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SARSは温病ではなく,傷寒である

筆者:趙陽

 現在,SARSは,温病に属し,春温,風温あるいは湿温であるとする見解が主流である。治療は中医の衛気栄血弁証に従って,清熱解毒薬を主に用い,疏風・化湿を併せ行ったり,後期には益気養陰をはかるのが一般的である。しかし,私にはこれとは違った見方があり,皆さんと共に検討してみたい。

 1.中医理論によれば,温病患者は発熱時に寒気を伴わないか,あるいは伴うとしてもわずかであり(衛分症において),それもごく短期間に終わる症状である。中医では,温病は悪寒ではなく悪熱があるとされている。しかし,現在入手できるSARSの資料および私が各方面から調べた状況によれば,ほとんど全ての患者(香港の統計資料では患者の93%)にはガタガタ震えるほどの寒気があり,しかもその寒気は終始続くことがわかっている。一部の患者に寒気がない場合もあるが,熱がるということはない。このことから,温病学の気分熱盛とは大きく異なっていると考えられるのである。

 2.温病学の理論によれば,風温は口と鼻から入る。これは一見,呼吸器系に感染するSARSと同じようにとらえられる。しかし実際,中医は審症求因の方法を用いており,患者の臨床表現から疾病の原因を推測するほかないのである。今回のSARSには,通常の温病に表れる咽喉部の腫れや疼痛・咳嗽・黄痰などの症状は何れもみられない。むしろ風寒の邪気を感受することによって,全過程で皮毛筋骨から入る太陽表証である頭痛(84%)や筋肉関節痛(71%),悪寒発熱がみられる。

 3.患者に高熱があっても細菌感染を伴わなければ,大渇・大熱(悪寒せず逆に悪熱する)・大汗(汗がポタポタ流れる状態を指し,体全体が湿っているわけではない)のような温病気分証の高熱の特徴を呈することはない。風寒の邪気もたしかに体温を顕著に高めることはある。すなわち『黄帝内経』のいう「寒により,体は燔炭の如し」の状態である。この場合は口渇はないか,あっても顕著ではない。冷たいものを飲みたがることもないし,汗をかいたとしても大汗ではない。つまり中医理論によれば,今回のSARSの病邪は風寒ということになる。

 4.温病理論では,患者の生命が危険にさらされる最も重要な段階は当然,栄分・血分であって,気分ではない。その現われとして意識障害・うわごと・驚狂・斑疹・出血斑が見られる。身熱は夜にひどくなり,舌質は絳となる。しかし今回のSARS患者にはこのような症状は見られない。

 5.今回のSARS患者には,汗をかく症状が多くみられるが,汗をかいても表証がとれないことが多い。舌苔は白膩あるいは黄膩(裏に入り化熱する傾向がある)である。また一般的に頭痛・だるさなどが存在する。これらは皆,湿邪の特徴が混ざっていることを示す。北京地区は立春以来,例年より雨が多く,曇りの日も比較的多かった。気温が例年より低く,また気温の変化が大きかったことも,寒湿性の疾病が流行した重要な要素である。 以上の点から私は,今回の SARSの病邪は風・寒・湿の3種の邪気の混合からくるものであり,中医でいう「傷寒」(西医でいう腸チフスとは異なる)の範疇に属するものと考えている。中医の病名は『黄帝内経』でいう肺痺とすべきで,病機の中心は風寒湿邪の外感による肺気閉阻とするべきである。『傷寒論』で確立した六経弁証に従って治療を施すのが妥当と思われる。

 初期症状は,太陽病と陽明病の併病,あるいは湿邪が混在した(太陽病と陽明病の)合病に属している。私個人の見解では,越婢加朮湯合杏蘇散の加減を用いることができると思う。また風湿による関節病の初期治療に準じて,宣降肺気の中薬を合わせるのもよい。風寒湿を主とするため,寒涼性の薬物の使用は慎重にすべきである。老人や体が弱っている病人には『傷寒論』の太陰病・少陰病の両面から治療に当たってもよいと思う。もしSARS患者が初期段階で適切な中医治療を受けることができれば,ほとんどは一週間以内に顕著な効果を表すと思われる。症状の進行を阻止し,呼吸が衰えるのを避けることができるだろう。私個人の意見では,もしこの時に清熱解毒の中薬を使用してしまうと邪気のねばりついて解けない状態を引き起こし,病状を悪化させる恐れがあると考える。発熱・炎症にはすぐに清熱解毒を使い,ウイルス感染には大量に抗ウイルス薬を使うというような行為は,中医弁証論治の精神に反するものであり,良い治療効果を得ることはできない。

 「避瘟丹」という名の方剤がある。今は亡き著名な中医学家・李斯只らが共同で作った経験処方である。この処方は中医の芳香避穢の理論を根拠に組成されたもので,寒湿による瘟疫を予防することができ,1932年に成都地区で流行したコレラの制圧に重要な役割を果たした。参考までに,ここにその具体的な方薬を記そう。

 蒼朮30g,白30g,甘松30g,安息香30g,石菖蒲30g,雄黄30g,硫礦30g,鵝不食草30g,細辛15g,樟脳15g,氷片15g,麝香1g。

 以上の薬をごく細かな粉末に砕き,小麦粉を混ぜて糊状に煮詰め,それで線香や薫香を作れば,空気の消毒になる。また腸管感染症に対しては,少量の粉末を井戸や水がめに入れるようにしてもよい。10gの粉末を香嚢(におい袋)にして身につければ,疾病の予防に効果がある。ただし,注意点が1つある。この処方は妊婦には禁忌であり,また陰虚火旺の者には慎重に使用すべきである。
 

[2003年7月23日]
(訳者;金子海玲)報道元:中国中医薬報

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