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通巻157号(Vol.40-No.2)◇【追悼】猪越恭也先生のご逝去を悼む

 
追悼

猪越恭也先生のご逝去を悼む

編集部



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 病気療養中であった猪越恭也先生が4月2日,逝去されました。享年83。


 猪越先生に初めてお目にかかったのは,私が会社を引き継ぐことになり,創業者の山本勝司会長とともに吉祥寺の東西薬局へご挨拶に伺ったときでした。美味しい日本酒をご馳走になりながら,中医学への熱い思いをたっぷりとお聞かせいただいたときのことがいまもはっきりと思い出されます。


 猪越先生は1970年代から日本への中医学導入の草分けとして活躍されましたが,当社にとってもかけがえのない先生でした。先生が『中医臨床』の創刊号に書かれた「冠心Ⅱ号方」の解説記事は,創業40年を迎える当社のキックオフを告げるホイッスルになりました。「冠心Ⅱ号方」とは,1970年代に中国西苑医院の研究チームが研究開発した,丹参を中心とした活血化瘀製剤です。当時を思いかえし,山本会長は次のように回想しています。
 「人に紹介されて初めて猪越先生に会いに吉祥寺のイスクラ診療所を訪れたのは,いまから40年前の1980年春のこと。その頃,中国の雑誌ではもう針麻酔関係の情報はあまり目立った話題になっておらず,代わって異様に目立ったのが冠心Ⅱ号方の情報でした。初対面の猪越先生にその状況をお話ししたら,ぜひそれらの記事を読ませてほしいと申し出られたので,さっそく数十冊の雑誌をお届けしました。数日後,「すごい論文ですよ。これは革命です。もう興奮して数日間徹夜で読んでいます」と,大興奮の様子でした。そして「これらの文献の翻訳と解説記事を私に書かせてください」と申し出られ,それが形になったのが『中医臨床』創刊号の特集「虚血性心疾患・狭心症」と「漢方『冠心Ⅱ号』方」です」
 その後,猪越先生は「冠心Ⅱ号方」を日本に導入するために力を注がれました。東邦大学医学部で「冠心Ⅱ号方」研究チームを結成して臨床研究に取り組むとともに,イスクラ産業と成都の華西医科大学薬学院と共同で研究開発に取り組んで「冠元顆粒」の製造へとつなげました。
 山本会長は,「猪越先生のすごいところは,単なる翻訳紹介に終わらず,『冠元顆粒』という方剤を製造して日本に持ち込み,さらに全国1千店の中国医薬研究会というチームを組織し,これを拠点に中医学を系統的に学習しながら普及する仕組みを作られたこと」と話します。
 また猪越先生は,家庭のなかに中医学を浸透させ中医学を一般の常識にすることにも情熱を注がれました。1992年には全国の主婦を対象とする通信講座「お母さんの漢方教室」を主催されました。
 「私は薬局店頭の漢方相談・中医学相談を長くやってきまして,家庭の主婦こそ日本の医療を支えていく中心的な存在になるだろう,ということを強く感じていたわけです。日本の家庭では,いままで身体のことはお医者さん任せで,自分は一切何もやらない。『生兵法は大怪我のもと』などといって,消極的な向きが強かった。しかし,そうではないのではないか。医者任せにしていると,医療自体がひずむし,結局自分たちがひどいめに遭う。やはり自分たちが勉強せにゃいけない,またそれができると信じました」(『中医臨床』通巻66号)と,その想いを語っておられます。


 2年前から,私はご子息の英明先生と一緒に全国の薬局取材に回らせてもらっています。そのなかで英明先生は家庭医学としての中医学の価値についてよくお話されます。恭也先生が情熱を傾けてこられた中医学への思いが確かに引き継がれていることを感じる瞬間です。
 ご冥福をお祈り致します。


(東洋学術出版社社長・井ノ上匠)





【略歴】
猪越 恭也(いこし・やすなり)
1935年中国黒竜江省丹東市生まれ。東京薬科大学薬学部卒。薬剤師。東京薬科大学社会医療研究所教授,明海大学講師,長春中医薬大学客員教授などを歴任し,中医学の普及に努めるとともに,精力的に後進の指導にも尽力した。また講演や執筆活動も精力的に行ってこられた。
著書には『実用の中医学』(ドラッグ・マガジン社),『自分でできる中国家庭医学』(農文協),『新中国の漢方』『よく効く漢方実用例50』(読売新聞社),『「隠れ病」は肌に出る!』(講談社α新書),『顔をみれば病気がわかる』『皮膚の病気は内臓で治す』(草思社)など多数ある。


写真:猪越英明先生提供


(2019年6月)





中医臨床 通巻157号(Vol.40-No.2)特集/難治性婦人科疾患の中医治療


『中医臨床』通巻157号(Vol.40-No.2)より転載



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