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通巻147号◇【リポート】第6回 日本中医学会学術総会 日本中医学の創造を目指して

第6回日本中医学会学術総会が2016年9月17・18日の両日にわたって,タワーホール船堀(東京・江戸川区)で開催された。
今大会の総合テーマは「日本中医学の創造を目指して」。会頭は東京中医鍼灸センターの浅川要氏が務めた。浅川氏は「日本の風土や社会に適合し,日本の地に根ざした新たな日本中医学を創造するために,湯液・鍼灸ともに日本漢方・経絡派鍼灸との相互交流を通して現代中医学を再検討したい」と語り,大会の口火を切った。今大会は,現代中医鍼灸の日本導入のあらましを紹介する会頭講演を始め,5つのシンポジウム,招待講演,鍼灸実技講演,症例検討会,国際交流講演,特別報告などバラエティ豊かな演題が盛り込まれた。

―編集部―

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会頭講演
現代中医鍼灸はどのように日本に導入されたか?

 日本に現代中医鍼灸が導入され50年近くが経つ。その初期からかかわってきた会頭の浅川要氏(写真)が,そのあらましを日本で発行された現代中医鍼灸書をあげながら紹介した。
 最初にあげたのが1965年に発行された『中国漢方医学概論』(中医学概論邦訳委員会訳・中国漢方医学書刊行会)である。原書は南京中医学院が編纂した『中医学概論』(人民衛生出版社・1959年刊,試用版は1958年刊)で,本書は新中国成立後,系統的に編纂された最初の中医学教材である。ただし,本書は中医学全体の教材であり,鍼灸の内容は一部にとどまり,経穴説明も「(穴位および取穴法)(主治)」のみである。また翻訳したのは漢文や中国語の関係者であり,医療系では唯一,鍼灸部分で医師の丸山昌郎氏の助力を受けたにとどまる。
 次にあげたのが中国の文革時代に当たる時期に刊行された『はだしの医者教材』(『はだしの医者教材』翻訳グループ訳,自費出版の後に三景書店で発行,1976年刊)である。中国では文革時代,鍼灸はかなり簡素化され,本書でも鍼灸の内容は少ない。経穴の記載では項目がなく,部位と深刺の鍼法のみで主治はない。
 さらに文革時代に江蘇新医学院(現・南京中医薬大学)が『中医学』を編纂し,1972年に出版された。本書の下篇部分「針灸と新医療法」だけを浅川氏ら鍼灸師グループが翻訳し,刊々堂から『中国の針灸と新医療法』と題し出版。耳鍼・手鍼・頭皮鍼などの新鍼療法にかなりの紙面を割いているのが特徴である。
 上海中医学院が編纂した『針灸学』も同様に文革時代(1974年)に刊行された。本書は経絡篇を設け,経絡学説を体系的に記載しているのが特徴である。従来の鍼灸書の多くで,経絡は経穴の添え物的な示し方であったのに比べて,経絡学説の重要性を際立たせている。また経穴の記載項目で「主治」とは別に「効能」を設けている。この効能はなんらかの手技で生じる経穴の作用を概括したものである。同書は浅川氏らが翻訳し,1977年に刊々堂から出版された。氏によると本書によって現代中医鍼灸のすべてが初めて日本に導入されたといえるという。
 現代中医鍼灸学のほぼ完成された形にまとまって出されたものとしては,1990年代に東洋学術出版社から刊行された天津中医学院と学校法人後藤学園の共同執筆による『針灸学』(3部作)がある。北京中医学院の留学から帰国した兵頭明氏が中心となって編纂したもので,日本の各鍼灸学校のサブテキストに対応する内容である。
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写真 今大会の会頭を務めた浅川要氏


シンポジウム
 シンポジウム①は「中医鍼灸は市民権を得たのか」(座長:浅川要氏)と題し,日本に導入されて50年となる現代中医鍼灸学がはたして根付いているのかを検討した。まず経絡治療学会会長の岡田明三氏が「経絡治療から見た中医学」と題し講演。まず経絡治療はどのような治療であるかを紹介した後で,「中医学は複雑な診断をしているが最終的には主治穴治療になっている」「湯液と鍼灸の診断は同じだが導き出す証は異なる」「4字熟語は日本語に訳したほうがよいのではないか」等の私見を述べた。寄金丈嗣氏(六然社)は「中医鍼灸は市民権を得たのか?」と題し講演。寄金氏はそもそも鍼灸そのものが市民権を得ていないとしながら,ただでさえ層の薄い鍼灸に流派概念をもち込むことが不合理と断じ,「中医鍼灸」「日本鍼灸」といったカテゴライズそのものを払拭してしまうべきではないかと強調した。井ノ上匠氏は『中医臨床』の企画で実施した「中医鍼灸の実態調査アンケート」をもとに,中医実践者が中医鍼灸をどうみているのかを紹介した。アンケート対象者が中医に偏っているため日本における中医鍼灸の実態を正確に反映しているわけではないが,現行の中医鍼灸に対する問題点(臨床実践を行う場や指導者の不足など)が示された。
 シンポジウム②は「中医学エビデンス再考」(座長:酒谷薫氏)。並木隆雄氏(千葉大学)は「舌診の科学化を求めて―舌撮影システム(TIAS)の研究経験から」と題して講演。舌表面の色彩と光沢を同時に安定して記録できる舌撮影システム(TIAS)の概要および活用の可能性と,文献調査から行った舌診所見の表現の統一について紹介し,診察部分の機械・文献からの標準化は教育にも役立つことを述べた。岩崎鋼氏(石巻市雄勝診療所)は「『気滞』の診断基準の作成とその検証」と題して講演。古典医書から抽出した気滞に関連する症状をもとに質問表を作成,評価者による診断を行い,信頼性・妥当性を評価した診断基準を作成。本スコアにより気滞弁証が標準化され,治療効果の定量的判定や客観的指標との比較検討も可能になったとした。さらに高村光幸氏(三重大学附属病院)が,半夏厚朴湯を用いた研究で本診断基準の妥当性を検証し,その有効性を示した。吉野鉄大氏(慶應義塾大学病院)は「漢方処方の使い分けは弁証なしで統計学的に再現できるのか」と題して講演。漢方専門医が当帰芍薬散もしくは桂枝茯苓丸を処方した月経困難症患者の相違点などを集積し,2処方の使い分けを予測する統計的モデルを作成。最終モデルと専門医の処方との一致率は85.0%であった。酒谷薫氏(日本大学)は「脳科学からみた未病:NIRSによる未病診断」と題して講演。ストレスによる心身の機能異常と未病は類似しており,鍼灸などによって過剰なストレス反応を緩和すれば,未病を改善できることが示唆された。さらに非侵襲的脳機能計測法である近赤外線分光(NIRS)を用いることで,未病を客観的に診断できる可能性が示された。
 シンポジウム③は「漢方:中医学から学ぶもの」(座長:平馬直樹氏)。古方家の藤平健氏に師事した秋葉哲生氏(あきば伝統医学クリニック)は「漢方発展のために中医学から何を学ぶか」と題して講演。古方派の分類・方証相対・虚実と補瀉・陰陽の多義性について話し,日本の漢方医学を発展させるためには,『素問』など『傷寒論』以外のテキストからも学ぶべきではないかと結んだ。香港の戴昭宇氏(香港浸会大学中医薬学院)は,「海外から見た中医学の動きと日本への提言」と題して講演し,中国だけでなく,世界各国の中医薬事情について俯瞰した。また最近は世界各地の中医薬関係者がスマホアプリのWeChat(微信)を介して結びつき,教育講座や学術討論などの輪が急速に広まっていることを紹介した。平馬直樹氏(平馬医院)は「中国との医学交流から得たもの」と題して講演。まず矢数道明氏ら先人の努力を礎にして行われた日中医学交流の歴史を振り返り,その後で平馬氏自身の中国とのかかわりを話した。氏は1978年に医療訪中団で本場の中医学を視察,87年には中医研究院広安門医院へ留学した経験をもつ。また帰国後は東京臨床中医学研究会を通じて学術交流を展開。さらに在日中医師との交流はその後,中医学交流会,そして日本中医学会の設立へとつながったと話した。
 シンポジウム④は「震災:中医学にできること」(座長:関隆志氏)。藤井正道氏(関西中医鍼灸研究会)は「熊本鍼灸マッサージボランティア報告」と題して講演。藤井氏らは今年4月に発生した熊本地震を受け,鍼灸マッサージボランティア・チームオレンジ(実質7名の治療家ほか)を立ち上げ,5月1~4日にかけて242名を治療。講演ではどのような患者に,どのようなケアをはかってきたかが現地写真とともに紹介された。木村朗子氏(ともともクリニック)は「3つの災害現場で体験したこと」と題して講演。「友と共に学ぶ東西両医学研修の会(TOMOTOMO)」のメンバーとともに,障害者施設で発生した人為的災害後5日目,熊本地震の3カ月後,東日本大震災後5年間のそれぞれの被災者に鍼灸治療を行った。木村氏は現地でみた被災者の状況を紹介しながら,中医学的な考察についても試みた。篠原昭二氏(九州看護福祉大学)は「熊本地震での取り組みと課題」と題して講演し,熊本地震を受けて活動した鍼灸ボランティアの実態と今後の課題について報告。熊本県鍼灸マッサージ師会に災害対策本部が立ち上げられ,熊本市内に施術拠点が設置され4月19日~5月8日までにのべ1,033人の被災者に施術を実施した。関隆志氏(東北大学)は「PTSDに漢方薬を」と題して講演。震災により多くの被災者や救助者がPTSDになるとされるが,向精神薬等は副作用が現れやすく,心理療法は受けられる施設が限られるなど課題があり,そのなかで漢方薬が有効に使われていることを紹介。四川大地震(2008年)では逍遙散+二陳湯に類似した処方,東日本大震災では柴胡桂枝乾姜湯や加味逍遙散といった柴胡剤が有効であったという。
 シンポジウム⑤は「薬局における中医学相談」(座長:下田健一郎氏)。福本哲也氏(明正薬局)は「血流測定と漢方相談」と題して講演。漢方相談に血流計を用いることで,測定結果を弁証に役立てたり,測定結果の数値化・グラフ化によって患者からの信頼や治療への積極性が向上すると利点を述べた。王全新氏(誠心堂薬局)は「五行人相と中医学養生」と題して講演。外観から金・木・水・火・土および混合タイプに分類し,それぞれの体質ごとの特徴を把握することで未病先防の養生指導ができるとした。山田哲也氏(東京薬科大学)は「感染症治療における生薬製剤の抗菌活性と中医学相談への実践応用」と題して講演。一般用医薬品の呼吸器感染症に用いられている麻黄湯製剤・麻杏甘石湯製剤・銀翹解毒丸製剤の抗菌活性を調べた結果,特に銀翹解毒丸製剤では薬剤耐性菌(MRSA,PRSP)を含めたグラム陽性菌に対して選択的かつ直接的に抗菌活性を示すことが明らかとなった。
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鍼灸実技講演
 鍼灸実技講演は「日本における中医鍼灸の実践」(座長:王財源氏)をテーマに,金子朝彦氏(三旗塾)が講演と実技を行った。金子氏の臨床は,和鍼(おもに寸3-0番鍼)を使用し,穴性論を意識したもので,得気のあるところが経絡のあるところであると考える。治効を求めるには穴性×技法が必要であるとし,補瀉の定義を鍼の技法ではなく行気の表れ方に置いている。実技では陽の補瀉,陰の補瀉などを披露してみせた。また,自身で考え,試し,また考えるという創意工夫の重要性を強調し,実際に効かせるために行っているさまざまな工夫などについても紹介した。
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招待講演
 招待講演では,台湾の林展弘氏(台北市中医師公会)が「眩暈症の臨床診治」(座長:平馬直樹氏)をテーマに講演を行った。眩暈症を風邪外襲型・痰濁中阻型・肝陽上擾型・寒水上泛型・髄海不足型・上気不足型に分け,それぞれの特徴や常用生薬について解説。林氏は眩暈症の治療の際は鍼灸も併用しており,各証に対する配穴も併せて紹介した。また,眩暈症に用いているいくつかの経方処方を現代の適応病症や臨床方証を自身の臨床経験も交えて紹介,日本でなじみのある処方も多く,参考となる内容であった。
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日本中医学会ホームページ http://www.jtcma.org/


中医臨床 通巻147号(Vol.37-No.4)特集/老年症候群の中医治療


『中医臨床』通巻147号(Vol.37-No.4)より転載

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