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2009年度中医学十大ニュース

 毎年,旧正月のころに発表される中国の中医学に関する十大ニュースが今年も公表されたので,概要を整理してみた。これらのニュースは,国家中医薬管理局やメディア各社が合同で評議して選出したものであるが,中国政府が主導する中医政策が俯瞰できて興味深い。

1.国務院が『中医薬関連事業の発展を促進・扶助するための若干意見』を発表。中国政府が47億元の予算を中医学の発展に投入。

 国務院の発表した『中医薬関連事業の発展を促進・扶助するための若干意見』は,一般の報道でも大きく取り上げられ,中医学を政府主導で発展させることを表明したものとして注目を集めた。2009年度に中国政府が投入した47億元(約611億円)の予算は,新中国建国以降,中医学関係に投入された予算として最大。これによって,101カ所の市レベルの中医病院と,165カ所の県レベルの中医病院の整備が行われたほか,人材育成,中医学医療サービスの向上,中医薬文化の普及と保護などがはかられた。
 
2.中国の医療改革に中医学が全面的に取り入れられる。医療改革重点プロジェクトの一環として中医学に有利な政策が展開。

 農村医療において中医学治療を行った場合の医療補助の割合を高め,農村医療に必要な医療技術の導入がはかられた。さらに中国の基本医療保険適用医薬品の中に,987種類の中成薬と生薬が採用され,『国家基本薬物目録』にも102種類の中成薬と生薬が採用された。現在,中国では市民の健康状態をチェックするために,中医学を導入した体質の研究を進めているが,その普及をはかっている。また医療従事者の待遇改善のため,中医学関係の施術に対する診療報酬の改訂も検討されている。
 
3.新型インフルエンザ治療に中医学を積極的に導入して成果。

 2009年春,中国全土で新型インフルエンザ(H1N1)が大流行したが,国家中医薬管理局は早期から中医専門家によるチームを結成し,治療ガイドラインを発表するなど積極的に対応し,重篤患者も含む治療の第一線で中医学が実践された。全国では患者数の3分の2以上で中医学もしくは中医学と西洋医学併用で治療が行われたと発表されている。
 
4.新たに始まった「国医大師」制度。

 2009年6月,国家中医薬管理局・人力資源社会保障部・衛生部が合同で,中医学の分野で大きな功績のあった30人に「国医大師」の称号を贈った。中医学の人材育成に大きな影響を与えるものと期待されている。一方で,「国医大師」の高齢化が進んでおり,学術継承に大きな課題が残っていることも浮き彫りになった。
 
5.人民解放軍にも中医学が普及。
 2009年9月,中国各地に展開している人民解放軍関係者に対して中医学の医療技術を普及させる活動が行われた。さらに軍の衛生兵にも中医学の基礎的なトレーニングを行った。
 
6.5種類の中医学関連の国家資格を新たに設置

 2009年7月,中医刮痧師・中薬調剤員・中薬材種植員・中薬固体製剤工・中薬検験員など5種類の国家資格が新たに設置された。
 
7.2009年版中医師資格試験大綱を発表。

 2009年2月に発表された中国の医師国家試験・中医類試験大綱(中医・中西医結合実践技能試験)に,変更が加えられた。正規の大学に通わず,継承方式で中医学を学習した受験生に対しては,条件を満たせば,面接試験における西洋医学の設問の負担を軽くする処置が行われた点が特筆される。また大綱では実技試験の内容を強化し,中医学での治療効果が高く,患者の多い疾患に重点を置いて設問に取り入れた。
 医師国家試験制度が普及する一方で,伝統的な手段で中医学を継承してきた人から,西洋医学の試験内容が難しすぎるという声が上がっていた。
 
8.中薬注射剤に対する安全性の再評価が行われる。

 中医学研究において,大きな成果として挙げられている中薬注射剤であるが,近年副作用の報告が相次いでおり,安全性に対して関心が高まっている。問題となったのは,魚腥草・刺五加・双黄蓮・茵梔黄など臨床で常用される中薬注射剤。製剤段階における品質管理,輸送・保管,臨床での使用方法などについて検討が行われている。
 
9.2009年度国家科学技術賞に中医学関連10項目が入選。中国各地で国家中医臨床研究基地を設置。

 大学や医療機関が得意とする専門分野を研究する国家中医臨床研究基地16カ所が設置され,さらに研究ターゲットを絞った103の研究室も設置された。毎年,中国の科学技術分野で功績のあった研究におくられる国家科学技術賞において,2009年は中医学関係の研究で過去最多の10項目が入選した。
 
10.中国が起草した『伝統医学決議』がWHOで採択。

 2009年5月,第62回WHO大会において,中国が起草した『伝統医学決議』が採択された。伝統医学に関してはWHOではじめての議決として注目された。また10月には『南寧宣言』が出され,中国も含むASEAN各国が国の政策として伝統医学を取り入れ,ハイレベルの学術交流を深めることを決めた。さらに10月,世界中医薬学会連合会において『世界中医学学部(CMD前)教育基準』が発表され,海外の大学に中医学部を開設する場合のカリキュラムのガイドラインや,卒業生に求められる知識レベルなどを定めた。(2010年2月記・藤田 康介)

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