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国際標準が中医薬の国際発展の鍵を握る(後篇)

前編よりつづく

  国際標準化は新たな局面へ
  多彩なルートを駆使し,重層的,全方向的取り組みが必要

 記者:李副主席の研究報告からは,国際的な標準の策定は新たな局面をむかえていることが理解できます。例えば企業の連合標準については,公的な標準化機関も連合標準の動きを受け入れ始めています。連合やフォーラム形式を代表とする柔軟性のある新標準規定は,すでに世界的な標準化と切り離せないものになっています。また「デファクト(事実上の)標準」も,多くの国や産業界で広く用いられています。中医薬の国際標準化を行ううえで,こうした国際標準の動向から啓発されたり,参考になるようなことはありますか?


 李振吉:市場を開拓し,市場における競争力を向上させるために,その市場における共通の利益を有する企業同士が企業連合を結成し,共同で連合標準を定める。これが企業連合による標準化です。企業連合による標準は,企業同士が関係して策定する新しい手法であり,企業が国際競争力を高めるための重要な手段となるものです。
  公的な標準化機関が企業連合による標準化の動きに注目しているということは,国際標準化の策定が伝統的な標準化機関のプロセスよりも,より開放的・実際的・効率的で,柔軟性・即行性・多様性・許容性にすぐれたものへと発展していることを意味しています。企業連合による標準化は,市場のニーズを満たし,組織関係と標準化の新機軸となり,産業の国際競争力を強化するための重要な手段となります。中医薬の国際標準化においても,市場のニーズに応えるべきであり,中医薬の国際化という現状をふまえて,さらに効率的で柔軟性に富み実際的な国際標準を策定・公布することによって,中医薬の国際標準化を積極的に推進しなければなりません。
  企業連合による標準は,すでに市場で用いられている標準文書をもとにして,国際標準へと急速に転換がはかられています。このことは,中医薬の国際標準化においても発展する余地のあることを示しています。事実上,世界中連も中医薬に関する国際連合組織の1つです。私たちが中医薬の国際組織による標準を策定・公布することによって,中医薬の国際標準化を推進することもできるのです。


 記者:世界中連が策定・公布した中医薬の国際標準は,国際標準としてどの程度の重要性をもつのでしょうか? 権威性はあるのでしょうか?


 李振吉:世界中連は,事務局を中国に置く中医薬に関する国際組織です。設立以来,中医薬の国際組織標準の確立に力を注いできました。現在,世界中連は世界の58の国と地域に広がっており,メンバー機関は201にのぼっています。世界中連の組織は41の専門委員会で構成されており,各国の中医薬界の著名人ほとんどすべてが参加しており,国際的にも大きな影響力をもっています。世界中連は,ISO認可の40の国際標準化関連の組織と同等の特性を有しており,標準の策定も国際的な慣例にのっとって行っています。世界中連は,中医薬に関する国際組織の専門家の源泉としての優位性を十分に発揮しており,積極的かつ自主的に国際標準化の活動に参与しています。国際的な学術組織というプラットホームを利用して,国際的な慣例をふまえ,国内の中医薬標準化の成果を国際標準へと転化,または「デファクト標準」とするべく力を入れています。すでに,世界中連は中薬調剤顆粒(エキス製剤)の国際組織標準などの起草作業を終えています。
  世界中連が策定・公布した国際組織による標準は,企業連合による標準に類似しており,「デファクト標準」になり得るものです。この国際組織による標準は,現時点における国際市場の,中医医療・保健・教育・貿易などの分野の標準におけるニーズに応えるものなのです。また,中医薬のISO国際標準機構の創設によって発展の基礎を打ち立て, ISOの力を借りて中医薬が世界に羽ばたくという,中長期的戦略の目標を実現させるものなのです。


 記者:ISO /TC249の設立は,中医薬の国際標準化が新たな歴史的段階に入ったことを意味しています。中国における中医薬の標準化は,この新しい情勢のもと,どのような問題や試練に直面するとお考えですか?


 李振吉:中国国内における中医薬の標準化は,20年の発展を経て大きな成果をあげています。特に,国家中医薬管理局は『中医薬標準化発展計画(2006-2010)』のなかで,中医薬の標準化戦略の全面的実施を打ち出しており,中医薬事業の発展と人民の健康に必要な中医薬標準化の目標の第一段階を構築しました。ここ数年来,中医薬に関する標準の公布量は急速に増えており,引用頻度も増加,研究も活発になって,論文の数も年々増しています。独立し完成された中医薬標準の骨子はすでに形づくられており,基礎・技術・管理の分野において益々重要な役割を果たしています。
  TC249の設立は,中医薬がWTO認可の国際標準化に参入するための道を開くものであり,中医薬の国際標準化史上,画期的な意味があります。それは,中華民族の伝統文化に深く根ざしている中医薬学が,さらに一歩進んで国際社会に認められたことを意味しています。中医学が国際的に広く伝えられるにつれ,国際的に統一された標準を確立するというニーズが高まってきました。国際的な貿易の取り決めにおいて,法で定められた国際標準が公布されるということは,中医学が安全でかつ有効な健康サービスとなるうえで,後ろ盾となります。このためには,中医学の国際化のプロセスを大々的に推進させなければなりません。
  ここで注意しなければならないことは,TC249の設立後も,深層部における問題は依然として複雑さを呈しており,その任務は極めて困難であるということです。中医学を基礎にして自国の伝統と融合させて応用してきた東アジアの一部の国は,TCMという名称や,ISO/TC249の設立に対し常に消極的な態度をとり続けてきました。彼らは,「東アジア医学」「東洋医学」という名称や中医学のもつ科学性の力を借りて,自国の学術的地位を向上させ競争力を強化したいと考えてきました。また,それぞれの国において文化的背景や制度,中医学の発展レベルが異なることから,中医学の国際標準おいてもそのニーズや理解度に大きなズレが生じており,標準策定のプロセスでは激しい論争が繰り広げられています。さらに,まだ中医学に関する国際標準化の歴史が浅いため,私たちの業務基礎・実践経験・国際規則・人材などは,まだまだ新たな発展情勢のニーズに適応できていません。


 記者:中医薬に関する新時代の国際標準化の問題や試練に直面し,中国はどのように計画を進め,戦略を立てるべきでしょうか?


 李振吉:国際標準化の競争には,3つの戦略があります。1つ目は追随的戦略です。これは他の標準を採用する,つまり他の標準の後に設立するということであり,これは価値の連鎖という最も低いレベルの競争戦略です。2つ目は参与的戦略です。国際標準の設計・策定・構築に参与するということです。そして3つ目は指導的戦略であり,標準競争における指導者となって,国際標準の策定権を握って起草を請け負い,指導者が策定した標準を他国に使用させることです。
  私は2007年初めに,雑誌『世界中医薬』と『中国中医薬報』に論文を掲載し,参与者戦略という大枠において,当時の情勢や条件に基づいて中医薬の国際標準化建設「両歩走」という中長期および短期的戦略を提起しました。 
  中長期的戦略においては,まずISOの中国駐在事務局(国家標準委国際合作司)と協力して,ISOにおける中医薬技術委員会の設立を申請して,その事務局の任務を請け負うことを提起しました。それによって,中医薬の標準化がISO標準に直接組み込まれるよう組織的基礎を固めるのです。2つ目は,WHOとの協力体制を強化し,WHOが中医薬の国際標準化作業にさらに注目するようにします。3つ目は,中国が主導権を握っている中医薬に関する国際組織による国際標準化の策定を支持し,ISOとの関係を構築することです。以上の3項目は参与者戦略であり,中医薬の国際標準の設計・策定・構築に直接的に参与するものです。
  一方の短期的戦略においては,まず適当な人物を選出し,関連する国際組織に参加することを薦めていきます。2つ目は,標準の認可段階やポイントとなる段階において,国の投票権を適切に運用していきます。3つ目は,中医薬に関する国際学術組織による国際組織標準の迅速な策定を支持するといったことです。
  「両歩走」戦略の最も重要な点は,中医薬に関する国際学術組織による国際組織標準の策定を支持することです。厳密な意味で,中医薬の国際標準には,直接ISOに参入するか,もしくはWHOを通じてISO目録に入れるか,という2つの道しかありません。この他には,中国が主導権を握る中医薬に関する国際学術組織によって策定された国際組織標準を国際標準とする方法が,最も利便性が高く実行しやすい方法です。短期的戦略のうち,中医薬に関する国際組織標準を国際標準の1つに分類することは,枠組みを構築するうえで有利なだけでなく,ISO標準のモデルケースとすることができるでしょう。これが十分に成熟するのを待ってから,ISOの技術プロセスを経て,ISO標準に組み入れることができるのです。数年間の実績を積んでから,ISO認可の標準化関連の国際組織が策定した標準となり,直接ISO国際標準の年度目録に組み込むことができるため,これもまた中長期的戦略の一部といえるでしょう。
  こうした提案をしてから3年を経過した今,喜ばしいことにTC249が設立され,中国が事務局業務を請け負っています。中国政府も積極的にWHOに協力し,国際疾病分類(ICD-11)の伝統医学部分の研究・策定作業に参加しています。これらはすべて,中医薬の国際標準化を推進するうえで有利に働いています。
  世界中連は,常に中医薬の国際標準化の研究・推進・実践を行っており,国家標準化管理委員会の指導や,国家中医薬管理局の支持のもと,「両歩走」戦略構想をふまえて,国際組織標準の研究・策定・公布・推進に全力を投じてきました。2007年4月には,「中医基本名称および術語中英対照国際標準」が正式に認可され,2008年3月にはこれが出版され,現在92の国や地域の中医薬関連団体で使用されています。世界中連の「標準制定・公布業務規範」「世界中医学本科(CMD前)教育標準」「世界中医(鍼灸を含む)診療所設置およびサービス業務標準」はすべて出版され,「中医基本名称および術語中国語・フランス語対照国際標準」「中医基本名称および術語中国語・スペイン語対照国際標準」「中医基本名称および術語中国語・ポルトガル語対照国際標準」「国際中医師技術職務名称クラス別標準」もすでに認可を受け,現在出版準備を進めているところです。
  こうした標準化の研究・公布・推進というプロセスは,国際社会における中医薬の標準化に対するニーズを満たすだけでなく,われわれ中国人にとっても様々なルールに熟知し,経験を積み重ね,人材を養成する機会になりました。さらに,中医薬の国際的な影響力を拡大し,中医薬の国際標準化を推進することができました。
  TC249の設立は,「参与者戦略」の一要素である「両歩走」戦略の第一段階を完成させ,第二段階の第一歩を踏み出す道しるべとなりました。戦略の転換期は,私たちの予測よりもずっと早く訪れましたが,これらはすべて,中国の国力増強・国際的地位の向上・ISOの常任理事国入りや,国内の各関連分野の協力や努力があってこそのことです。現段階で非常に重要なことは,中医薬の国際標準化を達成するためのルートはすべて通じたということです。私たちは,各種資源を整え,ニーズと可能性をふまえ,様々なルートを駆使し,重層的・全面的に進めていけば,組織的・計画的に中医薬の国際標準化を構築することができるのです。この段階では,中国の中医薬に関する国際標準化の推進戦略は,総合的計画に帰納し,推進の歩調を速めても差し支えありません。積極的かつ能動的に中医薬の国際標準化活動に加わり,国内における中医薬標準化の成果を転化して国際標準へと推進していくのです。TC249事務局を順調に運営し,総合的計画・推進加速戦略によって協調的機能を発揮していくのです。世界中連などの国際学術組織の機能を十分に発揮し,それを総合的計画に組み入れて必要な支持を与えていかなければなりません。中医薬の国際標準化においては「デファクト標準」の価値を重視していかなければなりません。

中国中医薬報[2011.2.2]より 平出由子訳)


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