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「EUの中医薬法令がもたらす影響」 梅万方

 『EU伝統植物薬承認申請規定』(以下『規定』)は,EU医薬局(EMEA)がイギリスの元医薬管理局(MCA)と現在のイギリス薬品・健康産品管理局(MHRA)に委託して,数回の起草・編集が行われたのち,EU薬品法令法規2001/83EC指令第16条に取り込まれたものであり,EU加盟国の統一立法である。数年間の激しい論争と修正を経て,最終的に2004年4月30日に正式に公布された。これは,アメリカの2000年8月の『植物薬工業指南』(草案)の発布に続くもので,発展国に登場した最も重要な植物薬の法規であり,世界各国の薬政部門における伝統薬の立法管理に著しい影響力をもつ。また中薬がEU市場に進出することと密接な関係があり,西方世界における中医薬の展開に重大な意味をもつ。
 
 英国はEUの主要国として,≪EU伝統植物薬承認申請規定≫(以下≪規定≫  European Directive on Traditional Herbal Medicinal Products [THMPD])を起草しただけでなく,率先してその≪規定≫にもとづいて伝統草薬および療法系列の立法(伝統中草薬立法はそのなかの1つの重要な構成部分)を推進し,≪伝統草薬承認申請管理綱要≫を発動させている。そのほか,英国は同様に針灸・草薬・中医従事者に関する立法規範の管理も行っている。2002年1月,EU伝統医薬品法案と英国草薬管理法案がヨーロッパ会議とEU委員会に提出されたのに続いて,英国衛生部は同じ時期に針灸立法工作組と草薬立法工作組を成立させ,それぞれ別個に針灸と草薬の立法報告を起草した。これによって,中医立法が極めて不利な状況に陥れられる2つの可能性のある方案,つまり
 ①針灸と草薬を分離して承認管理を行う第1方案,
 ②中医を補充代替医学の管理のもとに組み込まれる第2方案
が出現した。
 ③ここで,中医が長期にわたって分裂に追い込まれる危険をはらんだこれらの方案にたいして,私は中医の前途に関わる第3方案として,中医の独立立法と承認方法についての提案を行った。そして,中医独立立法に向けて全地球的規模の請願署名運動を呼びかけた。あわせて2004年6月に中医独立の全体的立法を促進する中医管理委員会を成立させた。その結果,ついに願いが叶えられ,2006年5月,英国衛生部は針灸・草薬・中医のそれぞれの立法工作組を成立させた。ここにいたって,中医は独立した完全な総体としての立法の進展に関与することが可能となった。2008年5月,針灸草薬中医の連合立法工作組が衛生部に針灸草薬中医立法報告を提出,2009年8月,衛生部の4部門が連合して3カ月を期限とする針灸草薬中医立法の公開諮問草案を発布した。
 
 世界はEUを見,EUは英国を見る。
 英国が近々提出する各中医薬立法の関連法案は必ず全EUに影響し,ひいては全世界に波及する。
 
≪EU伝統植物薬承認申請規定≫
 
 EU伝統植物薬承認申請規定は,2011年4月30日に正式に発効する。つまり,2011年4月30日より,EU伝統植物薬の承認許可を獲得しなければ,欧州における現在の市場で売買されるすべての草薬製剤は販売を禁止される。≪規定≫の正文は9款26条の内容を含むが,詳しくは,伝統草薬製剤の定義,承認の適用範囲,標準,申請者と承認申請の条件,承認の簡素化を拒絶する条件など各方面の規定が列記されている。同≪規定≫は,さらに,2004年4月30日の規定が発効してから2011年4月30日までの7年間を過渡期として,各加盟国は発効後の18カ月以内(2005年10月まで)に自国の状況にもとづいて,EU伝統薬品法を自国の薬品法規に組み込みそれを実施する。2004年以前に欧州市場に入った中成薬は承認申請が必要でなく,ひきつづき販売することができる。ただし,2011年以前に入った製剤は,かならず伝統薬品法によって承認申請を行わねばならず,もし承認申請をしなければ,7年の過渡期の後に売買が禁止される。
 
 ≪規定≫では,伝統草薬の承認申請にあたって,該当製剤が30年安全薬史をもつこと,EU内では少なくとも15年の使用史を,証拠をもって証明することが要求されている。同基準は欧州のすべての草薬製剤市場での交易と売買に適応される。すべての伝統草薬の製造業者と販売業者は必ず欧州基準にもとづいて製造業の許可書か卸売業の許可書または輸入許可書をもち,かつ製造業者は欧州生産質管理規定(GMP)の認可基準に合致しなくてはならない。承認申請と生産,販売許可費用の高騰のために,天然手工業および草薬小工業を中心とする中草薬製造業者または販売業者の利益が著しく損なわれている。
 
英国の針灸・草薬・中医従業者立法
 
 英国政府は針灸・草薬・中医の従事者立法について,7年にわたる困難な歴史を体験してきた。2009年8月,英国衛生部は全中医・針灸・草薬およびその他の補充代替医療業務の発展に関して,≪針灸草薬中医立法公開諮問草案≫を発布した。あわせて,3カ月を期限とする公開諮問を展開した。これは英国が始めてイングランド,スコットランド,ウェールズ,北アイルランドの4大衛生機構が連合して発布した立法草案であり,製剤,人,場所,販売業者の安全のために24の諮問問題を提出したものである。この24問題が出されて,議論が百出した。筆者は,もっとも緊急を要することは,中医界の団体と個人が力を合わせ連合して,11月2日前までに積極的に回答を寄せるべきだと考える。英国中医管理委員会は,連合してすべての中医薬企業と業者が以下のいくつかの問題について,明確にしておいてほしいと思う。
 1.政府に対して,針灸・草薬・中医業務の法的保証を与えることを断固として要求する。最も望ましいのは政府承認である。
 2.政府の英語レベルの要求では,十分な過渡的配慮をすること。たとえば5年の猶予を与えることを断固として要求する。でなければ少数の民族的移民にたいして不公平であり,EUの法律に符号しない。
 3.衛生部にたいしては統一的な声を上げるべきで,承認条件についても,断固として談判すべきである。
 4.中医従事者の個人の回復が重要であり,団体の回復にあたっても,中医個人を代表することを明らかにすることを建議する。
 5.その他の華人団体と個人は,公民としてまた消費者として積極的に支持をし,意見提出に参加すべきである。
 
 英国の現在の執政党である労働党は,ある面では,国家と公共の利益のために主流医学(つまり伝統西洋医学)以外の補充代替医療に対して立法的管理を強めている。一方で,あまりにも多くの法律条項を作ることを望まないために,かならずしも以前の立法方案の破棄を進めてこないであろうが,ひきつづき政府を突き上げて中医立法の推進を推し進め,合理的な法的地位を獲得すべきである。
 
 権威ある人の意見では,公共衛生に使用される資金は,衛生部長の決議が決定的作用をもつといわれる。英国大選挙後の政党の政策と新任の衛生大臣の意見は,最終的な立法方案に大きい影響をもたらす。諮問草案は,中医従事者への厳しい見方と現在中医界の医業の安全性問題と個別機構の職業倫理の欠落という負の報道に対応して,ここに,統一した中医管理委員会を打ち立て政府と対話し,最も合理的な方法で中医界の医業規則,業務管理基準と質を改良することを呼びかけたい。中医界の個別機構と個人は政府の立法に対しては,態度と言動を慎重にすべきで,小さいことで大きいことを失ってはならない。中医立法という大局を重視すべきである。
 
 現在,英国には中医と他の補充代替医療に反対する声がかまびすしい。サルフォード大学の針灸・中医本科の学位課程が閉鎖され,これが他の高等学府の中医と補助医学教育に影響を与えており,多くの大学がこれから圧力を感じとっている。これからも,中医の生存は商業市場での競争で巨大な圧力を受けているだけでなく,それが教育領域にまで波及しつつあることが明白となっている。今年8月,第8回中薬全地球化連盟会議の中医教育フォーラムで,教育グループは,国外において中医を主流医学に推動するための教育体系の研究と対策を正面から取り組んだ。中医は英国の合理的な立法により,中医が英国の医療保険システム(NHS)に組み込まれるのを効果的に保障しているだけでなく,さらに中医教育の主流化の進展を積極的に推し進めている。
 
危機と挑戦
 
 中医薬が欧州に導入されて300年を越えるが,西洋社会では中医は一貫して針灸の代名詞であり,かつ中草薬製剤は一貫して食品か医薬原料の名目でEU市場に進出してきた。今回の立法は,うたがいもなくEUに中医薬を導入するうえで,重要な影響をもつ。。はじめて中薬が治療性薬物として肯定されるだけでなく,中薬がEU市場で薬品として合法的な身分を獲得することになり,治療性薬物として欧州に進出するための条件を作ることになる。また,いったんある中薬が正式に承認されれば,EU各国の医療保険体系に導入される資格を得ることになる。これは米国やその他のいまだ中薬製剤を承認していない国々に中薬を輸出するうえで有利になる。このほか,英国政府は,始めて中医の合法的地位の確立について検討しており,中医を独立した総合的な医療体系として立法化しようとしている。中医薬が英国で法的な認可と保障を得ることになれば,これは欧米地域での嚆矢となる。ただし,①中薬の輸出は,まず≪EU伝統薬物承認≫という難関をこえなければならない。②ついで華人中医師が就業するうえでもう1つの難関である「言語の標準化」という関門を越えなくてはならない。これら2つの難関を越えることがEUでの中医薬立法の条件となる。これは中医薬の輸出にとっても,さらには中医薬の西方世界での存続と発展にとっても直接的な課題といえる。
 
危機の1――中薬輸出への影響
 
 EUは世界最大の植物薬の市場であり,年間売上高は100億ユーロを超え,世界植物薬市場の40%以上を占める。これは中国のアジア市場以外の一大中医薬市場である。2007年に中国の中薬産品の輸出ははじめて10億ドルの大台を突破したが,2008年11月,中薬の輸出額は40.12%も下落した。英国は我が国にとって,欧州における主要な医薬貿易の相手国である。我が国の通関統計によれば,2007年,中英医薬双方向貿易額は,10.6億ドルに達し,前年比32%増となった。そのうち中薬類製品の対英輸出額は1,975万ドル。そのうち中薬材と飲片の輸出額は406万ドルで,中成薬は516万ドル。英国はすでに我が国中薬類製品の主な輸出国の1つとなっている。英国側の統計によれば,中薬類製品の年間市場規模は1.5億ポンドに達しているという。ただし,過渡期の終了とともに2011年4月以降は,中薬がEUから完全に閉め出されることになる。
 
危機の2――中薬の承認申請の難関
 
 1.中薬薬用史の証明問題
 ≪規定≫は,伝統草薬の申請日前最短30年の薬用史,欧州共同体では最短15年の使用史を規定している。これは極めて合理性を欠いた規定である。これは現代医薬品のEU市場への承認申請手続きをより簡素化しようとする可能性を制限するものであり,また中薬についていえば,≪規定≫が規定する伝統的証拠は,EUの草薬専門規定のみは受けつけるが,『中国薬典』は認めないというものである。伝統中薬は,現代薬学,薬理毒理学などの研究がはなはだしく欠落しているために,国際医薬学界公認の科学的文献データーを出しにくく,EUが認可するために必要な30年の応用歴史という信頼できる証拠を提供することは依然として一定の困難を伴う。そのほか,我が国の中草薬製剤は長い間,食品または医薬原料の名義でEU市場に輸出されてきたため,15年のEU使用薬用史を提出するのは,きわめて困難である。
 
 2.中薬複方の問題
 ≪規定≫の実施によってもたらされる中薬のもう1つの危機は,中薬複方が承認申請条件を備えていない問題である。中薬は複方医学系統であり,≪規定≫大16(f)款が提示する植物薬の明細書提出という要求と,もう1つ,最新情報によると3種類以上の草薬を含む薬物は受けつけないとしている問題である。ところで,中薬の方剤はすべて10数種以上の草薬を含む大複方であり,根本的に申請条件に合致しない。たとえ3種以下の中薬製剤といえども,≪規定≫の要求によれば,3種の組方の全部が植物薬指示枠中に入ってなければ申請さえできないというのである。そのため,中薬複方は≪規定≫に適合するかどうか,大きな問題となる。
 
 3.中薬成分の問題
 現在知られている中薬は12,807種類ある。そのうち,11,146種類は植物由来であり,1,581種類が動物由来,80種類が鉱物由来である。また民間につたわる中薬複方は8万種類にのぼる。≪規定≫は今のところ草薬と草薬産品のみについて論じているが,伝統中薬の鉱物薬と動物薬との混合薬についてはまだ言及していない。したがって,多くの鉱物薬と動物薬の中薬製剤がEU市場に入る可能性は皆無ということになる。
 
 4.中薬の申告事案の問題
 ≪規定≫大16(c)の要求によれば,中薬の申請を簡素化するためには,薬学試験の結果と製品の特性概要などの申請報告資料を提出しなくてはならないことになっている。その薬学試験には重金属測定,毒性試験,標記物または有効成分の含有量の測定,安全性試験,遺伝毒性試験の4項目の試験が含まれる。
 
 中薬複方についていえば,上の4試験のうち,重金属試験と毒性試験は可能であるが,欧州薬品局の基準に達しなくてはならない。中薬の安全性試験については,まだ長い過程が必要で,当面の2011年4月までという大期限にはとても間に合わない。このほか,実験2色譜技術による複方の試験では,単味の定量試験すら極めて困難である。
 
 5.中薬生産GMPの問
 中国と欧州が実行しているGMP基準も一致しておらず,≪規定≫は治療性薬物製剤は必ずEUのGMPの要求に合致する工場条件で生産しなくてはならないことになっている。このため,欧州へ輸出するすべての中国の製薬工場がEUの検閲を受けなくてはならず,その検査を通らないものは生産許可を申請することもできない。
 
 以上の様々な要因によって,EUの承認申請で認証を確保するには高いハードルを越えなくてはならない。2009年4月22日,英国のMHRAでは全部で67通の申請書を受理したが,いまのところ批准されたのは30種の伝統的植物薬製剤にすぎず,その85%以上は単味草薬製剤である。複方はすべて3味以下の草薬製剤であった。ただし,これまでのところ,1件の中薬製剤も,あるいは1人の生産業者も承認許可を獲得することができていない。
 
 以上の分析からもわかるように,≪規定≫には一定の問題が存在していることは明らかだ。
 まず第一に,伝統天然草薬は適切な生産条件と環境のもとで生産しうるものであり,現代製薬業界における薬物実験室の概念や基準をもちだして伝統草薬を規範化したり検査することは,自然生命哲学の理念にもとるものである。自然健康連盟は,以前にEUが薬品の安全性試験を含む厳格な製薬条件を課すのは,草薬製剤には適さない……,と指摘したが,このような管制を行うならば,いずれ伝統天然草薬業の消滅をもたらしかねない。1989年のオーストリアの治療性薬物法がその見本であり,これによって15年以内に中小草薬製造企業がつぎつぎと廃業のやむなきにいたった。
 第2に,皮肉なことに,現有法規は「証拠を基礎とする実践」を強調するが,それ自身証拠を欠落しているのである。英国医学雑誌が最近発表した「臨床証拠」のデーターによれば,2500種の常用治療方法の13%が有効,4%が無効または副作用(損害)があり,46%が不明で,効果の有無不明が最大比率を占めた。
 
 第3に,EUの≪規定≫が採用する検査試験方法は,単一の有効成分をもつ西洋草薬にのみ適応するものであって,中薬複方製剤には一切適応しない方法である。
 
危機の3――華人中医師は語学のハードルを越えるのが困難
 
 以上の危機により,EUでは「医学はあるが,薬物がない」いびつな状況が出現する。英国が欧州で率先して針灸・草薬・中医従事者の立法管制をおこなうことによって,中医従事者は国際英語試験Ieltsで6.5点の成績を収めることが条件になれば,大部分の華人中医師は振り落とされ,欧州において「薬物はあるが,医学がない」局面を招くことになる。
 
解決方法と未来への展望
 
 中医薬の現代化と国際化はいま重大な挑戦に直面している。学術的にも経済領域的にも,中国の内外関係に影響を及ぼし,ひいては今後の人類発展においても重大な障壁になりうる事態を迎えている。中医は中華文明の精華であり,中国の文化思想を代表する実体的な表現物である。中国人民に5千年にわたって奉仕してきた医学大系であり,人類の健康と未来医学の発展に貴重な臨床経験を提供するものである。当面の局面を解決するためにどのような対策を取ることができるか。筆者は,以下のように提案する。中国政府の関係部門はただちにEUと対話をはじめ,中国医薬企業と学術研究機構を組織して系統的な方案の検討に入り,最も説得力のある方法でEU及び英国の関係部門と談判を開始してもらいたい。
 
 同時に,急いで GMP,GAP,GLP,GCP,GDPのような中医薬の各種基準と医業規則,教育研究基準などを打ち立て,中医薬の安全で優秀な臨床条件を打ち出すべきである。
 このほか,企業を強化発展させて,中医薬の研究と開発,優秀ブランドの樹立,市場の運営能力の向上,そして外国と共同で臨床・研究・教育の三位一体の中医薬基地を樹立し,次の中医薬人材を養成し,優秀で安全なサービスを提供するよう,促すべきである。

 中医と西洋医学の比較学の理論的研究と分析も,中医薬の前途にかかわる重要な領域であり,中外の人材を集めて創新を提唱し,医薬合作を強化すべきである。
 最近,Nottingham大学とCambridge大学で行われた中医薬全地球化会議で,米国FDAの複数の行政官が中医薬の新奇な治療効果に感銘を受けて,調査研究を開始し,関係研究会に自ら参加していると発言していた。この発言から,私は中医薬は未来医学に大きな影響力があることを,あらためて深く感じさせられた。炎黄の子孫であることに自信を深め,また光栄を感受したものである。(飜訳:S.T.)
 
 出典:「欧盟法令実施給中医薬帯来的危機与挑戦」(『中国中医薬報』2009年11月4 日)
 著者:梅万方氏。世界中連副主席,ロンドン中医学院院長,英国中医薬注冊学会会長,英国中医管理委員会主席,英中医薬合作連盟主席


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