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▼中国最新情報

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【最新の医療改革】中国で進行している大規模な中医医療改革

 2009年,中国の医療改革が始動。それに伴って国家中医管理局および関連部門から,地方の各レベルの政府・関連部門に至るまで,国務院の発表した「中医薬事業発展の扶助促進に関する若干の意見(若干の意見)」の要求にそった研究が重ねられ,国民の要求に合わせた措置が採用され,実行に移っている。いま中医薬事業は大きな発展を遂げようとしている。

【政策面】

政策が公布・実施され中医薬の応用を促進

「医療保障および基本薬物政策によって,中医薬サービスの提供と応用を促進する」(「若干の意見」より。以下同)

 国家中医薬管理局と関連部門は,医療改革の重点5項目を進めるうえで,「若干の意見」を徹底的に実行して,一連の政策措置を新たに制定した。国家基本薬物制度を制定していく過程では,中西両医薬をともに重んじるという原則を実行し,中医薬の応用を促進。中成薬と国家標準として公布されている生薬102品目が,『国家基本薬物目録(末端の医療衛生機関に配置・使用される部分)』に取り入れられた。

 また医療保障制度を制定する過程では,中医薬の使用を積極的に奨励・導入する政策を取り入れてきた。新型農村合作医療制度(新農合)では,末端の医療機関で使用する中医薬関連費用の補償比率を,重点的に向上させることを明確に掲げている。また国家基本医療保険・労災保険・出産保険薬品目録(2009年版)には,987品目の中成薬が記載され,その中には生薬も含まれており,中薬の増加率は西洋薬のそれを上回っている。

 さらに末端の衛生機関サービスシステム構築の過程においては,県レベルの病院建設プロジェクトの中で,中医薬病院が一定の比率を保つようになった。公共衛生サービスの均等化においても,中医薬の予防・保健技術および治療法を積極的に応用するよう呼びかけ,中医体質判断基準をはじめて国民健康計画に取り入れた。


中央政府が中医薬事業に47億元を投入

「各レベルの政府は徐々に投入金額を増加し,中医薬関連サービス・公立中医病院基礎設備建設・重点学科および重点専科の設立・中医薬の人材育成を重点的にサポートする」

 2009年,中央政府は47億元(約600億円)に及ぶ財政出動を行って中医薬事業を支援。中華人民共和国建国以来,中医薬に対する中央財政投資が最も多い年となった。このうち,国家発展改革委員会は35億元(約450億円)を投じ,地方都市レベルの中医病院101カ所,県レベルの中医病院165カ所を建設した。また財政部は,末端の中医薬サービスの建設・人材育成・適正な技術の推進・中医薬文化の形成に10億元(約130億円)を投じた。さらに,財政部・科学技術部は,中医薬科学技術システムの構築および自主開発に,2億元(約30億円)の予算を割き,各地方も中医薬発展のための資金投入額を増加させた。


中医薬機関の機能強化

「中医薬事業の協調的メカニズムの作用を十分に発揮させる」「地方の中医薬管理機関の建設および管理機能を強化し,管理レベルを向上させる」

 国務院は,状況の変化と業務の需要に応じて,中医薬業務部門間協調小委員会を中医薬業務部門間合同会議へと調整した。また国家中医薬管理局は,新「三定」方案規定にもとづいて計画財務司を増設。医政司に中西結合司と民族医薬司を加えた。さらに,国際合作司に香港・マカオ・台湾弁公室を設け,その機能を強化した。

 また各地方では,機関改革を行うなかで中医薬管理機関の設置を強化している。吉林省中医薬管理局は党組を設立し,9つの市や州すべてに中医薬管理局を設置。山東・天津・新疆は,副庁レベルの中医薬管理局を設置し,安徽・黒龍江・甘粛・陝西・山西・遼寧・湖南・重慶などの省・市は,中医管理局の名称を中医薬管理局に変更して,その機能を強化した。現時点において,全国31の省(市・区)に12の副庁レベルの中医薬管理局があり,中医薬管理局という名称に変更された局は23カ所に及ぶ。


地方政府は実情をみすえ実際の効果を重視

「地方の各レベルの人民政府は,中医薬の指導者を強化し,機を逃さずに中医薬の業務に潜む問題の解決方法を検討して,各プロジェクトの政策措置を着実に実行する」

 各地方では,医療改革を掘り下げ,「若干の意見」を徹底的に実行していくなかで,実情をみすえ,実際の効果に重点をおくことで新たな進展を遂げてきた。2009年,山東・寧夏・新疆などにおいて,省(区)政府主催による中医薬発展大会が開催された。また河北・内蒙古・黒龍江・安徽・山東・青海・寧夏などでは,中医薬事業の発展を支援・促進する文書が公布され,さらに多くの省(区)でも同様の文書の作成が急がれている。

 安徽省では「中医薬の発展」を,広西省では「中医薬・チワン族医薬発展の支援」を,医療改革を徹底するための第6項重点任務に掲げている。また広東省では,同省の「中医薬勢力が強大な省」という肩書を継続させることを医療改革の十大重点任務の1つとしてあげている。

 北京・広東・江西・山東・内蒙古・甘粛などでは,医療保障制度において,中医薬の優遇政策を実施している。甘粛省では,新農合と都市医療保険の中医薬の決算報告基準を10%アップし,支出額を20%引き下げた。広東省では,中医の「治未病」サービス項目を外来決算報告に取り入れた。江蘇省では,国家基本薬物目録(末端の医療機関部分)に,新たに中成薬113品目を加えた。

 北京・黒龍江・陝西・四川などの省・市では,都市および農村の末端の医療機関において中医薬サービスを全面的に適用する目標に掲げている。北京市は,条件に合った中医師には,通常業務を行っている地域以外で医療業務に従事することを許可しており,中医薬の人材を各末端機関に流動させ,国民の「看病難」(治療を受けることが難しい)という状況を有効に改善している。


【実効面】

中医薬による感染症予防・治療システム確立の第一段階が完了

「中医薬サービスを公共衛生サービスプロジェクトに取り入れ,疾病の予防・コントロールにおいて,中医薬の治療法および技術を積極的に応用する」

 2009年春,新型インフルエンザ(H1N1)が世界中に蔓延し中国にも波及したが,中医薬は初期医療を担い多くの患者を治療した。同時に,H1N1インフルエンザに対して中医薬治療の臨床科学研究を強化し,臨床における応急措置に科学的根拠を構築するために応急科学研究プロジェクトを始動させた。科学研究および臨床実践をとおして,中医薬単独治療で新型インフルエンザに対する効果が顕著であり,重篤な患者に対しては中西医結合治療が有効的な治療法の1つであることが証明された。現在,27の省(区・市)に中医薬の予防・治療専門家チームが結成され,23の省(区・市)では中医薬医療チームが組織されており,20の省(区・市)では,数カ所の中医病院が治療指定病院として選出されている。

不完全ながらある統計によると,全国の約3分の2の患者が中医および中西医結合治療を受けており,良好な治療効果をあげている。また国家中医薬管理局は衛生部と共同で「衛生応急業務において中医薬の作用を十分に発揮させるための通知」を公布し,中医薬による感染症予防・治療の臨床および科学研究システムの初歩段階を確立し,突発的に発生する公共衛生事案に対応する中医薬の能力を強化させた。

 また2009年,甘粛省および新疆ウィグル自治区は,新たに「HIVに対する中医薬治療試験区」に指定された。同試験区は現在19の省に拡がり,2009年6月までに累計9,267人のHIV患者・感染者が,無料で中医薬治療を受けている。


76%の農村衛生院に中医科・中薬薬局が設置

「総合病院・農村衛生院・地域社会の衛生サービスセンターに中医科を設置し,地域社会の衛生サービスステーションや,農村の衛生室において中医薬を積極的に導入させる。またその他の医療衛生機関でも,中医薬の適正な運用を積極的に推進する」

 現在,全国の76%の農村衛生院に中医科・中薬薬局が設けられている。また県レベルの中医病院設置プロジェクトが実施されたことによって,県レベルの中医病院の運営条件と受診環境が改善された。さらに中医薬の適正な技術を推進するプロジェクトを大幅に強化し,20項目に及ぶ第4回中医臨床適正技術を公布。末端の医療機関における常見疾患・多発疾患に対する中医薬の適正な技術を推進するプロジェクトは,すでに中,西部のすべての県に拡がっている。一方,地域医療における中医薬事業の強化を継続し,地域医療における中医薬サービス業務指南を制定した。またチベット以外のすべての省に,中医薬の特色を有する地域衛生サービス模範区を設置。その数はすでに81に達し,模範区としての機能を発揮している。さらに総合病院での中医薬業務の強化も継続して行われており,総合病院における中医臨床科基本標準を制定・公布して,中医臨床科の設置を総合病院の審査・評価指標システムに組み入れた。


「治未病」健康プロジェクトの試験施設は103カ所に拡大

「中医のもつ予防・保健の優位性を十分に発揮させ……中医病院や末端の医療機関における中医の予防・保健サービスを展開する」

 「中医の予防・保健サービスの実施を積極的に発展させるための意見」を制定し,「治未病」という健康プロジェクトを実施して,第3回中医予防・保健サービス試験施設を確定した。試験施設はすでに103カ所に達し,各省(区・市)で,少なくとも1カ所の病院・地域衛生サービス機関が機能している。また中医予防・保健サービス管理を強化し,「中医体質分類と判定」という業務標準を公布した。


103の重点研究室設置が確定

「中医薬の科学研究基地,特に国家および省レベルの中医臨床研究基地の設置を推進する。また,中医薬の科学技術開発をサポートし,中医薬基礎理論・診療技術・治療効果評価などに関する,システマティックな研究を展開する」

 国の中医臨床研究基地の16部門が,設置計画プランを完成させ,地方政府の資金も徐々に目標額に達してきた。2009年,はじめて重点研究室設置事業をスタートさせ,研究の方向が明確な103の研究室を選出して,これらを設置対象に設定した。さらに科学研究実験室の規範評価を行い,388の三級実験室を決定した。また業界内外の160に及ぶ医療・出産・学校・研究部門にも関与し,中医薬科学技術資源を有効的に整理統合して,多くの学科の研究プラットホームを構築した。この他,中医腎臓象・経絡現象・中薬の量と治療効果の関係など,学術の発展に重要となる基礎理論研究を「国家973計画」に取り入れ,中医の外用治療分野に関する研究も,国家科学技術支援計画の支持を受けた。


1054人の学術継承人すべてが医療機関に配属

「名老中医の学術継承人の養成と,専門学位の授与を結びつける政策を実行する。また,資格を有する師伝人員の職務名称の評価や,職場雇用などに関する問題を適切に解決する」

 第4回全国老中医薬専門家学術経験継承事業は順調に進展しており,臨床医学専門修士の学位授与権を有する中医薬大学・科学研究機関23カ所,および博士の学位授与権を有する10カ所において,643人の継承人を採用し,修士・博士指導教員404人を招聘した。老中医の学術継承人の育成と,専門学位の授与を結びつける政策が実行され,1054人の学術継承人すべてが医療機関に配属された。


「中医中薬中国行」キャンペーンは11の省と軍隊で継続中

「中医薬科学文化の普及教育を展開し,教育広報基地の建設を強化する」

 「中医中薬中国行」キャンペーンは,天津・内蒙古・チベットなど11の省(区・市)と軍隊で継続中である。これまでに,30の省(区・市)や香港・マカオ特別行政区で開催され成功を収めており,直接活動に参加した人数は160万人以上にのぼる。また都市・農村の末端の中医薬人員は8万8千人近くに達し,市民の健康に関する講座も320回開催している。2009年は,文化広報教育基地を6カ所増設して,中医薬の知識の普及と,中医薬文化の伝承のための重要な窓口となっている。


中国が発起・促進する「伝統医学決議」が採択

「国際組織が行っている伝統医薬活動に積極的に参与し,海外の政府間レベルの中医薬交流協力をさらに進める」

 第62回世界衛生大会において,中国の発起・促進する『伝統医学決議』が採択された。これは,WHOがメンバー国の伝統医学の発展を促進するために取り決めたはじめての専門決議であり,世界の伝統医学史上,一里塚となる価値がある。同決議が採択されたことは,世界の伝統医学分野において中国が主導的な立場にあることを示すものである。


民族医薬を対象とした地域法規の第1弾が公布

「中医薬関連の立法化を積極的に推進し,法律・法規を完全なものにする」

 2009年にスタートした新たな「中(伝統)医薬法」草案の起草・改訂作業は基本的に完了した。地方における中医薬関連の立法化作業はさらに活発になっており,湖南省では,民族医薬を対象とした中国初の地域法規となる「湖西土家族苗族自治州土家医薬苗医薬保護条例」が公布・施行された。四川省では「四川省中医薬条例」が改訂・公布された。


ISOに中医薬技術委員会が設置

「中医薬の標準化作業を促進し,標準システムを打ち立て,わが国の中医薬標準を国際標準へ転化させる」

 2009年9月に開催された国際標準化機構(ISO)の会議において,中医薬(暫定名)技術委員会が成立した。ISOに伝統医薬に関連する技術委員会が成立したのは,今回がはじめて。同時に,国家中医薬管理局はWHOの「国際疾病分類」(ICD-11)の伝統医学の部分の編集に積極的に参与している。中国国内の中医薬標準化作業も大きな進展をみせている。2009年には,9項目の国家標準が公布・実施され,74の標準項目が,『全国サービス業標準2009年~2013年発展計画』に取り入れられた。また国家標準委員会の承認を得て,中医・中薬・鍼灸・中薬材種子(種苗)の4つの全国中医薬標準化技術委員会が正式に発足した。

『中国中医薬報』(2010年1月14日)

(平出由子訳)


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