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通巻118号(Vol.30 No.3)◇リポート



 2009年6月28日(日),東京都北区王子の「北とぴあ」で,第7回日本中医学交流会大会が開催された。今回は鍼灸分科会単独での開催であったが,160名あまりの参加者が集まり,熱気に溢れた大会となった。今大会のメインテーマは「臨床を切り拓く中医実践鍼法」。豊富な臨床経験をもつ2人の臨床家を招いて,その「実践鍼法」が紹介された。

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大会のプログラム
メインテーマ「臨床を切り拓く中医実践鍼法」
◆大会長基調講演
 「医療連携に向けた21世紀の中医鍼灸~総合性と専門性の発揮~」
 兵頭明(後藤学園中医学研究部長)
◆講演1 「遠位刺針運動療法」
 西田皓一(西田順天堂内科院長)
◆座談会 「中医鍼灸日本化への道」
 西田皓一・王財源・兵頭明・浅川要・瀬尾港二(司会)
◆講演2 「八卦頭針療法~九宮八卦が開く陽脈の海~」
 王財源(関西医療大学講師)
◆懇親会

●―医療連携に向けた21世紀の中医鍼灸
 今大会の大会長は,後藤学園中医学研究部の兵頭明先生が務められた。兵頭先生は,中医鍼灸であれば,すべての診療科・医療職種との医療連携が可能だと強調し,すでに始まっているさまざまな試みを紹介しながら,21世紀の中医鍼灸の具体像を示された。
 中医学の専門性を発揮できる場として,脳血管障害・婦人科・眼科・認知症の予防治療・頭痛外来・メンタルヘルス・美容鍼灸・スポーツ鍼灸・緩和医療・リハビリ・在宅介護医療・透析者に対する緩和医療などがあるが,すでにこうした分野で鍼灸との医療連携が進められている。例えば,脳血管障害では,醒脳開竅法によって急性期から治療を開始すれば早期回復・後遺症の軽減が見込め,回復期・後遺症期から治療を開始すればADLの向上が見込める。醒脳開竅法は,客観性・再現性・普遍性を備えており,リハビリテーション・脳神経外科との連携が可能だという。牧田総合病院では1989年からこの醒脳開竅法を導入し,脳卒中センター・リハビリテーション部・牧田中医センターの医療連携により,これまでに4千名以上の脳血管障害の患者にこの治療法を行っているという。
 そのほか,会田記念リハビリテーション病院での全医療職員が中医学の考え方を共有することで,リハビリテーションと中医学の統合をはかろうとする試みや,自治医科大学の緩和ケア病棟での医療連携の試みが紹介され,未来を切り拓く鍼灸の可能性を強く実感できた。

●―遠位刺鍼―患部運動療法
 西田皓一先生は,経絡を利用して病所から遠く離れた部位に置鍼し,さらに患部を運動させることによって疼痛を緩和したり,関節可動域を広げることができる「遠位刺鍼―患部運動療法」について講演された。

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遠位刺針-患部運動療法についてモデルを使って紹介

 刺鍼による鎮痛効果に,患部の運動(またはマッサージ)を組み合わせることで,相乗効果が得られるという。そして患部を運動させるためには,患部から離れた部位に刺鍼する必要がある。そのためには,①患部と同側に取穴(循経取穴法・同名経取穴法・遠道刺法・陰陽取穴法),②患部と反対側に取穴(左右交叉取穴法・上下交叉取穴法・巨刺法・繆刺法),③奇経療法,④奇穴,⑤手足相関,⑥透刺法といった方法で取穴する。本法は,全身のあらゆる部位の痛みや,変形性腰痛症・椎間板ヘルニア・変形性膝関節症など骨の器質的な異常を伴った症例でも一定の効果が得られる。西田先生は,本法の鎮痛メカニズムを,患部を動かしたりマッサージすることで,気血のめぐりがよくなり,「通ずればすなわち痛まず」になるからだと説明された。

●―八卦頭鍼療法
 王財源先生は,八卦頭鍼療法を実技を交えて披露された。頭部の経穴は髄海を養うための窓口であり,頭部は諸陽が集まり,手少陽・足太陽・足少陽・足厥陰・足陽明・督脈・陽維脈・陽蹻脈の8経脈がつながっている。そのため,頭鍼法は脳血管障害による片麻痺をはじめ難治性疾患に対して効果が高いのだという。

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①「中宮」(百会)を取り,針を下して宮点を作る。
②さらに外斜方に1寸ずつ取り,針を下す。点と点を結んで線を作る。
③線と線を結んで面を作る。
④結ばれた線と線で面が完成して九宮八卦の陣を形成する。
図 八卦陣頭針法の刺針簡略図

 代表的な頭鍼法には,方雲鵬・朱明清・焦順発・湯頌延・林学倹・劉炳権らの方法があり,これらは伝統医学と解剖学の知識を結びつけたものであるという。今回紹介された劉炳権氏の八卦頭鍼法は,『周易』の「九宮八卦学説」と頭部の経絡経穴を組み合わせた治療法である。その方法には百会中点卦を中心とした小八卦・中八卦・大八卦頭鍼や,後頭八卦法・角孫八卦法・頭維八卦法・神庭八卦法などがあるが,今回は八卦陣頭鍼法の1つ,百会中点卦頭鍼法について,実践を交えて紹介された。

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八卦頭針療法について,効果や注意点を紹介しながら実演


 午後からは,シンポジストの西田先生と王先生の2人に,さらに兵頭明先生と浅川要先生が加わって,「中医鍼灸日本化への道」と題した座談会が設けられた。

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日本の中医鍼灸の未来を語る「中医鍼灸日本化への道」座談会

 「日本で中医鍼灸にもとづいた臨床を実践するには,三因制宜はもちろん基本であるが,なによりも日本の患者のニーズを確認して,そのうえで中医鍼灸で何を提供できるのかを考えることが大事」「中医学の日本化は日本的中医学でいいのではないか。日本的中医学を再構成するためには簡素化しなければいけない」といった見解が述べられ,中医学を日本の臨床で拡大・普及するための示唆に富んだセッションとなった。
 弁証論治の針が日本に本格的に紹介されて30年。たくさんの臨床家によって,日本の風土や医療環境に応じた鍼灸が模索されてきた。しかし,患者個々の病態を把握して,それに応じた治療法・刺激量を決定して治療を行っていくためには,弁証論治こそが必要である。これからは中医鍼灸を実践する日本の臨床家の経験を集積し,議論を深めていく必要があるだろう。
(文責:編集部)


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