サイト内キーワード検索


お問い合せ

東洋学術出版社

〒272-0021
 千葉県市川市八幡
 2-16-15-405

販売部

  TEL:047-321-4428
  FAX:047-321-4429

編集部

  TEL:047-335-6780
  FAX:047-300-0565

▼『中医臨床』プラス

« 『中医臨床』プラス トップに戻る

通巻108号(Vol.28 No.1)◇インタビュー



【インタビュー】 転換期にある日本の東洋医学のさらなる飛躍を

第58回日本東洋医学会学術総会広島大会を前に
広島大会会頭・十河孝博先生に聞く

十河孝博先生



  今,世界的に伝統医学が注目され,統合医療への動きが活発だ。大会のプログラムを見ると,世界的な潮流に対して日本が直視しなければならないこと,考えなければならないことを真正面から捉えていこうとする意欲が感じられる。会頭の十河孝博先生に,広島大会の特徴,およびプログラムのねらいと期待することについてお話を伺った。


――まず今年の広島大会にどのような特徴と内容があるかをお聞かせください。
  第58回日本東洋医学会学術総会は,広島での学術総会の開催としては今回で3回目になります。前回の2回目は故・小川新先生が会頭,私が準備委員長を務め,1986年に開催しました。学術総会でははじめて,中国四川省の成都中医学院(現・成都中医薬大学)から郭子光教授ら2名の老中医を招いて,日中間の学術交流会を行いました。この日中間の学術交流が契機になって,その後の日中間の学術交流が盛んになったことをみますと,広島での学術総会が日本の伝統医学の新しい転機になったと思っています。
  あれから21年後の今年,私が会頭,広瀬脩二先生が準備委員長となって第58回日本東洋医学会学術総会を開催することになりました。われわれは早くから準備委員会を発足させ,広瀬準備委員長,原田康平先生,竹川佳宏先生が中心になって,学術総会の構想を練り始めました。しかし日本の伝統医学の周辺には,今までにわれわれが出合ったことのないような嵐が押し寄せて来ていることを知って,あ然としました。
  そこで,われわれも資料を集めて勉強をし,情報分析をしたところ,日本の伝統医学の周辺には3つの大きな問題のあることがわかりました。第一の問題として,中医学の急速な国際的拡がりに比べ,伝統医学の先進国である日本の立ち遅れがあげられます。第二は西洋医学の限界を知った西洋医側からの発想ですが,東西両医学の融合,統合を実現しようとする動きです。第三は米国を中心とした特許攻勢の流れです。このうち第三については一見,伝統医学には関係のない経済的問題ですが,これが後でわれわれの漢方診療に影響を及ぼしかねない,厄介な問題なのです。この点については,今回の学術総会で田辺敏憲氏(富士通総研)から問題提起の形でお話していただくことになっています。
  われわれは学術総会のテーマを「転換期にある東洋医学・さらなる飛躍をめざして」としました。このテーマの意味するところを言い換えれば,日本の東洋医学は変わらなければ,飛躍はないということになります。しかし,国際化に向かうにしても,東西両医学の融合・統合に向かうにしても,いずれにしてもその障害になるものが日本には存在するのです。というのは,日本の伝統医学には昔から学術流派間に垣根が存在することから,お互いが共通の認識のうえに立って,国際化や東西両医学の融合・統合の実現に向かうことはなかなか容易ではないからです。そのためわれわれは,「古方,後世方,折衷派,中医学などに存在する垣根を取り払い,お互いの立場を尊重しながら,伝統医学の継承と発展に努めるべきだ」と主張してきました。このことは東洋医学のボーダーレス化の1つと考えています。東洋医学のボーダーレス化の意味するところはいろいろありますが,それが今回の学術総会での中心テーマになっています。


――先生は本大会の会頭として,今回の学会で何を目指し,どのような成果を期待されているのかお聞かせください。特にノーベル物理学賞を受賞された小柴昌俊先生を迎えた意義は大きいと思います。
  小柴昌俊先生の特別講演は私が最も望んでいたことで,これが実現したのは学会会員でもある九州大学名誉教授の藤原武彦先生のおかげです。
  私がなぜ望んだかを申しますと,東西両医学の融合・統合は今21世紀の最も重要な課題であり,人類のためにぜひとも実現しなければなりませんが,質的にまったく正反対ともいえる両医学を結び付けることは容易なことではありません。ある人から「欧米の著名な量子力学者のなかに東洋思想に傾倒する人が多い」という話を耳にしましたので,本などで調べたところ,F.カプラ,W.K.ハイゼンベルク,N.ボーア,B.ジョセフィンなどノーベル賞を受賞した多くの学者が「量子力学を追求していくと,どうしても東洋思想,東洋哲学にたどり着いてしまう」と考えていることに非常に驚き,興味をもっていました。このようなことから,先端技術を極められた小柴昌俊先生から,東西両医学の掛け橋となるようなお話が聞けるのではないかと期待しています。


――シンポジウムの「傷寒論再考」は,吉益東洞の誕生の地である広島大会に相応しい内容だと思います。また,今大会では牧和宏先生らのご研究もはじめて発表され,傷寒論研究の新たな展開が期待されますね。
  日本の東洋医学が国際化や東西両医学の融合・統合に向けて変わらなければならないところはまさにここです。つまり医学である限り,その基本には病理学がなければ,世界中から理解され広まることはありませんし,ましてや両医学の病理学が基本で融合・統合することがなければ,本当の新しい医学は誕生しません。
  日本の『傷寒論』を中心とした漢方治療の体系は独自的でありすばらしいものですが,硬い殻から抜け出して,新しい動きに対応するための調整がどうしても必要になっていると考えています。そのためには,まず虚実論の調整から始めなければなりません。もし虚実中間証といったら,日本のなかでは通用しても,日本以外の人たちが聞くと何だろうとびっくりすると思います。
  このようなわけで,吉益東洞の生誕の地である広島で,「傷寒論再考」のシンポジウムを開くことによって,日本の東洋医学が国際化へ向けての態勢づくりができればよいと思っています。


――広島大会では,長く中医学を中心に学習研究活動をされてきた中四国支部の学会に相応しく,中医学の講演も多いですね。
  確かに,中四国支部は中医学が盛んなところですが,今回の総会プログラムに意識的に中医学の講演を組み入れてはいません。ただ,今後の国際的な動向を考えれば,古方,後世方,折衷派,中医学などの垣根を取り払った学術総会にしたいという願いから,このような企画になりました。また,国際平和都市・広島にふさわしい学術総会にしたいという願いから,「国際伝統医学ライブ(診察と診断)」や「伝統医学を英語で語ろう」など,学術総会史上はじめての企画も用意しています。


――世界的に伝統医学が注目され,統合医療の動きが活発です。そのようななかで招待講演の演者としてアメリカ・韓国・中国から専門家を迎えて,討論できることは画期的ですね。
  中国や韓国の医療制度は西洋医学と伝統医学の二本立てになっていますが,日本の場合は西洋医学一本の医療体制のなかで,伝統医学を実践していかなければなりません。ただ,東西両医学の融合・統合を実現するという点になりますと,中国や韓国よりも逆に日本の方が有利になります。というのは,東西両医学の融合・統合を実現するためには,両者の共調関係が絶対に必要でして,二本立ての医療制度では両者の共調関係を作るのが難しいと考えるからです。
  したがって,共調関係を作りやすい日本が世界に先立って,東西両医学の融合・統合を実現しなければなりません。この流れは昨年の大阪での学術総会から始まりましたが,それを受け継いでさらに広島で前進させたいと考えています。





第58回日本東洋医学会学術総会広島大会プログラム(予定)
会期:2007年6月15日~17日/会場:広島国際会議場


会頭講演 十河孝博(十河医院院長)
特別講演 小柴昌俊(東京大学特別栄誉教授)
     高久史麿(日本医学会会長)
招待講演 田辺敏憲(富士通総研主席研究員)
     波平恵美子(お茶の水女子大名誉教授)
教育講演 酒谷薫(日本大学脳神経外科教授)
招待講演 Craig E. Mitchell(シアトル東洋医学研究所)
     陳貴廷(中国中医薬報社社長)
     金英信(韓国東洋医学会副会長)


シンポジウム
ボーダレス時代の東洋医学
  上馬場和夫(富山国際伝統医学センター)
  ほかに日本側2人予定
傷寒論再考一東洞生誕の地にちなんで一
  牧和宏(牧角内科クリニック)
  小髙修司(中醫クリニック・コタカ)
  福田佳弘(福田整形外科医院)
  黄煌(南京中医薬大学)
  中村謙介(海浜整形外科)
東西医学の融合に向けて一21世紀の医療の中核をつくる一
  竹川佳宏(徳島大学)
  小髙修司(中醫クリニック・コタカ)
  松田和也(松田内科医院)
  仙頭正四郎(仙頭クリニック)
  関 隆志(東北大学)
生薬の基礎から供給まで
  姜東孝(栃本天海堂)
  奥田大樹(明治薬科大学)
  牧野利明(名古屋市立大学)
  篠原由美子(フローラ薬局)
穴位療法の基礎―鍼・灸・刺絡
  山下 仁(森の宮医療学園大学教授)
  山田勝弘(東京地方会会長)
  大貫 進(日本刺絡学会)


ラウンドテーブルディスカッション
地域医療への東洋医学の可能性を見る  
  若松貴哉(愛媛県立中央病院東洋医学研究所)
  水嶋丈雄(水嶋クリニック)
  岡部竜吾(早稲田大学人間総合研究センター)
  峯尚志(峯クリニック)
劇的に効いた症例
東洋医学を英語で語ろう


国際伝統医学ライブ
  Craig E. Mitchell
  黄煌
  金英信または推薦者
  江部洋一郎(高雄病院)
漢方基礎講座
  入江祥史(千歳烏山内科・漢方クリニック)
  木本裕由紀(木本クリニック)
  西本 隆(西本クリニック)
伝統医学臨床セミナー
  木村進匡(木村神経科内科クリニック)
  渡辺善一郎(富士ニコニコクリニック)
  岡孝和(産業医科大学)
  広瀬脩二(千田診療所)


*プログラムについては,日本東洋医学会発行の学会誌や
 学会ホームページでご確認ください。





●国家中医薬管理局訪問
――王笑頻国際合作司副司長に聞く――
伝統医学と中医薬の世界動向

編集部

  中医薬をはじめとする伝統医学の,世界における普及がめざましい。現代医学で解決しない難治性の疾患の治療や養生の面で伝統医学に対する期待が高まっているためだ。世界のこうした期待を背景に,中国は近年,中医薬の世界への普及を強力に推進している。
国際合作司の王笑頻副司長
  今年1月,北京の国家中医薬管理局を訪ね,中医薬の国際問題を扱うセクションである国際合作司の王笑頻副司長から,最近の伝統医学と中医薬の世界動向についてお話を伺った。王笑頻副司長は,日本はもちろんのこと,世界各地を飛び回り,中医薬の国際化を推進されており,中医薬の国際問題に関するエキスパートである。



世界に広がる伝統医学への期待
  現在,伝統医学は世界で広範に応用され歓迎されています。アフリカでは,人口の80%が伝統医学を用いていますし,アジアと南アメリカでは,その歴史と文化に根付いた伝統医学が広範に使われています。
  先進国の多くでは,伝統医学と補完代替医療が徐々に普及してきています。WHOの調査によると,1年のうち少なくとも1回以上,伝統医学と補完代替医療を使ったことがある人は,オーストラリアで48%,カナダで70%,米国で42%,ベルギーで38%,フランスで75%を占めるという結果が出ています。伝統医学にかける費用も次第に増加してきている状況です。
  伝統医学がこれほど広範に使われる理由として,発展途上国では,①伝統医学は簡単・便利・安いので,患者にとっても負担が軽く,使いやすいこと。さらに②先進国では化学薬品による副作用の問題に直面しており,伝統医学が個体性・整体性に優れることから需要が増えているという点をあげることができます。
  伝統医学は,国際社会で積極的に用いられています。各国が伝統医学を国家政策として定め,合理的な応用を促進し,科学研究を展開して,教育体制も整えています。また発展途上国においても伝統医学の研究機構の数が増え,研究にかける費用も増加しています。国際的に伝統医学の学術交流と標準化の制定といった面で協力体制がいっそう強化されているのです。


WHOが推進する伝統医学
  2002年,WHOは中医学だけではありませんが,世界で伝統医学を推進する戦略をはっきりと示しました。WHOがまとめた『WHO Traditional Medicine Strategy 2002-2005』によると,伝統医学とは,伝統中医学・インド医学・アラブ医学などの伝統医学および各種の民間療法の総称です。
  このリポートに示されたWHOが推進する戦略の主な内容は次の4つです。
①各国が積極的に伝統医学を支持する国家政策・規則をつくることを提唱。
②安全性・有効性と品質の確保。
③貧しい人々にとって伝統医学を受けやすくする。
④伝統医学の合理的な応用。


  また各国で伝統医学がどの程度受け入れられているかという点について,WHOは次の3つの段階に定義しています。
①伝統医学が政府の承認を得て,その国の保健衛生のなかに完全に組み入れられている国。
②伝統医学が承認されているものの,まだ完全にはその国の保健衛生のなかには組み入れられていない国。
③その国の保健衛生のなかで代替医学として受け入れられており,一部の伝統医学についてその実践に法律的な制限がある国。


  ①の段階には,中国・北朝鮮・韓国・ベトナムの4カ国が当てはまります。西洋医学を中心に行っている国の大部分は③の段階に入ります。


伝統医学の国家政策
  2005年5月,WHOは各国の伝統医学と伝統草薬の国家政策の状況について調査を行いました。それによると,すでに45カ国で国家政策が制定されており,51カ国で制定の準備がされています。さらに40カ国で国家発展政策が制定されており,75カ国で管理機構が作られ,61カ国で専門委員会があります。また53カ国では最低でも1カ所の国の研究機構があります。
  生薬に関しては,すでに53カ国で生薬に関する法律が制定されており,42カ国では制定を行っている最中です。さらに97カ国では生薬を一般医薬品(OTC)として用いており,50カ国では処方箋薬とされています。86カ国では登録体制が備わっており,17カ国では1,000種以上の生薬が備えられています。これらの報告で示されている数字をみると,世界各地でいかに伝統医学が重視され応用されているかがよくわかります。
  中医薬は世界の伝統医学のなかでも重要な要素であり,最も完成されており,最も優位性をもっています。目下のところ,中医薬の医療は世界でますます普及し,使用率が高まっており,人々に歓迎されています。
  また,中医薬の教育においても目をみはる発展があり,中医薬の人材が大量に育ってきています。さらに中医薬の国際合作がスタートしており,すでにおおよその形ができてきています。中国はすでに70カ国以上の衛生省と合作協定を締結しており,国家中医薬管理局は24カ国と単独で合作協議の覚書に署名し,中医薬の対外交流・国際合作を強化しています。中薬の対外貿易も年々上昇する傾向が現れています。
  世界的にみれば,先進国でも発展途上国でも伝統医学が重視されてきています。発展途上国に対しては,伝統医学は安いとか,使いやすいという理由で使われてきましたが,先進国でも現代医学以外の新しい方法・手段として重視されてきているのです。


国際間で深まる中医学
  オーストラリアでは,急速に発展する中医学を政府も重視するようになっています。なかでもビクトリア州では,2000年より正式に中医が合法化されています。また中医薬の教育も進んでいます。メルボルン工科大学(RMIT)では,90年代から南京中医薬大学と提携して中医薬大学の正規教育を取り入れ,中医の学生を養成しています。
  ヨーロッパでは伝統医学は代替医学の範囲に位置づけられています。特に針灸は正式な医療手段として認められています。各国の中医師の開業や活動に対する調査研究が進み,今後,立法化しようと考えている国が多くなってきました。
  ヨーロッパで特に中国と密接なつながりがあるのは,イタリア・フランス・イギリス・デンマーク・ドイツなどです。これらの国々とは,政府間の覚書を通じて中医学の学術的な情報交換を行い,その国のなかでの中医師の資格など,さまざまな方面で協力体制を深めています。例えば昨年から,イタリア保健衛生省と協力してイタリアの医師に対する中医のマスターコースを開設しました。これはローマ大学とミラノ大学で行っています。
  アメリカの国立補完代替医療センター(NCCAM)では,プロジェクトを立て伝統医学の研究を推進しています。もちろん伝統医学には中医学だけでなく他の伝統医学も含まれていますが,NCCAMは中国の中医薬管理局や科学技術部とも覚書を交換していますし,今後中医についての研究活動を共同で展開していくことになるでしょう。
  中医の世界的発展のためには,まず最初は各国政府が伝統医学を重視し,立法化することです。次に中国と各国政府との協力体制を強化し,さらに共同で科学研究を進めていくことが大切です。
  中医の国際化はまず中医医療から始まりました。すでに世界中にさまざまな診療所がありますが,今後は教育の問題を進めていかなければなりません。中国のような6年制のやり方に転化していくことも必要でしょう。
  昨年,中国の科学技術部・衛生部・中医薬管理局は,中医薬を保護,発展させる政策を打ち出しました。国は膨大な資金を供出し,中医薬についての国際的な科学研究プロジェクトを展開しようとしています。中国のトップレベルの中医研究機関や中医施設と,各国の大学や研究機関と共同研究を行うものです。また近代技術を利用して中医を研究するプロジェクトも支援しています。今回,国が発表した政策は,資金的にも,人材的にも,中医薬の保護,発展を支援する国家プロジェクトなのです。


おわりに
  世界における伝統医学の発展はいちじるしい。本リポートで示したようなWHOの積極的な関与が後押しになっていることもあろう。こうした世界的な伝統医学重視の姿勢を背景に中国は中医薬の国際化を積極的に展開している。中医薬の標準化作業の面では,各国により事情が異なるため,一筋縄ではいかない面も多いと思うが,今回,王笑頻副司長から伺ったように,中国と世界各国との間で交流を深め,協力体制を整え,共同研究を進めていくような動きは大いに歓迎したい。王副司長は取材のなかで,「日本では政府の医療管理がとても厳しいが,民間レベルでは中医に対する興味が非常に強い。この点は合作の基礎となるものです」と語られ,これからも日本との関係を強めていくことに期待感を示された。今後の動きに注目したい。


中医臨床 通巻108号(Vol.28 No.1)
『中医臨床』通巻108号(Vol.28 No.1)
p34~36,p94~96より転載


ページトップへ戻る