門診部臨床視察
       (周訓倫先生・羅学琴先生・王徳蕆先生)
  [午後]陳潮祖先生の弟子らと座談会
       (周訓倫先生・羅学琴先生・王徳蕆先生・劉淵先生)
 2日目(6月21日)
  [午前]四川省第2中医医院訪問で座談会
  [午後]四川省第2中医医院臨床視察
 3日目(6月22日)
  [午前]都江堰糖尿病専科医院で臨床視察・座談会
  [午後]都江堰市中医院で臨床視察




本誌では「参加者の声」として加島雅之先生(熊本赤十字病院 総合内科・総合診療科)・清水雅行先生(医療法人社団宏洋会 清水内科外科医院)のご感想を掲載しています




中医臨床 通巻146号(Vol.37-No.3)特集/新安医学――中医学の源流


『中医臨床』通巻146号(Vol.37-No.3)より一部転載





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