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ナノテクノロジーと生薬を使って酪農に活用

 人間に効果のある中医学の生薬だから、動物にも効果があるのでは?とは容易に想像がつくが、中国でもこれを様々な分野に活用する研究が行われている。上海交通大学農業生物学院の華修国教授らのグループが、酪農に生薬を活用し、成果を出し始めている。

 真夏になると、気温が35℃以上になることが珍しくない上海やその近郊エリアでは、酪農家にとって、牛の「夏ばて」が大きな問題となっている。乳牛は一般に、冬の寒さには強いが、夏の暑さには今ひとつ強くない。夏、あまりにも暑くなると、中国の南方エリアの乳牛は、食欲不振となり、牛乳の産出量も落ちてしまう。食欲落ちると、抵抗力も弱まり、貧血や高血圧、胃潰瘍などのほかに、牛の精神状態にもよくない影響をもたらす。

 このグループの研究では、10~15℃の気温では乳牛の産乳量は最も多いが、27℃を超えると産乳量は減少し始め、乳も薄くなる傾向になるという。さらに40℃を超えると、牛は食べることをやめてしまい、最悪ショック状態に陥る。

 上海などが属する中国の華東エリアでは、夏場になると牛の「夏ばて」による産乳量の減少が著しく、統計では年10万トンの牛乳が生産できなくなってしまい、酪農家にとっても損失は大きい。そこで、いままで対策として行われてきたのが、牛舎に空調設備をつけたり、飼料に化学添加物を混入したりする試みだ。だが、コストに跳ね返ってくるだけでなく、化学薬品の残留問題も心配されている。

  そんな中、注目されたのが人間の夏ばて治療に使われる生薬だ。中医学では、昔から夏ばて予防・治療に効果があるとされる、「解暑」作用のある生薬が少なくない。生薬では、藿香・佩蘭をはじめ、香薷・薄荷・緑豆などが代表選手。また有名な方剤では、「陰暑」で使われる香薷散(香薷・白扁豆・厚朴)、「暑温」で使われる新加香薷飲(香薷・・扁豆花・厚朴・銀花・連翹)、夏場の湿邪に関わる証に使われる藿香正気散(大腹皮・白芷・紫蘇・茯苓・半夏曲・白朮・陳皮・厚朴・苦桔梗・藿香・甘草)、六和湯(砂仁・半夏・杏仁・人参・甘草・赤茯苓・藿香葉・白偏豆・木瓜・香薷・厚朴)などが挙げられる。

  さて、この研究ではまず伝統的な中医学の処方から、牛の夏ばてに効果がありそうな生薬、藿香・佩蘭・薄荷などを選び、さらに生薬の吸収を高めるためにナノテクノロジーをつかって粉末にした。これを上海市青浦区練塘酪農場の乳牛へ、飼料に混ぜて食べさせた。その結果、乳牛の「夏ばて」症状は緩和され、食欲は増大し、産乳量も1割~2割増大したという。こうした生薬は、中国本土なら比較的安く手にはいるため、上海以外にも江蘇省・浙江省・江西省などの酪農家でも使われるようになってきており、実験段階からひろく実践されるようになってきた。中医学の新たな活用分野として、注目される事例と言えるだろう。(2009年1月記・新民晩報1月24日記事に加筆・医学博士 医師 藤田 康介)

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