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「中医の国際標準化推進の三大要素」

――公益性・競争・共通性の追求――

世界中医薬学界連合会 李振吉,黄建銀,徐春波,朱暁磊,黄志高,李鶴白,顧暁静


  現在,中医薬の標準は,数もまだ少なく,体系的にも完全ではないため,策定方法の規格も不十分で品質も高くない。さらに内容的にも統一性,まとまりにやや欠け,取り扱いにくい部分がある。これらの問題は,中医薬の標準化が公共医療サービスにおいて,「標準が人と社会に幸福をもたらす」という公益的な役割を果たす妨げとなっている。
  世界貿易機関(WTO)が,国際標準実施のための重要なプラットホームを提供したことによって,標準競争は国家間の競争力の重要な要素となり,国家戦略の1つとして格上げされるまでになった。これにより,中医薬の国際標準化は,関係国の標準化発展戦略に組み込まれ,中医薬が発展するうえで間違いなく有利なものとなった。
  現在の学術界において,日本と韓国の「伝統医学」がどのような名称で呼ばれていようとも,学術理論,治療の実践分野のいずれにおいても,中国の古代中医学と源流を同じくするものであり,そこから各国独自の発展を遂げていると認識されている。
  国際標準化機構(ISO)の中医薬技術委員会(ISO/TC249)の設立は,中医薬がWTO認可の国際標準化システムに参入するための道を切り開いた。このことは,中医薬の国際標準の構築が,すでに国際社会から求められていることを意味しており,中華民族の伝統文化が完璧で独特な理論体系を有し,顕著な治療効果・薬剤の安全性・治療方法の柔軟性・低価格という優位性をもつということが,国際社会から認められたことを示している。またISO/TC249の設立は「功在当代,利在千秋」(現在の成功が末長い利益をもたらす)となり,人類に幸福をもたらす偉業なのである。
  このことは,中医薬が各国において健全で調和を保って発展するために有利に働くだけでなく,中医薬医療を受ける人たちにも恩恵を与え,中医薬学を源流とし,自国民族の特徴と結びついて独自の発展を遂げてきた伝統医学を有する国にとっても喜ばしいことである。
  しかし残念なことに,ISO/TC249の成立の過程で,一部の東アジアの国は常に消極的な態度を取ってきた。その原因は,国の経済的利益・文化的背景・意思疎通の不足・制度の差異・認識の違いなど多岐にわたる。筆者は,標準の公益性・競争・共通性の追求という3つの特徴を分析することで,学術界における共通認識を得て,誤解を解消し,中医薬の国際標準化を共に推進できるようになることを期待している。


1.公益性



標準の本質


  米国・ハーバード大学のダニエル・ベル教授は,人類の社会経済形態を,前工業社会・工業社会・後工業社会という3つの基本的な発展段階に分類している。工業前社会とは典型的な農業社会であり,人々の生活は主に自然との闘いで,製品やサービスの交換行為は非常に少ない。工業社会における主な行為は,物質的製品の生産と商品交換であり,人々が重視するのはコストの引き下げと生産量の増加であり,市場の交易を活発化させるために製品の標準が発生したといえる。後工業社会が重視するのは生活の品質であり,それは健康・教育・娯楽などの分野のサービスレベルによって決定される。また,サービスの標準はサービスレベルを決定するものであるため,サービスの標準のニーズが絶えず高まるのだ。
  人類の社会経済形態の,発展段階の特徴からみれば,標準というものは工業化の産物であり,工業化が製品の標準を育んできたといえる。一方,本質的な角度からみれば,標準とはどのように事を行うべきかという一種の約束事であり,それ自身は何ら経済的意義をもたないものなのである。


市場交易が標準に経済的な属性をもたせる


  標準は,製品の生産とサービスの提供において,コスト削減と品質の向上に重大な役割を果たす。このため,市場交易における製品・サービスのコストや品質面での優位性は,製品やサービスの市場シェアを決定する。このことから企業は,標準化は製品・サービスの市場シェア獲得のための重要な手段だと考えている。
  標準やISOの誕生はすべて,常に市場交易と深く関わっている。経済のグローバル化が深く広く発展するに従い,特に電子・コンピューター・通信の分野においては,企業が標準を利用して技術を普及させることが,企業の発展や市場シェアの拡大のための重要な戦略となってきている。同じ市場利益を有する企業は,市場を開拓し競争力を高めるために,企業連合や国際的業種組織を設立し,連合標準や国際標準を策定してきた。企業は,国際標準化を通じ,国際的な競争力を高め,国際市場におけるシェアも拡大している。このため標準は,企業のグローバル化の実現を促進し,市場シェアを獲得するための重要な手段となり,市場交易により経済的機能および属性を与えられた。


「標準が人々と社会に幸福をもたらす」という目標が標準の本質と社会的公益性を決定する


  企業が,標準化の経済的利益の研究を開始してすでに久しい。IFAN(International Federation of Standards Users:規格適用国際連盟)設立後,最初のワーキンググループ(WG)は,標準化の経済効果に関するWGであり,数年間の研究により,『企業における標準化による経済効果の計算方法』『標準化の効果と利益』という指導的文書を記した小冊子を発表した。しかし,現在標準化経済学に対する研究は,主に標準化の経済・国際貿易・技術開発などに対する促進効果という内容に集中している。研究の主要な傾向は,市場経済の効果・利益を踏まえたものであり,商業製品やサービスの角度から,標準の機能・役割・属性を研究しており,標準の公共サービス(特に公共衛生サービス)に対する機能・役割・属性には注目していない。
  標準化の目的は,「一定の範疇で最良の秩序を獲得する」というものである。標準化は,科学的管理の基礎や近代的な大量生産の必要条件であり,科学技術を生産力のプラットホームへと変換させ,貿易発展のかけ橋や要となるものであることから,最良秩序の構築は,社会的な生産力の発展を大々的に推進することもできる。
  そして国際標準を推進することにより,技術の進歩を促進し,製品の品質を向上させ,国際的な技術交流および協力をも促進して,貿易における技術的な砦を取り除き,貿易の自由化を促すことができるのだ。
  科学技術や経済のグローバル化は絶えず加速しており,標準はもはや国境を越えて,人類共通の行為準則となっている。人類が活動している所ではすべて,標準が存在しその役割を果たしている。人類社会は秩序を保つ必要があり,規律的な制約が必要とされるため,標準化はまさに,秩序ある規則的な制約を実現させるための最良の道なのである。
  2007年の国際標準化デーに,ISO・IEC(国際電気標準会議)・ITU(国際電気通信連合)が共同で,「標準が人々と社会に幸福をもたらす」をテーマにした祝辞を発表した。祝辞では,ISO・IEC・ITUが国際標準を策定するのは,市場開発を保証し,環境保護・人身の安全・公共の安全・健全かつ自由な知識と情報の獲得を実現するためだと指摘している。国際標準化は、貧しい国家と富める国の間の砦を打ち砕くために益々有利となってきており,また製品の品質向上とコスト削減の手助けもできる。「標準が人々と社会に幸福をもたらす」という目標を実現するためには,関連標準の策定が必須であり,さらに公共サービスにおける関連標準の使用を推進して,人類が容易に生活の質を向上させることができるようにする。
  現在の国際標準化の活動は,経済の発展・国際貿易や技術開発の促進という経済的な側面から,人を中心にした生活の質の向上や,地球の資源と環境の保護などを目的として国際標準化を推進するという方向へと転換を遂げてきている。このことから,標準は現在の人類社会の経済・生活において,健康の促進や社会安全の保障・持続可能な発展という,公益的な役割を担うようになってきていることが理解できる。


標準の役割である公益性を明確に理解する


  商業製品およびサービスと公共サービス(特に公共衛生サービス)は,その生産・提供行為の主体も,実現の目標もまったく異なる。前者の主体は経済的利益を目標とする企業であり,最大利益の獲得が目標である。後者の主体は,一般的にいって非営利な医療・衛生関係の公共サービス機関であり,安全で有効的な,高品質のサービスの提供が責務である。
  このため標準は,製品の生産やサービスの提供においては,コストの削減や品質の向上という役割を果たすが,異なる行為の主体に対する社会経済的機能や性質は当然異なってくる。市場交易において,経済的利益の獲得を目標とする企業が,有形の製品を生産あるいは無形のサービスを提供する際には,標準は利益を獲得するという機能を果たし,経済的な属性をもつことになる。一方,公共サービス(特に公共衛生サービス)機関に対する標準は,まず消費者に安全が保障された高品質のサービスを提供し,第2に国や社会および個人の経済的負担を軽減させるものであり,非営利的かつ公益的な属性が浮かび上がる。
  このように,標準は異なる種類の製品およびサービスに対して異なる役割を果たし,経済性と公益性という異なる性質を有することがはっきりと理解できる。
  現在,世界の主要先進国はすでに後工業社会という段階に入っており,社会生活において健康・教育・娯楽などの公共サービスに対するニーズが高まってきている。このため,関連する公共サービスの標準に対する研究および策定が,非常に必要かつ重要になってきている。ダニエル・ベル教授の理論によれば,後工業社会の人々が関心を寄せるのは生活の質であり,健康・教育などの公共サービスである。後工業社会では,医療保険サービスなど公共衛生保健サービスに対するニーズがどんどん高まり,各国の公共衛生保健サービス分野の経済的負担は絶えず増加している。このため,公共衛生保健サービス分野の,獲得の可能性または国民の健康面での公平性の実現という目標が,世界各国共通の注目課題となっている。
  中医薬サービスは,普及の利便性および「予防・保健・治療・リハビリの一体化」という特色をもち,その治療効果は,中華民族の5000年に渡る繁栄により実証されている。中国はかつて,1%の公共衛生費用で,全世界の22%を占める人口の医療保険問題を解決し,都市・農村住民の公共衛生保健体制も全体の85%以上をカバーしている。さらに,国民の平均寿命も先進諸国に劣らないまでになっている。
  中国は伝統医学を活用し,特に中医医療は,中国の公共衛生が負担している問題を解決し,国民の健康面における平等という目標実現のための重要な手段となる。しかし,現時点における中医薬関連の標準はまだ数が少なく,体制もまだ完全ではない。また,策定方法の基準が確定しておらず,レベルが不十分で,内容が統一されていない,まとまりや操作性が劣るなどの問題が存在している。そしてこれらの中医薬の標準化が直面する問題が,公共衛生サービスが,「標準が人々と社会に幸福をもたらす」という公益的な役割を果たすのを大きく妨げている。このため中医薬業界は,その資源と力をさらに集結し,特に中医薬の源流と関わりが深い国との協力も強化して,ともに中医薬の国際標準化を推進し,人類の健康に幸福をもたらさなければならない。


2.競争



中医薬の国際標準化の手段を推進する


  中医薬は現在,各国の国民にとって医療保健手段の選択肢の1つとなっている。多くの国で中医薬(鍼灸)の合法的な地位が認められており,中医薬はすでに医療保険の範疇であるといっても差し支えない。一部の国では,中医薬の専門管理機関を設立し,中医薬の管理を標準的に行っている。また多くの国では,総合大学の教育的資源の力を借りたり,中医薬の教育機関を設立して,中医薬の大学教育および社会教育を行い,自国での中医薬人材の養成を積極的に進めている。さらにある国では,近代科学技術の力を借りて積極的に中医薬の科学的研究を行っている。これに加えて多くの国では,鍼灸センターや中医の診療所において,主力的に伝統医学サービスを提供している。
  不完全な統計ではあるが,現在世界各国で中医医療に従事している人は30万人以上に達し,毎年,当地の患者の約30%と華人の70%以上が中医医療を受けているという。中医薬は,すでに世界の多くの国で重要な医療保健サービスの1つとなっているのだ。


中医薬の国際標準化には公益性の堅持が必要


  国際標準化は,消費者に安全・有効的で高品質なサービスを提供し,国・社会・個人の経済的負担を軽減して,社会的な公益性を実現するものであることから,われわれは,中医薬サービスを公共衛生サービスの要素とするという目標を絶えず追求してきた。
  中医薬の国際標準化を推進する過程において,われわれはまず国際社会における中医薬発展のニーズに着眼した。例えば,中医薬の医療・教育・学術交流には,基本名称・術語の統一標準が必要であり,これがその他の標準の基礎となる。また,異なる国では異なる言語を使用しているため,それぞれの翻訳標準が必要となる。さらに鍼灸の発展には,経穴の名称・経穴の取り方・手法の標準が必要である。その他にも、医療機関・教育機関・従事者の標準なども必要となる。
  これら標準の策定はすべて,各国の管理のニーズと業界の自律性の要求を満たし,中医薬の発展に必要な最高秩序の建設に有利となり,中医薬サービスの品質を保証するためのものである。中医薬の国際化推進の過程において,中国は経済的な効果や利益を追求してはおらず,まして標準そのものは,直接経済的効果や利益を生むものではない。
  第2には,中国は中医薬発祥の地として,国際社会に貢献をするべきである。中国の中薬製品の輸出はまだ比較的少なく,天然薬剤の国際市場におけるシェアも低く,2009年の中薬製品の全世界に向けた輸出額は14億ドル(約1,150億円),2010年でも約19億ドル(約1,550億円)にしかなっていない。しかし中国は中医薬学の発祥地であり,中薬生産と中医サービスにおける大国である。さらに,「小康社会」から中クラスの先進国家へと移り変わって,国際活動への参加意識や責任感も高まりをみせ,国際活動への参与の回数や比重を絶えず増加させるだけの力を備えている。
  このため中国は,国際社会に向けて,中国が優位性を有している国際公共サービスの提供を強化する必要がある。「標準が人々と社会に幸福をもたらす」という素晴らしい未来の実現のために,中医薬の国際標準の研究と策定を行い,「予防・保健・治療・リハビリの一体化」という特色をもち,簡便で廉価な中医薬という公共衛生サービスを,国際社会に提供しやすいようにするべきなのである。
  中国は,伝統的な中医薬を代表とする公共サービスの国際標準の策定を,責任をもって推進する義務がある。またこれは,新時代の中国が,国際社会に対して果たすべき責任・義務であり,また一種の貢献なのである。


競争は中医薬の国際標準化を推進する内在的エネルギー


  市場経済や商品交易は,標準に経済的属性を与えると同時に,標準化に生存の機会や活気を与えている。伝統的にミクロ化されがちな製品や,価値に限りがある専売特許にしてみれば,標準とは製品や特許の価値を決定する尺度であり,客観性や権威を備え,市場における障壁や市場の主導権を握るための強力な手段となる。
  現代社会では,「標準を得たものは天下を手にする。超一流の企業は標準を売り,一流企業は特許を売り,二流企業は製品を売り,三流企業は労働力を売る」という概念が通用している。これは,標準の策定権を握り,その技術成果が標準となったものが,市場の主導権を握ることを意味している。このような生命力をもつ標準の,営利を目的とした製品生産やサービス企業に対する価値とは,企業が標準化に積極的に参加するよう奮い立たせ,中医薬の国際標準化の内在的エネルギーにもなるということである。
  WTOは,国際標準の実施のための重要なプラットホームを提供し,標準の競争を国家競争力の重要な要素とさせて,国家戦略というレベルにまで昇華させた。このような理由から,中医薬の国際標準化は関連国家の標準戦略に組み込まれるようになり,中医薬の発展に有利となることは間違いない。


公益と競争の関係を正確に処理することが中医薬の国際標準化の健全な発展を保証する


  中医薬の国際標準化の,「人々と社会に幸福をもたらす」という総体的な目標とは,われわれが奮闘努力すべき方向や活動を展開するうえで出発点であり終着点である。さらに関連国・団体・個人が担うべき社会的責任でもある。また競争とは,目標達成のための仕組みや方法または手段であり,二次的または運用面における問題を解決するものである。国際標準化はすでに2世紀に跨っており,完璧な理論や組織・方法・規則を形成している。中医薬は新興の分野として,国際的に通用しているルールを遵守しなければならず,国際標準化の過程において,健全で秩序ある良好な競争の存在を支持するべきである。
  中国は中医薬発祥の地であるが,国際標準化分野においては新参者である。また長期にわたり経済計画に没頭していたため,市場・標準・規則についてはまだまだ不案内であり,市場経済体制の構築と完全化の過程において,国際標準化関連の知識を補充する必要がある。その経済的属性を強調し,市場意識を向上させることにより,広範囲における参与の積極性をかきたてているが,これは中国の現在の特殊な国情により左右されているものであり,何か特定の対象がある訳ではないため,関連国は必要以上に憂慮するに及ばない。
  中国は積極的に中医薬の国際標準化を推進し,さらにその公益的な目標に注目しているため,営利を目的とした企業分野において商業製品やサービスを提供したとしても,中国企業はその他の国の同類企業と,同様の標準に則り公平な競争を行っている。したがって,二重の標準が出現する可能性はなく,トラック上のアスリートと同様,同じ競争規則の制約を受けたうえで,競技を通じて目覚ましい成績を残している。このため,競争に参加する関連企業には,安心して競争に参加してもらいたい。


3.共通性の追求



不一致をなくして中医薬を保障


国際標準化は順調に進行


  教科書的な解釈によると,標準とは,一定の範疇で重複して現れる,事物や概念を統一的するための規定である。標準の本質は「統一」であり,標準は一定のプロセスを経て発生し,これらのプロセスは十分に協議された「統一性」を具体的に表現していなければならない。この,「一定の範疇」「統一」「十分に協議された統一性」という言葉はすべて,共通性の追求が標準化の大原則であるという意味を含んでいる。共通性の追求というのは,まず範疇が同じであることを指しており,必ず同一の範疇である必要がある。範疇の異なる事柄や概念は,統一することが不可能であり,また協議の一致をみることもないため,その類別ごとの標準が発生するのである。
  標準の範疇は共通性の追求の基礎であり,範疇が明確になりさえすれば,この範疇に関連するものは,同一の範疇の事柄や概念について協議し統一された標準を得て,それを関連者が遵守すべき準則として実施することができる。ISO/TC249の名称に対する意見の不一致の原因は様々だが,認識の差異は,ある1つの重要な原因によるものだといわざるを得ない。


共通性の追求の基礎


  中国は2009年3月,ISOへ中医薬技術委員会の設立を提案した。この提案は,以下の事実を踏まえてのものであった。
  中医薬学は完全な理論体系を有し,豊富な実践経験・顕著な治療効果・独自の薬剤使用法という特徴をもつ医学であり,すでに数千年の歴史がある。
  中医薬学は,160の国および地区に伝えられており,130以上の国に中医医療・教育・科学研究機関が存在している。さらに,世界の3分の1近くの人が中医医療保健サービスを受けており,中医薬の国際標準の策定は国際社会から強く求められている。
  中医薬(TCM)はすでに医学体系の固有名詞になっており,国際社会に通用する公認の名称である。この名称はすでに,多くの政府や国民に受け入れられており,他の意味に取り違えてしまうような曖昧さはない。
  中国サイドのこの提案は,「中医薬という範疇で繰り返し出現する事柄や概念に対する統一された規定」という境界線を明確に示しており,その他の医学に対しては触れていない。また名称と範囲の線引きは,共通性という基本的な選択基準を提供しており,各国は自国の医療活動の実践を踏まえて,中医薬または中医薬に関係するものは参加を,そうでないものは不参加というように決定をすればよい。
  ISOの関連規定によると,すべての国家団体は,TCへの参加,またはPメンバー(Participating member)やオブザーバーとなる権利があり,さらに参加・脱退の時期や,TCにおける身分の変更など自由に選択できる。この規定では,各国の団体の,「中医薬」という名称およびスコープ(標準化の範囲)の技術委員会への参加に対してはまったく規制していない。ただし,すでに投票というプロセスを経て,ISOのTC関連の条件に符合した名称とスコープについては,異議を唱えるべきではない。ISO/TC249の名称に対する論争は,理論上なんら意義をもたない。


共通性の追求という原則を把握し,伝統医学の地位を確立する


  中・日・韓の3国は,地理的にいって隣国であり,その文化は互いに影響し合い,それぞれの特色をもつ伝統医学を継承している。日本の学者・真柳誠氏は,中・日・韓などの古典医学書データの比較研究において,中国を中心とする漢字文化圏の医学書は,1500年余りの歴史のなかで前後して韓国・日本などの国に伝わり,各国独自の特色を備えながらも理論から治療技術に至るまで共通した医療知識体系をもつ各国の伝統医学が,存在し使用されてきたことを発見した。
  また歴史的時期によって,各国の名称もそれぞれ異なり,中国では「中国医学」「国医学」「中医学」と呼ばれ,日本では「漢方」「漢医」「漢方医学」「皇漢医学」「和漢医学」「東洋医学」,韓国では「東医」「漢方」「韓方医学」「韓医学」と呼ばれてきた。この研究の定量化比較を通じて,日・韓などの国は中国医学を選択的に吸収し,中国医学を自国に適応するように努めてきたことが明らかになった。また,西洋文化の影響を大きく受け,さらに多くの要素が加わり,各国の医学と中国医学との間には,相対的な相違点および共通点が発生したのだ。
  大量の研究資料によると,現在の学術界では,名称がどうであれ日・韓の「伝統医学」は中国の古代中医学に由来しており,学術的理論のみならず実践面においても,中国の古代中医学の流れを継ぐものであるが,それぞれに大きな発展を遂げていると認識している。
  韓国の李済馬(1837-1900)は,中国の『易』の四象説を受け継ぎ,『霊枢』の体質論に啓発を受けて,「四象医学」学説を打ち立てた。『東医寿世保元』四端論では,「五臓の心は中央太極である。五臓の肺脾肝腎は,四維の四象である」と記している。また川原秀城氏は「朝鮮の四象医学」という論文の中で,「李済馬が四象という体系を打ち出したとき,『易』の四象説以外にも,『霊枢』の体質論の影響を深く受けていると認めざるを得ない」と述べている。
  また韓国の学者・車基鳳氏は,「韓国の弁象弁証と中医の六経弁証」という比較研究を行い,「四象医学の弁象弁証は,『傷寒論』の弁証論治体系を基礎として発展した体質医学体系である」と指摘している。
  日本の漢方医学は,歴史上3つの学術流派が存在している。1つは,曲直瀬道三(1507-1594)を代表とする「後世派」であり,主に中国・金元医家の李杲,朱丹渓の学説の影響を受けている。2つ目は吉益東洞(1702-1773)を代表とする「古方派」であり,張仲景の『傷寒論』を尊び,方証相対と腹診を重視している。3つ目は望月三英(1697-1769)を代表とする「折衷派」で,一つの学説に固執せずに,様々な学説の長所を採用している。
  これらの現象に対し,学術界では2種類の比喩をしている。1つは,中国で誕生した医学を各国に枝葉を伸ばした大樹に例えるならば,日・韓などの伝統医学は,一つの幹から枝分かれしたものであるという。つまり,韓国の四象医学や日本の後世派・古方派・折衷派は,中国の新安学派・嶺南学派・寒涼派・火神派と同様に中医薬学の分流であるが,またそれぞれが独自の開発と発展を遂げていると考えている。
  もう1つの比喩は,中国医学という森の中で育まれた,多種類の果実が周辺各国に輸送された後,各国は自国の文化に合う種子を選んでそれを栽培したり,または自国の種子と交配させて異国の知識を吸収した遺伝子を作り,新たな森林を形成したというものである。
  この2つの例えが実際に示しているのは,日・韓の伝統医学の学術的な定位の問題である。1つ目の大樹とその枝という比喩は,韓医と漢医は中医薬学に属する医学体系であることを示しており,種子と森林という第2の比喩では,韓医と漢医は中医薬学体系の外に独立していることを表している。
  定位が異なれば対処方法も異なってくる。第1の比喩のように,韓医と漢医を中医薬学体系に属すると考えるのであれば,両者は中医薬の名称と範疇の下に置くべきで,3者は団結して協力すればよい。またもし第2の比喩のように,韓医と漢医は中医薬学体系の外に発生した,独立した新たな医学体系だとするのであれば,範疇が異なるためにISO/TC249には参加しなくてもよいし,部分的に参加してもよいことになる。さらに,将来的にこれら韓医・漢医などの医学体系が国際的に広く伝えられ,国際社会から関連する国際標準策定に対するニーズが発生したときは,これらの医学独自の技術委員会を設立しても一向に差し支えない。そのときには,中医薬界はその設立に反対する理由はなく,また反対するつもりもない。


ISO/TC249の名称を「伝統医学」「東アジア医学」とするべきではない


  世界保健機関(WHO)の定義によると,「伝統医学」とは,「伝統的な中医学・インド医学・アラビア医学などの伝統医学体系,および各種の形式の民間療法の総称」である。世界のほとんどすべての国では,伝統医学の医師が治療行為を行っている。伝統医学とは広義の概念であり,そのなかには多くの医療体系が含まれている。異なる医学体系は,文化的背景・理論的な基礎・臨床実践・薬剤使用などの特徴などがすべて異なり,応用の範囲も一致しないため,統一された標準を適用することは不可能である。例えば,中医薬・インド医学・アラビア医学はそれぞれ異なる医学体系をもち,基本名称や術語もすべて異なるため,統一の標準を策定するのは不可能なのだ。
  東アジア医学(東方医学)とは,1つの医学体系の名称ではなく,世界各国に対し広範囲な影響を与えるものではない。東アジア医学(東方医学)とは,1種の地域的な概念に過ぎず,さらにこの地域には多種の伝統医学が存在している。例えば,中国大陸だけでもチベット医学・ウィグル医学・モンゴル医学・タイ医学などがあり,これらを技術委員会の名称にしてしまうと,共通性の追求という原則に合わないだけでなく,概念的な混乱を招く危険性もあるため,国際社会がこれを受け入れるはずはない。


[中国中医薬報2011.4.20 平出由子訳]

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